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夢見る未来に福音を  作者: 相馬
第二章《廻り廻る出会い》
32/323

第二話 ヒュドラ討伐

 ヒュドラ。

 それは前の世界の神話にも登場する化け物だ。

 それがこの世界では魔物として普通に存在するのだから、もしかしたらここは神話の世界と近いのかもしれない。


 話は逸れたが、ヒュドラとは沼地に生息する水蛇で九つの頭を持ち、強い再生力と猛毒を持つという。

 今回討伐するのはその幼体だ。


「ヒュドラを幼体のうちに見つけられたのは幸運だ。成体になると手が付けられない」


 イノシシを狩ってから数日、ギルドのいつもの席でヒュドラの話を聞く。


「幼体のうちは再生力も低く、目が発達していないため危険度は下がる」


 オルフェウスが変わらぬ仏頂面で付け加える。ヒュドラの幼体はそのほとんどを沼の中で過ごすため、目が発達していないために攻撃を当てやすく、こちらは当たりにくいそうだ。再生力も低いため、一気に攻めれば倒すことはできる。


「だが幼体でも成人男性以上の巨体を誇り、速さもある。鱗もあるから我らの矢もナイフも通らん。猛毒を吸えば数刻で死に至るために迂闊に近づくこともできない厄介な相手だ」

「だが聞けば森の奥地の沼に引っ込んで出てこないんだろ?急いで倒す必要があるのか」

「ヒュドラは幼体はおとなしいが成体になると住んでいた沼地を出て各地を転々とする。そうなれば辺り一面猛毒だらけになる。成体は討伐も非常に危険なために幼体のうちに倒すことが必須だ」


