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夢見る未来に福音を  作者: 相馬
第五章 《東の大地に光がさして》
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第二話 合流


 領主館からは少し離れた場所に軍の基地があり、そこには当然兵舎がある。


 アイリスのいる兵舎は女性用のものだから、俺は入れないのでロビーの部分で待つ。

 知らせを出してからしばらくして、金髪青目、スタイル抜群のアイリスがロビーにやってきた。


「久しぶりだな。遅かったじゃないか」

「お久しぶり。レディの支度は時間がかかるものだよ?これでも急いできたんだから」


 およそ数か月ぶりだが、変わらず美人だ。決して言わないが。

 挨拶もほどほどに、アイリスの実家がどうなっているのか聞くことにした。


「お前の実家が渡航させないと聞いているが本当か?」

「本当だよ。ボクが渡航しようとしたら、ボクに気づいた職員が連絡してしまってね。止められたんだ」

「最初に手紙をもらった時は公私混同していると思ったが、ちゃんと公務だったんだな」

「それはそうだよ。ボクだって自分の問題を部隊の問題にするほど、恥知らずじゃないよ」

「あの文面じゃ勘違いしてもおかしくないぞ。実家なんて書いたら勘違いするだろうが」

「そうはいっても、ルチナベルタ家なんて書いても結局ボクの家名でわかるじゃないか。それはそれで誤魔化していると思われるのも嫌だしね」


 やましいことはしたくないと。その気持ちはわからんでもないが、俺にそれは悪手だった。


「アイリスの家名がルチナベルタってことは忘れていたよ。だからそっちの方がよかったな」

「隊長って人に興味がないんだね。それともあの二人が特別なのかな?」


 あの2人?

 ああ、ベルとマリナか。


「安心しろ。あの二人の家名も覚えてない」

「付き合いが長いんでしょ?あの二人がかわいそうだよ。公的な場では家名で呼ぶこともあるんだし、隊員の家名は覚えなきゃだめだよ」

「善処する」


 だってルチナベルタよりアイリスの方が短くて覚えやすい。そもそも俺は日本人だから、外国人みたいなカタカナ名は覚えるのが苦手なんだ。いままで何とかなってきたし、必要になったらそのときに覚える。


 そもそもベルの家名なんて本人の口から聞いたことがない。

 マリナはベルがつけたから知ってるが、うろ覚えだ。


 それはそうと、どうしてアイリスが駄目だと言われているのか。


「それでアイリスは何て言われて止められてるんだ?」

「さあ、とにかくお前はダメだって一点張りさ。詳しく聞こうにも教えてくれない。どうやらボク以外にも通常の交易船も渡らせてないみたいなんだ。何か問題があるのかと思って軍に問い合わせてみたけど、異常なしだ。訳が分からなくて、こうしてずっと足止めを食らってるんだ」


 アイリスだけじゃなくて通常の交易船も渡らせない?

 なんで渡航制限なんてしてるんだ?


「今までこんなことが起きたことは?」

「ボクが知る限りは無いよ。昔軍人になる前にボクも何度かユベールに行ったことがあるくらいだ。あの海は危険な魔物が出ることもない」

「なのに渡航制限か……どの船も海に出てないのか?」

「現在海に出られるのは軍艦だけだよ。軍港は別の位置にあるからルチナベルタ家は関われないからね。でもエルフの国と交易ができるのはルチナベルタ家だけだ。だから軍が海に出てもユベールへはいけないから、結局ボクの実家を説得しなきゃいけないよ」

「それならベルたちは説得できたのか?」

「彼女たちは軍人だからね。コードフリード大将の口利きもあって2人は渡れたんだ。ルチナベルタの書いた紹介状があれば入国はできる。たいしたところにははいれないんだけどね」


 交易を担うルチナベルタ家でも大した場所に入れないとは、エルフの国は随分と閉鎖的だ。

 それはともかく普通の軍人なら、コードフリード大将の口利きがあれば通れると。

 ベルとマリナが通れたのなら、俺もアイリスも通れるはずだ。

 なのにアイリスだけ通さない、昔はユベールに行ったことがあるにもかかわらず。


 妙な話だ。

 何の理由もなく渡航制限なんてするとは思えない。軍港は交易に使われる港とは別にあるため、止められることはない。だが軍はエルフの国との交易はできない。


 通常の交易船も制限するなんて、娘がどこかの船に忍び込むとでも思ったのか?でもそれならベルやマリナにだって紹介状なんて書かないだろうし。


 となると、何かが海に出たのか?

