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夢見る未来に福音を  作者: 相馬
第二章《廻り廻る出会い》
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第三話 うるせぇやつら

 ヒュドラ討伐の翌日、俺は前衛や荷物持ちを欲している複数のパーティと面会していた。

 話した条件もこちらの事情も理解してくれたため、今後は複数のパーティに参加していくことになった。昨日、ヒュドラ討伐の話を聞いたのか、仮面をつけているにも関わらずどのパーティも好意的だった。


 問題だったのは次に会った魔法の講師をしてくれる人物との面会だ。

 予想通り全員が魔術と勘違いしていた。今目の前にいる壮年の男性もそうだ。


「なんじゃ、魔術が知りたいと違うのか?」

「知りたいのは魔法だ。魔術じゃない。似ているし珍しいのもわかっているが魔法だ魔法」


 こんな感じで勘違いした人も来るし、ハンター以外にも、ただ物知りな人が来たりした。思ったより人が来ていたのは恐らく報酬がいいからだろう。2時間で銀貨1枚だ。危険なことをせずに手に入る額としてはかなり高額だ。


 ただそれだけの価値はあるものだ。見つかるとは思っていないが、どうせならやろうという心づもりでやっている。


「その様子だと芳しくなかったようだな」

「魔術と魔法を混同していたよ。追い返すのに苦労した」

「人間の社会ではそんなものだろう。そもそも魔法など我らエルフで扱えるものは多くない」

「エルフには魔法使いがいるのか?」


 聞くとエルフは魔法に高い適性があるらしく、魔法を使えるものが時折現れるらしい。


「かつての英雄、魔法使いのエルフの血によるものと言われているがな」

「実際は英雄が現れる以前は多くの魔法使いがいたらしいが今は数が少ない。エルフですらそうなのだから人間はより少ないだろう」

「なにか条件でもあるんですかね」


 3人が教えてくれる。だいぶ打ち解けて酒が入っていなくても素の話し方になってきた。


「今日は我らは休みにするが、ウィリアムはどうする」

「それならさっき会ったパーティの一つと依頼でも受けるとするさ。いつ戻ってくるかはわからないがな」


 そういって3人と別れる。3人が俺を誘った目的はもう達成されたので一緒にいる必要はないが、俺の事情を汲んでくれたのだろう、これからも予定が合えば一緒に活動する約束をした。





 それから数日は複数のパーティに参加さてもらい、ハンターとしての技術や知識を学んだ。エルフたちとは違う依頼を受けていたり、構成ややり方の違いがあるので、やはり複数のパーティに参加させてもらえてよかった。

 

 今日も依頼を無事に終え、ギルドの受付で報告をしている時だった。

 横の受付カウンターで姦しい声が聞こえてきた。


「ねぇ、こないだ貼ってあった募集の張り紙がないんだけど!」

「あ、あれは募集した人がもう十分だってことで取りやめてしまったんですよ」

「なんでよ!ていうか私たちの募集もすぐ横に貼ってあったのになんで来ないのよ!」

「そういわれましても……」


 見ればこないだイノシシに襲われていた女3人組が受付のヒメナに絡んでいた。

 男一人がいないところを見るに辞めたとかか。そのせいで新たに募集しているとかそんなところだろう。


「ああ、あのパーティか、いよいよ参加する男がいなくなったか」

「知ってんのか?ミゲル」

「なんだ、知らないのか?男漁りにハンターやってる馬鹿どもさ。ハーレムだとか言って参加した男どもはことごとく嫌になってやめたよ。実力もないのにハンターやってるからな」


 今日一緒に活動したパーティのミゲルに聞く。すると同じパーティのリリアナが溜息を吐きながら言う。


「いやになるね、これじゃあ女ハンターの評判が下がりかねないし」

 

