表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢見る未来に福音を  作者: 相馬
第一部 第一章《始まりの大地》
9/323

第八話 贈り物

登録に必要な作業をひとしきり終え、受付近くで3人で待っていると受付の女性から呼ばれた。


「オスカーさん、ウィリアムさん。ギルドのハンター証明書ができました。記載内容に間違いがないかご確認ください。」


よかった。先ほどの実力確認の試験でちょっとやりすぎたので少し不安だったけど、無事にハンターになれたようだ。記載事項を確認していると気になる欄があった。


「このハンターランクはどうやって決まっているものなのですか?」

「ハンターランクは先ほどの実力試験を審査員の方が評価したものです。その評価によってハンターは受けられる依頼のランクが決まります。依頼のランクは戦闘の実力なのでそれだけでハンターの能力を判断することはできませんが不測の事態に対処できるとしてこの評価方法をしています」


ハンターランクというものは戦闘力で決まるらしい。実際は経験や技能もあるからそれだけでハンターの価値を決めることはできないが、ハンターとして活動する以上戦闘は避けられない。そのため最も重要な戦闘力である程度ランク付けをしているらしい。


「このランクはもう変わることはないのか?上げたいと思ったらどうしたらいいんだ?」

「その場合は依頼を受けて実績を積むか、再試験をギルドに申請してください。再試験の際は費用が掛かり、かつランクが下がる場合もございますのでご注意ください」


ランクによって受けられる依頼は異なり、基本的に自分と同じランクの依頼は一人でも受けられる。自分のランクより一つ上までなら受けられるがその場合必ず、同ランク帯、または上のランクの人と一緒に受ける必要があるらしい。


「皆さんはハンターになられたばかりで、今はまだ研修中なのでその旨も記載してあります。ギルドではハンターとして活動するための講習などもあるので時間があれば受講することをお勧めします」

「どうしようか」

「今日はこの後予定があるからひとまずいいだろ。また今度にしようぜ」

「わかりました。ああ、申し遅れました。私は受付のアイダ・シェルロードです。以後皆さんの担当になります。よろしくお願いいたします」


担当とはこれから依頼を受けるなどする際、この人が受け持つらしい。一人が見るほうがハンター一人一人にしっかり対応することができるらしい。それでは受付の人が大変ではないかと思うが、受付嬢は少なくないうえ、ハンターの数はそう多くないらしい。面接でも感じたがここのギルドはどうやらハンター不足のようだ。

これからは依頼をできるだけこなして貢献しようと思う。とはいえそれはまた今度。ギルドでの登録は済んだのでギルドを出て観光をすることにした。

ソフィアが体を伸ばしながら、歩き出す。


「うーん、やっと終わったわね!今回はみてるだけだったから長く感じたわ!」

「待たせて悪いな。でもおかげで無事に登録できたよ。ありがとう」

「ほんとに助かったよ。楽しかったし」

「よかったわね、ところで二人のランクはいくつ?私は最初の時点でAだったわ!」


ソフィアが自慢げに胸を張る。一方でオスカーは少し残念そうに頭をかいた。


「ああ~、俺はBだな。もうちょい派手にやればよかったかな」

「派手にって、もっとすごい技でもあったの?」

「そりゃもう、剣を投げつけたり素手で殴ったりいろいろあるだろう?」

「奇を衒うよりはちゃんと戦ったほうがいいわよ。もしかしたらランクが今より下がったかもしれないのよ」


オスカーがB?え?


「そうか、じゃあどんなにやっても今の俺はBかー」

「まあ相手によるんじゃないかしら。それよりウィリアムはどうだったの?」

「僕はAだったよ」


僕はなんとオスカーよりも上のAだった。きっと自分でも驚いた怪力が功を奏したのだろう。技術ではオスカーにかなわない僕がAになれたのは単に相性が良かったのと見た目が派手だからだ。

ソフィアと同じAであったことが嬉しくて二人に報告するとぎょっとした顔をされた。


「え?俺Bなんだけど」

「そりゃオスカーの相手は大剣使いでリーチに差があったからね、相性が悪かったからだよ。僕の相手と入れ替わってたら結果は違ったと思うよ」

「そうだよな、リーチが違うもんな。そうだよな……」


しまった、オスカーが落ち込んでいる。そういえばオスカーはさっきランクを上げる方法を聞いていたから結構こだわっていたのかもしれない。

何とかしてもらおうとソフィアを見るとソフィアはなんだかあきらめた目をしていた。なんで?


