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夢見る未来に福音を  作者: 相馬
第二章《廻り廻る出会い》
34/323

第四話 ハンターの覚悟


「さて、こっちはどうするか」


 今も目前に鹿らしき獲物を放り投げながら4足歩行ででかい熊が迫ってきている。さながらトラックのようだ。とにかくこっちに注意を向けなければならない。


 迫り、空気を切り裂きながら鋭い爪のある前足を繰り出してくる。

 寸前で回避し、体高があるのでなんとか腹の下に潜り込む。

 クマの背後に駆け抜けながら、すれ違いざまに腰に下げた片手剣で切りつける。


「かったっ」


 表皮がかなり硬い。浅く切り裂いただけで血も出ていないし、逆に剣が欠けてしまった。

 狭い腹の下に滑り込みながらだから、勢いがないにしても硬すぎる。

 そのまま熊の後ろに駆け抜けながら声を出して注意を引きながら下がる。


「まいったね。確実に殺せる方法はあるけど当てられるかな」


 確実に殺す方法ならある。前の世界にいたころからやっていたやり投げだ。この槍は頑丈で重い。これを投げられるのはおかしいがこの熊も十分おかしい。つくづくこの世界は嫌いだ。

 その時最悪の声が聞こえた。


「ゴアアアァァアァ!!!」


 驚いて、熊に気を付けながら後ろを見るともう1頭、離れたところに熊がいた。しかも足元にはあの喧しい3人がいる。

 まずい。この距離では間に合わない。

 だが行くしかない。

 もう1頭の熊もつれていくことになるが3人のもとに向かう。

 3人のうち、2人は腰を抜かしている。だが一人は気丈に剣を抜いている。ヴァネッサだ。

 

 ――よく立った!


 心の中でわずかに見直す。

 だが彼我の実力差は絶望的だった。

 ヴァネッサが剣をふるっても傷つかず、しかし熊の一撃はヴァネッサをたやすく吹っ飛ばした。小さい方、マルセラが悲鳴を上げる。

 熊は仕留めたと思ったのかヴァネッサを食べようとした。

 よだれだらけの鋭い牙の生えた口が迫る。

 女の中では大柄だったはずのヴァネッサが、まるで小枝のように軽々と折られそうになっていた。


 ここからでは投擲しても間に合わない。でもやるしかない!


 槍をヴァネッサを食べようとしている頭部めがけて投擲する。だがその前に噛みつくのが早い!