 女のハンターとしても見るに堪えないようだ。関わらぬが吉として別のフィデリアがいる受付で話をして問題なく報酬をもらう。

 さあ、帰ろうとすると、ここで問題が起きた。


「いいからそのハンターを教えてよ!それかここに呼んでよ!」

「いやですからもう募集してないんですよ……」

「話せばわかってくれるかもしれないじゃない!」


 ヒメナが必死に説得しようと思っているがうまくいっていない。


「ウィリアムさん……」

「なんだ?」

「助けてあげてくれませんか?」

「なんで俺が。普通職員がやるもんじゃないのか」

「いま手が空いているのがいませんので……」


 フィデリアが俺に解決しろと言ってきた。なぜ?俺は関係ない。

 そう思っているとヒメナが俺に気づいた。すると泣きそうな顔と声で呼んできた。


「うぃりあむさ~ん!」

「……ウィリアムさん」

「わかったよ。行けばいいんだろ」


 ヒメナとフィデリアの二人に頼まれたので心底嫌だが仕方ない。後で文句を言われるのも面倒だ。受付と仲悪くなると毎回の報告が嫌になりそうだ。

 ヒメナのところに行って用件を聞く。


「ああ!あなたは!?」

「呼んだか?」

「うう、すみません。この人たちがウィリアムさんがこないだ下げた募集に応募したいそうです」

「無視すんな!ねぇちょっと助けてよ。困ってるのよ」

「キャンキャン騒ぐな。うるせぇな」


 ああ、俺が募集してたパーティ参加の話だったのか。

 ヒメナと話をしようとするとリーダーなのか、一人の女が耳元で騒ぎ立ててくるのでキレそうになる。迷惑だから場所を移して話をすることにした。


「で?俺に何の用だ」

「あなたがあの募集をしてた人ね?私はレオノル。こっちがマルセラとヴァネッサよ」

「どうでもいいから用件をはなせ」


 関わりたくないし覚える気もないので聞き流す。

 リーダーが赤髪で多少は鍛えてるようだが身のこなしは素人だ。マルセラと呼ばれたのは背が小さい茶髪、ヴァネッサは荒っぽい感じの背が高い女だ。見事に身長はヴァネッサが大、レオノルが中、マルセラが小だ。

 全員年のころは10代後半といったところだ。大中小、それで覚えよう。


「ちょっとこっちが自己紹介してるのに何よその物言い!」

「訊いてないからな。必要があるなら自己紹介する。いいからとっと話せ」


 そういうとしぶしぶといった体で話し出す。

 彼女たちはこことは違う小さな村の出身だそうだ。このハンターの多い町で一旗揚げようとこの町に来たらしいが、ハンターとしての経験がないので誰かひとり前衛を誘って戦い方を見たかったらしい。男のほうが頼りになるとみて募集の際にはできれば男で!なんて書いたそうだ。


