第一話 誇り高きエルフ
森林都市セビリアに着いた翌日。
戦やら移動やらで、最近はできていなかった鍛錬を今日、日が昇ったばかりの朝から開始する。
ただ街中では鍛錬する場がなかったので、街はずれまでランニングを兼ねて行き、そこで鍛錬をした。
重りを付けた武具を身に着け、振るう。武器に振り回されないように、緩急をつけたキレのある動きを最短最速で行う。振るう度に風を切る大きな音がなる。
夢中で振っていると日が昇り、そろそろ戻る時間だった。鍛錬を終えて戻ろうとするとそこには数人の見物人がいたが、目が合うと逃げるように立ち去っていく。
なんだと思っていたがそうだ、今俺はあの竜を模した仮面をつけてるんだった。
四六時中つけていてもう慣れて忘れていたが、はたから見れば怖かっただろう。
不審者として見られるのも面倒だし、もっと場所は考えないといけないな。
ちなみにこの仮面、結構着け心地がよく、息苦しくもない。視界も良好で気に入った。口の部分が開閉式になっているから、デカい口を開ければつけながら飯も食える。
宿に走って戻り、軽く汗を流してから着替えてギルドに向かう。
昨日見た掲示板の張り紙がまだ張られていることを確認して、指定された場所に向かう。
そこはギルドの奥まった端にある、机の周囲にソファのような椅子で囲われた席だった。
そこには既に3人の人が座っていた。
その3人を見て、俺は驚いた。
豊かで煌びやかな金髪を背中まで流し、眉目秀麗な顔。
何よりも、普通の人ではあり得ない、長い耳。
――狩りと弓の名手である森の民、エルフだった。
近くに来て、驚いて少し止まってしまったが、向こうはまだこちらに気づいていない。
相手のエルフたちには昨日、受付のフィデリアを通して伝えてもらっている。だからこうして待っているのだろう。待ち合わせの時間にはだいぶ早いがすでにいるので声をかけに行く。
「張り紙を見てきたものだが、募集はしているか?」
「……っ!何者だッ」
声をかけると、仮面に驚いたのか、エルフ3人が揃って椅子から立ち上がり、腰にあるナイフに手を添える。
あぁ、どうしようか。
といっても、騒ぎにする気はないから、取れる行動は決まっている。
両手をあげて戦意がないことを示しながら、応募の件について話をした。
「貴様か、フィデリア嬢の言っていた応募者は」
「はてな、仮面をつけているとは聞いていなかったが」
「怪しいな。纏う雰囲気からただものではない」
三人が話し出す。誰の疑問に答えるべきかと答えるとリーダー格なのだろう、糸目の男が代表して聞いてくる。
「貴様の名はウィリアムだったな。身分証は?」
頷きながら、身分証を提示する。糸目の男が確認すると身分証を他の2人に渡して回す。ほかの二人が確認したらこちらに返してきた。
「確認した。確かに黒髪黒目、ウィリアムで間違いないだろう。しかしその仮面はなんだ?怪しいですと言っているようなもの。なぜ我らと会うのにつけてきた」
「別にあんたたちに会うからつけたわけじゃない。誰に対しても顔を見せたくないからつけたんだ。他意はない」
「顔も見せないとは。礼儀を知らんと見える」
「非礼は詫びよう。だが取るつもりはない。仕事はする、当然危害を加えるつもりはない」
嘘は言ってない。仮面をつけようと思ったのはこの世界の人間に顔を見られたくないからだ。
はっきり言って俺はこの世界が嫌いだ。記憶を取り戻した時、気づけば自分がすべてを失って、そしてすべてを奪った奴らの国のために何の疑いもなく必死に頑張っていたのだ。それに対してどうしようもないほどの恐怖と怒り、嫌悪感を抱いた。
だからこの世界の人に対して、俺は嫌悪感を持っている。これは正直自分ではどうしようもない。はじめはアメリアにも、ましてや記憶を持っているのに平気にしているオスカーにすら抱いてしまったくらいだ。
