第13話 ドレスを着てみる
レーファとの初対面から、およそ五日後。皇后から、ドレスの一部ができあがったので、皇女宮に届けさせるという知らせを受け、私はデザイン案を手に持って待機している。
ドレスのためだから、大丈夫だとは思うけど、こんなに頻繁に皇后と交流していると皇帝に知られて、何かされないか心配だ。
私の予想が正しければ、レーファ本人がここまで来るだろう。最近、ドレスの購入に不手際があったのが皇帝にも知られているため、また何か問題があったら、今度は当事者だけに留まらず、皇后の責任問題になりかねない。
もし、それで皇帝から慈悲を頂けることになれば、皇后のプライドが許さないだろう。憎たらしい相手に借りを作ることになるのだから。
まぁ、理由がなんであれ、レーファが直接来てくれるのであれば、私にとっても好都合だ。いろいろと話したいこともあったし。
知らせが届いてから十分後、部屋のドアがノックされる。
「皇女殿下、レーファと名乗る方がお見えです」
女の声だ。おそらく、新しく配属された侍女だろう。
皇女宮の使用人は、一斉呼び出しをされて以来、皇帝によって全員が入れ替えられた。何人かは、皇帝からの間者が混じっていると思うと、憂鬱な気分にはなるが、以前の使用人と比べたら、態度も仕事の質も向上しているので、何の文句も言えない。
「通しなさい」
私がそう言うと、侍女と一緒に、レーファも入ってくる。客人を入れても、侍女が立ち去ろうとしない辺り、この後の展開も読まれているのだろう。私としては、呼び戻す必要がないから都合がいいのだけども。
この後の展開のために、ダリウスやルークには席を外してもらったしね。
侍女から視線をそらし、レーファのほうを見ると、彼女は、一つの鞄を持っていた。
「それがドレスかしら?」
私が鞄を指差すと、レーファは「はい」と返事をし、鍵を開ける。
中からは、ダークグリーンを基調としたドレスが入っている。
飾りには、胸元に黒の布リボンと、襟と裾に白いフリルが使われており、可愛いよりは、美しいが勝つような気がする。フリルがなければ、大人が着ていても違和感はないだろう。
「こちらは、オーダーメイドのものとなっております。皇女殿下の銀と金を引き立てるようにと指示がありましたので、こちらの色合いにさせていただきました」
誰からのとは聞かない。レーファも、わざと口にしていないのだろうから。
「着てみてもいいかしら?」
「もちろんです」
レーファからの了承を得られると、私が何も言わなくても、侍女がレーファからドレスを受け取り、私を着せかえてくれる。
デザインを描いた紙は邪魔なので、椅子の上に置いておいた。
ダリウスやルークに席を外してもらったのはこのためだ。さすがに男性の前で着替えるわけにはいかない。念のため、理由を説明しておいたので、皇帝になぜ追い出したなどとは言われないだろう。
「髪もこのドレスに合わせて結い直してちょうだい」
「かしこまりました」
髪型によって、同一人物でも、印象はがらりと変わる。今の私は、青色のドレスを着ていて、清楚な雰囲気を漂わせているので、そのままストレートに下ろしている。
だが、これだと、上品には見えても、どうしても子どもっぽさが拭えない。そのために、少し髪に手を入れる必要がある。
時間がないため、簡単に済ませることができる、髪をアップにして、纏めるやり方にしたようだ。指示しなくてもここまでやってくれるなんて、かなり有能だな。
纏めるためのリボンも、私が持っているなかで、一番合う色合いのものを用意してくれた。銀が映えつつ、ドレスにも殺されない、暗い系統であるネイビーのリボンだ。
セットが終わると、静かに姿見を持ってきてくれる。
そこには、到底、五歳児とは思えない、上品な雰囲気を漂わせる少女が映っている。
でも、フリルのお陰で、そこまで背伸びしているように見えない。絶妙なラインだ。
単純に、めちゃくちゃ可愛いと思う。前世の私よりも、数段はセンスがある。さすが本職だ。
「悪くないわね。頂くわ」
「ありがとうございます」
今すぐにでも衣装室に保管したい気持ちを堪えて、元の服に着替える。あくまでも、今回は試着のようなものであり、正式に料金を支払ったわけではないため、このまま着ているのはマナー違反だからだ。
他にも、二着あった。白と青のドレスだったが、どれもシンプルで私好みだった。この人、エスパーかなにかと疑うくらいには。
「ああ、忘れるところだったわ。あの時に仕立て直してもらうと約束したドレスのデザインを考えてみたの」
私がそう言うと、侍女がレーファに紙を手渡す。
うん、後で名前を聞こう。こんなに優秀な人を侍女呼びは失礼だ。
それはそれとしてーー
私は、デザインをじっくりと見るレーファを見て、気を引き締めた。
ここからは、交渉の時間だ。