 成体のヒュドラはさらに再生力が高く、巨大で食事が足らずに獰猛になっていることから非常に危険で、幼体のうちに処理しなければならないという。


 このギルドでは手に負えないとされていたが、彼らエルフは森が腐るのを黙っていられない。

 もしかしたらハンターたちはそれがわかっていたから、彼らの募集に応じなかったのかもしれない。


「昨日、貴殿が言っていたことが事実であることは理解した。だがヒュドラ相手にどう戦える?」

「目で見てないから何とも言えないな、一般的にはどう殺す?」

「沼地から引きずり出し、飢えるまで拘束する。普通はハンターを何十人も必要とするがここは小さな町だ。ヒュドラ討伐に出れるほど腕の立つハンターはそう多くない」

「他のギルドから集められないのか?」

「ここ最近は、ハンターのほとんどがマドリアドに向かった。少し前に大きな戦があり、いまだにハンターたちはそちらに駆り出されているから応援はしばらく難しいだろう」


 確かにマドリアドは国の軍と事を構えることになった。そのための人員としてハンターを多く集めていたし、いまだに収束したとはいいがたい。

 ヒュドラが見つかったのはハンターの多くがマドリアドに向かった後で、見つけたのは彼ららしい。


「なら普通に殺すしかないな。必要なものを集めよう」

「簡単に言うが算段はあるのか?幼体とはいえヒュドラだ。力押しではこちらが不利だ」

「殺し方の前例ならある。やるだけやるさ」


 少し疑った様子だが、準備はそんなに大変なものでもない。無理そうなら引き返せばいいのだから、安全にだけは気を付けてやろう。

 そう言って席を立ち、3人で準備をする。


 ヒュドラのいる沼地まで徒歩で3日ほどらしい。往復で1週間以上かかるためにそれなりに食料や消耗品を調達しなければならない。

 そうして準備をして、夕方ごろに出発した。


「夕方に出る理由は?」

「この先に木を切るためにある小屋があってね。借りることができるからそこで一泊してくんだ。野営の準備がいらないから夕方でもいいのさ」


 わからないことがあれば3人が教えてくれる。

 俺がパーティに応募した理由を知っているから、彼らは嫌な顔せずに丁寧に教えてくれるのでこちらも気兼ねなく聞く。


 その後も目的地まで時折、動物や魔物に出くわすも討伐したり、避けたりして順調に進んだ。


 そしてヒュドラが生息する沼地に到着した。

 そこは大量の死骸が腐ったようなひどい臭気が立ち込めており、沼の色は気色悪い灰色、時折何かが噴き出しているのか、ごぽごぽと泡が立っている。

 周囲に動物はおろか魔物の気配もない。

 なるほど、これは確かにヒュドラがいると明らかだ。


 3人と目を合わせ、作戦を開始する。

 3人は猛毒が届かないような高さの木の上に登り、弓に矢をつがえる。

 そんな中、俺は槍を構えて近くにあった、抱えないと持てないような重さの木やら石やらを、大きな音が鳴るように大量に沼に放り投げる。


 ヒュドラの幼体には目がない。ではどうやって獲物を捕まえるのかというと音といった振動だ。だからこうして音を立てる。

 石が落ちると水っ気のない、どぷっとした音が鳴り、汚い泥が舞う。

 そして数舜ののち――


「ヴァアアアァーー!!」


 沼地の中央部分がまるで小高い丘のように盛り上がり、そこから泥を纏った巨大な蛇たちが叫び、姿を現した。


「うるせぇな」


 首だけでも見上げなければいけないほどの大きなヒュドラ。これで幼体とは、なるほど、成体になると手が付けられないというのも納得だ。

 

「ウィリアム!目が少しできている!無理するな!」


 さすが森の狩人のエルフ。フェリオスに言われてよく見ると完全ではないが、目が少しできているように見える。さながら足が生えてきたオタマジャクシ状態だ。


 無理はしないが戦えないほどでもないので、ハンドサインで続行とすると木の上から火の手がチロチロと見える。準備はできたようだ。

 俺は仮面に手をやってフィルター代わりの布を確認してヒュドラに言う。


「さあ、苦しませずに、殺してやるぞ」


 宣告をしてこちらを見たヒュドラに突撃する。





 9つある首のうち5つの首が牙をむいて襲い掛かり、残りの4つの首が毒が混じった息を吐く。


 猛毒をよけながらも槍の間合いに首が入った瞬間に、サイドステップで角度をつけてから斬り飛ばす。斬られた首が再生しようとしていたが、飛んできた火矢によって傷口が焼かれた。エルフの矢だ。


 移動中に見せてもらったがエルフの弓の腕は凄まじい。木の上を移動しながら、走るイノシシの眉間を射抜いたときは感動した。


 残った首が耳障りな鳴き声を発するが無視して短剣を開いた口に投げる。するとやわらかい口の中に短剣が刺さり、悶絶したようにのたうち回る。あの首はしばらく放っておく。7つになった首は変わらず向かってくるので痛覚はどうなっているのか気になる。

 それぞれの首は独立しているのだろうか。それとも痛みとは違う理由でのたうち回っているのだろうか。


 走っているとだんだんと沼地のために動きづらくなってきた。できるだけ先ほど投げた木や石の上を走っていたがさすがに限度がある。

 だから戦いやすい平地に連れて行こう。


 新たに噛みつこうとしてきた首を寸前で躱して切り落とす。簡単そうに聞こえるかもしれないが、一太刀一太刀が渾身の一振りだ。

 これで残りは6つ。


 さらに首一本を切り落とす。だが即座に残った首が全部そろって同時に噛みついてきた。

 これはさすがにさばききれない。

 迷わず後退すると、いくつかの首がその場から大量の毒を吐き出してきた。

 ただ目が完全ではないからか、いくつかは明後日の方向に向いている。


 そんななか、一つの首が襲い掛かってきた。


 ――いまだ。

 槍の間合いの内側に入ってきた首の牙をよけてがっつり組み付く。


 するとほかの首が毒を吐き出すのをやめて、一斉に大口開けて俺に襲い掛かってきた。

 このままじゃ、猛毒滴る牙に革鎧事貫かれる――!


 その瞬間に、上空からエルフの矢が次々と降り注ぎ、今まさに食いつかんとしたヒュドラの首を貫いた。


「「ギャギシャーーーー!!」」

「ナイスだ!」


 ヒュドラがひるんだその瞬間に。

 首を持った俺はヒュドラを思いっきりぶん投げる。


「ふんっがぁあああ!!」


 ヒュドラの首の根元にある胴体が、俺の体を中心に円を描くように宙を舞う。

 胴体が俺の直上に来た瞬間、俺の腕からなにかすっぽ抜ける感覚に襲われ、途端に重さを感じなくなった。


「ん?」


 少し遅れて、巨大なヒュドラが地面に叩きつけられ、地面を揺らすほどの大きな音が鳴り響いた。

 見ると俺の腕の中には、すっぽ抜けたヒュドラの首が残って、引きちぎれたような跡が残っていた。


「ヒュドラって投げられるんだな」


 我ながら馬鹿な真似をしたと思うが、いけると思った。ヒュドラの大きさは成人男性並み。この個体は少し育っているが胴の長さは1mちょい、首の長さも2m弱で成人男性二人分がいいところだろう。この体なら、泥が付いているとはいえ投げられないことはないと思ったのだ。