「私だけAランクで手取り足取り教えてあげようと思ったのに……私の立つ瀬がないじゃない!?」

「ええ!そういうこと!?」


どうやら僕たちはBをとると思っていたらしく、唯一のAランクとしてお姉さん風を吹かそうとしていたようだ。いろいろ教えてくれるあたり、少し変わっているけれど彼女はやっぱり優しい。

ひとしきり騒いだ後、ソフィアのおすすめの店で昼食をとり、その後は中層の町を観光した。

この町の名はマドリアド。この辺りでは一番大きい街らしく、商業の拠点として発展しており、買い物にはうってつけだそうだ。ここでソフィアへのプレゼントを見繕うためにあれこれ見ていくことにした。

今は商店街で女性もののアクセサリーをオスカーと見ている。ソフィアは店内の他の場所にいるのでばれてない。

だがプレゼント選びは思った以上に難航している。それはなぜか。


「オスカー、これなんてどう?」

「いやちょっと派手だな。ソフィアには合わん」

「じゃあこれは?」

「駄目だな、ソフィア自身のきれいさに負けてる」

「あ!これなんていいんじゃない!ソフィアの髪と同じきれいな深紅色だよ」

「駄目だ駄目!これじゃあ地味すぎて何も引き立たん!お前は見る目がないな!」

「ならいったい何がいいんだよ!いったい何軒お店回ったと思ってるんだよ!」

「妥協などするな!彼女にふさわしい一品などそうないことはわかり切っていたろう!?ちゃんと考えろ!」


オスカーが想像以上に張り切っていて、この日のために城の人に聞いてファッションについて勉強したそうだ。そのせいかやたらとこだわって全然納得してくれない。かなり高額な店に入ったりもしたのだが駄目だったし、種類を変えて服や置物、日用品も見ていたが似た結果になった。

これでは一向に決まらないので別々に探すことにした。とはいえほとんどの店には入ってしまったので、気分転換もかねて少し離れた鍛冶屋然とした店に入る。

ここでは作られた武器や防具から包丁といったものがあって、工房まで併設された大きな店だった。見た感じかなり上等なものもそろっているので、プレゼントもそうだが自分用に買うのもいいなと思ってじっくり見てみることにした。

安価なものから、中には魔法陣が刻まれているものもあり、冒険者向けのかなり高級なものも取り揃えてあった。


「プレゼントで考えるなら、ソフィアは魔法を使うから杖かな?でもすでに持ってるだろうし、無難に護身用の短剣かな」


魔法使いのソフィアは杖を使う。別になくても使えるのだが風采がいいのと杖によっては効果が安定するものもあるらしい。

自分に合うものをすでに持っていたはずなので、取り扱いの容易なお守り代わりの短剣にした。

魔法使いのソフィアでも使えるように軽くてシンプルな効果の短剣にしよう。そう思い短剣のある一角に向かう。

短剣があるエリアを物色している中、いいと思ったのは頑丈、刀身延長、鋭利、解毒に健康といった効果を持つ魔法陣だ

他には火をおこしたり、水を出したりするものもあったが、短剣としてみると使いづらいだろう。

武器となると難しいし、防具はサイズがわからないし、動きづらくなるかもしれないから、やっぱり武器はやめて他の店を見たほうがよさそうだ。


「そこの御仁、何か探し物かね」


出ようかと思っているとふと背中から声がかかる。振り返ってみるとそこには僕の鳩尾くらいの身長のひげを生やした男性が立っていた。特徴から察するにドワーフのようで、がっしりした体形で迫力がある。話し方からしてここの店のひとだろう。

せっかくなので相談してみようか。


「どうも、人への贈り物でしてどういったものがいいかなと考えていたのです」

「人への贈り物で短剣とはハンターか何かかの」

「そんなところです」


簡単にどういったものが欲しいのかを伝えたところ、自衛のために持ち歩くなら危険を知らせるもの、あまり使わないなら日用的にも使えるような効果を付与することもあるという。


「日常的に使えるものですか?」

「たとえば、光るような効果をつければ松明なしで暗闇を歩けるし、火を発生させるようにすれば野宿もぐっと楽になる」

「なるほど、一つの短剣にはいくつ効果を付けられますか?」

「短剣は小さいからの。効果によるが刀身と柄の部分で一つずつといったところか。特注ならそれなりの額をもらうが材質や形状を要望通りに作れるぞう」

「材質ですか……、マナと親和性のある材質はありますか?」

「マナとの親和性?ここで扱っているもので一番はミスリルか。あとは宝石もあしらえば多少、陣の効果は上がるが」

「ちなみにそれ全部やった時の額はおいくらで?」

「陣によって多少は変わるが最低でもこのくらいさな」


いい素材と宝石、さらに魔法陣も含めると結構な額だ。この一年と半年でためた貯金の大半が飛んでいく。一応僕らは高給な部類に入るので払えなくはないが、短剣でこれだ。片手剣となると倍以上かかるらしく、そうなると貯金全部出しても足らない。