 ――その時だった。レオノルの身体が淡く光り、ヴァネッサの周囲を覆った。


 白い光、加護の光だ。

 その光によって熊の口はヴァネッサに迫る直前で止められ、食べ損ねた。

 クマは食えなかったことに腹が立ったようで、前足で殴る。


 たったそれだけ。それだけで加護の光はすぐに消えてしまった。

 弱い加護。オスカーやイサークと比べるとあまりにも儚い。

 彼女たちには絶望的だったろう。

 でもその絶望はもうない。彼女の加護のおかげで間に合った。


「いやぁ!ヴァネッサ!」

「イヤァァァァ!」


 叫ぶ彼女たちの目の前で。

 熊の頭部に槍が深々と突き刺さり、槍の勢いそのままに、熊は重厚な音を立てて崩れ落ちるように倒れた。


「え、え?」

「早くヴァネッサを治療しろ!死ぬぞ!」

「あ、は、はい!」


 熊が急に死んだのを見て混乱している二人に声をかける。治療の仕方も知らないかもしれないが止血ぐらいはできるだろう。そうなれば後は大急ぎで町に戻るしかない。

 だがそのためにもまずはずっと俺を追っている熊退治だ。


「ゴアアアァァアァ!ゴア!!」

「うるせぇな!そのくさい口を閉じろ!」


 槍はない。今の手持ちであの熊を殺せるとしたら切っ先が欠けてしまった剣だ。

 これではただ切りつけただけでは斬れない。

 何かないか、もう一押しできるなにか。

 どうするかと周りを見渡す。

 周囲には壊れた家と少し高い家が数件あるだけだ。


 いや、使えるな……


「おい、こっちにこい!」

「ガァア!」


 熊を誘導して高い家がいくつもある場所に行く。

 その高い家の前に立ち、熊が突進してくるのを待つ。


「こっちだこっち。クソグマが!」

「グルゥ!」


 きた。突進だ。

 寸前で横っ飛びでかわすと熊は建物にぶつかり、派手な音と煙が舞う。

 その隙に残ったもう一軒の高い家の屋上に急いで登る。

 時にはロープを、時には物が壊れるのもいとわずに跳躍を。

 屋上に着いたとき、熊を見下ろすほどの高さに到達していた。

 まだ熊は煙舞う場所にいてこちらには気づいてない。


 なら、その隙に仕留めてやる。

 剣に右手を添えて居合切りのような構えをとる。居合の練習なんてこの世界でも前の世界でも習ってない、完全我流だ。

 でも長い鍛錬でどうすれば鋭い一撃が放てるかは知っている。

 屋根から軽く飛び降りる。そして熊の頭部と同じくらいの高さに達した瞬間に建物の壁を思いっきり蹴って、横一直線に熊に向かう。


 蹴った反動でボロボロだった家が崩れ、その音で熊が振り返る。

 俺の視界一杯にクマの凶暴な顔が映る。クマの瞳に竜の仮面が映る。


 気付いたときにはもう遅い。

 腰をひねり、鞭のように腕をしならせ、勢いも利用した全身全霊で、剣を振りぬく。


 ぬるっとした、手ごたえがあった。


 空中で勢いを止めることもできず、そのまま熊を通り過ぎて少し離れた位置に落ちる。

 滑りながら着地し、止まると同時に。

 熊の首と胴体が、重く重厚な音を立てて倒れた。

 クマの周囲が赤く染まっていく。


「ふぅ―――…」


 一息つく。

 ……危なかった。一歩間違えば死ぬのは俺だった。

 今回は簡単な調査依頼だと思っていたから気が抜けていたし準備が足らなかったようだ。


「しまった、ヴァネッサがいる」


 いそいで3人のもとに戻る。


「あ、よかった!無事ね!」

「すごい!生きてる!」


 彼女たちのもとへ着くと2人が安堵したような表情を浮かべる。この様子ならもしかして……


「大丈夫、ヴァネッサは無事よ」

「当たり所がよかったみたい。急所は剣で防いだから衝撃で気を失ってたみたい。足は爪のせいで傷が深いけど、命に別状はなさそう」


 報告を聞いてほっと息を吐く。どうやら彼女たちは今まで依頼でさんざんな目にあってきたことが多く、こういった傷の治療だけは上達したらしい。うまく止血されている。


「そうか、なら急いで戻ろう。容体が急変するかもしれないからな」


 そうして帰り支度を急いで済ませる。ついでに熊の毛皮を少しだけ剥ぎ取る、これで遺跡に熊が出たと信じてもらえるだろう。





 町に戻るとヴァネッサはマルセラに任せて先にギルド近くの治療院に向かわせた。

 俺とレオノルは受付のヒメナに調査の報告をした。


「え!遺跡崩壊したんですか!?」

「はい、すごく大きい熊が2頭出てきたんです!その熊が遺跡の家に棲みついてて、襲われました!そしたら家が壊れちゃったんです!」

「ええ!熊が出たんですか!?」


 この二人、実は似た者同士なのか?同じようなテンションで報告と質問をしている。いやヒメナのはただの相槌か。


「はい!これがその熊の毛皮です!」

「これは?すいませ~ん!」


 証拠の熊の毛皮を見せるとヒメナがまた職員を呼びに奥に引っ込んだ。そしてまた何人かの男性職員が出てきて毛皮をよく見る。するとだんだんとざわめきが多くなってきた。


「こ、これはマーダレスベア……」

「いやしかし、あんな怪物を?」

「あのパーティが?」


 ヒュドラのときを思い出すがあの時よりざわめきが大きい気がする。

 たしかにあの熊はヒュドラの幼体より強い気がしたから当然かもしれない。もっとも相性がある。毒があれば勝つのはヒュドラだろう。

 鑑定が終わるといつもは引っ込む職員も報告を聞くために残っている。


「あの、これはマーダレスベアの毛皮ですね。あの、その熊は今どこに?」

「倒しました!ウィリアムが!」


 大きな声でレオノルが答える。今回の報告は彼女に一任している。間違いがあれば途中で教えるという形にしたほうが覚えると思ったからだ。

 ただ大声で俺の名前を呼ぶのはやめてほしい。ヒメナをはじめ職員一同驚いてるじゃないか。


「マーダレスベアを倒したんですか!?一人で!?」

「そう!しかも2頭!」

「2頭!?」


 え、そんなやばい相手だったのか。ヒュドラよりは下だよな?