 あと昔、授業で柔道やってたしな。え?あまり関係ない?知らんがな。

 そうして陸に上がったヒュドラはのたうち回っていた。まだ成長途中だから満足に陸を歩けないのだろう。


 切り落とし、焼いた首が3つ、すっぽ抜けた首が1つ、短剣が刺さって毒のはけない首が一つ。残りは半分以下の4つ。ましてや相手は陸地でまともに動けない。


 対してこっちは健在な4人。俺は槍と短剣一つ、片手剣が一つだ。

 問題なく行けそうだ。何も考えずに首を斬ればいいだけだ。固まって襲ってくる蛇が4匹。武装しているのだから何の問題もない。

 あとはただの作業だった。





 最後の首が焼かれ、残った本体を突き刺して死んだことを確認した。

 辺りには切り落とされた首がそこいらに落ちている。

 エルフ3人が木から降りて、信じられないといった表情でヒュドラの死体を見ている。


「本当にやったのか?あんな作戦で?」

「信じられぬ。本当に人間か?」

「すごいな!はは!こんなの物語の中だけじゃないか?」


 フェリオス、オルフェウス、サーシェスがそれぞれの言葉で驚きを表現している。俺だけで倒したみたいなことを言っているが、彼らの弓の腕がなければまず無理だった。


 ただの蛇を相手にするにしても限界がある。いや、ヒュドラはただの蛇じゃないけど。

 感動もそこそこに死体の処理をする。処理といってもヒュドラの身体は毒だらけなので、燃やすだけだ。


 この辺り一帯はヒュドラの毒のせいで汚染がひどい。元通りになるのは時間がかかるだろう。俺以外の3人もいまは口と鼻を布で覆っている。


「サーシェスの言う通り幼体とはいえ、ヒュドラと正面切って戦って勝つなど物語の英雄のようだ」

「言い過ぎだろう。毒にさえ気を付ければただの蛇を9匹相手にするのと変わらないだろ」


 オルフェウスがかなり持ち上げてくるので、違うと否定するとまた懐疑的な目で見られた。


「ただの蛇とはな。ウィリアムの中の蛇はよほど危険なのだろうな」

「いいか、ウィリアム。蛇といっても通常よりも強靭な筋肉と鱗を持つ大蛇だ。そう簡単に切れるものではない」

「ましてや、ヒュドラだ。9つの首が連携して次々襲ってくるんだよ?生半可な腕じゃ捌ききれないよ」


 オルフェウスが俺の意見に皮肉で返すと、フェリオス、サーシェスがいかに難しいか説明してくる。


 確かにそう聞くと大変そうだ。だが俺は今までアティリオ先生に防御術をひたすら磨いてきた。連携してくる強靭な首といっても俺にとっては遅いから十分防ぎきれる。防ぎきれるなら隙を作って斬ればいいだけだ。


 ちょっと途中、大胆な行動をしたけど、あんなことやらずとも勝とうと思えば勝てる。

 強靭な首を斬るにしても、鍛えた体とそれなりの武器があれば斬れる。


「今回は3人がいたからな。うまく焼いてくれたから楽だったよ」

「エルフの戦士なら当然だ」


 フェリオスが当然と言った体で答える。

 そんな会話をしつつ、後始末を終えたあとは帰路に就いた。





 ヒュドラ退治の帰り道半ばのことだった。

 前を進んでいたサーシェスが停止の合図を出した。


「10時の方向、誰かが戦っている。人4、獣2」

「位置的にはハンターの可能性が高い。一度様子を見て判断する」


 サーシェスが状況を伝え、フェリオスが判断する。

 10時の方向、つまり左前方にしばらく進むと獣の鳴き声と何人かの大声が聞こえる。

 見てみると女三人に男が一人だ。

 男がイノシシを一人で相手取っているがなかなか苦戦している。一方で女性3人は残ったもう一頭を相手にわめいて逃げ回っているだけだ。それなりに反撃しようとしているがうまくいっていない。


