第十一話 研究成果
さて、続いて俺たちの研究成果をライナーに見せていくとしよう。
「次に見せるのは俺たちの装備だ。正直俺はこの国の軍の装備がいまいちよくわかっていなくてな。そこで正しい目を持っているらしいライナーに意見をもらいたくてな」
「構いませんが、まずはこの国の装備を調べてから開発するものでは?一から作ったのでは大して期待できませんね」
「そうかもな。では詳しそうなライナー君に今後ご教授願うとしよう」
言いながら取り出したのは銃だ。ただし大きく、ショットガンくらいで口径は10㎜ある。特殊な金属でできていて一発ずつしか装填できないような仕組みだ。
実は装備を作る前に、ちゃんとこの世界の武器については調べてある。
そこで気づいたのが、前の世界との銃火器の発展の仕方の違いだ。
前の世界では当然、銃や大砲は火薬を使う。でもこの世界では火薬はあまり使われない。
魔法陣や錬金術なんてものがあるから、爆発自体は起こすことができる。
ただ問題は、その魔法陣や錬金術では小型化ができないという点。
魔法陣を手に持てるサイズの銃に刻むのは難しいし、何度も爆発させれば傷ついて機能しなくなる。
パーツも多いから、一つ一つ錬金術で作るとなると、それこそコストがかかりすぎる。
そのくせ銃の性能は低い。単発だし、はっきり言って弾丸が目に見える速度だ。一応リロードがしやすいように工夫されているようだが、それだけじゃあ、わざわざ高いコストと手間をかけて銃を作る理由がない。
ただ、大型の大砲には魔法陣を刻むのは簡単だし、錬金術で作るのも簡単だ。威力も頑丈さも確保できるから、大砲に関しては強力だと思う。
こんな感じで、まさかの大砲よりも銃の方が普及していないということになっている。
まあ、歴史を調べてみたら、この世界で銃はできたばかりのようだ。ほんの十数年前だから、仕方ないのかもしれない。
もっとも俺はミリオタじゃないので、詳しい銃の構造も作り方も知らない。
工学系の学生だ。でもだからこそ作れる銃というものがある。
「随分と図体も口径も大きいですね。しかも重い、一発のみとは実用的ではないですね」
ライナーがごつい俺の銃を見て、酷評してきた。
ふっ、これの真価を見ても同じことが言えるかな?
「そうだな、見た目だけならそうだろうがちょっと外に出て撃ってみよう」
そう言って外に出て広い実験場の端のほうに的を立てる。そこからだいぶ離れた位置に立って銃を構える。
「ここからあの的まで着弾にどれくらいかかると思う?」
「まず当てるのも難しいのでは?仮に当たったとしても1秒はかかるでしょうね。ここからではあたったかもわかりません」
「では撃とう」
照準合わせ、銃にマナを集め、魔法を発動する。
引き金を引いたその瞬間――
銃口から、音もなく眩い閃光が迸り、瞬く間もなく一瞬で的を粉砕した。少し遅れて空気が破裂するような爆発音と的が爆散する地をどよもす轟音が鳴り響く。
銃口からは焦げたニオイと硝煙が漂う。
……ふっ、たまらないな。この瞬間は。
満足のいく光景を前にして、鼻歌を歌いそうになる気分を我慢して、銃を肩に担ぐ。
これだけ離れても当たれば粉砕するから驚きの威力と弾速だ。
「どうだ?これでもたいした期待はできないか?」
したり顔でライナーを見る。すると――
全員口をあんぐり開けていた。超笑える。
この武器を見るのは全員初めてだ。
これは俺が一人で研究していたものだ。
というか装備に関してはほとんど俺が作っている。なぜなら電気を使ったものが多く、俺にしかできない。
あとこの一か月は俺の錆びついた前の世界での知識の検証や実験に当てたからだ。人に教える余裕がなかった。
あまりの威力にフリーズしていた4人が、再起動して動き出した。
「おい!隊長ォ!そいつぁ、どうなってんだ!オレにも撃たせろよ!」
「ちょっと信じられないんだけど!あんたいつの間にそんなの作ってたのよ!」
「……ちょっとウィル、怖い」
目を血ばらせてキマッた感じのヴェルナーが肩を掴んで揺さぶってきた。
その隣でベルが文句を言ってくる。
