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夢見る未来に福音を  作者: 相馬
第三章《移り変わり固まる決意》
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第三話 将軍会議


 馬車に乗って王都に着いたのは出立して三日後のことだった。

 着いた時には夜だったので、王都にある軍の施設に泊めてもらう。

 案内された部屋は客室としてもつかわれる兵舎の一室で、2人部屋が二つ並んでおり、ロビーを通してつながっている部屋だった。

 男女一緒だからこういう部屋になったのだろう。

 前にいた部屋も似たようなものだった。


「前と似てるわね。ならマリナとまた一緒の部屋ね」

「たまには……ウィリアムと寝たい」

「ウィルベルで我慢しろ」

「……はい」


 マリナが少し落ち込んだ様子を見せる。

 さすがに一緒に寝るのは勘弁してほしい。変な誤解をされそうだ。

 誰も誤解はしないだろうが、俺が気にする。彼女は栄養失調だったこともあってかなり体が幼く見える。最近は食事をちゃんととっているから改善されると思うが、今俺と一緒に寝るとぱっと見犯罪者だ。


 あと俺の体は前の世界と比べて異常すぎるほど強いから、寝返り一つでぽっきり首の骨を折ってしまいそうだ。


「王都へ行くのは明日の昼過ぎだ。寝坊するなよ」

「そん時は起こしてね」

「女子部屋に入りたくない」

「今更何言ってんのよ、さんざん野宿したじゃない」

「少なくとも俺は入ってこられたくないな」

「わーったわよ。それより明日行く服装はいいの?あたしたちの服ってだいぶ汚れちゃったじゃない?」

「確かにそうだな。なら明日は時間まで買い物に行くか」


 服装選びに午前中は行くことになった。

 お金はグラノリュースで稼いだ金がまだ結構ある。通貨は一緒であることは確認しているが、問題は物価だ。

 今後ハンターとして活動することがあるなら、装備も買わなければならないから無駄遣いはできない。

金の問題も追加だ。明日の招聘にあたって金はもらえないだろうか……。





 翌日、今は王都へ買い物に来ている。近くの人に店を聞き、服屋に来たが文化が違うからか変わったものが多く感じる。

 ただそれは俺だけのようで、ウィルベルもマリナも楽しそうに選んでいる。


「あ、これなんか色合いがかわいいんじゃない?」

「森じゃ目立ちそう……サルに囲まれる」

「これで森に入ったりなんかしないわよ。じゃあこれは?」

「ちょっと動きづらそう……クマに襲われたらにげられない」

「そんなの何着たって逃げられないよ。じゃあこっちは?」

「キラキラしてる……飛竜に襲われそう」

「そんな感想聞いてないよ!」


 飛竜はカラスかっ。

 2人の漫才を聞いて少し笑ってしまった。マリナはずっと魔境で魔物を見てきたし、ここ数日も魔物や動物について教えたからその影響かもしれない。

 マリナはウィルベルに任せて俺は自分の服を選ぶ。とにかくそれなりの礼装であればいいが、どういうものがいいのかわからないので、店員に聞く。


「なあ、礼装となるとどんなのがいいんだ?」

「!?れ、礼装ですか。どういった場に出られるのですか」

「ああ~王城で謁見?」

「王城!?で、ではこちらです……」


 仮面に驚いた店員に案内されてきたのはかなりきらびやかな服装で、詰襟にフードが付いている。

 詰襟にフード?と地球での感性で行くと少し違和感があるがここは軍事国家だ。実用性も兼ねているのかもしれない。

 デザインは黒を基調としており、軍服に近いが勲章がない分地味に見える。ただところどころに金のラインがあるのでかっこよくはある。


「こちらは軍人が着るようなタイプの礼装です。ほかには商人、文官といったものもございますがどちらにしますか?」

「ハンター用とかはないのか?」

「ハンター用ですか?すみません、ハンターが礼装をする機会が少なく、ハンター用の礼装は取り扱っておりません……あの失礼ですがどういった用件で王城に向かわれるのですか?」

