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夢見る未来に福音を  作者: 相馬
第二章《廻り廻る出会い》
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第五話 運命の出会い


 森林都市セビリアに来てから1か月ほどが経過した。

 あれからほぼ休まずに複数のパーティで依頼を受け続け、ハンターの技術や知識をかなり学べた。

 国外に出て生きていくには十分だろう。ただ懸念もある。


 魔法だ。

 今も募集をかけてはいるが予想通り誰も来ない。当然だ。

 手探りでやっているがなかなか上達しない。ソフィアの記憶の中にあるのは、元の世界のことを思い出すことができた記憶の魔法だけだ。あれはかなり特殊な魔法のようでいわば応用だ。基礎ができていない俺には使うことはできても発展させたり、変化させることは難しい。

 辺り一面にあるマナにいろいろ働きかけているのだがうまくいかない。才能か魔力がないのだろうか。


「どうするかな」

「おや、お兄さん!久しぶりだね!」


 ギルドに向かう道の途中、やたら声に力の入った青年がいた。たしか町に来るときに世話になったバーニィだ。


「久しぶりだな。商売は順調か?」

「そりゃもうね!最近この町は話題だよ。大物を仕留めるハンターがいるって噂さ!おかげで少しだけど人が増えて売り上げが伸びたんだ!」


 相変わらず暑苦しい。それにしても熊や蛇を仕留めたことがそんなに話題になっていたのか。

 セビリア内ならいいと思っていたが、他の町にも伝わっているとなると少し厄介かもしれない。


「バーニィ、この町以外の場所について何か知ってるか」

「他の町?そうだなぁ、1か月ほど前にマドリアドが戦にあったことくらいかな。その後はどこも平和だよ」

「軍に動きはないのか?」

「軍?……そういえば最近は中層で軍の兵士をよく見かけるそうだ。人を探しているらしいね」

「その人ってのは?」

「そこまでは知らないな!」


 バーニィ曰く、マドリアドの戦いののちは特にハンターギルド側も軍も動きはないらしい。ただ兵士の数が増えているとなると、もしかしたら俺を探しているのかもしれない。

 あまり長居はできないかもしれない。

 バーニィに礼を言って別れる。





 ギルドへ入ると少し職員たちが慌ただしかった。

 ハンターたちは平然としているのを見ると町に異変があったわけではないらしい。

 疑問に思いながらも受付に行く。今日はフィデリアが担当していた。


「あ!ウィリアムさん。おはようございます」

「おはよう。騒がしいな。何かあったのか?」

「ええ、ちょっとギルドの偉い人が来たんですよ。だからその対応に追われてるんです。ウィリアムさんも知っている方だと思いますよ」

「俺の知ってる?誰だ?」

「私ですよ、ウィリアムさん」


 フィデリアと話していると奥から人が出てきた。マドリアドのギルド役員で、世話になった神経質そうで線の細いソールだった。


「お久しぶりですね、また随分と趣味のいい仮面をつけていらっしゃいますね」

「ああ、あいにくと人に見せられる顔じゃないもんで」

「そうですか、男前でしたので驚きです。それはそうと少し奥でよろしいですか?」


 皮肉と冗談を言い合っていると奥で話がしたいと誘われる。ここに来たのは俺に話があったからか?さすがにマドリアド内での重役だけでなく、ソールがただの役員じゃないということはわかったが、それでも話をするだけにここまで来るだろうか。


 奥の部屋に進み、他に誰もいない部屋で椅子に向かい合って座る。


「単刀直入に申しますと軍があなたを嗅ぎまわっています」

「らしいね。それで俺に出頭しろと?」

「……随分雰囲気が違いますね。何かあったんですか?」

「……いろいろあったさ。いろいろと」


 ソールに接する態度も以前とは確かに異なる。記憶を取り戻してから、あまりこの世界の人と丁寧に接しようとしてない。気分が悪いから。

 もちろん最低限の礼儀は守るし、関係に悪影響は出ないようにしている。でもそれだけだ。


「そうですね。我々もいろいろありました。例えばオスカーさんも仮面をつけて名を変えてハンターをし始めました」

「それは面白いな。一度見てみたいな」

「ええ、我々もあなたの帰りを待っています」


 オスカーも仮面をかぶったのか、名前も変えるとなると信頼のある冒険者と名乗れなくなるので俺はしなかった。オスカーは死んだものとされたし、もともと頓着はないんだろう。