「一応訊くが男漁りに来たわけじゃないんだな?」

「違うにきまってるでしょ」

「ちょっとはイケメン来てほしいなと思ったけどね」

「ウィリアムって言ってたよね、仮面とってよ」


 順に中大小が喋った。小さいのが仮面に手を伸ばしてきたので叩いて払う。

 大と小は怪しいが中は一応真面目にハンターとしての活動の仕方を学ぼうとしていたらしい。ただ募集の書き方がよくない。

 あれでは男漁りに来たと思われるし、やってくるハンターは女目的でまともなのは少ないだろう。


 事実、ろくなハンターが来なかったようで大したことは学べなかったらしい。

 それでだんだんと嫌になってヒステリーになっていたとのこと。

 俺はヒステリーな女は大嫌いなので、あまり関わりたくない。


「聞いた話じゃあなたもハンターについて知るためにあちこちのパーティに参加してるらしいじゃない。私たちにも紹介してよ」

「無理だね。今俺が参加してるパーティには3人も抱えられるほどの余裕があるのはいない。精々一人一人面倒を見るならいけなくもないが」

「それいいわ!それなら時間は少なくても情報は多くなるわね!あなたって賢いのね!」

「馬鹿かお前らは……一応聞いて来るが期待するなよ」


 呆れながらも時折一緒に依頼を受けるパーティに聞いて回ったが駄目だった。評判が悪すぎる。

 ……そもそも多分、こいつらは1人になったら何もできない。いや、三人でも何もできてないけど。


「駄目だったよ」

「どうしてよ!一人ずつくらいいいじゃない!なんでダメなのよ!」


 喚く女どもを見てイライラしてきた。自分の行動くらい省みろ。

 そういえば前の世界でも女子高生の中にはこんな風に姦しいのがいたなと思い出した。


「日頃の行いだろ。悪いことは言わねぇから他の仕事を探したほうがいいぞ」

「いやよ、ハンターになれば一攫千金も夢じゃないもの!」


 中がそういうと大と小もそうだと続く。頭が痛くなってきたのでここらでさよならする。


「あぁそう。じゃあ頑張れよ」

「ええ!ちょっと助けてよ!」

「うるせぇな、俺も暇じゃないんだ。いつまでも構ってられるか」

「そんなこと言わないで!こないだ助けてくれたじゃない!今回も助けてよ」


 ……いい加減、ぶちギレだ。大声で怒鳴りつけたいがここはギルド。何とか我慢する。

 ここはひとつ、現実を教えてやるとしよう。


「いいだろう、一度だけ一緒に依頼を受けてやる。俺のいうことが聞けるならな」





 都市遺跡クウェルカ。

 そこは中層の北東にあるセビリアのさらに東に行ったところにある。

 セビリアに隣接した森を東に抜けた後には切り立った崖が存在し、その上に堅牢な石造りの美しい街並みの遺跡がある。ただこの遺跡は太古の昔に滅んだとされ、今は堅牢だった石造りの建物も草が生え、壊れている箇所がある。


 そんな都市遺跡のクウェルカに調査依頼を受けてきた。

 一般的にハンターが受ける依頼には3種類あり、魔物や動物を狩る討伐依頼、必要な植物や鉱物を取ってくる採取依頼、そして遺跡に潜り宝を探す調査依頼だ。

 それぞれを専門にするハンターをモンスターハンターとかプラントハンター、トレジャーハンターというが実際は専門にやっているハンターは少ないのであまり呼ばれない。


「どこもボロボロね。こんなところにお宝なんてある?」

「ここまで来るのに疲れちゃったよー」

「いったん休憩しようよー」

「……わかった。一度休憩する。荷物の点検と調査の準備もしておけよ」


 そんな遺跡にアホ女3人を連れてきていた。今はちょうどついたところでうるさくなってきたので休憩にする。


 ここまで来るのにも大変だった。

 いうことを聞けと念押ししたにもかかわらず、いうことを聞かずに休もうとするわ、大声でしゃべるわ、勝手に動物に向かっていくわで散々だった。


 森の中、大声で怒鳴るわけにもいかず、静かにぐちぐちと説教してやった。さすがに何度も説教したので、だいぶ勝手な行動は減ったがどうにも彼女たちはお遊び気分が抜けていない。そのうえ中途半端に夢を見ているので困る。


 だからここで一攫千金の代表である遺跡調査に赴いた。ここで何もないとすれば現実を見るだろうと思ったからだ。


「ねね!ここでお宝を探すのよね!」

「話聞いてたか?調査だ調査。異常がないか確認するんだよ」

「でも調査してお宝があったらもらってもいいのよね!?」

「いいわけねぇだろ。ギルドにもっていって報告するんだよ。勝手に持って帰ったら盗賊と一緒だ」


 そう、今回は依頼としてきているのだ。だからないだろうが宝の有無も調査して報告する義務がある。これがないのは依頼として出されていない遺跡か、先行調査として派遣されるときだけだ。

