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夢見る未来に福音を  作者: 相馬
第二章《廻り廻る出会い》
43/323

幕間4:少女が生まれた日


 ――あの日のことを、鮮明に覚えている。


 毎日のように繰り返される暴力と苦痛の音。

 顔を出して他の人を見れば、近寄られ、怒鳴られて、必死になって見つけた食べ物や服が取られていく。


 だから、必死になって服でも何でもない、ただのざらつき汚れた布一枚を纏って顔を隠してうずくまる。


 ――さむい。さむいよ。

 ぼろぼろになってたくさんの傷跡とよごれにまみれた足は、冷えて土気色になっている。もう痛みも感じない。

 ひもじさもいつの間にか感じなくなっていた。

 ただ漠然とした死が迫ってきている、それを長いこと感じてる。

 どれくらいかはもう覚えてない。


 気づけばこんなところにいた。

 知っている人はいない。おぼろげに覚えているのは黒髪の優しそうな人が何かから逃がしてくれたことだけ。

 その人も、もういない。そして一人になったわたしは、ずっとずっと一人で、こうして生きていた。


「あ、あ……」


 それでも何か食べたい。なんでもいい。

 その辺に生えている緑色の草も、黒い動くなにかも全部ない。今はとても冷える時期。

 あたりを歩いている人は寒さなんて平気なのか、平然と歩いてる。

 でもその顔はとても暗い。

 わたしもきっとそんな顔をしているに違いない。

 ついこの間、たくさんの同じ服を纏った人たちがまた来て、大勢の人を襲っていった。おかげでこのあたりはすごく臭いし、食べ物がない。


 何もない。


 食べ物を探しに行くこともできなくて、せめて休もうと路地裏で、誰も来ないような場所で座っていた。


 そのときだった。わたしの足に何かが当たった。


 結構な勢いだったから、足がすごくいたい。まだこの足も痛みを感じることができるんだって思った。

 でも、ぶつかってきた相手は痛そうにしたけど、そんなことはなさそうだった。とても元気そうに見えた。


「ってぇな!どこ見て歩いてやがる!……んだ?ガキか?もう死んでんのか?」

「たいしていたかねぇだろ。小石にあたったくらいなもんだ。このガキ、まだ生きてるっぽいぞ」


 声からして大きな男の人が二人。近づいて、こっちに注目してるのがわかる。


 でも、見ちゃいけない。見たらまた奪われるから。

 奪われるようなものを今は何も持っていないけど、でもこの布を奪われたら、わたしはほんとうに何もなくなる。

 すぐに眠たくなって、起き上がれなくなる。


「おいこら、こっち見ろや。面見せろこら!」


 頭をつかまれた。いたい。すごくいたい。

 布をかぶって見られないようにしていたけど、頭の部分だけはがされてしまった。思わず、近寄ってきた二人を見てしまった。

 その目は赤く、ぎらついていて、体はわたしほどではないけど、細い。


「なんだ、女のガキか。こんなんじゃ、ろくなもん持ってなさそうだ」

「こんな布でもありがたがる奴はいるだろ。こんなガキ1人死んでも誰も文句なんかないしな」

「こないだの軍の連中のせいで、その辺に死体が転がってるからな。一つ増えたところで誰も気づかねぇ……お?よく見りゃこのガキ、体はがりっがりで貧相だが顔は悪くねぇな」


