第二十話 驕り
「ふっはっはっはー!守護者様のお通りよ!」
「こいつ、侵入者だ!」
「どうしてここがわかった!」
「魔の守護者だ!討て討て!」
ウィルベルは突入した。何の策も労せずに正面の木製扉を思いっきり魔法で吹き飛ばす。
その音で侵入者に気づいた敵は、鐘を鳴らして合図を出す。
ウィルベルは大急ぎで走りながら迫ってくる敵に片っ端から魔法をぶつけて無力化した。
だがところどころで窓から、裏口から逃げようとする敵がいた。それに関してはいくらウィルベルでも襲い掛かってくる敵を相手にしながら仕留めることは難しかった。
だが彼女は焦らない。
外には頼りになる味方がいるからだ。
「ひどい腐臭で鼻が利かないとはいえ、獣人から逃げられると思わないことね」
そうしていくつもの敵を無力化していくウィルベル。
敵アジト内を進んでいくと、ところどころで資料や道具、本などが数多く散らばっている部屋がいくつもあった。
敵の待ち伏せを警戒しながらも、ウィルベルは興味をひかれたのか、部屋に立ち入り、中を物色する。
「これは……あたしたちの調査書?守護者……特務隊?いったいどういう」
そこに書かれていたのはレオエイダンから盗まれた技術ではなく、守護者に関するものだった。
そして守護者の中でも特務隊出身の者について調べられた資料が数多く散見されていた。その中にはもちろんウィルベルのものもあった。
「うえ、なんだか気味悪いわね」
とかく資料を回収するために片っ端から帽子の中に詰め込んでいく。
だがそこで違和感に気づく。
「っ!なにこれ、すごい勢いでマナが集まっていく。どうなってんの!?」
突如、ウィルベルがいる部屋の上にマナの異常が発生した。
その直後、真上、天井が崩落し、幾人ものフードを被り顔を隠した人間がウィルベルに襲い掛かってきた。
「うっそ!?」
突如現れた予想外の襲撃にウィルベルは慌てて転がるように避ける。さきほどまでいた場所は襲撃者たちが腕につけている籠手によってバラバラになり、粉砕される。
回収しきれなかった資料が瞬く間にごみと化す。
襲撃者は五人、倒れているウィルベルに向かって一斉に襲い掛かった。
「リカルド!」
『あいよぉ!』
ウィルベルは魔法剣を発生させる右手ではなく、左手の指輪を光らせる。
すると周囲の空間からいくつもの光の門が開き、そこから強烈な光線が放たれる。
「なっ!?」
「うがっ!」
五人のうち、もっとも近くにいた二人が光線を間近に受けて吹き飛ぶ。しかし少し離れていた3人は即座に回避した。ただしそのうちの一人は左腕に光線を受け、重傷を負う。
魔法とは違う攻撃に襲撃者も一瞬戸惑う。
「今のはなんだ」
「魔法ではない」
「腕が反応しなかった」
襲撃者の僅かな迷いの間にウィルベルは態勢を整え、素早く立ち上がる。
しばしにらみ合う。
「あんたたちはなに?なんであたしたち守護者を狙うの?」
「知る必要はない」
「ここで死すべき定め」
「“魔”など恐れるに足らず」
襲撃者の言葉に腹が立ったウィルベルはすぐに新たな魔法を放つ。
「《金の円環》」()()()
狭い室内の中、神々しく金に輝く円環が現れる。その瞬間に強烈な熱気が部屋を満たし、木造でできた部屋の中のものが燃えていく。
「まだ分が悪い」
「引くしかない」
「貴重なデータだ」
「逃がすと思う?ここで捕まえて、洗いざらい吐いてもらうわ」
強烈な熱気が襲う中でも襲撃者3人は取り乱すことなく落ち着いていた。その体の表面は熱により徐々に焼け、炭化しているにもかかわらず。
そして3人のうち、重傷を負った一人が前に出て言った。
「大義を果たす」
「語り継ごう」
「クラウス閣下の名のもとに」
そうして残り二人は落ちてきた天井へ、重力を感じさせない動きで飛び上がる。ウィルベルも追おうとするが残った一人に阻まれる。
「あんたも限界でしょ?腕がないんだから」
「この程度、閣下の痛みに比べれば、我らの受けた屈辱に比べれば」
「あんたたちはなに?平和になったこの世界でなんでこんなことをするの?」
「偽物の平和。維持する価値など微塵もない。それを今日、証明する。ここから始まる。手始めに貴様だ。“魔”の守護者ウィルベル・ソル・ファグラヴェール」
そういって襲撃者は残っていた右腕を覆っていたローブを取る。そしてその下に着けていた籠手の全貌が露わになる。
それはウィルベルも見覚えがあるもの。
今回の調査の発端となったもの。
黒くとげとげしいデザインに赤い宝石がところどころにあしらわれた籠手。
「それは!?」
「燃えよ、北部の名のもとに」
次の瞬間、建物が赤い炎で包まれた。
次回、「平和の価値」