 ソールに帰りを待っていると言われたが、戦力が欲しいんだろうな。

 もっともあの町に帰るなんて今はする気は毛頭ない。


「話を戻しますが、我々ギルドは決してあなたを突き出すつもりはありません」

「だが匿っていると疑われる。そうなればまた襲われるのはあなた達だ」

「そんなものはあなたがいようがいまいが同じことです。もともとあの戦いは私たちが始めたのです。戦い続ける覚悟はできています」

「ではなんでそれを俺に伝えに?」

「ついでですよ。ここへは町の再建のための木材を仕入れるために来ました。私はマドリアド支部の財務を取り仕切っているので、こう大きな取引となると私がくるしかないのですよ」

「そうか、忙しいな……用件はそれだけか?」


 少しほっとした。突き出されないというのもそうだが、マドリアドの町が襲われたとしても俺のせいではないと、軍と戦うのはあの町の総意だとそう教えに来てくれたのだ。


 そこまで思っての言葉かはわからないが、俺としてはもし匿ったせいで町が襲われるとなれば、さすがに何かしら感じるかもしれない。

 あそこには記憶を取り戻す前、この世界で家族と呼んだオスカーがいる。


「ええ……あぁ、あと一つ。恐らくですがあなたを探している人がいたので、この町に連れてきました。町に入った途端にどこかに行ってしまいましたが、訪ねてくるかもしれません」