 ぶつかった人がわたしの顔を掴んで強引に引き寄せた。抵抗なんてできなかった。

 顔が痛い、首が痛い。

 喉は乾ききっていて、声が出ない。


「お?ほんとだな……まあ死んでもいいしな。さっきからしゃべらねぇところを見るに、声も出せねぇんだろ。騒ぎにならねぇからいいかもな」

「へへ、こんなんでも穴があれば普通にイケんだろ。死んでねぇなら冷たくもねぇし、ちいせぇぶん締りはいいかもな!」

「おいおい、壊すなよ?俺だって使いたいぞ」

「保証はできねぇな!」


 2人は赤い目をさらにぎらつかせていた。その瞳孔はほとんど開ききっていた。

 言ってる意味がわからなくて、ただ布に手を伸ばされたのを見て、残り少ない力を振り絞って抵抗した。


「……あ……や……っ」

「無駄無駄、抵抗するだけ無駄。大丈夫、すぐに気持ちよくなるからよ」

「コトが終われば開放するからさ。もしかしたらすぐに楽になるかもしれないしな!」

「いいからこっち来いって!」


 布を奪われると思って必死につかんでた。


 でもなんか違った。この人たちの腕は布じゃなくて、わたしの体に向かっていた。

 わからない。わからないけど、とても怖かった。

 無いと思っていた体の水が目から出てきた。もったいないと思うけど、止まりそうにない。


 やだ……助けて……だれか……


「抵抗すんな!……あん?なんだてめぇは」

「ちょっとそこの奴に確かめたいことがある。どけ」


 視界が滲んでいたから、なにが起きたのかわからない。

 でも突然、腕をつかんできた二人とは違う人の声がした。姿はわからないけれど、声だけははっきり聞こえた。


「ああ!?俺らが先に目を付けたんだぞ!」

「邪魔すんならふごッ!」

「がっ!」


 続いて聞こえたのは、聞きなれた暴力の音、そして苦痛の音。

 2人の男はその場に倒れこんだ。何が起きたのかわからない。とにかくまたやってきた人に絡まれないように、すぐに布で顔を隠した。


 ただの置物のように、そのへんのごみのように。

 でも新しく来た人もわたしを見逃してくれなかった。

 目を合わせないようにしても、その人はまたわたしの布を取って、顎を掴んで私の顔を見る。


 でもさっきの人たちよりいたくなかった。


 驚いて新しくやってきた人の顔をみる。

 そして息を飲んだ。


 その人の顔はわからない。よくわからないものをつけていて、見えるのはその人の目だけだった。


 それなのに、どうしてだろう?