さすがにこの値段は高すぎると思い、宝石の数を減らしたり、ミスリルの量を減らして別の金属にしたりしてどうにか買える値段になった。

値段の他にも形状や握りの形や材質、デザインも含めて相談して決め、前金として半額を渡して作製を依頼した。完成には数日はかかるとのことでまた今度取りに来ることになるが、自力では中層へ来れないので、しばらく受け取れない可能性も話した。完成したら預かっておいてくれるとのことなので、間違って他の人にわたることを防ぐために名前や身分証を見せて控えてもらった。


「では、よろしくお願いします。」

「おう、期待して待っておれ!」


勢いで決めてしまった感はあるが、悪くない買い物だったと思う。ソフィアは軍属なのだからこれから危険な目に合うかもしれないし、自衛できるものは必要だ。魔法の補助もできるようにしたし、全く使えないということもないだろう。とにかくあの短剣が彼女を守ってくれることを期待したい。

そうして店を出て、オスカーたちと別れた場所に行くと少し離れたところに二人がいた。ソフィアは店内の椅子に座っているがオスカーは商品片手に店員と話している。

はぐれずによかったと安堵しながら、小走りにソフィアのほうに近寄る。


「ごめん、ちょっと他の店に行ってたよ」

「あらそうなの。よかったわ、迷子になってなくて。オスカーが全然買うもの決めないから探そうにも行けなかったのよ。それにすれ違いになるかもしれないし」

「そっか、ごめんね。次からは一声かけてからにするよ」

「戻ってきたならいいのよ。それよりオスカーはまだ?」


オスカーはまだ悩んでいるのか。もうあまり時間もないし早く決めてもらいたいので、彼のもとに向かう。


「オスカーまだ?さすがにそろそろ切り上げないと帰れなくなるよ?」

「いやまて、もう少しなんだ。この二つどちらがいいか決めかねているんだ!」


そういってオスカーが手に持った二つのアクセサリーを見せてくる。1つは腕輪で銀を基調としてところどころに金と青色の金属を使用していて品のある印象を受けた。

もう一つはネックレスでこれまた銀を基調として、金の粒がちりばめられている。ただ中心に大きなしずく型の青い宝石が埋まっている。

その宝石がどうにも神秘的で気になったので聞いてみることにした。


「この真ん中にある宝石はなに?」

「これはフォルスマテリアっていう貴重な宝石らしい。神秘的だし色合いもいい。ただ腕輪も捨てがたい。どっちがいいかと思ってな」


確かにこの二つはかなりいいセンスだと思う。どっちも買えばいいんじゃないかと思ったが、どちらも一個で先ほど僕が買った短剣並みに高い。確かに二つは買えない。

さっき僕が短剣を買わなければいけたかもしれないと考えると少し後悔しそうになるが、あれはあれできっと役に立つはずだ。うん、違いない。

とにかく、どちらか一方を選ばなくてはいけないがデザイン的には決め手が欠ける。ただここで先ほどのドワーフの人が言っていたことを思い出した。

曰く宝石には魔法陣の効果を高める効果があると。このアクセサリーには魔法陣は刻まれていないが、ソフィアは魔法使いで、いうなれば歩く魔法陣だ。ちょっと違うかもしれないがマナに作用しているのは確かなので、宝石はきっと役に立つだろう。


「こっちの宝石のほうがいいんじゃないかな。この宝石には魔法にいい影響があるかもしれないから実用性もあるネックレスにしようよ」

「この宝石が魔法に影響するのか?どう影響するんだ?」

「具体的にはわからないけど、魔法陣が組まれた武器に小さな宝石組み込んで効果が上がるって話だよ。武器じゃないけどソフィアは特別だし効果ありそうじゃない?」


その話を聞いて納得したのか、オスカーは満面の笑みでネックレスをもってカウンターに行く。きれいに包装もしてもらっていた。

強面で体格もいいオスカーがプレゼントに女性もののアクセサリーを買っている光景はなんというかギャップがあってほほえましい。しかも店内に贈る相手がいるのだ。店員も気づいていたようで笑顔で接しているように見える。