「呼ばれたから。理由は知らないんだ」


 さすがに仮面をつけたハンターが王城に行くとなると気になるんだろう。

 聞いてきたが誰彼構わず話すのもよくないと考えたので適当にあしらう。相手も察したようでそれ以上は聞いてこなかった。

 試着してみると、サイズはぴったりで動きやすく、袖はまくれるようになっている。ポケットも見えないようについているし、いろいろと多機能で便利な服だ。


 いい値段がしたが、他にいいものはなかったし、ウィルベルたちも決まったので購入した。

 時間に間に合うように着替えて王城へ向かう。入口に立っている立派な兵士に招聘状を見せると、担当のものが来て待合室に案内される。


「最近は待たされてばっかりね」

「そうだな、仕方ないかもしれないが早くしてほしいな」

「ウィリアム……この服どう?」


 待っていると、新しい服に袖を通したマリナが体を広げて見せてくる。


「ああ、似合ってるよ。見違えるな」

「ありがとう」

「あたしには?何か言うことない?」

「馬子にも衣裳」

「あにー!?」


 2人が来ている服も俺のものと似ているが、違うのは青のラインが紫色になっている。ウィルベルが普段来ている服も紫色が縦にところどころに入っていたから、彼女はあまり違和感がない。スカートじゃないくらいだ。

 マリナのほうは前はウィルベルのお下がりを着ていたが、サイズがあっていなかった。今の服は合っているから随分と違って見える。


 しばらく待った後、部屋に宮仕えが来て、案内される。

 通されたのは少し広い半円の机がある部屋。半円の机にはすでに10人ほどの人が座っており、反対側に机と椅子が3人分用意されていた。

 なんだ、詰問される場だったのか?


「よく来てくれた。ウィリアム殿、ウィルベル殿にマリナ殿。座ってくれ」


 湾曲した机の中心に座った男が言った。

 その男は白髪ですこし寂しい頭をしているが、きれいに後ろに流しているため、みすぼらしくはない。


 だが俺は部屋にいる男たちを注視した瞬間、背中に戦慄が走った。

 


 ――この目の前にいる男たちは、聖人だ。



 俺のような聖人直前ではなく、立派な聖人。

 そんなかなり強いと思われる聖人の男が4人、文官や神官のような恰好をしたものが5人。

 俺たちが席に着くと、真ん中の薄ら禿が話し出した。


「私はこの国の宰相、ベアディ・カスパブラッツだ。早速だがいくつか聞かせてもらいたい」


 宰相か、大物だ。そんな宰相も聖人だ。

 といっても周囲にいる明らかに軍人とわかる聖人たちに比べるとあまり強そうには見えないが。


 自己紹介をして、すぐに質問に入る。


 そのほとんどがロイヒトゥルムで聞かれたことの確認だったから、淡々と答える。

 そのほか、グラノリュースがアクセルベルクを始めとした国々をどう思っているか、軍事や技術はどうなっているかを聞かれた。どうやらグラノリュースについて深く知りたかったらしい。とはいえ俺とてすべてを知っているわけではない。