 わたしのなかでよくわからない、胸の奥から何かがあふれてくるのを感じた。

 さっき感じた怖いものじゃない。なぜだかはわからないけど、とても懐かしい何かがあふれてきた。


 唯一見えるその目は、さっきの人たちとは違う、とてもあたたかく、そして力強い感じがした。いままで見てきた人たちとは明らかに違う何かがあった。


「名前は?」

「……」


 その声は威圧するようなものじゃなかった。

 聞いたことがある気がする。

 なぜかはわからない。なんとなく湧きあがる何かのままに答えようとしたけど、喉がひりついてしゃべれなかった。


 すると目の前の人は袋のようなものを取り出して、わたしの口に押し当てた。

 痛いことをされるのかと思ったけど、袋の中から出てきたのは水だった。今まで飲んできた水の中でも一番おいしかった。

 ざらついたり、喉に引っかかったりもしない。なんの気持ち悪さもないきれいなものだった。

 こんなものを飲んだことがない。今を逃せば一生飲めないかもしれない。だから一心不乱に飲んだ。

 でもその袋は離されてしまった。


「あっ……」


 思わず声が漏れた。


 この人は何をしているんだろう。

 ずっといたからわかる。こんなこときれいな水をくれる人はいない。

 いたとしても、そのあとはどこかに連れていかれて、二度と帰ってこなかった。

 もしかして自分もそうなるのかな。


「名前は?」


 そう思っていた。でもこの人は私が落ち着くのを待って、さっきと同じことを聞いた。

 喉が潤って、不思議と力が湧いてきた。


「ない……」

「そうか」


 それだけ言うとこの人は立ち上がる。


 ……この人といたい。

 なんとなく、そう思った。

 おいしい水をくれたからかもしれない。でもこの心から湧いてくる何かを、知りたいと思った。

 だからかな。


「寝床や食事が欲しければ、ついてこい」


 この人がそういってくれたことで何かが満たされる気がした。

 ゆっくりと歩く人についていく。時折こっちを見て、立ち止まってくれる。

 そうしてついたのは、見たことない、いいものだとわかる布でできた小さな家だった。

 そこにはきれいな白い髪の女の子がいた。


 この男の人と女の子が話していることはよくわからなかった。

 ただとても仲が良さそうに見えた。


 しばらく話して、それから二人は火を起こして固い何かの中にいろいろなものを入れていた。しばらく待っていると、固い何かの中に入った水や食べ物がぐつぐつと音を立てる。

 嗅いだことのない匂いが鼻を通っていく。

 しばらく感じていなかった、空腹感がお腹の底からこみあげてきた。


 男の人がわたしに何かを渡してくる。丸くて中がへこんだものと細長い棒の先端がくっついたもの。


 どう使うのかわからない。

 すると女の子が同じものを使って、食べ物を食べ始めた。

 これを使って食べるんだと、初めて知った。


「熱いから気を付けてね」


 綺麗な女の子がそういった。

 恐る恐る見様見真似で口に運ぶ。でも思った以上に痛くて落としてしまった。

 大事な大事な食べ物。それもこの人たちが作ったもの。それを落としてしまったから、もう食べさせてくれないかもしれない。


 無駄にしちゃいけない、食べなきゃ。

 落ちて、土や砂がついて色が変わってしまった食べ物を手でつかもうとした。


 そしたら男の人に止められた。

 見損なわれた。大事な食べ物を落としたことをきっと怒ってる。食べさせてもらえない。


「あっ……う、うぅ」


 また視界が滲む。

 わたしのなかにこんなに水があったんだ。

 もうだめだと思った。

 男の人はわたしが持ってた食べ物を綺麗な透明な水で流して食べてしまった。


 ……やっぱり、わたしにはもう――


 俯いた。


「……おい」


 え――

 声をかけられ、思わず男の人のほうを向いた途端、少し冷えた食べ物が私の口に突っ込まれた。


 なにが起きたのかわからなかった。でも口の中に、今まで味わったことのない色々な感触と味が広がった。


 次々と口元に差し出される食べ物に無我夢中でかぶりつく。


 熱い。熱いけど、食べられる。

 なによりこの温かさが、すごくうれしかった。

 食べたことのない味。とても、とてもおいしくて。泣きたくなるほどにやさしい味。

 何度も口元に運ばれる食べ物は、本当においしかった。

 もう前が見えないし、鼻からも水があふれてくる。

 それでもこの味だけは忘れられないほどに、鮮明に感じられた。





「俺たちはこれからこの国を出る。危険な旅になるが食事も出すし、町に着いたら自立できるようになるまで面倒を見てやる。来るか?」


 食事を終えて、目と鼻から水が出なくなった。

 2人の顔もよく見える。それどころか、今までで一番、世界がよく見える。

 男の人がわたしにそういった。

 でもその意味がよくわからなかった。


「……どうして?」

「お前の力が必要になるかもしれないからだ」

「なにも、できない」


 わたしが、ひつよう?わたしにはなにもできない。今だって食べさせてもらわないと何もできない。


「そんなものはこれからだ。来るか来ないかどちらか選べ」


 それでも、この人は力強くそういった。

 わたしには何もできない。そんなことはわかってるって。それでもわたしが必要だって。

 いままで、ずっと奪われてきた。わたしじゃなくて、必死になって集めた食べ物も布も水も全部。


 でもこの人は違った。


 食べ物も水も与えてくれて、そのうえでわたしが必要だっていってくれた。

 死ぬしかないと思っていたわたしを必要としてくれた。この人なら、無理やり連れていくことだってできたはずだった。

 わたしを襲ったあの二人を簡単に倒してしまったから。そんなことをしないで、わたしを見てくれること。


 それだけで、また何かが湧きあがってきた。視界が滲みそうになった。


「……いきたい」


 この人はわたしを見てくれる。だからわたしもこの人を見る。

 男の人は、面から唯一除く目を、確かに嬉しそうに細めて満足そうにうなずいた。

 それを見て、またわたしもうれしくなった。


 この人に喜んでもらえたことがうれしかったんだ。

 これがわたしの日々を、人生を大きく変える運命の始まりの日だった。





「まったくもう、あいつの勝手にも困ったものね」


 暗くなってきた。明るいうちは男の人がわたしを背負ってずっと歩いていたみたい。昼間はとても眠くて彼の背中でずっと眠ってしまっていた。

 暗くなるときれいな白い髪の女の子がわたしの手を引いて誰もいないところに連れて行った。


 女の子は元気で、はつらつとしてる。大きな目はまるで空のように青くてきれい。

 