「恐らくってどういうことだ?」

「こればかりは私も職員からの伝聞ですので。もしかしたら何もないかもしれません。では仕事があるのでこれで」


 そういうとソールは席を立ち、部屋を出る。


 懐かしい顔を見たな。1か月しか経っていないがもうマドリアドが懐かしく感じる。

 それにしても俺に会いにマドリアドから来た人がいる?マドリアドの知り合いといえばオスカーとアメリアくらいだがあの二人ならあんな曖昧な言い方はしないはずだ。


 席を立ち、部屋を出る。誰か来るかもしれないということでその日は1日、街中で国外に出るための準備をしたり、ギルドで食事をしたりして時間をつぶした。


 結局誰も来なかった。





 ソールとあった翌日。

 その日は朝からミゲルとリリアナに誘われて、採取依頼を受けていた。丸1日かかる依頼だったので朝早くに出て夜に帰ってくる。

 今回の依頼はサンカヨウと呼ばれる透明になる花を咲かせる不思議な植物だ。なぜ透明になるのかわかっていないため、研究材料として大量に欲しいとのことだった。

 そこで荷物持ち兼採取中の護衛として一緒に行くことになった。

 プラントハント中に出くわした動物などは好きにしていいらしいので、遭遇したイノシシも1頭狩った。


「うーん、大量!」

「これなら報酬は期待できそうだ!」

「その分重いんだけどな」

「大丈夫、持って帰れるさ!」

「そうだな、じゃあミゲル。頼んだ」

「ええ!?」


 採取した量はほんとに多かった。依頼内容が土ごとだったので重いうえにイノシシもプラスだ。

 荷物持ちがいるからって張り切りすぎじゃないか。


「ウィリアムがいると楽でいいわ。ねぇずっと一緒に活動しましょうよ」

「いやだね、2人の間にいるなんて拷問だ」

「ははは!すぐ慣れるさ!」

「慣れてたまるか」


 この二人は付き合ったばかりらしく、俺がいても時折イチャつきやがる。

 うらやましいというより居づらくて仕方ない。これに慣れてしまったら、いつか俺も似たようなことをしてしまいそうだ。

 恥ずかしすぎる。仮面をしてても無理だ。してるから土台無理かもしれないが。


「ウィリアムは誰狙いなの?」

「何が?」

「女の子たち。受付のヒメナちゃんもそうだけど、あの前はうるさかった3人も随分慕ってくれてるじゃない。一人くらい気になる人いるんじゃない?」


 リリアナが幸せを分かち合いたいのか、そんなことを聞いてくる。

 あのうるさい小娘トリオだがあの一件以来、随分と落ち着いて地道に取り組むようになった。今朝はエルフの3人と真剣に話しているのも見たし、もう心配いらないだろう。


「いないよ。そもそももうすぐここを発つんだ。恋仲になんてならねぇよ」

「「え!?」」


 2人が驚いているがいちいち説明するのも面倒だし、ハンターなんだからあちこち行くのは珍しくもない。

 日が傾き始めたので、全員で帰路を急いだ。





 ギルドに着き、報告と納品をする。

 大量のサンカヨウと1頭のイノシシを納品する。イノシシは依頼ではないが食料や衣類にできるため、ギルドが買い取ってくれる。

 受付でそれなりにお金の詰まった袋を受け取る。


「結構な額になったな。久しぶりのいい依頼だった!」

「そうね、これで欲しいものが買えるわ」

「そんなもの言ってくれれば買ったのに」

「ありがとう、でもいいのよ。迷惑はかけられないわ」

「リリアナ……」

「ミゲル……」


 吐き気がしてきた。

 自分たちの世界に入り込んだまま帰ってこない2人を放って、自分の分の報酬を受け取ってとっとと立ち去る。

 するとヒメナに話しかけられた。


「うぃりあむさ~ん」

「なんだよその気持ち悪い声は」

「また今日ウィリアムさんにお客です。しかもまた女の子です。それも飛び切り可愛い。どこで引っ掛けてきたんですか?」

「はあ?なんだそれ」


 この町で女の知り合いなんてそう多くない。受付と小娘3人だ。リリアナは今回一緒だったから違うし、恐らく俺の知らない人だ。


「用件は言ってたか?」

「あの講師募集を見てきたんだそうです。今はいないって言うとすごく落ち込んでました」

「また魔術と間違ってなきゃいいけどな」


 ソールが言っていたのはこのことか?わざわざマドリアドから来たらしいがあの町で募集なんてかけてない。

 もうほとんど来ないと思って放置していたが、まだ勘違いするのが来るなら諦めて募集やめようか。





 本格的に冬に入り、朝方は少し冷える時期になってきた。

 日が昇り始めたばかりの時間帯だと、多少厚着しないと冷えてしまいそうだ。

 毎日の日課である町の外れまでランニングして、素振りや型の練習をしていたがここ最近はギャラリーが付くようになった。まだ早朝だというのに数人がずっと見ている。


「やりにくいな、場所を変えるか?」


 町の外れにわざわざ来たが、それでも見に来るからもっと遠くへ行くべきか。

 仮面をつけているから悪目立ちもしているのだろうか。

 するとギャラリーの中から見知った人間が駆け寄ってくるのが見えた。


「ウィリアム!」

「なんだ。邪魔するなら帰れ」

「ひどい!」


 駆け寄ってきたのは3人娘、レオノル、マルセラ、ヴァネッサだ。

 身体を動かしながら何の用だと聞くと、強くなりたいから混ぜてほしいと言ってきた。

 混ぜるも何も一緒の鍛錬なんてついてこれないだろうし、彼女たちに合わせるのも嫌だ。


「一緒にも何もついてこれないだろ。無駄だから帰れ」

「じゃあ教えて!どうしたらそんな強くなれるの?」


 しつこかったので、今度鍛錬のメニューを考えておくというと納得したようだ。ただそのまま帰らずに横で見よう見まねで型の練習をしている。

 こいつらはこの場所をどこで知ったんだ?


「エルフの3人に聞いたら教えてくれたよ。どうしてそんなに強いのって聞いたら早朝にここに行けって言われたんだ」


 あいつらか!関わりたくないから丸投げしたな!