ライナーはいまだにフリーズしてる。
パニックだ。
あとマリナに怖がられたのが地味に傷つく。
まあでも確かにこれはやりすぎだと思う。
今回作って見せたのはレールガンだ。地球では実現可能だが実用化はまだされていなかった。電力や設備、コストが高すぎるからだ。
だがこの世界には魔法がある。マナは大気中に満ちていてエネルギーは必要ないから、あとは銃の中にレールガンの機構を作ればいいだけだ。機構自体は単純でローレンツ力を利用したものだから、学校で誰しもが習うものだ。
とはいえ、実際どういった構造かあいまいにしか知らなかったので再現するのに苦労した。
これは危険すぎてこの世界には合わないので使うのは基本俺だけだ。というか魔法が前提なので他の人は使えない。ベルも使えるが重いし、他に攻撃方法があるから必要ないだろう。
「まあこういうのもある。魔法が使えないといけないから実質使えるのは俺だけだ。だが理解が進めば錬金術で再現できるかもしれない」
「正直理解ができません。一から作ってすでにこのレベルですか?あなた人間ですか?」
「上司に向かって大した口を利くもんだ。いいだろう、もっと見せてやろう」
「まだあるの!?」
ベルが驚いているがまだある。
ただ次のはとても地味だ。俺個人がこんなのがあれば有利に戦えるなと思っただけで、他の人はそうでもない。
再び室内に入って実験室のうち、俺のデスクに向かう。俺のデスクは少し広めですぐ横には実験用の机があって、いろいろな機材が置かれている。
そのどれもが以前、町で自腹切って大枚はたいて購入した金属や宝石で作られたものだ。失敗したものも当然あって、足りないものは予算で購入した。
おかげでまた足りなくなった。結果は出したから予算をくれ、中将様。
机の上にある機材のうち、音叉が大きく横に広がったようなU字形の装置の前にたつ。
机に屹立するように立っている二つの部分の先端には、横向きに向かい合うようにして小さな細長い筒状のものが付いている。
この二つの塔を繋ぐのは塔の土台にある小さな箱型の装置だ。
一見してよくわからないものだがロマンあるものだ。
「ウィル、なにこれ?またとんでもないものじゃないわよね?」
「これもあたらしいものだが地味だし、さっきのよりは使いにくい。研究途中だからあまり期待するなよ」
「なら安心ね。あんなものいくつもあったらたまったもんじゃないもの」
「そうかぁ?あれくらい派手なほうが最高に気持ちいいじゃねぇか」
「ヴェルナーは嗜好が野蛮すぎる。獣と同じだね」
確かにあんなレールガンレベルの物がいくつもあったらたまったもんじゃない。
騒ぐ奴らに離れてもらい、静かにさせる。
近くに置いてあった金属の廃材を手にもって、装置にマナを流して起動させる。例によってこの装置も俺の魔法ありきのものだ。
起動すると二つの塔の先端についている筒の間に、バチバチっとうるさい音が鳴り、さらに青白い輝く超高温のブレードが発生する。
「これは超高温の刃で触れたものは溶断される。こんな風にな」
手に持った金属をブレードに当てると金属が溶けて切断された。
うんうん、何度見てもいいものだ。
当てたのはごく短時間だったが、それでも融点の高い金属が一瞬にして切れるのは予想以上の成果だった。地味かもしれないがこれは凄いことだ。
これは原理としてはアーク切断とガス切断を融合させたオリジナルのプラズマ切断だ。
それぞれの溶断方法は一つ一つが高温で溶断できるのに、これは異常なまでに高温で、金属を一瞬で溶かす。
今もすぐに切ったが、それだけでもこの部屋がかなり暑くなった。
ちなみに目がやられるのでゴーグルをしてもらっている。
4人の様子を見るとまた口を開けて、面白い顔をして呆けている。間抜けどもめ、こっちの腹をちぎる気か。
「えーと、これは何に使うのかしら?」
「目下検討中」
「決まってねぇのかよ。こんなもん何でも切れるわ。つぅか部屋で使うのやめてくれねぇか?たまに来た時異様に暑かったんはこれのせいかよ」
「悪いな、俺の防具に使おうと思ってな。あとは金属加工するときに使えるぞ」