 人のいないところにつくと、女の子に言われるまま、纏っていた布を取る。

 あんなに取られるのが嫌だったのに、この子相手だと嫌だって気持ちは不思議とわいてこない。


「痛かったら言ってね……あっちゃ~これはひどいことになってるな~。ちょっと時間かかるけど我慢してね」


 女の子がわたしの髪に触れて呟く。

 なにかと思うと、急に上からたくさんの水が流れてきた。

 驚いたけど、もったいないと思って手ですくって口に運ぶ。すると女の子が慌てて止めてきた。


「ちょっとちょっと、飲んじゃ駄目よ。頭洗ってきれいじゃない水なんだから」

「でも、もったいない……」

「だいじょーぶ、水なんてあたしにかかればいくらでも作れるんだから。だからもう、そんなこと気にしなくていいの。何かあればあいつに頼めばなんとかしてくれるから」

「でも……」

「いいからいいから。喉が渇いたならあとであげるから、とりあえず今は目をつむってじっとしてて」


 そういってまた頭から水が降ってくる。もったいないと思うけど、ここで機嫌をそこねると水を作ってくれなくなるかもしれない。それにもしここでおいて行かれたら、本当にわたしは何もできない。

 じっとしていると、水が止んで髪の毛をいじられる。何してるのかと思って目を開けると、視界が白くてなんだか目が痛い。


「あ、だめだって目を開けちゃ。頭洗ってるから泡が目に入っちゃうわよ」

「あらう?」

「そ。頭を洗うとすっきりするし、髪の毛もきれいになるわ。今はだいぶ傷んでるから、ちょっと時間がかかるかな」

「髪……あなたの髪は白くて、きれい」

「ふふ~ん、でしょ?自慢の髪なんだから。時間はかかるけど、あんたの髪もいずれきれいにできるよ」


 そう楽しそうにいう彼女を見て、自然と楽しくなってきた。おとなしく目をつむって待つ。きもちがいい。

 頭の次は体、そのあとは足と手の指の爪を切ってくれた。その間に相手の子もいつの間にか服を脱いで体を洗っていた。

 体を洗うなんてやったことがなかった。でもやってみるとこんなにも心地いい。

 体にまとわりついていた何かが一気になくなって、どこか体が軽く感じる。髪の毛も柔らかくなって、不快な匂いもしなくなっていた。

 それどころか自分の髪からほのかにいい香りがして、ずっと嗅いでいたい。

 腰まで伸びている髪を顔まで持ってきて嗅いでいると、女の子が服を着てわたしのところにやってくる。その手にはその子が着ているものと似た服があった。


「はいこれ、そのまんま戻るわけにもいかないでしょ。さっきの布はあいつに洗濯させるとして、ひとまずこれを着ていいよ」


 そういって渡された布はとても柔らかくて、いいニオイがした。

 手伝ってもらいながら、服を着る。とても着心地がいいし、安心感がある。


「ありが、とう……」

「あたしのお気にだから、大事にしてね。ま、何かあればあいつに文句言ってやるだけだから、あんたは気にしなくていいわ……それはそうと名前は?」

「……ない」

「え?」


 名前はない。気づいたらあそこにいた。その前のことについてはわずかに何人かの顔が浮かぶけど、詳しいことは覚えてない。

 おぼろげに黒い髪の誰かのことは覚えてる。男か女かはわからない。

 お父さんか、お母さんかもわからない。


 もしかしたら、さっきの人に思うところがあったのは、ほんのわずかに覚えてる人と似ていたからかもしれない。

 女の子はわたしに名前がないと聞くと、額に人差し指を当てて考える。


「名無しか~、不便ね。じゃ、ちゃっちゃと戻って名前を考えなきゃね。さ、さっさと戻りましょ!」


 女の子はそういって大きな帽子をかぶるとわたしの手を握って歩き出した。引かれるようにわたしも歩き出す。

 明るい彼女といると、なんだか自分も明るい気持ちになれる。


 まるでお空で輝くあの光のよう。

 本当に不思議な二人。





「ならマリナにしよう」

「じゃあノーナミュリンにするわ。聖人だし、神に近いってことで」