 前者は報告する義務などないし、後者はリスクがあるからその見返りのようなものだ。

 今回は定期的な調査依頼。ギルドが管理している遺跡だから勝手なことをしてはいけない。


「え!?こういうトレジャーハントって宝は持って行ってもいいんじゃないの!?」

「頼むからもっと静かにしゃべれ。今回はギルドが管理する定期的な調査依頼だ。だから駄目だ」


 仕方ないので、その辺もしっかり教えてやった。中と小は聞いていたが大は聞いてない。

 ついでに調査する項目も一緒に教える。結構な量だ。


「うえ。こんなに多いの?めんどくさい」

「私はパス。よくわかんないし」

「あ!ずるいわヴァネッサ!あんただけ!」


 大が勝手なことを言い出したのでいい加減に怒る。


「何言ってやがる。全員参加だ。パスなんかない」

「でも私いても役に立たないし」

「誰もお前らが役に立つなんて思ってない。お前らはハンターとして活動するために経験豊富なハンターを誘って学ぼうとしたんじゃなかったのか?」

「レオノルが勝手に言ったことだ」

「リーダーは彼女だろう。なら従え。従えないなら出ていけ。パーティの甘い汁だけ吸って勝手な行動をとるやつなどハンターには必要ない」

「ちょっと言いすぎじゃない!」


 小が抗議してくるが無視だ。ハンターの仕事は命に係わる。一人がおざなりにすればパーティ全員が死ぬかもしれない。甘えたことをいっていい仕事じゃない。


「私はこの中で一番強いんだ。好きにしたっていいじゃない!」

「じゃあ聞くがお前はこの森で一番強いのか?」

「そ、それとこれとは話が違うじゃないか」

「違わない。俺たちと別れてお前ひとりで魔物に襲われて死ぬか、2人が魔物に襲われてお前が勝手な行動をとったせいで死ぬか、どちらがお望みだ?」

「ま、魔物が現れたら私が倒してやるさ!」

「つまり他2人が死ぬことがお望みか。大したパーティだ」

「そうはいってないだろ!魔物を倒して二人を守るって言ってるんだ!」

「仲間と一緒に行動できないお前が?笑わせるなよ」


 彼女はなぜハンターがパーティを組むのか理解していない。ただの仲良しこよしでやってるわけじゃない。

 確かに彼女の言う通り、パーティ内には役割がある。彼女が一番強く、戦闘を担当しているなら調査は他のものにやらせるのは手だが、だからといって別行動するなどありえない。

 なぜなら調査している仲間を守らなければならないからだ。


 いまだに怒り心頭といった感じの大に静かにキレながら教えてやる。これで少しは落ち着くかと思ったが、まだ頭に血が上ったままらしい。

 ただ調査するとなったらついてきたので、理解はしたようだった。

 3人に遺跡調査の仕方を教えながら順調に進んでいると、遺跡の奥のほうで異変があった。


「なんだこれは?」

「なんかおかしなことがあったの?」


 小が聞いてきた。大が脳筋だとすれば小はちゃんと考えるほうだ。ただ腕っぷしはそこまで強くない。

 遺跡にあった異変とは、一部の石造りの家が壊されていることと、真新しい生き物の糞らしきものがあったからだ。


「ここに排せつ物がある。壊された後も比較的新しい。何かが棲みついたな」

「何かって何?」

「さてな。ぼろいとはいえ石造りの家を壊せるほどだ。イノシシ程度じゃすまないだろうな。ヴァネッサ、周囲を警戒しろ」

「やってるよ!」


 石造りの家が何軒か壊されていた。元の状態がわからないが周囲の家からして原型はとどめていたはずだ。それが無残にも壊されている。これができるなら相当大型だ。

 魔物だとしたらこの3人を守りながらでは分が悪い。ここは途中で引き揚げるべきだ。


「全員、引き返すぞ。ここは危険だ」

「ちょっと待ってよ!まだ何も見つけてないよ!」

「調査依頼だぞ?何度も調査が行われている遺跡なんだからあるわけないだろ」

「でもこのままじゃ大損じゃない!」

「ちゃんと調査して報告すれば報酬がもらえる。赤字にはならない。だから戻るぞ」

「でも最後まで調査してないよ!これじゃその報酬ももらえないでしょ!」

「馬鹿、大声を出すな!近くにいたら気づかれる!」


 そこまで言った時だった。僅かに地面が揺れた。即座に態勢を低くして周囲を警戒すると、3人も気づいたのか似た態勢をとる。

 揺れが近づいてきて、その原因も見えるようになった。

 熊だ。それもかなり大きく2足で立った姿は4~5メートルくらいある。口には捕らえた鹿のような動物を咥えている。

 全員に見えるように下がれのハンドサインをする。


「ねぇ、それ何してるの?」

「下がるんだよ!」


 しまった、ハンドサインを伝えていなかった。小声で伝えたが遅かった。


「ゴアァアア!」

「ちっ!3人とも下がれ!遺跡から脱出しろ!」

「あなたはどうするの!?」

「あとから行くよ!走れ!」


 無駄によく通るレオノルの声がクマの耳に届いた。そのせいでクマに気づかれた。


 3人に背を向け、クマに向かって槍を抜き構える。3人は指示通りに遺跡の外に向かって走っていった。無事に出れるといいが。

 残った俺の前に、クマが迫る。


「ガアアアアッッ!!」


 汚い唾液を垂らしながら叫んでくるクマ。

 本当にもう――


「どいつもこいつも!うるせぇな!!」



次回、「ハンターの覚悟」

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