「これは助けに入ったほうがいいですかね?」

「そうだな、まずは姿を見せる。話の通じそうな男と先に接触だ」


 サーシェスの提案をフェリオスが飲み、実行する。

 獣は以前、俺が相手をしたガストボアだ。ガストというのはこの世界では硬いという意味をもつ。持っている槍に使われているエメラルガストもそうだ。


 ガストボアは固い表皮を持つため、刃が通りづらい。倒すなら打撃が有効だが筋肉も発達しているため、なかなか難しい。

 そんなガストボアの前に姿を現し、近くにいた男に声をかける。


「手助けは必要か?」


 俺達が姿を現し、ハンターだと確認すると、男は汗だらけの顔にすぐに花を咲かせた。

 だがその口から出たのはろくでもないこと。


「助かる!こいつは任せた!」

「はぁ!?」


 これにはさすがに驚いた。

 自分たちがまいた種を、助けに来たとはいえ他人に押し付けていくなど憤慨ものだ。オルフェウスも思うところがあるようだ。


 男は俺達に振り返ることなく、一目散に女のもとにかけていく。

俺達が呆気に取られていると、ガストボアは俺たちを無視して、背中を向けて女のほうに向かった男のほうに走っていった。

 俺たちよりも自らを傷つけた男のほうを狙ったようだ。


「おえっ!」


 無防備な背を晒していた男の腰に、思いっきりガストボアが激突し、男が声を上げながら吹っ飛ばされる。

 フェリオスが大急ぎで弓を射り、注意をこちらに向ける。


「ウィリアムは手伝え!他は治療を!」


 フェリオスの指示に従い、彼のほうを向いたイノシシの前に躍り出る。


「動きを止めろ、とどめはさす」

「了解した」


 短いやり取りで役割を決める。突進してきたイノシシの首を回りこむように移動しながら掴み、押し倒す。拘束している間にフェリオスがナイフで首を斬り、とどめを刺した。

 すぐに状況を確認すると、男のほうは気を失っているが息はあるようだ。

 男のほうは二人に任せて、俺とフェリオスは女性3人のところに向かう。


「無事か?」

「だ、誰よ!」

「助けてよ!」

「早く何とかして!」


 イノシシ相手に何たる様だ。さきほどと同じ要領で手際よく仕留める。


「ありがとう、助かったわ」


 女三人のうち、一人が汗を拭きながら礼を言ってきた。

 だがフェリオスの態度はそっけない。


「貴様らの仲間だろう男が倒れている。治療してやることだ」

「ちょ、ちょっと!置いてく気!?」

「そこまで面倒を見る必要はないだろう。町はもうすぐそこだ」


 仕留めた後に男が怪我をしたということを伝えると、フェリオスは関わりたくないとばかりにそそくさと立ち去ろうとする。

 女たちがわめきだすが、様子を見ていたオルフェウスとサーシェスもこちらに来てそのまま立ち去る。

 まだ何か叫んでいたが無視して進む。彼女たちもハンターだ。覚悟はあるだろう。

 というか町はもう目に見える距離だ。


 なにより男の様子を見て人に獣を押し付けるような輩だ。一緒に帰ってこちらが被害にあう可能性を考えると、いらぬ世話を焼く必要はない。





 ギルドに着き、受付に向かう。

 受付はフィデリアではなく、ヒメナという名のまだ若い女性だった。

 受けた依頼がヒュドラ討伐だったことと、討伐を証明するために厳重に管理した首を見せるとヒメナは慌てたように処理をする。


「ひゅ、ひゅどら!?ヒュドラだぁ!」


 叫びながら慌てて奥に引っ込み数人の男が出てくる。どうやら本当にヒュドラのものか確認するようだ。

 ヒメナが騒いだために周りにいたハンターや職員たちもざわついている。


「騒ぎになったな」

「そりゃなるだろうね。だって普通なら大勢でやる依頼だよ」


 俺が小声でつぶやくとサーシェスが答えてくれる。彼は歳が近いから話しやすい。ざっと俺の三倍くらいの歳の差だ。笑えて来る。

 確認が終わったようで職員が下がり、ヒメナが結構な額の報酬を持ってきた。


「こちら報酬の金貨20枚です。ご確認ください」

「確認した。失礼する」

「あ、そちらのウィリアムさんは少々お待ちください」


 呼び止められたので先に3人にいつもの席で待っていてもらった。


