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夢見る未来に福音を  作者: 相馬
第二部 第一章 《不和の大陸》
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第十八話 未熟な力

 

 王城でアグニと一緒に3人で奪われた技術について目を通した。

 あれから3年経った今でも正直錬金術はよくわかんない。アグニがいてくれてホントに良かったわ。

 でなきゃ、こういうものですって渡されても、きっとどういうものかわからなかったから。


「手甲には宝石が備えられています。その宝石がマナをため込んで、手甲がそのマナを伝導させるみたいですね。伝導させたマナは、内側にある針を通して着用者の体に流れ込むようになっています」

「着用者の体に? ていうかこんなぶっとい針を刺すの? うへぇ、絶対に嫌だな~」

「いたくないのかな?」

「当然痛いと思いますよ。ただ、針の寸法から深く刺す必要はないので、そこまででもなさそうです」


 元気になって食欲も徐々に戻ってきたアグニは少しずつ顔色もよくなってきた。とはいえ、数年間も精神的に参っていたから、以前のようになるにはまだ時間がかかりそう。

 もし手荒なことになったら、アグニの手を借りるのはやめたほうがいいかな。


「そういえば、ヴェルナーはあの事故があって以降、義手してたわよね。あれもこれと同じ?」

「どうでしょうか。あのときは大戦直前で、私はあまりヴェルナーさんとお話しする機会がありませんでしたので。手紙は送ったんですよね?」

「うん、こないだ王様と会った後にすぐに送ったよー。届くまでまだしばらくかかるんじゃないかな?」


 レオエイダンからアクセルベルクへの郵便は緩いながらも検閲が入る。ま、あたしたちの手紙は王宮の印もおまけ程度についてるから、最優先で届けてくれると思うけど、そうなると逆に伝書鳩に届けさせるわけにもいかない。

 万が一、鳩が全然違うところに行ったら情報漏洩とかなっちゃうから大事な郵便は届くのがどうしても遅くなる。検閲とかいろいろ最速になったとしても、これなら普通に送るのとどっこいどっこいかも。

 ただの手紙だから、運が良ければ一週間、悪ければ一か月近くってとこかしら。

 グラノリュースって遠いわねぇ。


「もしかしたら、ヴェルナーから返事が来る前に解決しちゃうかもね」

「それならそれでいいことですよ。久しぶりにヴェルナーさんに会えますし、ゆっくりお話ができますよ。シャルロッテさんとライナーさんはいらっしゃるでしょうか」

「どうかしら、あの3人もなんだかんだ偉くなっちゃったからね。全員同時に研究所を開けるのは難しいかもしれないわ」

「久しぶりにみんな揃うといいねぇ。カーティスもどっか行っちゃったし」


 エスリリがゆっくりと尻尾を振りながら言った。

 カーティスか、あの髭おやじね。なんだか高圧的で頑固だから、あまり話したことないのよね。

 聞いた話じゃ、大陸中をあちこち回っているらしいけど、誰も彼を見たことがない。


「それでアグニから見て、この道具はいったいどんなものなの?」

「何とも言えませんね。この道具だけでは何の効果も発揮しませんから。人の体にマナを流し込んでるだけで、この道具自体がとても危険なものとは思えないのですけれど」

「でもヴェルナーはすごい火を出してたよ? もうごわーってくらい」

「それはもちろん覚えてますけど、でもどうしたってこの道具だけでは大したことはできません。ウィルベルさん、人の体にマナを流し込むとどうなるかわかりますか?」


 アグニが難しい質問をしてくる。

 魔法使いはマナを操ることができるけど、正確には操ることができるマナは身の回り、自然界にあふれるマナだけなのよね。

 理由は簡単。


「わからないわね。そもそも人の体の中ってとっても複雑で、そのなかにあるマナは絶えず複雑に変化していて、操るなんて不可能なのよ。魔力は人の体に近いほど伝達しやすくて強くなるんだけど、体内は逆に強すぎる。複雑で強くて量も多い。体内にマナを流し込んだところで大した影響なんてないわ。精々、体の調子がよくなるくらいじゃない?」

「体の調子がよくなっただけでヴェルナーさんはあんな炎を噴くんですか。恐ろしいほどの破壊の意思ですね……」

「ヴェルナー、実はすごく危険な人……」

「いや、違うと思うけど……ヴェルナーは怖くて危険だけど、炎を噴いたりなんかしないから」


 アグニの話じゃこの道具だけじゃ、とてもあんな事故を引き起こすとは思えないとのこと。

 それならまだ何か見落としていることがきっとある。

 でも錬金術のプロであるアグニがこの資料を見てわからないのに、盗んだ連中がこれを見て活用できるのかしら。

 これを見てわかるのは、ヴェルナーだけなんじゃないかしら。


「ヴェルナー以外に、この道具を知ってるのって誰かいる?」

「それはやはり、シャルロッテさんとライナーさんじゃないでしょうか。3人はいつも一緒でしたし。あとはカーティスさんも可能性はありますね」

「当然だけど、あいつらが関わってるなんてことはないでしょうね。となると……あいつらはほっといても自滅するんじゃない? アグニでもわからないのに、北の連中が使いこなせるとは思えないんだけど」

「そうかもしれませんね。ですが自滅するとしてもあのときのような事故が起こるとなれば、放ってはおけません。自爆覚悟で市民に被害を出すことを見過ごすわけにはいきませんから」


 アグニのいうことはもっとも。

 でも正直自爆覚悟でこんなものを使うなら、爆弾でも使ったほうがよっぽど国に被害を出せるんじゃないかしら。

 敵勢力は被害を出してでもこの技術を奪うくらいだし、何かしら確証があったんだろうけど。

 可能性があるとしたらカーティスくらいだけど、あの髭おやじがそんなことするわけないし。技術の危険性を誰よりも理解して、うるさいくらいに使い方に文句言ってくるような奴だし。


「ひとまずこっちでも探してみるわ。救いなのはこの道具は作るのに、コストがかかるってことくらいかしら?」

「そうですね、貴重な宝石を錬金術で使うなら、私たちにもわかるほどの資金や物が動くと思われます。現状それがないですが、他の土地に行かれると私たちの目も届きません。あまりのんびり構えていられません」

「なら早速動きましょう。今から西部に向かうわね」

「わかりました。どうかお気をつけて」


 アグニに見送ってもらいながら、あたしたちはレオエイダンを発った。

 さ、ちゃっちゃと始めましょっか。あたしがいれば、事件解決なんて楽勝だからね。




次回、「西部北方区画」

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