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夢見る未来に福音を  作者: 相馬
第一部 第一章《始まりの大地》
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第二十六話 グラノリュース

 それは大陸にたくさんの悪い鬼や魔物といった悪しき者どもがはびこる混沌とした時代。

 人間、エルフ、ドワーフをはじめとした善なる種族たちは、悪しき者どもに日々追われ、恐れながら暮らしていた。

 悪しき者どもに襲われ傷つき、数を減らしながら生きる人々に希望はなく、悲しみと絶望を抱いていた。


 ところが名もなき村で、ある勇敢な少年と英明な少女が立ち上がる。

 2人は神からの贈り物である強き加護を持ち、常人よりもはるかに優れた肉体をもっていた。そんな二人とどこかから現れた魔法使いが出会う。

 三人は悪しき者どもを打ち払い、村を救った。

 その村だけにとどまらず、彼らはまた別の村、また別の村へと回りながら大勢を救っていく。


 時を同じくして、エルフにも常人をはるかに凌ぐ魔法を使う少女が現れた。

 ドワーフにも、はるかに強い剛腕と頑丈な肉体を持つ若者が現れた。

 ほかにも幾人もの優れた力を持つ者たちが次々と現れ、立ち上がっていく。


 強力な力を持つもの達が自らの故郷を救い、そして世界を救わんと集うことはもはや必然だった。

 そうして集ったもの達は協力して、悪しき者どもを次々と打ち払う。

 彼らは戦いを重ね、強くなり、仲間も増え、ついには最強たる竜すらも仲間にしてしまった。

 彼らは永劫のときを生きる竜にどうすれば世界を救えるかと尋ね、そして竜は答える。


 悪しき者どもをこの世から消し去るには、彼らの神を討たねばならぬ。

 しかし、神を討つなど不可能、ゆえに悪しき者どもを消し去ることなど人間には不可能だ。


 竜の答えを聞き、落ち込む勇士たち。それでも、とあきらめないものが一人いた。

 名もなき村の少年が立ち上がる。


 諦めてなるものか、我らがあきらめてはこの世界を救うことなど断じて出来ぬ。


 そう言って彼は仲間を鼓舞し続けた。

 その少年の雄姿に仲間たちは勇気づけられ、再び立ち上がった。

 彼らは戦い続けながらも、邪神を倒す方法を探していく。

 だが、その邪神を倒す方法は見つからず、長い戦いの中、仲間たちが一人また一人と倒れていった。


 最初に立ち上がり、仲間たちを勇気づけていた少年ですら、半ばあきらめかけていた。

 そんな時に一人の少女が現れた。

 不思議な雰囲気をまとった少女がいう。


 私は神の子だ。神は私に悪しき者どもを消し去る力を与えてくださった。


 勇士たちははじめは疑っていた。長年探し続けていたものがこんな形で表れるものかと。

 だが彼女の持つ力の片鱗を見たとき、その疑いは希望に変わった。

 目の前に現れた悪しき者どもを彼女の持つ力が消し去ったのだ。

 勇士たちは歓喜に沸いた。彼女の力を借りて、ついに彼らはこの世界から悪しきものどもを一時なれど、消し去ることに成功した。


 悪しき者どもがいなくなり、世界が平和になった。

 悲願を果たし、平和となった世界で勇士たちは涙を流し、背中をたたき合う笑い合う。

 長年の旅が終わったことで、彼らは次々と故郷に帰り、英雄として称えられた。


 優れた魔法を使うエルフの少女は竜と結ばれ共に故郷に帰り崇められ、強き力を持つドワーフの少年は軍神として称えられ。

 そして最初に立ち上がった少年と少女は、たくましい青年と美しい娘になっていた。

 2人が手をつなぎ、故郷に帰ろうとするとき、神の子を名乗る少女が言った。


 私が死ねば、悪しき者どもはまた現れる。だから二人にお願いがある。

 どうか私の魂を未来永劫守ってほしい。


 そういうと少女はあふれんばかりの光を放ち、光り輝く宝玉となった。

 青年と娘は驚き、そして彼女がこの世界のために魂をささげたことを深く感謝し、そして悲しんだ。

 2人は宝玉となった彼女を連れて故郷に帰り、結ばれた。

 英雄となった二人の周りには自然と人が集まり、やがてそれは一つの国となった。

 その国は宝玉に守られ栄華を極めることとなった。


 英雄たる青年を称え、つけられたその国の名は。

 ――グラノリュース天王国





「正気で言ってるんですか?」

「嘘だと思うか?だがすべて作り話というわけではない」


 先生の話を聞いて耳を疑うしかなかった。フィクションとして聞けば前の世界にもあったファンタジーとして十分、納得できる。

 だがフィクションならこの状況で聞かせるような話ではない。つまりこれは史実に基づいたというわけだ。


「悪しき者どもがいたということは理解できます。事実悪魔なんてものがいるくらいですから。ただ神の子?神なんて本当にいると?」

「信じられずとも無理はない。実際神はここ数百年、降臨したという話は一切聞かないからな。ある種神話のたぐいだ」


 前の世界でも神話の話は有名で面白いとも思えた。でも事実だとは当然思わなかった。神なんて見たことも声を聴いたことも感じたこともない。現象として知覚できない以上、神なんて存在しない。


 宗教も同様だ。信じるのは勝手だが押し付けるな。迷惑極まりない。宗教勧誘は日本でいえば、マイナーだ。中には宗教と称してお布施を献上させたり、ツボを買わせたり、詐欺や殺人だって起こったことがある。