 なんかもう騒ぎが大きくなる一方だったので、レオノルと代わることにした。


「まあそういうわけだから、遺跡の調査項目は途中で中断した。この場合どうなる?」

「あ、はい。その場合は事情にもよりますが、今回の場合は全額支払われます。また今度、別でまた調査を行うのでご同行をお願いしたいのですが」

「それならこいつらを同行させる」

「え!ウィリアム来ないの!?」


 報酬の入った袋を受け取り、そこから自分の分だけ抜き取るとレオノルに渡す。


「全員で行く必要もない。それに依頼を受けるのは一回といっただろ」

「ええ!?やだ!また一緒に行こうよ!」

「いいから、見舞いに行ってこい。お前らヴァネッサが治らないといけないだろうが」


 このままだと騒がしくなりそうなので、無理やり納得させて、見舞いに行かせる。

 報酬は受け取ったが、あの熊について気になるので聞こうとすると、ヒメナがジト目で見つめてくる。


「ウィリアムさん、ハーレムでも作る気ですか?」

「何言ってんだ、どこにハーレム要素がある。あいつらとは一回だけだ」

「つまり都合のいい関係ってことですね」

「本当に何言ってるんだお前は」


 そもそも俺があのパーティと関わることになったきっかけはヒメナのせいだろうに。

 馬鹿なことを言い合いながら熊について聞くと、あの熊は先ほども出た通りマーダレスベアというらしい。

 かなり凶暴で大きく、毛皮も硬いために危険度はヒュドラの幼体より高いそうだ。普段は森の最奥に住んでいるがまれに浅いところに出てきて生態系に大きなダメージを与えるらしい。

たしかにあの熊相手にハンターが数10人いても意味がなさそうだ。ヒュドラのように対策のしようがない。

 なるほど、そんな怪物を一人で2体も倒したならそりゃ話題にもなる。


「報告が本当なら臨時報酬が出るかもしれませんよ」

「そうか、それはいいな。どれくらい出るんだ?」

「さあ?」

「マーダレスベアなら1頭当たり金貨10枚はくだらないですよ。2頭ともなれば30近くいくかもしれません」


 ヒメナが首をかしげると横にいたフィデリアが教えてくれる。今は受付が空いているから彼女も暇なのだろう。


「それにしてもウィリアムさんはいろいろな大物を仕留めてきますね。大物を引き寄せるにおいでも発してるんでしょうか」

「ヒュドラはともかくこっちはただの偶然だ。もしかしたら報告にないだけで被害は出ていたかもしれないぞ」

「それなら心配ないと思いますよ。ここ最近は住民もハンターも怪我はありますが行方不明とか不審死はないそうですし」

「そりゃよかったな」


 まあたしかに2頭もあんなものが出てきたのは驚いた。実際今回はレオノルが土壇場で加護を発動させなければヴァネッサは死んでいただろう。

 腹の立つ連中だが、目の前で死なれるのは寝覚めが悪い。


 ……それにしても一攫千金ねぇ。

 そんなもんないと現実教えるつもりだったのに、ふたを開ければ大物二体、依頼1つで金貨30枚。目の前で俺が一攫千金しちまうたぁ皮肉なもんだ。

 そんなことを思っていると受付2人が好き勝手なことを言ってくる。


「あれですかね、英雄は試練を受けるって言いますし、もしかしたらウィリアムさんは本当に英雄なのかもしれないです」

「そうかもしれないわね、なら今のうちに唾つけておいたほうがいいかしら」

「駄目です!フィデリアさんが相手だと勝ち目ないじゃないですか!」

「英雄色を好むっていうし、いけるんじゃないかしら」

「お前ら好き勝手言ってんじゃねぇ。けほども興味ねぇわ」





 ギルド近くの治療院。

 そこの一室で、普段は喧しい少女が3人、静かに座っていた。


「アタシ、ハンターやめるよ」

「本気?ヴァネッサ」

「本気だよ、マルセラ。村じゃかなり強いと思ってたのにね。とんだお山の大将だったよ」

「でも一攫千金を狙おうって言ったじゃない!」

「言ったよ、今でも狙いたいと思ってる。でもね、アタシはあんたたちを守れなかった。偉そうなこと言ってたのにいざとなったら役に立てなくて、挙句レオノルとあいつに守られた。あんなに文句言ったのにあいつに守られたんだ」


