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夢見る未来に福音を  作者: 相馬
第四章《鉄火の国の王女》
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第六話 成長する雛鳥


 俺たちもライナーの部屋から出て、1人黙々とエンジンをいじって爆発させているヴェルナーと合流し、空いている部屋を借りて今後のことについて相談することにした。


「隊長、なんかイラついてんな。こいつらが何かしたんかよ?」

「私たちのせいにするな!ヴェルナーと会うから嫌になったんじゃないのか?」

「あぁ!?オレが一番貢献してんのにそんな訳ねぇだろ!」

「どういう思考回路をしたらそうなるんでしょうか。いつも爆発ばかりで問題起こしてばかりじゃないですか」

「そこまでにしろ。今後の話をしたいんだ」


 3人はもうオフモードだと思ったのか、いつも通りの言い合いをしている。これはこれで3人は仲がいい。

 だが、先に話をしておきたいので悪いがちゃんとしてもらう。


「今後の話はまた今度ではないのですか?」

「ドワーフたちがいたからな。邪魔なんでどいてもらった」

「確かにドワーフたちの前で飛行船について詳しく語るわけにはいきませんからね」


 飛行船はこの隊の最優先事項だ。そして軍のものである以上、あまり大っぴらにするわけにはいかない。

 まあなし崩し的に共同開発になってしまいそうではある。さきほどの様子から結構探られているようだ。

 とはいえ飛行船という単語は出していないから、せいぜいが気球のような乗り物を作りたいとかその程度だと思う。


 それよりも今、急いで今後の話をするのはこの国にあまりいたくないからだ。


「それはわかるけどよ。にしても隊長はなんでそんなに機嫌悪いんだよ」


 なんだかヴェルナーがやたら俺の機嫌を気にしてくるな。いつも通りなのに。


「別に悪くない」

「悪いだろうがよ……まあいいや、で?今後の話ってのは?」


 少し引っかかるが、気にせず続ける。


「できれば3人にはここでの研究が一段落ついたら、アクセルベルク西部に戻ってもらいたい」

「それはなぜですか?」

「この国は聖人を欲している。もしかしたら俺にちょっかいかけてくるかもしれないからな。ここまで来るのにもひと悶着あったんだ。最近になってレオエイダンが必死になって聖人を求めているってな」


 俺がそう告げると3人は心当たりがあるのか、ぽつぽつと語りだした。


「そういやオレたちの隊長が聖人だってことにやたら関心を持ってたな。まだ完全な聖人じゃねぇって言っても根掘り葉掘り聞こうとしやがった」

「私も同じだ。どうやって聖人になったとか、アクセルベルクのどの町出身だとかどうでもいいことも聞いてきた」

「最近はレオエイダン付近で統率された悪魔の集団が現れたようですね。その悪魔の集団にいくつかの艦船が沈められたようです。それからはどうにも焦っているようですね」


 3人の話はなかなかに重要な情報だ。そこまで露骨に探られているなら、十中八九ここにいたら何かしら手を出してくるだろう。


「そういうわけだ。どこまでレオエイダンが手を出してくるかわからない。出してこないかもしれないが、ここにいなければならないわけでもないならここを出る。そんなわけだから3人の成果を鑑みて飛行船の仕様を考える。問題なければ西部ないし南部に戻って建設に入る。何か意見は?」


 そう言いながら、近くにあった大きな紙を取り出して現状とこれから、飛行船についての情報を書き出していく。


「現時点でエンジンは良好だ。操縦についての問題が解決すれば行けそうなんだがな。ドワーフにそういった技術を持つものは?」

「いねぇな。操縦と行っても気球の高度を変化させたりとかだ。ほとんど手でやるから機械に任せるなんてできるやつはいねぇよ」


 やっぱりか。操縦系統は必ずぶつかる問題だ。

 前の世界じゃ電子機器なんてものがあったから、かなりスマートに飛行機なんて複雑なものを簡単に動かすことができた。

 でもこの世界にそんなものはない。全部が機械式、いや人力だ。

 コンパクトになんてできないし、そもそも実現できるかもわからない。


「なら自分たちで考えるしかないか。難しいな、こればかりは俺もわからん」


 機械系の授業も前の世界じゃ取ってたけど、こんな複雑な動作をするエンジンの操縦系を一から設計なんてできるわけない。


 まあ操縦系統は置いておいて、技官たちの意見を聞くことにした。


「まあまず形状だが、前の雛形の時と同じ原理で決めっから、そう難しくねぇ」


 ヴェルナーが図面に書き起こす。

 書かれた形状は前の世界で親しみのある旅客機に似ていた。

 ライナーとシャルロッテも特に口をはさむことなく見ているので、技官たちですでに飛行船の仕様について検討していたんだろう。


 続いてライナーが話し出す。


「装甲ですが、これは候補となる金属がいくつか見つかりました。耐久性、耐熱性、耐腐食性も問題ありません。ただ重量に関してもエンジン出力、気体性能含めればクリアできます」


 先ほどライナーからもらった金属の特徴をまとめた資料に目を通す。

 確かに、良さそうな金属がいくつもある。ただ実際に飛んだ時にどうなるかまではわからないから、この辺りは何度も実験して試してみるしかなさそうだ。


 次に飛行船の中身についてをシャルロッテが。


「この外装の中にさきほどの気体を詰めます。これで機体重量を軽減して、積載量を増やすことができますね。計算してみたところ、充分に装甲を纏ってもエンジンがあれば飛行に必要な揚力は得られるはずです」


 つまり、以前話していた、気球にエンジン付けて速くしようという考えをそのまま実現したような乗り物ということか。


 3人が書き込んだ飛行船の仕様書を見て、顎に手を当てて検討する。

 確かにできそうだと思った。


 ただし。

 正直、俺の頭の中に浮かんでいたのは、飛行船とは名ばかりの飛行機だ。前の世界での戦闘機のような小型のもので、シャルロッテが研究しているような気体の浮力を利用するようなものじゃない。


 なぜって?


