表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢見る未来に福音を  作者: 相馬
第四章《鉄火の国の王女》
88/323

第十九話 人払い


 悪魔を無事に倒したところで周囲の状況を確認する。


 王女は無事なようだ。見るとその体は緋色の光を帯びている。


 先ほどの淡い光は自分の加護かと思ったが、どうやら彼女の加護によるものだったのか。


 悪魔から世界を渡る方法があると聞いたからとてもうれしくて、それでついに俺の加護が発動したのかと思ったが、残念ながら違った。


 船上ではまだ戦闘は続いている。

 中位以下の悪魔もいるようだが、ドワーフたちに着々と打ち倒されているようだ。中位となると多少の魔法も使うが、ドワーフたちも錬金術がある。

 簡単な魔法なら再現できるし、統率も取れているから殲滅するのは時間の問題だろう。


 船はいまだに淡く輝いているから、ヴァルグリオ元帥も健在のようだ。随分長く戦っていた気がするが実際はそんなに長くない。精々が20分程度だ。


 倒れこんでいるヴェルナーに手を貸して立たせる。


「立てるか?」

「なんとかな。それより隊長、さっきのはいったいなんだよ」

「どれのことを言ってるのかわからん。それより早く王女を退避させろ」


 もうどこもかしこもボロボロだ。船も王女も。

 するとまた王女が抗議の声をあげた。


「ま、待ってください。もう悪魔の親玉は倒したのですよね。なら退避しなくてもいいのでは?」

「自分の姿くらい見てくださいよ。そんな状態で戦場にいようとしないでください。死にたいんですか?」


 この期に及んでまだ避難したがらない王女に対してライナーがきつく言う。

 事実、彼女は加護があったから今立てているものの、加護が切れたら糸の切れた人形のように倒れてしまう。そんな人間を連れて戦うなんて正気じゃない。


「いいからとっとと避難しろ。心配なのはわかるがお前がいてどうなる。むしろ俺たちが自由に動けない分、足手まといだ」

「うっ」

「まだ元帥は無事なんだ。終わった後に元気な姿を見せろ。だから今は避難して休め」

「……わかりました」


 納得したようなので、とっとと彼女を俺たちの船に避難させよう。


「それでどうやって船にいくのですか?もう脱出艇は――」

「俺たちがここに来た方法で行く」

「皆さんがですか。あれ?そういえば船がありませんけど、いったいどうやって――」

「これだ」


 辺りを見回した彼女の前に浮かした盾を持ってくる。本当は魔法はあまり見せたくなかったが、見せなければあの悪魔には勝てなかったし今更だ。

 ちゃんと口止めはする。


 彼女は盾を見て困惑していた。さすがに不安なようだ。


「あ、あのこれで行くんですか?落ちないでしょうか?」

「大丈夫だろ。重くなければ」

「え!?重さ分かるんですか!?」

「いいからとっとと乗れ。大丈夫、気にしないから」

「ちょっと待ってください!え!?ホントに!?」


 グダグダいう彼女に苛立ったのか、ライナーがひもを取り出した。

 さすがにそれはとも思ったが、今もドワーフたちは戦っている。俺も早く陸に戻りたいし、協力することにした。


 というかライナーはどうして紐なんて持っているのだろうか。


「ちょっと待ってください!縛るんですか!?」


 顔を赤くした王女に俺とライナーがにじり寄る。


「向こうで解いてもらえ。ほら、じっとしろ!」


 嫌がる彼女をライナーと二人で押さえつけて、ひもで盾に縛り付けた。



 ……ひもで縛っている時に少しだけ興奮したのは秘密だ。



 彼女も諦めたのか、途中からは何も言わなくなった。おとなしくなった彼女ごと盾を浮かして、俺たちの船に向けて飛ばす。


「あ、おもっ」

「キッ!」


 浮かした瞬間、ちょっとしたいたずら心で重いと呟いたら睨まれた。太ってないんだからいいじゃないか別に。重さよりも見た目だろ。


 ちなみに俺たちの船にも何体か悪魔が向かっていたようだが、カーティスが守ってくれているから無事だ。シャルロッテは活躍できただろうか。


「にしてもライナー、なんで紐なんて持ってたんだよ」

「あの盾は小さいから危ないじゃないですか。だから落ちないように紐で体をくくるのに使っていたんですよ。決して隊長のように女性を縛る趣味はありませんよ」

「……そんな趣味あるわけないだろ!」

「え?まさか図星ですか?冗談のつもりだったんですが」

「そ、そんなわけないだろ!」


 この時、王女が乗っている盾がぐらぐらになって何度か海に落ちたらしい。紳士なカーティスがあまり見ないように紐を切った後は、同じ女性のシャルロッテに任せたと後になって聞いた。