あの二人と強秀英に対しては今は抱いていないが、他は違う。
たとえ嫌悪感を抱かなくなったとしても、必要以上に仲良くなるのは遠慮したかった。
「まあ仕事をするなら我々も貴殿を歓迎しよう。だが命を懸けた仕事をするうえで知らなければならないこともある」
納得したのか、呼び方が貴様から貴殿になった。
それからは事務的な話になった。
荷物はどれくらい持てるか、早く走れるか、前衛として戦えるのかという具合だ。ここに関しては含むことはないので事実を答える。真面目に答えているとところどころ疑ったような視線を受けるが、すべて事実なので気にしないことにする。
すべて聞き終わったのか、三人が小声で話し出す。
「本気で言っているのか?荷物持ちながら戦えるだと?」
「槍、剣、短剣、盾すべて使えるだと?そんなハンターがいるものか」
「挙句、犬より速く走れるだと?とても信じられん」
「犬に関しては犬種にもよるかもしれないが」
小声で話している内容が聞こえてきたので、最後だけ訂正する。ほかは概ねその通りなので何も言わないがそんなに驚くことだろうか。
確かに前の世界基準で言えばおかしいが、この世界の人間は前の世界の人間より強く、身体能力は超人じみている。
それに武器なんて状況によって使い分けなければならないし、戦時は選んでなどいられない。だから数多くの武器を使えるようにしたのだ。
ハンターは準備をしていくから、なおのことだと思っていたのに。
そんなことを思っていると3人は疑いながらも認めてくれたようだ。
「いいだろう。それが事実ならこちらとしても助かる。事実なら」
「疑ってんな」
「当然だろう、すべて事実なら貴殿の身体能力は常軌を逸している」
「我らエルフでもましてやドワーフでもそこまでの身体能力を持つものはいない。人間とならばなおさらだ」
「ならどうする。俺は不合格か?」
「いや、もし本当なら我らとて惜しい。人手が必要なのも事実だからだ。だからまずは短時間の依頼を受ける。そこで判断する」
「了解した」
つまり一度試験をするということだ。まあ仮面をつけて怪しいうえに信じられないような怪力なんだ。多少は信じられないのも仕方ない。門前払いしないのは身分証のおかげか、それとも彼らにも理由があるのか。
「自己紹介がまだだったな。私はフェリオスだ。このパーティのまとめ役をしている」
「私はオルフェウス」
「サーシェスだ」
そう言って自己紹介をしてくれる。
リーダーのフェリオスは糸目が特徴で、長い金髪を後ろに流してハーフアップにしている。オルフェウスはエルフとしては体格がよく、銀髪を短くしている。サーシェスはこの3人の中では一番若いようで、表情が溌剌としている。ほかの二人が基本仏頂面なのに対して、時々笑みがこぼれている。
「改めてウィリアムだ。よろしく頼む」
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そして簡単な依頼を受けて一同、森に進む。
今俺は、フェリオス、オルフェウス、サーシェスの荷物を持っている。物理的に持てないんじゃないかと思ったが、ひもで縛っているので何とか持てている。
動きづらいが戦えないほどではないし、いざとなれば捨てていいともいわれている。とはいえ、簡単な依頼だ。この程度で捨ててしまえば次はないだろう。
森の中をフェリオスが先頭で進み、オルフェウス、俺、サーシェスの順番に一列に進んでいる。
今回の依頼はガストボア。硬い表皮を持つため、刃物が通りにくく、力強く突進してくるため十分危険だ。ただ魔物ではなく通常の動物のため、危険度はこれでも低い方らしい。
なるほど、ハンターという職業が必要になるわけだ。