 俺達が戦うのは普通の敵じゃない。天上人だ。


 気球なんかとは比べ物にならない速度で空を飛び、大砲なんて目じゃないほどの火力をばんばん放ってくる。


 そんな敵を相手に、バルーンで飛ぶような方式の乗り物じゃ心許ないと思ったからだ。


 だからもし飛行船に乗って天上人と戦うなら、前の世界の飛行機に近いものを作らないと渡り合えないと思った。


 でもそれが難しいことも理解している。

 ヴェルナーがいくら改良したエンジンを作ったとはいっても、前の世界のものとは程遠い。

 それに飛行船と飛行機では、実現までの危険度がけた違いだ。

 実用化するまでの期間がけた外れに伸びる。


 しかし、だからといって通常の飛行船で天上人に勝てるのかと言われると疑問が残る。


 この飛行船でそれができるだろうか。


「普通の相手ならこれでもいいが、俺たちの相手は天上人だ。あいつらは空だって飛べる。単独だから機動力も攻撃力も高い。取りつかれればまず対抗できない。このあたりの対抗策はあるか?」


 問うと、三人は眉根を寄せて、険しい顔をした。


「オレぁ天上人を良く知らねぇから何とも言えねぇな」

「空を自在に飛んで、好き勝手爆発させるベルを相手にすると思えばいい。あの爆発よりも数段強力な攻撃をしてくると想定してくれ」


 そういうと、3人はキョトンとした。


 ん?


「その程度でいいんですか?」


 ライナーが言った。


え?その程度だと?ベルの爆発だぞ?


そう思っていると、ライナーが図面の装甲について詳しい情報を書き込んだ。


「ウィルベルさんの攻撃にだって、耐えられる金属があります。それを分厚くすれば、どんな攻撃にだって充分に耐えられます。少々機動力は落ちますが、充分に戦闘に耐えうると愚考します」


 書かれた設計を見て、唖然とした。


 最大の装甲厚200 mm?

 ぶあつ!!

 そんなに厚くして空を飛ぶのか?飛行機の装甲なんて2 mmもないんだぞ。


 でもそれでもライナーは問題ないと断言した。


「錬金術師ですからね。さっき見せた金属よりも軽い金属だって作れます。形状を工夫すれば負荷だって軽減できます。この半年間、僕たちは遊んでたわけじゃありませんよ」


 開いた口がふさがらない想い、目ん玉飛び出そうだった。

 改めて、錬金術というものが常識外れだと実感した瞬間だった。

 簡単に前の世界よりも軽くて、丈夫な金属を難なく発明してしまう。


 金属どころか、ヴェルナーやシャルロッテが作ったエンジンや気体でも――


「オレのエンジン舐めんじゃねぇ。シャルロッテの研究もな。形状と気体の浮力を合わせりゃ、飛べねぇなんてまず起きねぇ。今までの乗り物なんかより数段、いや圧倒的に速え」

「そうです。むしろ大型にしたほうが、体積に対する表面積の割合が少なく済みます。そうなれば装甲重量よりも気体による浮力の方が上回りますし、軍事用として多くの物資や兵力を輸送できます。戦闘はともかく、軍事面で考えれば、小型化するより大型化するほうが利点が大きいと思われます」


 ヴェルナーとシャルロッテの話を聞いて、納得した。


 確かにそうだ。飛行機なんて、この世界の文明レベルを考えれば現実的じゃない。

 それを考えれば、この3人が提案する飛行船は現状でも最高のものかもしれない。


 頑丈性も速度もけた違いだから。


 仮面の下の口が、横に広がっていくのが分かった。

 心の奥から、何か熱いものが湧きあがってきた。


 ……いける。これなら、天上人との戦いにだって耐えられる。


 エンジンは魔法陣や錬金術によって、前の世界の物よりも圧倒的に軽く、コンパクトだ。その分兵器を積める。

 大型なら船のように操縦を手分けすればいいから、操縦系統の問題はあっという間にクリアできる。

 たくさんの兵器を積んで人を使って対抗すれば、空を飛ぶ天上人とだって渡り合えるかもしれない。


「ハ……ハハっ!」


 口から笑いが漏れた。


 おかしくておかしくてたまらない。

 前の世界の偉人たちが長い年月をかけて生み出したものを、こいつらは難なく超えてしまうんだから。


 俺は顔を上げて、3人を見る。


「よし!飛行船開発はこの仕様を元に詰めていく!」


 その決定に、ヴェルナー、ライナー、シャルロッテの顔がみるみる明るくなっていく。


 そして、湧きあがる熱のままに――


「3人とも――よくやった!」


 声を上げて喜んだ。


「シャアッ!見たかオラァッ!クソ隊長め!」

「当然です、見くびらないでください、見る目のない隊長ですね!」

「私たちだって隊長に負けないぞ!」


 俺を引き合いに出して3人が口々に感情を爆発させる。

 よくわからないが、3人とも俺に対抗心を抱いていたらしい。


 ヴェルナーもライナーも俺にやってやったぜと言いたげな顔を浮かべてる。シャルロッテは俺の予想を上回ったことがうれしかったらしい。


 ……クソやら見る目ないとか言われたが、不思議と嫌な気分にはならなかった。




次回、「かつての憧憬」

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