 戻ったとき、二人はわたしに名前を付けてくれた。わたしはマリナ。

 マリナ・ノーナミュリン。


 2人の名前はウィリアムとウィルベル。


 響きがなんだか似ているけど、2人はどんな関係なんだろう。兄妹かと思ったけど、そろって否定された。態度は兄妹なのに言葉は兄妹じゃないからちょっとわからないや。


 兄妹……家族。

 よくはわかっていないけど、とてもうらやましいと思った。わたしも家族が欲しいな。

 その夜は、早くに休むことになった。


 空には大きく光る丸いものが浮いていて、夜なのに明るい。

 昼間ずっと寝ていたからか、今は眠くない。

 いつもは空が見える冷たくて固い地面の上に寝ていたけれど、今日は柔らかな布の上に、ウィルベルと一緒にいる。一人じゃないってことがこんなにも心と体を暖かくしてくれる。


 彼女はもう寝てしまった。

 やっぱり彼女はとてもきれいでかわいい。あこがれるくらい。

 こんな風に私もなりたかったな。 

 眠れないから体を起こしてテントの外に出る。テントなんてものを初めて見たけど、とても便利だと思った。

 外に出ると、すぐそこに火のそばに座るウィリアムがいた。

 彼は夜だけどずっと仮面をつけている。火に照らされている彼の横顔はどこか、とても寂しそうに見えた。


「眠れないのか?」

「……うん」

「ただでさえ体力がないんだ。眠れなくても横になってろよ」

「うん……でも少し話がしたい」

「……少しだけな」


 ウィリアムの横に座る。火はとても暖かい。

 空を見上げるとそこにはまん丸に、白く輝くものがあった。ずっと見ていたけど、あれは何なんだろう。


「あれは月だ。時期によって形を変えるんだ」

「つき?……どうして形が変わるの?」

「正確には形が変わるんじゃなくて見え方が変わるんだ。月はきれいなボール型なんだ」


 そういってウィリアムは手近にあった丸い石を使って教えてくれた。

 そこで初めてわたしは空にあるものの名前を知った。明るいときに空にあるのは太陽で、暗いときにあるのは月。そして私たちがいるこの大地もとても大きな玉形で、地球っていうらしい。

 地球と同じような星がたくさんあって、それが夜になると輝いて見える。

 ずっと漠然と見ていた空、でもそれがどうなっているかずっと知らなかった。誰も教えてくれなかった。

 正直教えてもらった今でも、信じられない。わたしたちのいるこの地面が丸くて動いてるなんて。


 でもこの人の言うことだから、きっと本当なんだと思う。


「この地球は、太陽と月が両方あるからこそ俺たちは生きられる。片方が欠ければ俺たちは生きられないんだ」

「それは、どうして?」

「太陽はこの大地にすごい量のエネルギーを与えてくれる。それは生きる上で欠かせないものだ。そして月は地球の周りをまわって自然を助けてくれてるんだ。絶妙なバランスの上で俺たちは生きてるのさ」


 ウィリアムがいろいろ教えてくれる。でもそれ以上に気になったのは、ウィリアムの顔。

 目しか見えないけど、炎に照らされたその顔は、とても寂しそう。

 顔を隠していてわからない、こわい、けど。


 この人の眼はとても柔らかい、とてもやさしい人なんだと思った。

 そしてウィリアムは空を見上げる。つられてわたしも空を見る。


 こうしてみる月は、今までで一番きれいだった。




次回、第三章《移り変わり固まる決意》


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

これからどんどん物語は盛り上がっていくので、どうかお付き合いください。


また感想やレビューを頂ければ、今後の執筆活動に活かしていきたいと思うのでお気軽になんでもどうぞ!

評価やブクマにもご協力をお願いします。いただければ飛び跳ねます!

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