第18話 新たな服を試着してみる
誰かさんに散々、邪魔されて、あまり休息らしい休息は取れなかったような気もするけど、ドレスを注文してから五日。ついに私が考えたデザインのドレスが到着する。
皇后が、わざわざ連絡してくれた。私は商人と交流する手段を持っていなかったからありがたい。
まぁ、他のオーダーメイドのものも、近いうちに到着するけど、私的には今日のこれが一番の目当てだ。
まったく見たことのないデザインを、仕立て直しとはいえ、五日で仕上げたのは早いほうだろう。
念のために、ルークに頼んで、皇帝に客が来ることを伝えている。皇后は知っているし、皇子に関しては、そもそも必要ないしね。
アニーは、私を着せ替えてもらうために、私の後ろでスタンバイしている。
椅子に座って待っていると、しばらくして、レーファがやってきた。
「皇女殿下、お待たせいたしました」
「どんな風に仕上がったの?見せてくれるかしら」
「はい、こちらでございます」
レーファは、鞄から、二つのドレスを取り出す。仕立て直しのため、どちらも藍色のドレスだ。
いや、どちらもは違うか。片方は、ドレスじゃないから。
「アニー。あちらのドレスを」
「かしこまりました」
私から見て左にあったドレスを手で示すと、アニーはそのドレスを手に取り、私を着替えさせてくれるーーかと思いきや、ドレスを手に取ったところで、アニーは困惑している。
「あの……これは、どのようにお着せすれば……?」
さすが本職だ。従来の着方と違うことに、手に取るだけでわかったようだ。
そう。このドレスは、コルセットが要らないため、今までのドレスとは少し着方が異なってくる。
アニーには、全てをマスターして貰わなくては。
「まずは、上から被せるように着せてちょうだい。コルセットは巻かなくていいわ」
「か、かしこまりました……」
アニーは、私が来ていたドレスを脱がせて、コルセットも外すと、指示通りに、被せるように着せてきた。それも、少し戸惑いながら。
無理もない。ここのドレスは、胸を少しでも強調するために、その辺りが開いているデザインも多く、ほとんどが履くように着るので、上から被せるように着ることがほとんどないからだ。それでも、まったくないわけではない。
だって、パジャマが上から着るタイプだから。
ドレスの生地は、私の体のラインに従うように、すとんと落ちる。
胸があれば、このドレスの良さを引き立てられたのだけど、五歳児にそんなものはないので仕方ない。好評のようなら、皇后にでも勧めてみるとしよう。
「その後は、そのリボンを腰に巻いて。結び目が後ろになるようにね」
私は、ドレスとペアの水色のリボンを指差した。アニーは、少し戸惑っていたけど、レーファがそのリボンを手に取って、アニーに渡してくれる。
アニーは、私の指示通りに腰周りにリボン……というか、布を帯のように巻いていく。「落ちないように結んで」と指示すると、コルセットで手慣れているのか、落ちないようにしっかりと結んでくれる。
少しきついような気もするけど、コルセットよりはマシだ。
私は、アニーに無言で目配せをすると、アニーは静かに姿見を持ってきてくれる。
そこには、私がイメージした通りの姿が映っていた。私は、前世のベルトや着物の帯などを参考に、腰の部分にリボンを巻くことで、コルセットなしでも、ウエストの細さや、胸の大きさを強調できるデザインにした。
そして、これはデザインがシンプルなため、色彩から飾りまで、アレンジがやりたい放題だ。そこに個性も出せるだろう。
私は、他におかしなところがないか、くるくると回って確認した。
うん、楽だし、可愛い。可愛いんだけど……
「少しリボンが小さいかもね。次からは、もう少し大きめにお願い」
試作品として、シンプルなデザインにしたため、飾りは腰周りのリボンしかない。なので、頑張って主張しないと、リボンが意味のない飾りとなってしまう。
「……かしこまりました」
