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悪役皇女は何が何でも生き残りたい!  作者: 星野光
第一章 環境を改善したい!
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第21話 皇帝と再び対話してみる

 いつの間にか、何事もなかったかのように戻ってきていたダリウスに、皇帝陛下とお会いしたい旨を伝えた。

 いなかった理由は、皇帝と共に皇女宮使用人たちの処分を行っていたかららしい。処分の内容をそれとなく聞いてみたが、笑みを向けられて終わったので、お察しというやつだ。

 ルークは、私への監視役としてダリウスが送ったからか、毎日のように顔を合わせたりするのだけど、いつも側にいるわけではない。むしろ、四六時中も側にいるアニーのほうが、よっぽどスパイ染みているような気がする。

 皇女宮の使用人の管理は、皇后の仕事のため、少しは皇后の意思も入っているかもしれないけど、大部分は皇帝が編成した者たちだ。全員がスパイの可能性だってある。

 図書室にある書物のことも、もしかしたら気づかれていたかもなぁ……

 私が自分から頭を下げに来るまで黙っていたのだとしたら、ありがたいような気もするけど、かなりの悪趣味だ。

 私は、今すぐにでも逃げ出したい気持ちと共に、本を抱えながら、皇帝の元へ向かった。


 内容が内容だからか、そもそも私を相手にする時はこの場所にしているのかはわからないけど、以前に皇帝が私を尋問した時に使った場所を指定された。

 心なしか、目の前にいる皇帝は、面白がっているように見える。私が自ら報告に来たことがそんなにおかしいのか?それとも、どんな言い訳をしてくれるのかと楽しみにしているのか?理由はわからない。


「皇女が面会を求めるとはな」


 ニヤニヤしながらそう言う皇帝に、私は苛ついた。


(以前はお前が断り続けたからな!)


 思い出すのは、まだ前世の記憶を思い出す前のこと。まだソルディノとドゥーエの確執を知らなかったアンジーナは、家族と仲良くなろうと、父母や兄に会って話がしたい旨をよく伝えていたが、応じてくれたのは、兄のみで、両親は、時間が取れないという素晴らしい理由で断っていた。

 良くも悪くも賢かったアンジーナは、早いうちに両親が仕事があると称して、応じてくれないことに気づき、会いたいという要求を口にすることはなくなった。

 だからこそ、面会要求は一年ぶりだ。


「お時間を取ってくださり感謝いたします、陛下」


 今すぐにでもそのむかつく顔面に殴りを入れてやりたいところだが、私は軽く頭を下げて、感謝を述べる。


「して、私に話したいこととはなんだ?」

「こちらが、私の図書室にありましたので」


 私は、持ってきた本を皇帝に手渡す。これをどうするつもりかは、まだ語らない。

 以前にも使った手法だ。最低限しか話さない。必要以上に話せば自分の首を絞めかねない。


「これがどうした」

「これを処分しようかと。陛下に許可をいただいて購入したものですので、陛下にもお話ししておこうと思った次第です」


 何も間違ったことは言っていない。嘘を言わずに、本当のことを言わないのも、話術には必須だ。


「なぜだ?」

「内容はほとんど記憶してしまいましたし、もう読むことはなくなってきましたので、持っている必要性を感じなかったのです」

「ふむ……」


 皇帝は、何かを考える素振りを見せている。

 これで、許しが出れば、宣言通り捨てるだけだし、捨てるなと言われれば、図書室の隅にでも置いておくだけだ。

 どう転んでも、黙って持っているよりは損がない。


「いいだろう。要らぬというのならば、処分してもかまわん。が、これらの内容をほとんど記憶とはな……」


 げっ!そこに食いついたか!


 小説では、皇帝はアンジーナの天才的な頭脳をとことん利用してきて、最後は使い捨てのように処分した。

 展開が変わってきているとはいえ、軌道修正される恐れもある。だからといって、内容が内容なので、何度も読みましたは危険だ。別の言い方をするならば……


「読書は好きなので、本の内容は、何であっても記憶しやすいのです」

「……そうか」


 皇帝は、真顔でそう言った。どういう意味なんだよ、それは!

 クレイルと顔のパーツはそっくりなくせに、まったく顔に出ないせいで、何を考えているのかわからない。


「それなら、皇女に頼みたいことがある」


 皇帝を前にしていなければ、私の顔は青くなっていたかもしれない。


 皇女に頼みたいことがある


 この言葉は、小説でも皇帝が何度も使っていた言葉だ。皇女の頭脳を利用する時に、そうやって頼んでいた。父親からの頼みごとなら、喜んで引き受けるのを知っていたからだ。

 やっぱり、ダメなのか……?皇帝の意識は変えられないのか……?

 今までで最大のピンチに、私は背筋が寒くなるのを感じる。


「クレイルも六つだ。社交の場に出てもおかしくない。そのために、クレイルのデビューを祝うパーティーを開くつもりだが、クレイルには、婚約者がおらず、パートナーがいない」

「私に、皇太子殿下のパートナーになれ……とおっしゃるのですか?」

「そうだ」


 私は、かすかにホッとした。てっきり、小説みたいに薬を作れとかと同等の無茶振りをされると思っていた。

 社交界も結構な無茶振りだけど、発明家の真似をさせられるよりはましだ。


「皇太子殿下に、話は通っているのでしょうか」

「クレイルからは了承を得ている」


 まぁ、そうじゃないと私には話さないか……。あの皇帝でも、クレイルが嫌がることなら強制はしないだろうし。


「皇女に頼みたいのは、クレイルのサポートだ。ダンスはもちろんだが……」

「出席する貴族の名前や、関わっておくべき者の選別、会話の話題を記憶すれば良いのですね」


 そうでなければ、本の内容を記憶できます~と言った側で話すわけがない。

 きっと、それらを纏めた資料が私の元に届けられるはずだ。それを記憶しておけということなのだろう。

 そう推理した結果なのだが、皇帝はほんの、瞬きくらいだったけど、ほんの一瞬だけ眉をぴくりとさせた。

 間違っていた?それとも、無意識だったとはいえ、皇帝の言葉を遮ったことに反応したか?


「……お前は、本当に五歳なのか?」

「生まれてから五年しか経っていないのであれば、そうなのでしょう」


 なに?アンジーナが入れ替わったとでも思ってるの?……あながち間違いではないけど。


「……とりあえず、そういうことだ。明日、ダリウスに資料を届けさせる。来月のパーティーまでに、すべて記憶しておけ」

「かしこまりました」


 おい!すべてってなんだ!無茶振りじゃないなと思ってたら、とんでもない無茶振りじゃねぇか!しかも、期限は一ヶ月だと!?

 裏ではこう罵りながらも、私は笑顔で了承する。

 これは、しばらく資料とにらめっこの時間が始まるな……

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