そんなことを思っているとオスカーが買ったものを大事にしまい込んで、こちらに向かってきた。2人でソフィアのもとに行くと案の定、愚痴を言われた。


「遅い!いつまで選んでるのよ。ここアクセサリーの店よ?そんなにオスカーが装飾品に目がないなんて知らなかったわ」

「俺自身は興味ないよ。ただちょっといいものがあってな。どうしようか悩んでたんだ」

「そうなの?一体何を買ったの?見せてよ」

「だ、駄目だ!これはちょっと見せられん!」

「何でよ、別に変なもんじゃない、いいものなんでしょ?なら見せられるじゃない」

「駄目なもんはだめだー!」


2人のやり取りを横目で眺めつつ、買ったものをいつ贈るか考える。

ソフィアが配属されるのは早くてもあと半年ほどだ。まだ時間があるが別れるときに渡すべきか、今のうちに渡すべきか悩ましい。まあとにかくまだ僕のが完成していないのでその辺はあとでオスカーと相談して決めよう。

もうだいぶ日が傾いてきたので上層に帰るために、町の外へ向かう。この調子なら日が沈み切るころには空を飛べるくらいの暗さになっているだろう。

今回中層に来て思ったが、なぜこんなにも中層と上層の行き来を制限しているのだろうか。下層はまだ開拓中で危険も多いからという理由があるのはわかる。だが中層は危険はないし、むしろ広くて珍しいものもあり、上層では手に入らないようなものもある。

最たる例が先ほどのオスカーのネックレスにある宝石だ。あんなものは見たことがないし、聞いたこともない。

ソフィアにもさりげなく聞いてみたが知らないらしい。聞くついでではあったが、彼女も魔法を使うのに宝石を利用することがあるらしい。なんでも宝石にはマナをためる性質があって、それを使うと強力な魔法が使えるようになるらしい。ただ彼女はお金がかかるとのことで安いのを実験に使う程度らしい。


「お、やっと外に出たな。広い街だから外に出るのも大変だな」

「ちょうど暗くなってきたし、もう少し進んだところで絨毯に乗りましょうか」


気づけば町の防壁まで来ていた。

今回、初めて中層に来たが刺激にあふれた休息日なったし、収穫も多かった。ギルドに登録もできたし、プレゼントも買えた。知らないことも知れたし、何よりギルドの試験で力加減を間違えたおかげで自分の非常識を知れた。もしうかつに一般の人と力比べでもしたらけがをさせてしまったかもしれない。

でもやっぱり不思議に思う。なぜ僕だけこんなに力が強いのか。学ぶほどに、常識を知るほどに自分がおかしい存在だと感じてしまう。


「どうしたウィリアム。難しい顔して」

「あ、いや、なんでもない」

「そうか?疲れたのなら無理するなよ。あとは乗ってればつくんだからゆっくり休め」

「飛んでる間はソフィアが大変なんだから、一人だけゆっくりしてられないよ」

「いいわよ、ウィリアム。オスカーの長い買い物のせいで疲れるのは仕方ないわ。ゆっくり休んでていいのよ。私もオスカー使って飛んでる間は楽させてもらうから」

「ん!?俺を使ってってどういうことだ!?俺は絨毯飛ばせないぞ!」


オスカーが驚き、僕が困惑しているとソフィアは僕らの反応が面白かったのか、クスクスと笑うだけだった。ただの冗談かなと流して空を飛ぶ準備をしているとさっきの言葉の意味が分かった。


「オスカー、あなたはこっちに座って。ごはんとお菓子も準備して。飛んでいる間は私にお菓子を食べさせながらうちわで扇いでね!」

「ええ!?」


さっきのオスカーを使ってというのはこういうことだったらしい。体のいい雑用係といた感じだ。ソフィアといるとオスカーはからかわれてばかりだ。僕もからかっているけど。

でも実際、ソフィアはずっと魔法を使いっぱなしになるので何もしないのは申し訳ないとのことでオスカーは従うことになった。僕もやろうと言ったがソフィアに断固として断られた。

帰りの空で、ひたすらソフィアに奉仕するオスカーを見たが、なんだかんだ二人は楽しそうだったので、僕は横でゆっくり休むことにした。





次回、「不穏な動き」


更新自体は不定期ですが、一章に関してはなるべく早めにすべてあげられるようにしていきます。

なにとぞおつきあいください!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