この依頼を受けたのはこの獲物なら力自慢にはちょうどいいと思ったからだ。三人は俺の膂力を疑っているようだから、ここで正面切って仕留めれば、納得するだろうと考えた。
「この先に数頭いるな。鳴き声と足跡からしてガストボア。恐らく番だ。」
どうやら標的が見つかったらしい。二頭、それも番がいるということは子供もいるのだろうか。イノシシの繁殖期など知らないのでわからないが春だから居てもおかしくないかもしれない。
そう思っているとフェリオスが話しかけてくる。
「どうする?一頭こちらで受け持つか?一頭を無難に相手にできるなら合格だ」
「いいよ、2頭くらいなら問題ない。殺し方に指定は?」
「殺し方だと?」
「解体するのにいい殺し方なんて知らないんだ。教えてもらえると助かるな」
「……できるだけ傷つけるな。皮の価値が下がる」
「了解した」
そう言って三人の前に出る。位置を教えてもらうと三人は素早く木の上に登り、静かに敵の近くまで移動する。エルフは森の民と聞いていたが、これは凄い。
真似しようにも俺なら枝を確実に折る。森の中でエルフと喧嘩はできないな。
そう思いながら荷物を背負ったまま、素手でイノシシの前に出る。
すると二頭のうち、大きなイノシシがこちらに気づくとそのまま叫びながら突進してきた。もう一頭は威嚇したままだ。
なら一頭ずつ仕留めよう。
向かってきたイノシシがぶつかる直前に、横に移動して避け、首に手をまわして、そのまま横に回転してぶん投げる。
投げられたイノシシは勢いそのままに木の幹にぶつかり痙攣したまま動かない。首を持ったままぶん投げたのだから頸椎でもやったかもしれない。
やられた番を見た残りのイノシシが逃げずにひと鳴きして同じように襲ってきた。
メスかオスか知らないが、番がやられて辛抱ならないってか。
同じやり方は芸がないと思ったので、ちょっと違うやり方をする。
そうだ、レスリングしよう。
走ってきたイノシシの鋭く伸びた牙を持って踏ん張る。
少し押されたがすぐに止まってイノシシの勢いが完全に止まる。
するとイノシシの牙が折れてしまった。
「あっ、おふっ」
牙が折れたイノシシが鳴きながらも突っ込んできたので腹部に衝撃がきて変な声が出た。
とはいえせっかく突っ込んでくれたので、イノシシのぶっとい首を抱きかかえるように腕を回してロックして、そのまま絞める。
「プギィー!プギィー!」
情けない声を上げて、じたばた暴れる。うるさいな。静かにしろ。
より一層腕に力を入れる。すると変な音とともに、暴れていたイノシシは糸が切れた人形のように動かなくなった。
これで二頭。依頼完了だ。一頭でもよかったが多い分には問題ない。
これで文句ないだろう。
そう思っているとエルフ三人が下りてきた。
……オルフェウスが怒った顔で迫ってくる。
なんだ?何か粗相をしたか?
「貴様、命を弄んだな?」
「は?」
「弄んだなと聞いている!」
本気で何言ってんだと思った。
弄ぶも何も最初から狩る予定だったろうに、何をいまさら怒ってるんだ。
俺が理解できずにいると、オルフェウスが最初に倒したイノシシを指さして言う。
「あのイノシシを雑に殺した。そのせいであのイノシシは死ぬまでずっと苦しんでいた」
みればあのイノシシ、泡を吹いてまだ痙攣している。まだ死んでない?即死にはならなかったか。
でもそれがなんだ?
「貴様は自らの力を誇示しようと、あのイノシシたちをおもちゃのように扱い、殺した。それを弄ぶと言わずになんという」
「実力を示せというのが今回の趣旨だろう」
「ハンターとしての実力だ。それは決して力だけではない。我らはハンター、狩るものだ。故に命の尊さを、重みを誰よりも理解していなければならない」
その言葉がずしりと、重く体に乗っかった気分だった。
……命の尊さ?この世界に殺した人を呼びつけておいて?