 だがアイリスもそれは考えたんだろう。

 軍に問い合わせたが異常なしと返ってきたために原因がわからないままだ。


「妙な話だな。軍が何も知らないのも気になる」

「ボクの実家が勝手にやってるのなら、軍が何も知らないのは仕方ないんじゃないかな?」


 その可能性はある。でも正直それは考えにくい。


「アイリスの実家は昔から長年続く名家だ。そんな家が損にしかならない渡航制限なんてするか?どんなに親バカでもしないだろう」

「……ボクから見ても親バカな親だけど、さすがにしないかな。そもそも制限するならボクの船だけでいいはずだしね」


 整理すると、現状、実家に拒否されてアイリスはユベールへ渡れない。

 アイリスどころか通常の交易船も海に出ておらず、その理由もわからない。

 ただし軍人に関しては、大将の口利きがあればユベールへの紹介状は書いてもらえると。

 それでベルとマリナは一足先にユベールに渡ったというわけか。


 いくつか考えられることはあるが、結局憶測の域を出ない。なら、実際に聞いてみなければならない。


「アイリス。実家にアポを取れ。会って確かめる」

「あぽ?会うのはいいけど、話なんて聞いてくれるかわからないよ?」

「最悪は強行突破だ。そうなるとアイリスには謝らないといけなくなるがな」

「?」


 あまり使いたくないが仕方ない。こんなところでいつまでも足止めを食らうわけにはいかない。

 情報を得るだけなら、俺には簡単だ。情報を持っている人から記憶を抜けばいいだけだ。ただ敵ならともかく味方の親族にやると風聞が悪い。

 だがこれなら確実なうえに、手っ取り早い。


 まあ、どんなに下手な手を打ってもなんとかなる方法があるならそう悲観することもない。

 できるだけ話し合いで済ませたいけどな。


 そういえば、関係ないけど一つ気になることがあった。


「それで、そんな名家の出なのに、どうして軍人なんかになったんだよ」

「ああ、それはね――」



 *



 ルチナベルタ邸。

 そこは歴史ある屋敷で広い敷地があり、使用人を数多く抱える名家。


 コードフリード大将の領主館もそれはそれは立派な屋敷だったのに、この屋敷はそれのさらに上を行っていた。


 その屋敷を前にして、俺は仮面の口を開けて、呆けてしまい、


「これが……家?」


 呆然とそんな言葉が出てきた。

 まるで前の世界の学校の体育館がそのまま豪邸になったかのような屋敷。それが少し距離を開けていくつもある。


 まるで超有名な金持ちの名門大学に来てしまったのかと見紛うほどの敷地と建物。

 門の前で驚いている俺の横でアイリスが照れ臭いのか、はにかんだ笑顔を浮かべていた。


「本当はもっと小さくしたいんだけど、外聞があるから立派にしなくちゃいけないんだ」

「こんなに立派にしないと保てない外聞ってなんだ?豪邸にもほどがあるだろ……」

「本当にね。管理が大変で困るっていつもボクの両親は言っているよ」


 嫌味ともとれるが、正直これだけの建物を見ていると何も思わなかった。


 マジで場違い感がすげぇ。


 ……いかんいかん、堂々としていなければ。


 平然としているアイリスの上官である俺がうろたえてはいけない。

 ……いや、ていうかなんでアイリスは軍人になんてなろうとしたんだ?このまま家督を継げばいいだけだろうに。女なんだし。


 まあ、こないだ彼女が軍人になろうとした理由を聞いたけど、それでもこれほどとは思わなかった。


 思うところは多々あるが、そんな立派な邸宅の門をアイリスと二人でくぐった。


 ここではアイリスが文字通りホームだから、彼女の後ろについて屋敷に入る。

 すると玄関にいた使用人に案内されて、待合室のような場所に通された。


 来客が多いんだろう、流れるようにスムーズな誘導だった。


 通された部屋はソファがいくつも置かれていて、ところどころに長方形のローテーブルが置かれていた。何人もがここで待てるようになっているのだろうが、今は俺達だけだった。


 部屋にある家具を見渡す。

 さすがこんな豪邸にある家具。どれもが高級だと一目でわかるものだった。

 高級なのは材質というより製法に由来するものが多く、どうやればこんな彫刻ができるのか、こんな形のものが作れるのか不思議に思うようなものばかり。

 金ばかりといった悪趣味なものはなく、品がよくて居心地がよかった。


「品がいいな」

「これでも文化の栄えた東部の豪族だからね。それにしても隊長は見る目があるね。ここにある物は人によっては安物とされたりするんだけど」

「作り方が違うじゃないか。随分と手の込んだ構造をしてるな」


 これでも地球じゃ工学系の学生だった。

 木でも金属でも加工しやすい形を知っているし、必要な技術もある程度知っている。さすがに日本の伝統芸能並みのものはどう作っているのかわからないが、凄いものだってことくらいはわかる。


 くつろいでいるとメイドに呼ばれ、応接室に通される。


 そこは長方形の机に向かい合うように椅子が配置された部屋。

 さきほどの部屋以上に机や椅子には立派な装飾が施されており、入ってきた者を心理的に圧倒するかのような見事な壁画があった。


 その部屋の奥には2人の男女の姿。


 男の方は整えたひげを蓄えたすらりとした中年だが、女性の方はまだ20代と思えるほどの容姿、アイリスとまるで瓜二つ。


 俺は思わず、その女性を凝視してしまった。

 理由は容姿のせいじゃない。


 耳が長かったから――


「ようこそおいでくださった。私はアイリスの父、ライノア・ミラ・ルチナベルタだ」

「母のイリアス・ミラ・ルチナベルタです。よろしくお願いしますね」


 男は俺を睨みつけながら、女は微笑みをたたえながらそういった。





次回、「両親の願い、子の想い」

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