 ヴァネッサがクマに襲われる直前まで、ウィリアムに反抗的だった。行動こそは従っていたが態度や口調から納得していなかったことをみんな知っている。

 素直に言うことを聞かなかったのは自分が強いと思い込んでいたからだろう。イノシシにだって周りの二人を気にしなければ勝てると思っていた。


「力で役に立てないならアタシはハンターとしてやっていく自信がない。レオノルはリーダーに向いてるし、マルセラは頭がいい。でも私は何もない」

「そんなことない!私だって今回は何の役にも立てなかった。逃げ回ってただけ。遺跡の調査だってほとんどウィリアムが教えてくれたようなものだし」

「私もそう、リーダーならどうするか教えられた。今までずっと考えなしにやってきたから二人にハンターの活動も満足にさせられなかった。なにより大きい声出したせいで熊に気づかれてみんなを危険にさらした」


 各々が自分の力不足を嘆いていた。普段けたたましい彼女たちだが、今回は本気で死にかけた。こうして無事に帰ってきて改めてハンターの怖さを思い知り、無謀な一攫千金などとても狙おうとは思えなくなっていた。


「じゃあ、みんなでハンターじゃなくて別の仕事探す?学も何もないけどいざとなれば村に戻ればいいし」

「そうだね、それもいいかもね」

「ようやくこの町にも慣れてきたところだったのにね」


 レオノルの言葉にヴァネッサ、マルセラが頷いた。すると来客が現れた。


「なんだ、無事だったことを喜んでると思ったら随分とシけた面してんな」


 竜のような仮面をつけた男、ウィリアムだった。

 ウィリアムが部屋に入り、空いた椅子に座って様子を聞いてくる。


「調子はどうだ」

「おかげさまで命は無事さ、心はズタズタだけどね」


 ウィリアムの言葉に弱音で返す。


「なんだ、ビビったのか。あんなにでかい口をたたいたのに」

「そうだよ、あんたの言う通りさ。大した力もないのに粋がって、パーティを危険にさらした。今回だけじゃなく今までもそうだったのさ」

「私たちもハンターとしてやっていくのに必要なものを何も持ってないの」

「だからハンターはやめて他の仕事探そうかなって。駄目なら村に帰ろうともね」


 ヴァネッサに続き、マルセラとレオノルが続く。彼女たちの言葉をウィリアムは静かに聞いていた。そして静かに笑った。


「なにがおかしいのさ」

「そりゃ笑えるさ。思った以上に今回の依頼がお前らに効いたみたいでな」

「「「?」」」


 ウィリアムがなぜ笑ったか理解できなかった。


「お前らはハンターを初めてどれくらいだ?」

「1か月ないくらい?」

「たったそれだけじゃないか」


 ウィリアムが今までにないくらい穏やかな声で。


「たった1か月でやめるのか」

「仕方ないでしょ。私たちにはハンターに必要な力も知識もないんだから」

「それはやめる理由にはならないな」

「どうしてよ」

「お前らは今回の依頼でハンターに必要なものが何か理解できたか?」

「したつもり。そしてそれが私たちにはないことも」

「……これは以前、俺がハンターを始めたばかりのころに言われた言葉だ」


 ウィリアムがハンターを始めたのは少女たちと同じ時期、エルフと共に過ごした時期だ。


「知らないなら、学べばいい。見たことがないなら、見ればいい。力がないなら、身につければいい。お前らの歳で、ハンターを初めて1か月足らず、それも以前は小さな村にいたとなれば、知らないことなんて山ほどあるだろう」

「「「……」」」

「どんなに賢い人間も、かつては何も知らない馬鹿だったんだ。どんなに強い人間も、かつては剣も満足に持てない鈍間だったんだ」

「そうかも、しれないけど……」


 それはかつて彼自身が、エルフの賢人に教わったこと。


「お前らは小さな村を出て、せっかく大きな世界に出たんだ。これからは多くのことを知り、学べるんだ……ここでやめるなんてもったいないじゃないか」

「……ウィリアムは私たちがハンターとしてやっていけると思うの?」

「それは今回の依頼で判断しろ」


 そういわれた彼女たちの顔には再び影が差す。気にせずにウィリアムが最初の目的を尋ねる。

 