腹の中で黒く蠢くものがのどまでせりあがってくる気がした。
――だがそこで、フェリオスがイノシシの横に膝をついた。
何をするのかと思った。
死体を前に、死体に触れ、その手を胸に当て祈っている。それを二頭に対して行っている。
彼らの表情や態度はとても厳格で思わず息を飲んだ。
……そうだ。
オルフェウスのいうことはもっともだ。
いくら力があるからと言って、それで命を弄んでは獣とはいえ、必死に生きる命を侮辱することになる。力を持つからこそ、驕らず、相手に敬意を払うべきだと。
その光景を見て、せりあがってきていた黒い感情が徐々に収まっていく気がした。
「……そうだな、済まなかった」
「これが理解できなければ、ハンターとしての資格はないし、そんなものとは組めん。実力があるからと軽い気持ちで命を冒涜するな」
――そうだ、力があるからと命を奪い、弱者をいたぶっては、それこそ軍の、この国の連中と一緒じゃないか。
俺はイノシシの死体の前に座り、手を合わせて祈った。御免なさい、どうかやすらかにと。
この世界の人間が嫌いなのは間違いない。
……でも懸命に生きる命を馬鹿にしたくなかった。
その後は三人に解体の手順を教わり、実際にやってみたりした。結構面倒で大変だった。それでも三人は、命を無駄にしてはいけないと、すべて無駄にしないように解体し、持ち帰るそうだ。終わった後には血の跡も残っていない。完璧な処理の仕方だった。
……正直、彼らと一緒に活動したいと思った。命を尊び、誠実な彼らとならいろいろ学べるだろうと。
ただそれは帰りの雰囲気から、もう無理そうだった。
ギルドに戻り、依頼の達成と納品を行った。やるべきことはひとしきり終わり、今後の話をすることになった。
朝と同様に、ソファのような椅子に座って四人で机を囲っている。そして俺の前にはお金の詰まった袋が置かれていた。置いたときにズシンと、そしてじゃらじゃらと硬貨がすれる音がした。
今回の報酬にしてはずいぶんと多い。依頼とボアの肉を売ったお金とほぼ等価じゃないか?
「なんだこれは?」
「今回の報酬だ。貴殿の分は多めにしておいた」
「等分じゃなかったのか?それとも手切れ金か?」
「手切れ金?……ははっ!」
何がおかしいんだ?フェリオスが声を出して笑うのを見て珍しいものを見た気分だ。
サーシェスは笑顔だし、オルフェウスはなぜか、気まずそうにしている。
「もしや、不合格とでも思ったか?オルフェウスの言葉は思った以上にウィリアムの胸を打ったようだ」
「むう、すまん」
「確かに迫力ありましたものね」
「……つまりこれからも一緒にやると?」
さっさと結論を話せという意味で質問すると、フェリオスがしっかりと俺の眼を見て言った。
「当然だ、我々は貴殿に力を示せと言った。そして事前に言っていた以上の力を貴殿は我々に見せてくれた。ゆえに合格だ。不満かな」
「不満はないが、わからない。イノシシを狩ったとき、オルフェウスは言った。ハンターの資格はない、組むことはできないと。事実だったし、お前たちもオルフェウスと同じ考えだと思っていた」
「ああ、事実思っていたとも。命を弄ぶものなどハンターとしての資格などない。ほかのハンターが認めても我らは認めん」
「なら――」
「しかしだ」
フェリオスが俺の言葉をぴしゃりと遮り言った。
「失敗など誰にでもある。命の尊さを誰もが初めから知っているなんてことはあり得ない。ましてや貴殿はハンターとしての経験が少ないのだろう」
「……ああ」
「大事なのは失敗した後だ。オルフェウスに諭されたのちに何も感じないようであれば、確かに我らは貴殿と組むつもりはなかったとも」
「だが命は尊いんだ。初めてだからなんて理由で冒涜されていいわけがない」
「その言葉だけであの獣たちも救われるだろう。よいか。いかな賢人とてかつてはもの知らぬ馬鹿だったのだ。何も理解できぬ阿呆だったのだ。無知を責めるものは、かつての自分を忘れた痴れ者よ」
「……」
「貴殿の歳では、知らぬことなど山ほどあるだろう。ハンターとしての経験がないならなおさらだ。だからこそ、我ら先人が教えるのだ」
フェリオスの言葉を聞いて、すっと胸が楽になった。知らないということを恥じる必要はない、これから学べばいい。彼らと一緒に活動をして、ハンターとは何かを見て、聞いて、感じて学べるのだ。喜ばしいことだと。
この世界のことを何も知らない、無学な俺に、その言葉は思った以上に沁みた。
「いけないな。歳を取るとつい講釈を垂れてしまうな」
「歳を取るってフェリオスいくつ?」
「130くらいだったか、端数は忘れてしまったよ」
えっ……
今日一驚いた。仮面をしていてよかった。きっとあほ面を晒していた。
エルフは長寿だと聞いていたが、まだ若く見えるフェリオスで130か。長寿な人はどれくらい生きるのだろうか。
ん?待てよ。この中で俺ははるかに年下なのでは?