 申し訳ないと思いつつも、大半はライナーのせいだ。俺のせいじゃない。


 ちなみにヴェルナーは王女を紐でくくるというくだりには一切参加しなかった。変なところで紳士な奴だ。



 *



「で?隊長、どうするんだよ。王女を連れて避難するんじゃなかったんかよ」


 王女を乗せた盾を再び回収したところで、旗艦アラリケの船上を3人で駆ける。ヴェルナーの問いは当然だ。すでに当初の目的の王女を連れて退却は可能だ。


 にもかかわらずこうしてアラリケに残っているのには理由がある。


「高位の悪魔は倒した。遠くから東の艦隊と思われる汽笛もなっている。向こうも討伐し終わったんだろう」

「それがどうした?ここはいまだに海竜がいついてやがる。危険なのには変わりねぇぜ」

「それが疑問だ。高位の悪魔はいない。操られていたと思った海竜が離れないなら倒すしかない」


 悪魔を倒せば海竜にかかっている魔法は解けるはず。にもかかわらずこの船を襲っているということは、まだ混乱しているのか、それとも攻撃を加えたこの船を目の敵にしているのか。

 俺が海竜について頭を悩ませていると、ライナーが疑問を呈した。


「それはヴァルグリオ元帥が考えることでは?現に西艦隊が挟撃するはずでしょう?」

「だからといって西艦隊が来ても何も変わらない。海竜はこの船に接している。そんな状態で砲撃なんて怖くてできない。かといって乗り込んできても海竜に致命打なんて与えられない」


 この船に取りついている海竜に対して砲撃すれば、旗艦にあたる可能性がある。ヴァルグリオ元帥の加護が効いているとはいえ、味方艦に砲撃なんてとてもできない。

 だからといって乗り込んできても、元帥が海竜をどうにもできていない以上、倒す方法はないだろう。


「ではどうするのですか?我々で倒すのですか?」

「いけんのかよ?隊長でも難しいんじゃねぇのか?」

「一人じゃ厳しいな。地竜とは桁が違うデカさ。頑丈さだ。元帥が倒せないなら生半可な攻撃じゃだめだ」


 前に地竜を相手にしたことがあったが、海竜はそれ以上のデカさだ。まるで山を相手にしているようだ。

 海は食べ物が豊富だからって、こんなに大きくなるなんて反則だろう。

 地竜の相手も大変だったのに、海竜の相手なんてできるのか。


「では我々がいても仕方ないではありませんか」

「ところがそうでもない」


 確かに頑丈な鱗を貫いて攻撃なんて相当だ。

 だがそもそも貫く必要はない。


 それに何かあったときのために、作っておいたものがある。あれを使えば十分に勝機はある。見られたくはないが仕方ない。後で少し苦労すればいいだけだ。何よりあの海竜を倒したい理由がある。


「ヴェルナー。持ってきているよな?」

「!フッハー!あれ使うんかよ!いいぜぇ、俄然やる気が出てきたってもんだ!」


 ヴェルナーに1丁、俺が1丁持っている。ライナーにはないので俺の分を渡す。

 受け取ったライナーが納得したような顔をした。


「これは、レールガンですか」

「そうだ、試し打ちにはちょうどいいデカさだ。充電はもうしてある。指示を出したら撃て」


 レールガンだけで仕留められればいいが、海竜がでかすぎる。これだけじゃまだ足らないかもしれない。

 まあ、このほかにも試したい新技があるから、しぶとい方がちょうどいいかもな。


「ではこのまま海竜討伐に向けて動きますか?」

「いや、まずは人払いだ。元帥と合流する」


 元帥がいるところはわかりやすい。神気が一番濃いところに行けばいい。


 俺たちは急いで元帥の元へ向かった。



 *



「元帥!」

「ウィリアム殿!?なぜここへ!姫様は!?」


 ヴァルグリオ元帥は広い甲板の上に出て海竜を相手にしていた。聖人としての膂力を活かして、身の丈ほどの大盾を使って襲い掛かる海竜の攻撃を防ぎ、槌で攻撃していたが、デカすぎる海竜に有効打を与えられていないようだった。