 だがこの話をした以上、意味があるのだろう。この国の現状を説明するには必要な知識として。


「神が本当にいたのかは定かではない。だが神の子と名乗る少女は確かにいた」

「確かにいたというのは証拠があるということですか?正直詐欺師のたぐいではと疑ってしまうのですが」

「証拠ならあるとも。ここに」


 そういって先生は俺のことを指さす。俺が証拠だというつもりだろうか。だがあいにくと俺は神はもちろん、神の子にもあったことなど一度もない。


「グラノリュース天王国。ここはかつて英雄とうたわれたもの達が興した国。英雄たちが遺した宝玉によって守られている国だ。そして今、この国を守っているのは誰だ?」

「軍でしょう?」

「その軍の象徴は?」

「国王?いや、まさか」

「そうだ。軍の象徴とはウィリアム。お前たち天上人だ」


 俺自身は実感がないが、軍の中で象徴といえば俺たち天上人だ。天上人は常人を凌ぐ魔法を用いたり、優れた身体能力をもつ。魔法は誰しもが使えるというわけではないが、使えるものは多い。教えてくれないが秀英も恐らく使えるはずだ。


 ソフィア以下の天上人は軍としての行動をとっていないのでまだ実感はない。だが軍人として本格的に活動するようになれば、ずば抜けた実力を持つことから軍人、そして国中からは象徴として見られるだろう。平和の象徴か力の象徴かはわからないが。


 実際に噂でしか知らないが、すでに軍人として活動している4人の天上人の活躍は目覚ましいと聞いている。


「お前たちは優れた力を持つ。さながら物語の英雄のようにな」

「ですが僕らはこの世界の人間じゃない」

「そうだ。その様子から記憶は戻ったようだな」


 そういえばはっきりと記憶が戻ったなんて言っていなかったな。


「ではお前たちはどうやってこの世界に来たか?天上人はこの国にしかいない。ではこの国にしかないものは何か」

「神の子の宝玉」

「そうだ。おそらくあの宝玉によってお前たちはこの世界に来た。悪しきものどもを消し去れるのだ。ほかのところから呼び寄せることも可能かもしれない」

「見たのではないのですか?あの話が本当なら宝玉が持つのは消し去る力のはず。ほかの世界から人を呼ぶなんて不可能では?」

「かつて数多の英雄たちが戦って滅ぼせなかった悪しきものどもを実質一人で滅ぼしたような力だぞ。できたとしても不思議ではない」

「……先生はそれを教えてどうするつもりですか?俺にどうしろと?」


 先生がわざわざ教え子とはいえ、重罪人である俺に一人できてここまで長話をするくらいだ。何か意図があるはずだ。

 まさか、冥途の土産としてこの国のことを伝えに来たとかじゃあるまいし。先生は俺の質問には答えず、逆に質問し返してくる。


「その前に聞かせろ。なぜ戻ってきた。投獄されることはわかっていたはずだ。にもかかわらずたった一人で」

「俺はただ……前の世界に帰りたいんです。ここは俺が呼ばれた場所。ここになら手がかりがあると思ったからです」


 先生はしばらく黙ったままだった。

 先生の話を聞いて、探すものが明確にわかった。

 宝玉だ。それがあれば元の世界に帰れるかもしれない。どう使えばいいのかわからないが手掛かりにはなるはずだ。だがどこにあるのだろうか、先生に聞けば教えてくれるだろうか。


「それは無理な願いだ。ここにいてもお前では答えにたどり着けない」

「どういう意味です?」

「宝玉があれば、などと思っているのだろうがそれは無理だ。お前ではあの宝玉を手に入れることはできん」

「どこにあるか知っているのですか!?」

「知らん」


 バッサリだ。人の願いを聞いておいて一方的に否定して挙句知らんぷりか。さすがにイラっと来た。

 先生でも俺の願いの邪魔をするなら俺は戦う。

 勝算があろうがなかろうが、知ったことか。手錠が繋がれた手に力を込めて外す準備をしていると先生から優しい声で諭された。


「ウィリアム。世界を知れ。お前はまだこの世界に来たばかりだ。この国が、この世界がどうなっているのか、知ってからでも遅くはない」

「何言ってるんですか。遅いですよ。こうしている間に元の世界で家族がどうなっているかもわからないのに」

「それで急いでどうする。今のお前では宝玉まで手が届かない。まだ聖人直前のお前ではな。正確な場所はわからないが、宝玉を持っているのは国王だ。国王は英雄であり、この国最強の男だ」

 

 この国の王は先の話の英雄の一族だ。だからこの国では最強だと。先生にも勝てない俺ではまだ勝てない。

 それよりも一つ気になる単語が出てきた。聖人とはなんだ?俺が直前?


「聖人とは何ですか?俺が一歩手前?」

「ウィリアム。もう一度言う。この世界を知るんだ。この止まった国にいるよりもよほどお前を強くしてくれる。今言った聖人についても知れるだろう。ほかの技術や力についても同様にな……私にできるのはここまでだ」


 そう締めくくって先生が退出していく。

 なんだかんだかなり長い時間話していた。もう日が傾いてきている。

 俺はどうするべきだろうか。先生の言葉がずっと胸に刺さったままだった。




次回、「脱獄と因縁」


長かった第一章も残りわずかです。

もうしばらくお付き合い下さい!

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