 溜息をつきながら、3人を見やる。

 ……まあ、強くなりたい気持ちもわからんではないし、見ていられない。


「レオノル、脇を閉めろ。もっと足を動かせ。この型で大事なのは形よりいかに力を出せるかだ」

「はい!」

「ヴァネッサは逆だ、もう少し形を意識しろ。どこから攻撃するか丸わかりだ。マルセラは武器があってない。もう少し軽いものかリーチのあるものに変えろ」

「「はい!」」


 注意点を伝えると嬉しそうに武器をふるう。マルセラには武器がなかったので体づくりをさせた。

 ふと、前の世界で後輩にやり投げを教えたことを思い出した。あの時は教えるのが楽しかった。今はそうでもないけど。

 今日は結局自分の鍛錬ができなくなったからまた時間を作らないと。今度は誰も来ないところで。


 その後、汗をきれいに流してからギルドに向かう。今日は昨日訪ねてきた人物と会う。

 指定した時間よりも前に席に着こうと思っていると既に座っている人がいた。


 後姿からもその人物は見たことない人物で、加えて変わった服装をしていた。

 有体に言えばザ・魔法使い。つばの広い尖がり帽子に黒を基調とした服装、少しつま先の上がった靴。

 顔はうつむいていてよく見えない。

 ……見た目から入ったのか?

 とにかく俺も席に着き話をする。


「魔法の講師に応募したというのはお前か?」

「え?……うわ!不審者だ!」

「誰が不審者だコラ」


 思わずツッコんだ。

 声を掛けられて、顔を上げたのはまだ年端もいかない少女だった。

 仮面に驚き、俺を不審者扱いしてくる。失礼な。いや、まあ仕方ないけども。

 ただ驚いたのは俺も同じだった。


 その少女はきめ細かな白い肌に、光に反射して輝くような銀髪と、空のような澄んだ瑠璃色の瞳をしていた。ここいらでは見ない特徴だった。

 確かにヒメナが言う通り、なかなか顔は見れたもんだ。幼いから、特に何も思わないが。

 少しだけそわそわしたが、すぐに落ち着いてその少女は名乗る。


「あたしはウィルベル。魔法を極める大魔法使いよ。よろしく!」

「俺はウィリアム。訳あって魔法について知りたい。よろしく頼む」


 その自己紹介を聞いて、否応なく心が沸き立つのを感じる。

 これは確定だ。ここにきて大当たりだ。

 魔術は使い勝手が悪いから魔術使いなんて存在しない。ならば魔法は俺の知る魔法ということで、間違いない。

 それも大魔法使いとは!もしかして幼く見えるのは何かしらの魔法のせいだろうか。中身は実はババアとか?

 ただちょっと顔色が悪いのが気になるな。

 俺が内心大喜びでいるとウィルベルが申し訳なさそうに言った。


「ねぇ、申し訳ないんだけど何か食べさせてくれない?昨日から何も食べてないの……」


 途端に不安になってきた。講師として大丈夫なんだろうな?





 銀髪で年齢が14、5といったところのウィルベルと共に朝食を取り、一段落ついたところで話をする。

 仮面をつけながら食事をする姿を見て、彼女は終始何とも言えない顔していた。

 

「講師として魔法を教えてもらいたい。報酬は募集の紙の通りだ。何か質問は?」

「あんたはなんで魔法を知りたいの?」

「言わなきゃダメか?」

「ダメね」


 あまり天上人云々は話したくない。元の世界に帰るために魔法を学ぶなんて信じてもらえるかわからない。そもそもまだ彼女を信用できない。

 なら教えてもらえそうなことを言っておこう。


「故郷に帰りたい。俺の故郷は普通の方法じゃ帰れないから」

「いったいどこよ?今のご時世、普通の人でも空を飛べるでしょ?」

「そうなのか?」


 なんだって?普通の人でも空を飛べる?