 「今回の依頼、どうして俺が同行することになったんだ?」

 「……それは、ハンターとして必要なことを知るためにお願いした」

 「そうだ、今回の目的は依頼を通して、ハンターとは何かの片鱗を知っただろ?自分に足りないものがわかったんだろ?……なら今回の冒険はこれまでにないほどの成功じゃないのか?」

 「私たちハンター続けていいの?」

 「自分の人生だ、自分で決めろ。ハンターとして生きるには覚悟が必要だ。それは自分で決めるしかない。それにハンター以外にも生きる道なんて山ほどある。もっと安全に稼げる道もな。ま、精々がんばれ」

  

 そういうとウィリアムは立ち上がり、レオノルに袋を渡した。

 受け取る時にじゃらじゃらと硬貨が擦れる音がしたことから、3人はその中身が何かを察した。


「え――これってっ!?」

「治療費の足しにでもしろ。じゃあな」


 ウィリアムは部屋を立ち去る。部屋に残った3人の顔は心なしか、潤んでいた。





「で、どうだったんだい?ウィリアム」

「散々だったよ、危うく一人死なせるところだった」


 遺跡調査の翌日、ギルドの片隅にエルフの3人と一緒にいた。

 サーシェスが昨日のことを聞いてきたので、答えた。


「マーダレスベアなんてもんが2頭も出てきてな。挟み撃ちになったし、遺跡は壊れたし散々さ」

「相変わらず桁外れだね。普通全滅するよ、それ」

「ま、あいつらもこれに懲りただろ。結果だけ見れば俺は金貨20枚の稼ぎだ。残りの十枚はまあ、奴らにやったがはした金だ」

「金貨十枚って結構な額だよ、それ」


 ギルドで報告してヒメナとフィデリアと話しているときにクマ二頭の討伐報酬である金貨30枚を受け取った。

 いやぁ、もうほくほくだね。ヒュドラの分も含めると、この国を出るための資金が十分すぎるほど溜まった。

 こんだけありゃ多少あの連中に融通してもいいかなと思って、病院に見舞いに行った。

 あいつらのことだから無事を喜んでると思ったのに、ずいぶんと落ち込んでいたからすげぇ面白かった。


「その3人ちゃんとねぎらった?」

「ん?労ったりなんかしてないぞ。あいつらの頼みを聞いたのは、ハンターに必要なことを教えるって話だったからな。素直になったあいつらに、最後にそれっぽいこと教えて終わりだ。ま、やめるんじゃねぇ?」


 やめるのはもったいないみたいな社交辞令を言ってやったが、あの依頼の内容を考えれば、ハンターを続けようなんて考えないだろう。

 死にかけてもやりたいなんて考えるやつは、ただの馬鹿だ。


「それよりウィリアム、今日はどうする?暇なら依頼受けるか?」


 フェリオスが今日の予定を聞いてきたので少し考えると首を振る。


「実は昨日ので剣が折れてな。新しいものを買おうと思う」

「そうか、では1日ほどの依頼を受けてくるとしよう」


 そういって全員が席を立つ。3人は依頼を受けるために受付に向かうが、俺は町へ行くため出口に向かう。

 すると入ってきた3人娘とかち合った。


「あ!ウィリアムだ!」

「おはようウィリアム!これから依頼?」

「また一緒にいかない?」


 なぜか距離がとても縮まっている。ヴァネッサでさえ一緒に依頼を受けようと誘ってくる始末だ。なぜ?

 あんなに落ち込んでたじゃないか。昨日の今日でなんで?


「近い、離れろ。というかハンターは続けるんだな」

「もちろん、ウィリアムにあんなこと言われたらやるしかないよ!」

「うんうん。かっこよかったね!知りたいなら知ればいい!」

「強くなりたければなればいいってね!」


 わかったからギルドの入り口でそんなことを言うのはやめてくれ。

 つーかこんな好意的に取る?バカなのか?

 ただ3人は一皮むけたようで、以前のように余裕がないことで来るヒステリックな叫びに似た大声じゃなく、単純に楽しいから声が少し大きくなっているようだ。前より振る舞いが落ち着いた気がする。

 そう思っていると後ろに気配を感じる。


「そうか、ウィリアムがそんなこと言っていたか」

「げっ」

「フェリオスの言葉をしっかり覚えていたようだ」

「さすがだね~、確かにハンターには必要なことだからね」


 エルフ3人が小声で後ろでささやいた。

 冷や汗をかきながら、全力でギルドから逃亡する。

 本当に仮面をかぶっていてよかった。



次回、「運命の出会い」

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