アニーは、少し悔しそうにそう言った。私に怒られたからというよりかは、一回でできなかったのが、アニーの使用人としてのプライドに障ったようだ。
でも、一回で完璧にできたら、それはそれで、アンジーナと並ぶレベルの化け物だから、私は励ますようなことはできない。
アンジーナと同じ場所には招けない。
「それじゃあ、もう一つのほうを着るから、リボンをほどいて」
私が指示すると、アニーは悔しそうにしていたのが嘘のように、ウキウキしながらリボンをほどき始める。
どうやら、着付けをリベンジするつもりのようだ。
でも、申し訳ないけど、次のやつは、一人で脱ぎ着できるんだよね……。だからといって、こんなにやる気を出しているところに水を差すのも申し訳ないし……どうするべきかーーって、着替えさせて貰うしかないよね、うん。
最後に、同じくリボンを結ぶ作業もあるし、リベンジして貰うとしよう。
一応、見比べができるように、リボンの色は先ほどと統一している。
「それじゃあ、もう片方の服を取ってきて」
アニーは、今度は迷わずに、服を取った……ところで、またもや困惑する。
「あの……ドレスにしては、短くありませんか……?」
「それで合っているわよ。ほら、下の部分があるじゃない」
アニーが持っているのは、ドレスではなく、いわゆるトップスの部分。
そして、私が指を指している先にあるのは、スカートの部分。
私は、ツーピースの服をデザインした。参考にしたのは、前世の制服。なので、トップスの部分は、ボタンこそついていないものの、襟がついていて、ブラウスのようになっている。当然ながら、ポケットもない。
リボンも結ぼうかと思ったけど、さすがに大変かと思って止めておいた。
先ほどの服と同じように、上から被るように着る。なんか、学生気分になって、心なしかワクワクする。
もちろん、生地が藍色なので、従来の制服のような雰囲気は感じさせない。そして、着やすさを重視しているので、少し大きめのサイズだ。
次はスカート。アニーに指示して、持ってきて貰う。
スカートは、藍色の無地。いきなり模様を入れるのは怖かったから。
さすがに芯の部分は、再現はできなかった。この国には、ファスナーなどの便利アイテムがないので、それを使わないでの再現は不可能だ。腰周りの調整ができなくなる。
そのため、芯の部分には、紐を入れて貰って、調節ができるようにした。でも、これだけだと、今の時代では少し見映えが悪い。
それを補うためのリボンだ。今回は、太すぎても違和感があるので、先ほどのよりは細い、結んだ紐と、ブラウスとスカートの境を隠せるくらいの太さだ。
今回は、完全に帯を真似して、帯締めのようなものもつけている。正確な結び方ではないだろうけど、固定できればそれで構わない。
上下が同じ色のため、見た目は先ほどのドレスとほとんど変わらないけど、楽という意味ではこちらが断然上だ。でも、ドレスっぽさで言えば、最初のほうが上なので、どちらにもメリットとデメリットはある。
「レーファ。どうでしょうか」
置いてきぼりになっていないかと見てみると、レーファは目を輝かせていた。
「どちらも素敵です。これはさすがに、パーティーに着ていくのは難しいかもしれませんが……最初のドレスならば、華やかにすれば、パーティーにも着ていけるでしょう。普段着として使うならば、どちらも使えると思います」
レーファは、興奮した様子でメモを取っている。こういうのを見ると、商人なんだなというのを改めて認識させられる。
「それなら、最初のドレスを、皇后陛下にも勧めてくれるかしら?あのドレスは、大人が着たほうが、美しくなると思うの」
さりげなく、皇后の好感稼ぎも狙ってみる。私がデザインしたものだとしても、お気に入りの商人のお墨付きなので、さすがの皇后も、一度着てみるくらいはするだろう。
それで気に入られなければ、私だけで楽しませて貰うだけだ。
「かしこまりました。話を通しておきますね」
「じゃあ、もう戻っていいわ」
私が退出の許可を出すと、レーファは一礼をして、部屋を去った。
さて、私のドレスは、どう判断されるのかな?