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夢見る未来に福音を  作者: 相馬
第三章《移り変わり固まる決意》
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第一話 入国審査


 現在いる位置は、大陸中央に位置する国家アクセルベルクの南端のロイヒトゥルムという基地。

 そこで今、俺は取調室のような場所に一人で座っている。向かい側には3人の同じ服装をした人間。

 察するに軍人が、座って調書を手に質問をする。

 質問は名前、国に来た理由を聞かれた。他2人にはすでに聞き終わったようだ。


「ではグラノリュースでの立場は?」

「ただのハンターだ。追われていたが」

「ただのハンターが追われる?一体何をした」

「国にケンカを売っただけだ」


 立場を聞かれ、さっきの爺よりは話せると信じて身の上を明かした。

 この国がグラノリュースを敵国扱いしているなら、追われている俺を保護して情報を聞こうとするはずだ。

 危険だから魔法を使えるとは言えないし、天上人もこの国にとってどういう存在か知られていないから、まだ言わないほうがいいかもしれない。

 代わりにあの国の元軍人だ、というと軍人たちは口調も目の色も変わった。


「なんだと!?」

「そのグラノリュースの軍人がなぜここにいる!?」

「落ち着けよ、話してやるからさ」


 随分とこの国はグラノリュースを敵対視しているらしい。

 冷静そうな軍人たちが騒ぐほどだ。

 落ち着いたのを見計らって、軍人であったことと追われる身になった理由を話した。


「なるほど、あの国の内情はそうなっているのか」

「なれば今こそ攻める好機では?」

「どう攻めるというのだ、あそこまでの道は険しく、魔獣も悪魔もいる。たどり着くだけで被害が出る」


 すると取り調べそっちのけで話し始めた。

 今の会話からもアクセルベルクはグラノリュースを疎ましく思っているようだ。百年以上は互いに干渉していないらしいが、国同士の関係だ。積年の恨みでもあるんだろう。


「それで?次の質問は?」

「!そうだな、どうやってこの国まで来た」

「3人いるうち、一人は戦えないが二人は戦える。一人が守って、もう一人が攻める形で魔物と戦った。移動は徒歩だ」

「にわかには信じがたい」

「知らん。事実だ」


 そっちが信じようが信じまいが事実だというと、ひとまず取り調べは終了した。その後は二人と合流してある一室で待たされた。

 ずっと待たされているからか、ウィルベルが不機嫌だった。


「いつまで待たせる気かしら。あたしたちだって暇じゃないのよ」

「大概こういう公的機関は待たせるもんだ。それより変なこと喋らなかっただろうな」

「魔法以外のことなら全部喋ったわ」

「ならいい」


 ウィルベルも言わないほうがいいことはわきまえている。出会ったときはすぐに魔法使いとばらしていたが、今回はちゃんと守ったらしい。

 ところが――


「あ、ごめんなさい……魔法のこと、言っちゃった」

「あ」

「え」


 マリナが申し訳なさそうに言った。

 そういえば、マリナには魔法のことを口止めすることを忘れていた。これは責められないな。

 さきほどの取り調べで信じていないながらもあっさり引いたのは、魔法のことを知っていたからか。ただそれもまだ信じ切れていないのか。


「ごめん、なさい……秘密だと、しらなくて」

「いやマリナには秘密だなんて言ってなかったし、マリナのせいじゃないわ。悪いのはこいつよ!」

「俺だけのせいにするなよ!お前だって言ってなかったろうが!」


 醜く二人で言い争っていると、部屋がノックされた。部屋の中が静かになって、代表して俺が返事をする。


「どうぞ」


 中に入ってきたのは、最初に会ったアダルヘルム少佐と馬車にいた老軍人だった。


「先ほどぶりだ。アダルヘルム少佐だ」

「バーレッド・クローヴィス大佐じゃ。この基地を任されている」

「ご挨拶どうも。それでご用件は?」

「随分な物言いだな。グラノリュースの軍人は礼儀を知らんと見える」

「あいにくと追われた身だ。礼儀なんぞ捨ててきた」

「まあよい。来たのは貴殿らの実力が知りたいためだ。軍人、精霊使いといるのはわかったが、それだけで荷物を抱えたままあの山を越えられるとは思えぬ。故にこれから行く場で実力を見せてもらいたい」


 精霊使い?

 気になってウィルベルを見ると、彼女も知らないのか、小さく首を横に振って否定してくる。

 するとマリナがウィルベルに小さな声で話した。


(ちゃんと魔法とはいってない……不思議な、火とか風を起こしたって言った)

(あ~、なーるほど。つまり魔法じゃなくて精霊使いって思われたってことね)


 なるほど、魔法なんてこの人たちにもなじみがないから、魔法にほど近い精霊術だと思ったのか。

 それはそれは好都合だ。ま、とにかくだ。

 手合わせしろってことか。めんどくさいな。


「断れば?」

「入国は認めぬ」

「随分と狭量な国だ」

「我が国は軍事国家。弱みを見せれば悪魔どもに付け込まれる故、入国者は厳しく調べる必要がある」


 しぶしぶと言った具合で二人に従い、部屋を出て、いくつもある訓練場の一つに向かう。その訓練場はスタジアムのように円形で周囲には少し高く見学席が設けられている。

 グラノリュースの城での訓練場と似ているな。この国の訓練場のほうが立派に見えるのは建てられたのが後だからか。


「ここで戦える2人は私とクローヴィス大佐と戦ってもらう。命を奪わなければ精霊の力を借りてもなんでも使って結構だ。使う道具は訓練用の刃引きしたものを使ってもらう。何か質問は?」