 初耳だ。少なくともこの世界に来てからは一度もそんな話は聞いたことがない。詳しく聞こうとすると彼女から驚愕の事実を知らされる。


「そうよ。この国を出てアクセルベルクにでも行けば、そこら中に気球が舞ってるよ。高いところにある浮島だろうと、海の向こう側だろうと行けるよ」

「待て、アクセルベルク?まだあるのか?」

「何言ってんの?あるに決まってるじゃない」

「聞くが他の国は?ユベールやレオエイダン、アニクアディティは?」

「あんた何も知らないのね。ユベールもレオエイダンもちゃんとあるよ。アニクアディティは滅んじゃったけど、獣人たちは各国に散ってるよ」


 受け入れるのに時間がかかった。

 城で教えられたのはこの国以外はすべて悪魔によって滅び、この国も今は天上人をはじめとした軍によって守られていると聞いた。

 先生に外に行けと言われたが、てっきり外の遺跡や生き残りを探せという意味だとばかり思い込んでいた。


 先生は知っていたはずだ。でもどうして知っているんだ。というかこの国はどうしてそんなことを俺たち天上人に教え込んだんだ?

 他の人たちは知ってるんだろうか。


「それでどうするの。空を飛んで故郷に行くっていうなら話は終わっちゃうんだけど、それだとあたしが困るのよね」

「なんで?」

「……だってあたし、今一文無しだもの」


 この少女は本当に大丈夫なんだろうか。魔法を使えるのはいいが他がてんでダメなんじゃないだろうな。


「なんでそんなことになったんだ。ハンターなんだろ?魔法も使えるなら食い扶持ぐらいすぐ稼げるだろ」

「あたしハンターじゃないもの。そもそも魔法使いって秘密なんだから、それでハンターになるわけにはいかないの」

「なんで秘密にしてるんだ」


 そう聞くと彼女は薄い胸を張りながら答えた。

 曰く、魔法は非常に危険なもので悪用しようとする輩が必ずいる。だから魔法使いであることは隠すのが彼女の一族の掟らしい。

 その割にはすぐに俺にはばらしているし、しかも格好があからさますぎて隠す気があるのだろうか。

 俺の中でウィルベルはどんどん魔法以外がてんでダメな子に降格している。


「そんなわけだから、あんたの募集はあたしに打ってつけなの!」

「あぁそう。まあ俺としても魔法は必要だから、別にいいが」

「ていうか魔法を教えるって言ってもあんた使えんの?」

「さぁな。マナは感じるし動かせるからいけると思うが。1つだけ使えるものもあるしな」

「へぇ。どんな魔法?このあたしに見せてごらんなさい!」


 さて、どうしたものか。やるのは構わないが問題は記憶だ。奪うか渡すか。

 奪うはさすがにまずいので、昨日の夕食の記憶を彼女に渡すことにする。

 触れようとしたとき、少しビクッとされたが、まあ仕方ない。


「触れなきゃ使えないんだ。危ないもんじゃないから大丈夫だ」

「ホントでしょうね。変な事したらただじゃおかないわよ」

「へいへい」


 気のない返事をしながら、ウィルベルの額に触れて記憶を渡す。

 大した記憶の量じゃないがそれでもちくりとしたらしい。一瞬顔をしかめる。


「……何したのよ?」

「昨晩何食った?」

「何言ってんの、昨日から何も食べてな……あれ?そういえば立派なお肉を食べたような?でもおなか減りすぎて動けなくなった記憶もあるし?」

「それが俺の使える魔法だよ」

「相手の昨晩のごはんを混同させる魔法!?なんて恐ろしい……」

「アホ、そんなわけねぇだろうよ」


 そんなくだらない魔法があってたまるか。

 自分の魔法について説明するとウィルベルは口をあんぐり開けた。


「なにそれ……聞いたことないんだけど?里のお母さまやお婆様でさえそんな魔法は知らないと思うんだけど!」

「この魔法ももらったものだ。これのおかげで、俺もこの魔法が使えるようになった。でも今はこれだけだ。ほかに何も使えないからこうして講師としてお前を雇いたいわけだ」

「ちょっとわけわかんないんだけど……こんな魔法使えて他なにも使えないってなに?」


 俺もよくわからないよ、特にこれから先のことが。

 ぶつぶつ文句を言う彼女を見て先が思いやられると溜息をついた。






次回、「ウィルベルさんの魔法講座」

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