「これを防具に使うのですか?一体何を守ろうとしているのか理解に苦しみます」
「趣味みたいなもんだ」
そのほかにもいくつか技術を紹介した。最初は期待していなかったライナーもすべて聞いた後は楽しかったようでわかりにくいが興奮していた。
感心したのか、終わった後に俺のところにきて、慇懃に頭を下げに来た。
「アーサー少佐。先ほどは大変失礼をしました。何分以前の上司が無能だったもので、改善しようとして左遷されましたので懐疑的になっていたようです。いくら仮面をつけて怪しさ全開だったとはいえ、失礼なことを言ってしまいました」
「うん、たいして失礼に思ってねぇな」
「ばれましたか。怪しい仮面をしているのは事実ですから。ですが申し訳ないとは本当に思っていますよ。技官としてもあなたについていくのは大変有意義になると感じています」
ライナーが顔を上げて微笑んだ。その顔は最初のような疑うものではなく、晴れやかな顔をしていた。
ま、納得してくれたようで何よりだ。
「ならばよし。ヴェルナーのもとで励んでくれ」
「はっ!ただアーサー少佐、その前に電気とやらについて教えていただきたいのですが」
ほう、早速か。
電気の便利さに気づくとは見る目があるな、よし存分に教えてやろう。
……なんて考えた自分が恥ずかしい。ライナー、もとい技官たちをなめていた。
彼らは知りたいことがあると周りが見えなくなるようで、何時間も実験や説明を求めてくる。
夕方には装備や技術の説明を終えたのに、ライナーに付き合ったら深夜を回った。今なお休ませてくれそうにない。
「つまり、このモーターというものを利用すれば、さらに強力なエンジンが作れるのではないですか?」
「ああ、大出力化できればな……なあ、もう休もう。こんな時間だし明日もあるんだ」
「いえ、こういうのはやれるときにやらねばなりません。今まとめて学んでおけば残りの日数は復習を兼ねた研究に充てることができます」
「ならあとはもうヴェルナーに聞いてくれ。俺は寝る」
「それは困ります。ヴェルナーは今外でエンジンを爆発させていますので」
「ヴェルナァー!」
机をたたき、立ち上がって外に出る。
実験室は防音になっているから聞こえなかった。
ライナーのいう通り、一歩外に出れば爆発音が聞こえてくる。振動もなかなかでいったいどれだけエンジンを爆発させているのか。
表に出ると地面がボコボコになった実験場にヴェルナーとベルが一緒にいた。
「ヴェルナー!!何してんだてめぇ!」
「フッハッハー!そらいけエンジン!ぶっとべぇエンジン!」
「ぶっ飛ばすなぁ!」
「わっはっはっは!あたしも負けないわ!ジャンジャン行くわよ!」
「ベルこらやめろ!一緒になって爆発させるな!」
ヴェルナーは昼間の興奮が抑えられなくて、今までずっとエンジンをいじっては爆発させてたようだ。
こいつがなんでエンジン爆発させるのかというと、なんでも推進力を得るには爆発だと思ったかららしい。もっとも本人が破壊が大好きという理由が一番大きいが。
ベルは何度も爆発させるヴェルナーを見て羨ましくなったのか、魔法を使ってどんどん爆発させている。しかもだんだんその威力が上がっている。
この爆発魔どもめ!
止めようとしても耳がやられているのか全然聞かないので、電気を少し強めにやって動けなくしてやった。
一転して静かになった実験場で、まるでのたくるミミズのようにのたうち回る2人の問題児。
「ちょ、ちょっとゥィル、らにすんのよ」
「いいと、こだったのによぉ」
「馬鹿かお前ら!今何時だと思ってる!こんな遅くにバンバン爆発させてんじゃねぇ!うるせぇだろうが!ご近所さんに通報されたらどうすんだ!?」
動けない2人を引きずって屋内に入ると様子を見ていたライナーがいた。
「少佐、さきほどの電撃は効率を考えるともう少し……」
「どいつもこいつもうるせぇ!今日は全員もう寝ろ!マリナが起きちゃうだろうが!」
「ウィルうるさい……もうすでに起きてる」
初日から思いやられるな。この隊は本当に大丈夫だろうか。
そういえばだれか忘れている気がするな。気のせいか。
次回、「順調に」