 元帥に王女を無事に確保し、船に避難させていることを伝えるとほっとしたようだが、すぐに顔を険しくした。


「姫様を確保したなら退却しろと伝えたはず。なぜここにいるのだ!?」


 振り下ろされた海竜の腕をよけながら、元帥と会話をする。


「急ぎ伝えることがありましたのでこうして参りました」

「なんだ!?」

「高位の悪魔を撃破しました。東の艦隊も魔物を撃破したようです」

「高位の悪魔!倒したのか!?」

「まさか!?あれは聖人であるヴァルグリオ元帥ですら苦戦する相手であるぞ!」


 元帥の他、もう1人戦っていたドワーフも反応する。確か参謀長のフェアディといったか。信じられないかもしれないが事実だ。

 高位の悪魔に王女が襲われたこと、悪魔を倒して避難させたことを伝える。


「つまり残りはあの海竜だけです」

「むう、にわかには信じがたいが」

「だが高位の悪魔の姿が見えないのも事実。とかく海竜を退けようぞ」


 納得したのか、2人は海竜に向きなおる。その顔は少しばかりほころんでいた。


「お手伝いしましょう」

「無用である。海竜は巨大かつ危険な相手。数が増えても余計な被害を増やすだけよ」

「ですがずっとこのままでは?決定打に欠けるのでは?」


 戦闘が始まってからずっと海竜は健在だ。海竜から船を守っていると言えば聞こえはいいが、いつまでたっても撃退できていないなら、2人が戦っても仕方ない。

 そういうと、フェアディ参謀長が露骨に顔をしかめ、にらみつけるようにこちらを見た。


「自分たちならいけると申すか」

「少なくともこのままで行くよりは。たとえ失敗しても、お二人が休憩する時間稼ぎにはなるでしょう。俺たちに任せてもらいたい」


 高位悪魔を倒したんだから、それなりに説得力が生まれたのか、2人は器用に海竜の攻撃をよけながら話し出した。


 それにしてもこの頭の固いドワーフたちは説得に苦労するな。丁寧な口調で話すのも疲れるんだぞ。

 俺が丁寧に根気強く説明すると納得してくれたのか、一時的に任せてくれる気になったようだ。


「そこまで言うなら信じよう。だが決して油断するな。何かあればすぐに呼ぶのだぞ」

「若いからと言って無茶をするでない。よいか、無理をするのは老骨のみで十分である」


 そう言って元帥と参謀長は下がっていった。

 ただ去り際に――


「我が『堅牢』の加護がある。船のことは心配無用であるぞ」


 そう言って肩を叩いてきた。

 どうやらヴァルグリオ元帥の加護は『堅牢』と呼ばれているらしい。まあ確かにこれだけ巨大な船を守り切れるくらいだ。堅牢というのも納得だ。


 それはさておき、ようやくだ。

 海竜に向きなおる。

 海竜は代わりにやってきた俺達に向けて、ものすごい大音量の咆哮を向けてくる。


 俺達はまた戦う準備をする。


「やれやれ、お年寄りは説得に苦労しますね」

「お前何もしてないじゃないか」

「聞いてるだけでイライラしますよ。耳が遠いのか頭が固いのかわかりませんね」

「どォでもいいだろうよ!いい加減ぶっ放したくてうずうずしてんだ!」

「そうだな。いい具合にあの二人が去って人払いもできた。始めよう」


 周囲にはドワーフの姿はない。これなら診られた後の心配はいらなそうだな。


 さあ、思う存分、的にしてやるとしようか。




次回、「咲き誇る連爆の華」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