おっとそんなことより結果はわかったがこの金はなんだ。明らかに等分ではない。
「それでこの金はなんだ?明らかに等分じゃないようだが」
「今回我らは何もしていない。荷物を持たせた上に見に行っただけだ。そんなもので我らにも報酬をよこせなど恥知らずなことは求めん。それに我らとしても優秀な前衛が欲しかったのだから、その祝いも兼ねている。遠慮せず受け取れ」
「そうは言うが俺はあんたたちからいろいろ学んだんだ。その対価も払わないといけないな」
そう言って袋からお金をおよそ等分になるように取り出して、三人の前に置いた。全員怪訝な顔をするが、こちらからも意趣返しをしてやる。
「我らエルフに施しを受けろというのか」
「お祝いなんだろう?なら全員で祝うべきじゃないのか」
そう言うと三人も仕方ないと言わんばかりに受け取ってその日はそのまま、4人で飲むことになった。さすがにお代は3人が持つことになったが、ここは顔を立てるとする。何より俺ははるかに年下だし。
酒も進み、酔ってくると意外にも三人は明るく、気さくな性格をしているのだとわかった。俺という初対面の人間がいたために、外向けの態度をとっていたようで、素は全く異なるらしい。
フェリオスはかなり朗らかで気さくだ。オルフェウスは見た目通り厳格だが、普段はとても優しく、面倒見がいいらしい。
サーシェスはまだエルフとしては若いらしく、まだ子供っぽい一面がある。それでも60くらいなので、俺の3倍年上だ。腹が立つ。
外向けの態度もあれはあれでいいと思うが、一緒に過ごす分には今のほうが楽だ。
「ようし、ウィリアム。これからは一緒のパーティだ。よろしく頼むぞ?」
「いや、他のパーティの手伝いもするかもしれないからずっとは無理だぞ」
「「「え?」」」
しまった、言ってなかったか。三人のエルフが驚いた顔をして、こっちを見ているが少し面白かった。とはいえオルフェウスはすこし分かりづらかったが。
「他のパーティの技術や知識も知りたいからな。しばらくは固定せずにやっていくつもりだ」
「それでは私たちの目的の依頼が果たせないではないか!1週間以上はかかる依頼だ。他のパーティもとなれば、都合がつかないのではないか?」
「あくまで予定だから、今のところは平気だ。掲示板に募集しているから応募があればの話だよ」
「ならば我らで独占するとしよう。我らの仲間と知れれば関わることを避けるであろう」
「おい、それはどういうことだ」
俺が複数のパーティを掛け持ちしてハンターとしての技術や知識を学ぶというと、3人はその目的は理解してくれたが、受け入れるかは別だった。そして知るや否や、常に俺に予定を入れて他が寄り付かないようにしようとしやがった。
あとオルフェウスが気になることを言った、彼らに他が関わりたがらないということだ。
「なんだ、知らなかったのか。なぜか我らには人が寄り付かない。募集をかけたが人が全く来なかったのだ」
「……怖がられてんじゃねぇのか」
「なぜだ?」
彼らと最初に会ったときは、みな無表情というか無愛想だったし、話し方も不遜だった。エルフは誇り高く、自分をしっかり持っているため、近寄りがたいんだろう。
一緒に依頼をこなして、酒を飲んでようやく素が見えるくらいだ。普通にしてては彼らは隙がなさすぎるから、エルフに馴染みのない人間には怖い。
彼らも人間にそこまで理解があるわけではないようで、近寄りがたい理由がわからないようだ。
いちいち指摘するのも面倒だから言わないが。
「怖がられるとは、仮面をつけているウィリアムに言われたくないな」
「俺はもともと人と仲良くなる気がないからな……それで、目的の依頼ってのはなんなんだ」
「ああ、森をしばらく歩くと沼地になっている部分がある。そこに厄介な魔物が棲みついた。それを討伐したいが我らだけでは手が足りない」
「厄介な魔物?」
「ヒュドラの幼体」
そういうフェリオスの顔は真剣そのものだった。
次回、「ヒュドラ討伐」