 知っていることはすべて話したところで宰相は最後に言った。


「なるほど、ありがとう。これで長年謎だったグラノリュース国について詳しく知ることができた。それもつい最近のもの。これはこの国にはとても大きな利益となるであろう」


 宰相の次に喋ったのが軍人と思われる男たちが話し出した。


「では次は私だ。天上人といったな。何人いる?」

「天上人は最大で10人。俺がいたころは8人だったが1人死亡、他二人脱走。通常であれば今年一人召喚される予定だったが失敗、原因不明だ。増員がなければ現在5名」

「その5名の実力は?」

「一人は知っているが他4名は知らん。実力は……まあ、一般の兵では相手にならないだろうな」

「二人脱走といったな。その2人はどうしている」

「1人は今も国に抵抗している町の一つに協力しているよ」

「もう1人は?」


 はて、どうしようか。

 脱走したもう一人の天上人はどこか。それはもちろん俺だ。

 それをロイヒトゥルムで言わなかったのは、この国にとって天上人がどういった存在か知らなかったから。


 でもなんとなくわかってきた。この国は天上人を良く知らない。

 そういった存在がいるのは理解しているが、それが具体的にどういったものか、理解してない。

 なら別にいいか。


「もう1人は俺だ。俺が最後の天上人だ」

「なに!?」


 声を荒げ、過度に反応したのは質問してきた軍人ではなく、大柄で黒い髪を短く切りそろえた男だった。浅黒く焼けて鍛えられた体をしている。ところどころに青が入った軍服をまとっているから、南部の人間か。


 ……よく見ると、この男だけは他の軍人とは違って、俺と同じで聖人になりかけだ。体から発される神気が僅かに弱い。


 男は一瞬取り乱すも、すぐに咳ばらいして落ち着く。


「ウィリアム卿、貴殿に提案がある」

「なんだ」

「軍に入隊する気はあるか?」

「なんだと?」


 先ほどの聖人になりかけの浅黒い肌の男の提案が、俺は理解できなかった。。


「貴殿は見たところ聖人に近い存在だ。しかもグラノリュースにて、軍事訓練を受けている。その力と知識をこの国のために役立てる気はないか?」

「待て、誘っているのは俺だけか?他2人はどうなる」

「実力が明らかで軍に適しているのは貴殿だけだ。ウィルベル卿は精霊使いとのことだが我らは精霊使いの戦い方を知らん。故に軍に入隊させても活かせる保証ができない」

「断る」


 軍人の誘った理由とウィルベルたちの処遇をきいて断る。そもそも軍人になって身動きが取れない立場になれば、目的を果たせない。


「理由を聞いても?」

「俺の目的を果たせない」

「目的はこの世界を知るためだったかな?軍人になってもこの世界の技術や世界を知ることはできる。むしろ軍人のほうが重要な技術や情報を知れるといってもいい」

「それでも断る。そもそもそれはこの国に来た目的で、俺の言っている目的は別だ」

「その目的とは?」

「……グラノリュースを潰す」


 ……俺の本当の目的は元の世界に帰ること。

 だがそれを言っても理解できないだろう。


 俺が発した言葉に部屋内はざわつく。

 ウィルベルとマリナでさえもぎょっとした顔でこちらを見る。軍人たちも訝しんでくるが、質問してきた南部の将軍は笑っていった。


「なおさらではないか。我が南部軍なら相手はグラノリュースだ。君の目的と一致するではないか」


 やはり南部の人間か。それも大層な立場の人間。

 俺が欲しいのかもしれないが、身動きが取れなくなるのは御免被る。


「俺がグラノリュースを潰すのは大義じゃなく私怨だ。それに俺は人の手を借りる気はない」

「私怨とはなんだ。個人が国を潰そうとするなど常軌を逸している。たった一人で国を落とすなどできるわけがない」


 無理か、そうかもしれない。だがどうせこの世界で延々生きるくらいなら、あいつらにケンカを売って死ぬほうがマシだ。


「俺はあの国が嫌いだ。俺から故郷を、家族を、人生を、すべてを奪ったんだ。だから俺は奪われたものを取り返して、故郷に帰る。そのためにあの国にある宝玉が必要だ。軍に入れば接収される」

