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夢見る未来に福音を  作者: 相馬
第三章《移り変わり固まる決意》
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第六話 飛行船


「さて、今日諸君に学んでもらうのはこの南部の状況だ」


 アインハード中将の屋敷、その中の教室のような部屋で、俺たち三人を前にして中将が言った。

 というかこの人が講師をするのか?忙しいんじゃないのか?


「この国は四方に分かれている。北には悪魔どもの根城となってしまった獣人の国アニクアディティがあり、悪魔どもの侵攻を抑えるために、北の領は軍事施設が多い。その分、軍事力は四領の中で最強だ」


 アニクアディティはかつて獣人という種族が興した国だが、悪魔どもにより滅ぼされて、現在は悪魔どもの根城となっている。そのアニクアディティに接するアクセルベルクの北の領地はまさしく防波堤だ。


「そして他の領。西にはドワーフの鉱山都市が多く存在するレオエイダン王国が存在する。そのため西領はドワーフの技術が入ってくるため、工業都市として栄えている。もっとも盛んなのは錬金術だ」


 錬金術について調べたが、どうやら道具を使って魔法を再現するような技術のことだ。魔法陣と似ているが、それより複雑で自由度が高い。

 物質はマナを宿すことができる。物質に宿ったマナはその物質固有の効果を発揮する。その固有の効果をうまく利用することで、様々な効果のアイテムや道具を作り出すことができるとのこと。

 この辺りは実際の錬金術を見てみないと真に理解はできないだろう。


「東には、エルフの国、豊かな自然を持つユベールがある。このユベールには名産品が多く、この国では取れないものが数多くある。何よりもユベールには大陸最大の巨大図書館がある。その写本が出回ることがあるために、東の領は文化と学術の都市として栄えている」


 エルフの国にある巨大図書館。寿命の長いエルフだからこそ、たくさんの知恵や知識をため、本として残すことで大量の情報をもっている。なかには何千年も前の本がいまだに存在しているらしい。ここにはぜひ行ってみたい。


「そして最後に我が領、南部だ。この南部は諸君らの来たグラノリュース天上国と接している。だがかの国から侵攻が来たこともましてや来客が来たこともない。諸君らを除いてな」


 グラノリュースは不気味な国らしく、南部はそれに備えているが何も起きない。ほかの領のように他国との交易で栄えるということもない。

 そのため、南部は開発が遅れているらしい。


「かつてはかの国に攻め入ったこともあった。山を越えるために気球を大量に投入してな。物資も兵も大型の気球で大量に運んだ。誰もが勝てると思っていたよ」

「勝てなかったのか」

「そうだ。ではなぜ勝てなかったのかわかるかね、ウィルベル少尉」

「え?えと、飛竜?」

「半分正解といったところか。もっとも飛竜自体は想定できていたから、襲われはしたがそれが失敗の原因ではない」


 ウィルベルとマリナは俺と同じ特務隊という形で軍に入隊した。特務、つまりグラノリュース攻略のために独自の任務にあたる部隊。

 元の目的と一致しているからいい落としどころだ。


「では答えは?ウィリアム少佐」

「天上人だ」

「そう、その通りだ。天上人はグラノリュースで図抜けた実力を持つもの達だ。不思議な術を使う上、素の戦闘能力も頭一つ抜けている。普通の人間では勝てない。実際、ほぼすべての気球が空を飛ぶ天上人に落とされた。たったの数人だ」

「そ、そんなに……」

「その天上人って魔法使いだったのかしら」


 ベルが小さくつぶやく。可能性は高い、というかほぼ確実にそうだ。

 魔法が使えるか否かはマナを知覚できるかどうかだ。


 これは俺の仮説だが、この世界でマナに親しみすぎたものはマナを知覚できなくなる。同じ匂いを嗅いでいると何も匂わなくなるのと同じだ。

 だから元の世界の記憶がなかった俺は魔法が使えなかったし、記憶を取り戻してから魔法が使えるようになったんだ。


 天上人は全員、別の世界の人間だ。マナに慣れていないし、すぐに違和感を覚えるだろう。

 俺がベルに魔法を教わったように、彼らにも先達がいる。魔法を使うことは簡単だ。


「気球で空から攻めるという方法は失敗した。では陸上は?これは諸君らが一番知っていると思うが、あの地は魔物や悪魔が多い上、険しい山脈が行く手を阻む。行軍するだけで被害が出る。つまり打つ手なしというわけだ。ここ百年ほどは完全に膠着状態だ」

「海を渡るというのは?」

「思案しなかったわけではない。ただやはり問題は天上人だ。海も空も乗るものが潰れれば、中の物も人もすべて駄目になる。そうなると数が少なくとも、機動力がある天上人には不利だ。それに我が国の船では不安が大きかった」


 陸海空すべて駄目と。あの国にいたときは気づかなかったが天上人は本当に厄介だ。さてどう攻めるか。


「そこで私は考えた。もはやぶっ飛んだ乗り物を作るしかないとな!」

「ぶっ飛んだ乗り物?」

「それは飛行船だ!」

「「「飛行船?」」」


 一際大きな声とハイテンションでディアークが叫ぶ。うるせぇ。


 聞けば飛行船とは気球よりも大型かつ頑丈で速く移動できるらしい。

 ただ実用化はされておらず、いまだ机上の空論だ。


「この飛行船を実用化しようとしているのだが、この領の文官たちが予算の面で首を縦に振らん。研究をしている錬金術師に実績がないとしてな」


 飛行船か、興味があるな。

 グラノリュースに攻めるために必要ってこともあるけど、これでも工学系の学生だった。モノづくりには興味がある。


「その錬金術師には会わせてもらえないか?」


 何の気もない言葉。

 だがそれをディアークはあごに手を当てて、ちょっと予想外のことを言いだした。


「ふむ、特務隊の任務としては妥当であろうな。うむ!そうだ。これを諸君らの初任務としよう」

「しまった」

「ちょっと、ウィルのせいで任務ができちゃったじゃない」

「悪かったよ」


 任務が来ると自由時間が減るとベルが文句を言ってきた。俺としても錬金術に興味があったからいったんだ。任務としていく気はなかった。


 なんというか、やりたいことをやれと言われると嫌になるのと一緒だ。

 子供っぽすぎるって?うるせぇ。


 意気揚々とするディアークは飛行船が大好きなようで、嬉々として任務を伝えてくる。


「諸君らの記念すべき初任務。それはグラノリュース侵攻のための乗り物を完成させることだ!なに、結果を報告してくれれば、文官どもを説得して予算を引き出してやろう!」


 ひょんなことで、特務隊の初任務が決まってしまった。これからはまた忙しくなりそうだ。




次回、「新たな爆発魔」

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