第1話 絶対に生き残ってみせる
悪役令嬢に転生。
それは、昨今の小説でありふれたものだ。
悪役令嬢に転生してしまって、破滅したくないから、悪役令嬢にはならないようにする。それが、よくある流れというもの。
でも、私はそんな簡単に破滅回避できるような立場ではない。悪役令嬢は、悪事を働いたという、完全に自業自得な理由があるにも関わらず、私は、破滅の理由として、存在が気に入らないが9割の糞みたいな役割になってしまった。
いや、呼吸もするなってか!?無理に決まってるだろ!
そう叫びたくなるような立場の私は、大陸一の大国、ソルディノ帝国の皇女、アンジーナ・アルウィス・アリステレス。齢五歳。
帝国の主である皇帝陛下と、隣国のドゥーエ王国の元王女であり、現皇后の一人娘という、由緒正しきお姫さまである。
外見も、ソルディノ帝国の象徴である金色の瞳と、ドゥーエ王国の象徴である銀髪を引き継ぎ、国でトップレベルに入るほどの美しさという、二国の象徴そのもののような容姿をしている。
他のスペックも、魔力は高いし、勉強もできる優秀な姫だ。
なら、なぜ存在が気に入られないのか?それは単純。
皇帝と皇后の仲がとんでもなく悪いからである!
政略結婚だから、仕方ないところもあるかもしれない。でも、馬が合わないでは片づけられないくらいには険悪な仲だ。
そんな相手とよく子どもを作ったなと思われるかもしれないけど、跡継ぎの皇太子と、もしものための政略結婚の駒として、皇女の存在は欲しかったので、私は生まれたのである。
そんな互いに気に入らない存在の象徴を引き継いでいる私を気に入ることなどできないということである。いや、皇后はまだましだ。私を人間としては扱ってくれている。でも、皇帝の私への扱いは家畜以下だ。
私に罪はないじゃないか!理不尽にもほどがある!
そんなんで、皇帝にも、皇后にも冷遇されている私は、使用人の扱いも良いとはお世辞にも言えるものではない。でも、私を皇女とは認めているようで、私に粗雑な扱いをした者を、翌日に見かけることはなかった。
だとしてもだ。不遇すぎるのは変わらない。
なんでよりによってこんな皇女に……
そう打ちのめされたのは、一度や二度ではない。それくらいに、このキャラは不遇すぎるのである。
アンジーナは、私が前世で読んでいた小説に登場するキャラだ。
『金色の太陽と白銀の月』という、カッコつけみたいなタイトルの小説だ。
その中で、アンジーナは悪役として登場する。
男主人公の、金髪に金の瞳という、帝国の象徴そのものであるアンジーナの兄である皇太子と、女主人公の、白銀に銀の瞳という、ドゥーエ王国の象徴そのものであるヒロインの恋物語だ。
男主人公の名前はクレイル。女主人公の名前はエメリア。
クレイルは、容姿も中身も、見事に皇帝の遺伝子をしっかり引き継いでいるので、皇后の覚えは悪くても、皇帝からは一目置かれている。
アンジーナは、そんな兄に密かに嫉妬していた。愛情に飢えた子どもだったから。
そして、皇帝と皇后が互いに嫌いあっているという部分で想像はつくだろうけど、国の仲もお世辞にも良いとは言えない。
つまりは、この恋物語は、有名なあの話にそっくりだ。敵同士って、恋に落ちやすいジンクスでもあるのだろうか?
話を戻して、国同士の仲は悪いなか、二人は恋に落ちる。でも、当然ながら様々な障害がある。その一人が私……アンジーナである。
ここでアンジーナは様々な嫌がらせをする……のだが。それがなんとも、子どものいたずらレベルなのだ。
ヒロインの飲み物にこっそり塩を入れたり、外出用の靴をどこかに隠したり。
よくある悪口とかも全然言わない。
ヒロインは、それに堪えたりなんかは当然しなかった。私だってそれでお涙頂戴なんて絶対にしない。
そして、ヒロインは無駄に勘がよく、心優しい人で、アンジーナが自分に嫉妬しているからこういう嫌がらせをしてくることに気がつき、男主人公に訴えたりした。
嫌がらせされていることは言わずに、アンジーナを気にかけてあげてとか、たった一人の妹なのにとか。
普通の乙女ゲームとか小説とかなら、ここで主に二つに分かれるだろう。
一つは、ヒロインに好かれるように、ヒロインの言う通りにする。
もう一つは、ヒロインが何か吹き込まれたとかで、余計に悪役を恨む。
展開に差はあれど、大抵はこの二つのはずだ。
だが、私への扱いはどちらでもない。
ヒロインに気にかけてもらった。たったそれだけで殺されかけるのである。
いやいや、それはないわ!!と、私も小説に突っ込んだりした。
そして、それには皇帝も同調して、男主人公に嬉々として協力したりもする。表向きは、皇子の客人に危害を加えようとしたからだけど、本当は気に入らないから建前の理由が手に入って喜んでいるだけだ。
いや、政略結婚の駒として必要なんでしょ?殺していいの!?となってしまうだろうが、必要なくなってしまった。
なぜなら、皇帝の側室に皇女が誕生してしまうからである。私はお役御免となってしまったのだ。
それでも生かしておいても、と思うのだが、皇帝はアンジーナが生きているだけで気に入らないのだ。悲しすぎる。
ちなみに、このアンジーナの迫害は、最終的に皇后すらも参戦します。
夫婦の初の公式行事以外での共同作業が、娘の始末なのである。
そして、皇帝と皇后が協力してしまったら、力のない皇女など、簡単に始末できてしまう。
私は殺され、私を始末することに影ながらも協力しあっていた結果、皇帝と皇后の仲も深まり、男主人公と女主人公はラブラブ。二国の仲直りしてめでたしとなる。
いや、納得できるか!!
なんであんな子どものいたずらレベルで殺されなければならん!そして、なんで自分の娘を殺すことに関しては意気投合するんだよあの夫婦!!
そして、側室がさらっと出てきたけど、この側室も、アンジーナが殺されても問題ないという理由付けのためにしか出てこない。
お陰でこの小説、駄作も駄作扱いされていました。私だってそう思う。
でも、今は読んでおいてよかったと思う。ここが小説と似た世界だとわかっていれば、両親から愛されないことに、納得はしなくても理解はできるというものだ。
存在が気に入らないという理由で殺されてたまるものか。
私は、この理不尽な世界で、絶対に生き残ってみせるのだ!