「ウィ、ウィリアムさんに何人かパーティ参加の申請が来ています。確認しますか?」

「名簿か何かあるのか?」

「はい、こちらをどうぞ。それともう一つ、魔法の講師の募集?ですかね。そちらも何人か来ていますよ」

「何人も?……魔術と勘違いしていないといいんだが」


 仮面をつけている俺にビビっているのか、おっかなびっくり話しかけてくる。

以前、掲示板に載せた募集が2つとも応募があったらしい。パーティ参加のほうはいいが魔法のほうに何人かいるというのが怪しい。魔法使いはいるかどうかも怪しい存在だ。それが数人いるなんて思えない。知っていながら募集している時点で俺も大概だが。

 とにかくこの2つに関しては明日会って考えることとする。


「あ、あのヒュドラを本当に倒したんですか?」


 3人のもとに行こうとするとヒメナに話しかけられる。


「あ?それを確認したんじゃないのか?」

「そうですけど、だってヒュドラですよ?普通4人じゃ倒せないと思うんですけどどうやって倒したんですか!?」


 早口で捲し立てられたので、後ろを確認して並んでいないことを確認する。どうやらエルフ3人もヒュドラの件で何人かのハンターに話しかけられている。


「そりゃ、首切り落として傷口を火で焼けばいい。そうすりゃ再生しないから殺せる」

「な、なるほど?ヒュドラって再生しなければそうでもないんですかね」

「首さえ切れればな。詳しい話はまた今度な」


 まだ理解ができていないようだったがまた今度にしてもらう。最初は仮面をつけているからおっかなびっくりの対応のヒメナだったが、話しているうちに慣れたようだ。

 席に戻るとエルフ3人が普段話しかけられないハンターに絡まれて少し困ったようにこっちを見た。


「すまないが、これから大事な話があるので後にしてもらおう」

「また聞かせてくれよ!」

「そっちの仮面のもな!今度一緒に行こうぜ」


 そう言ってハンターが去っていくとほっとしたように3人が息を吐く。


「人気者だな」

「おかげさまでな。これから話しかけられることが増えそうだ」


 ヒュドラ討伐はどうやら結構な大事らしい。これで彼らも一躍名をあげることになりそうだ。

 疲れたように見えるが少し嬉しそうだった。


「我らがヒュドラを狩れたのはウィリアムあってのこと。それに乗じているだけの我らに語る資格などあるまい」

「3人がいなきゃ俺だって勝てないさ。4人いてこそなんだから遠慮するなよ」

「人の力を借りて狩ったのだ。自分の手柄だと吹聴するほど恥知らずでない」

「お堅いこって」


 オルフェウスは堅物だ。3人の力あってのことでもあるのに頑なに固辞する。面倒くさい。

 報酬の入った袋を受け取ると、また明らかに等分じゃない。


「おい、どういうことだ」

「今回我らは何もしていない、火を放っただけで最大の功労者はウィリアム、貴殿だ」

「またそれかよ、エルフは人に報酬を渡すのが好きなのか?」

「我らには誇りがある。貴殿の働きで報酬をもらうなど恥ずかしくてできん」

「逆に言うが俺に働いたあんたたちの分まで報酬をもらえと?」

「それが正当な報酬だ」


 めんどくさいこと極まりない。エルフの誇りか塵か知らないが毎度毎度人に金を多めに渡してくる。

 仕方ないのでもらえるものはもらってやろう。ただし、ただではもらわん。


「なら目的を達したということで祝いだな。俺が金を出すからほかのハンターも招こう。存分に語ってやろうじゃないか」

「おい、待て!」

「それは話が違う!」

「報酬返してくれ!」


 ハンターに群がられる光景を想像したのか、オルフェウスが嫌そうな顔をし、サーシェスは少し嬉しそうにしながらも報酬を返せと言ってくる。なんだかんだ賞賛されるのが嬉しいのだろう。

フェリオスは困ったように止めてくるがもうやめてやらない。


 その後はその場にいるハンターを誘ってヒュドラ討伐を祝った。3人が困っているのを尻目に俺はヒメナにヒュドラ討伐を詳しく話した。主に3人の活躍を大仰に語ってやった。


 ……ま、たまにはこういうのもいいだろう。



次回、「うるせぇやつら」

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