「……」

「この二人は、俺が強くなるために必要だ。だが俺の戦いに巻き込む気も仲良くなる気もない。これは俺が1人でやることだ。顔を隠しているのはそれが理由だ」


 部屋が沈黙に包まれる。


 ウィルベルもマリナも俯いている。

 2人に俺の目的を話したのはこれが初めてだ。ショックを受けたかもしれないし、別れたいというかもしれない。


 それも仕方ない。少し早いがいつか必ず別れは訪れる。


「そうか……ウィルベル殿、マリナ殿は知っていたのか?」

「いいえ、知りませんでした」

「知らなかった……です」


 ウィルベルは俺が記憶の魔法を使えることに違和感を覚えていたようだし、これで納得するだろう。マリナは今の話をどれだけ理解できてるだろうか。


 3人の旅もここで終わりかもしれないな。こんな危ない思想の男と一緒にいようなんて思わないだろう。


「事情は理解した。そのうえで言おう。軍に入隊する気はないか」

「話聞いてたのか?」


 それでも勧誘してくる男に、俺は戸惑いを隠せなかった。


「無論聞いていたとも。そのうえで言っている。我が南軍は君を特務隊として歓迎する。内容はグラノリュース国への侵攻とその準備だ。それに関することならどんな行動も容認しよう」

「それは他国へ行くことも軍とは関係ないことをしていてもか?」

「最終的にグラノリュース国への侵攻に帰結するなら問題ない。貴殿はかならずあの国を攻めるのだろう?」

「ああ」

「ならば問題あるまい。もし君に役立ちそうな情報があれば知らせるし、必要なものも可能な限り手配しよう」


 つまり名前だけでも軍に籍を置けということだ。必要な情報や技術も融通すると。

 条件が良すぎて怪しいくらいだ。軍は当然国家が運営している。それが個人に対してこんな対応をするものか。


「なぜそこまでする」

「貴殿はその年ですでにほぼ聖人だ。ここにいる我らとて聖人になるまでには計り知れぬ鍛錬と実戦を経験してきた。それを経てなお聖人になるものは少ない。グラノリュースに精通しているとなればなおさらだ。また聞けばロイヒトゥルムのバーレッド大佐を一歩も動かずに無力化したそうではないか」

「アインハード中将、それは誠か」

「誠だとも、なあウィリアム卿」

「確かに一歩も動いていないが」

「というわけだ。よろしいかな」

「待ちたまえ、中将。それほどの人材ならば北方にこそ必要だ」

「いや世界を学ぶなら西方のほうがよいではないか」

「ユベールには巨大図書館がある。東方のほうが彼のためになる」


 なぜか軍人たちが取り合いを始めてしまった。まだ入隊するなど一言も言っていない。

 この軍人たちは恐らく、東西南北に分かれる領地の最高責任者たちだ。

 だから自分のところに呼ぼうとしているのか。


「落ち着き給え、将軍。彼らが困っている」


 取り合いを始めた将軍たちを宰相が諫める。

 将軍たちが落ち着いたのを見計らって仕切り直す。


「ウィリアム卿、どうかね?軍に入隊する気はあるかね?」


 悩むな……。

 たしかに束縛されないのであれば、軍として支援を受けられる軍人の立場は魅力的だ。もっとも、全面的に信用したわけじゃない。

 ……条件を付けて、入隊してみるか。


「……わかった、入隊する。ただし最初の一か月は仮ということでお願いしたい」

「許可しよう」


 了承すると、男は豪快な笑顔を浮かべた。

 その後は入隊にあたっての注意事項や書類を渡された。

 ほかにも文官や技官からも質問をいくつかされ、会議は終了した。


 そのころには結構な時間が経っていた。辺りは暗く、道には明りが灯されている。

 この道の明かりだが火でも電気でもなく錬金術で作られたものらしい。光の呪文や魔法陣にも似たようなものがあるし、それに近いものだろう。

 中世並みの文明レベルの割には、過ごしやすい町だな。


 城からの帰り道、ウィルベルとマリナはほとんどしゃべらなかった。

 夕食をどうしようかと思っていたが言いづらい。


「夕食、どうする?」

「……作って」

「つくってほしい」


 聞いてみたら部屋でとりたいそうだ。

 というか作るのは俺か。食材はウィルベルが帽子に入れている飛竜の肉があるからそれでいいだろう。あの肉は相当量があるのでまだまだある。魔法で冷凍もできるから品質も問題ない。

 部屋に戻り、夕食をとるときも二人は無言だった。


「明日は南部に戻る……一緒に行くなら準備しておけよ」

「「……」」


 この後も寝るまで俺との間に会話はなかった。



次回、「少女の決意」

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