 訓練場に入ったところで、アダルヘルムが言った。その横には幾種類の武具が置かれていた。

 ウィルベルが小さく手を挙げる。


「あたし使ってた箒が壊れたから思うように戦えないんですけど」

「箒?ただの箒なら準備できるが」

「違うわ、いろいろまほ……じゃなかった、精霊を使役するために使いやすいようにしてある特注なの」

「それがなければ精霊は手を貸してくれないのか?」

「使えるけど、そうなると手加減できないのよ。下手したら負けちゃうか、もしくは怪我させちゃうもの」

「多少のけがは問題ない。実力を見るだけだ」

「そ。ならいいわ」


 ウィルベルは箒があれば空を飛べるが、なければ地上から戦うしかない。

 彼女は素質は十分にあるだろうけど、経験豊富とまでいかないから、うまく手加減できないのかもしれない。

 俺は近くに運ばれた模擬戦用の刃引きされた武器を手に取る。手に取るのはいつもの槍と剣、盾に短剣二本だ。

 防具はセビリアで調達した革製しかないが死にゃあしないだろう。


「それでよいのか」

「ああ、軽すぎるがいいだろ。すぐ始めるのか」

「先にあちらからだ」


 俺の相手のバーレッド・クローヴィスがウィルベルたちを見る。つられてそちらを見ると2人は準備を始めていた。

 ウィルベルはいつも通り素手だが、相手のアダルヘルムが手に持っているのはこの世界では珍しいものだった。


「銃?」

「安心せい、ゴム弾だから死にはせん」


 アダルヘルムは手に少し大きな拳銃を持っていた。といってもかなりレトロ。木製だし、金属が使われてる部分が少なくて、1発ずつしか撃てないようなものだ。腰には剣を差し、もう片方の手には盾を持っていた。

 銃はグラノリュースでも見たことがあるが、ここでも見るとは思わなかった。

 2人の間には距離がある。開始の合図はバーレッドが行う。


「開始」

「行くわよ!」


 開幕いきなりウィルベルが周囲を爆発させる。

 彼女が得意なのは風と火、その複合の爆炎魔法だ。

 開始する前にマナを集めて準備していたんだろう。複合魔法は難しいから、彼女はやはり若さの割にはできる。

 爆炎で辺りには煙が立ち込めるが、ウィルベルはすぐに風を発生させ、煙を散らすとアダルヘルムはすでに後方に吹っ飛ばされていた。

 とっさに盾で受けたが爆風で飛ばされたらしい。即座に立ち上がろうとしているところに、ウィルベルが近くに火の玉をぶつける。


「まだやる?」

「っ!……いや、実力はわかった」


 そういって至極あっさりと、ウィルベルの戦いは終わった。

 圧倒的すぎるな。実力主義と聞いていたが、こんなものか?アクセルベルクは。


 終わったウィルベルとアダルヘルムはこちらに戻ってきた。アダルヘルムも怪我はないようだ。かなり鍛えられているようであの爆風に対しても少し転がされただけだ。

 戦いを終えたウィルベルが俺達のもとにやってくる。


「随分派手だな」

「森の中じゃ風しか使えなかったのよ。思いっきり使いたいじゃない。あ、ちゃんと手加減はしたわよ」


 彼女はどうやら派手好きらしい。

 爆発が好きなタイプらしく、森の中での戦いはストレスだったようだ。


 さて、次は俺の番だ。

 またハンターに登録したときのように武器を壊したりしないように気を付けよう。とはいえ相手はそれなりに強いようだ。正攻法で戦うと面倒かもしれない。

 まあ、ここへは強くなりに来たんだし、魔物相手でずっと大雑把な戦い方しかしてこなかった。

 たぶん、俺も精霊を使役していると思われてるから、魔法を使っても大丈夫かな。

 人相手にどこまで通じるか試してみたいし。


「次はわしらの番じゃの。準備はよいか」


 俺たちの番ということで、バーレッドが向かい合い、重そうな両手剣を構える。

 老骨の割に随分と元気だな。

 対して、俺の方は槍を構えることなく軽く持っているだけ。


「十分だ。そっちも心臓の準備はいいか」

「心臓?」

「開始!」


 アダルヘルムが開始の合図をする。話してはいたが合図があるとバーレッドは手に持っていた両手剣をもって、老体とは信じられない速度で突っ込んでくる。

 ただ距離は先ほどと同様に空いているから、数瞬の猶予はある。

 問題なく魔法を使った。


「あががっ!?」


 バーレッドの身体に電気が走り、叫びながら痙攣して倒れた。

 見ていた軍人たちがざわついた。俺が何をしたのかわからない上に、相手は恐らく歴戦の兵だ。それが瞬殺されたのが信じられないのかもしれない。

 兵が駆け寄り、息があることを確認すると、俺を睨みつける。


「何をした!?」

「ちょっと痺れさせただけだ」

「痺れ?」


 バーレッドはしばらく動けないだろうな。数分はこのままだろう。

 人に対してどれくらいの強さでやればいいのか不安だったが、そこは自分の身体で試した。飛竜に襲われた次の日、一日休みだった時に試したのだ。


 おかげでウィルベルとマリナからは変な目で見られた。


 とはいえこれで実力は見せた。

 その後、ごたごたしながらもまた元の部屋に戻されて長い時間待たされる。


 結局数日間、俺たちはロイヒトゥルム基地に拘束されることになった。




次回、「アクセルベルク」

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