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夢見る未来に福音を  作者: 相馬
第一部 最終章《帰りぬ勇者の送り火》
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第十三話 強欲と暴食

機能更新できず、本当に申し訳ありません……

きょ、今日はちゃんとします!

 



 宰相は王侯会議というものが嫌いだった。


 理由は2つ。


 癖の強い各国の代表が集まる中で、司会を完璧にこなさなければならないという重圧から。


 もう一つは北部将軍クラウス・レオ・ロフリーヴェスの存在だった。


(クラウスめ、相変わらず驕った態度を改めないやつだ。抜かれれば困るからと中央は北部を支援しているが、それがかえって奴の増長を招いたか)


 宰相は半聖人であり、ロフリーヴェスほどではないにせよ、かなりの年月を生きていた。

 西部のハードヴィー大将と同世代であり、齢は130ほど。


 宰相よりも長生きをしている聖人は、アクセルベルクにはクラウスしかいなかった。


 通説では、聖人は戦禍の中で現れるとされている。

 聖人になるまでに幾たびの試練があり、強力な力を持つ聖人になっったあとも、その性質上、戦場からは離れることができず、100を超える齢になるまでに殉職することが多い。


 そのため百年を優に超える時を生きるクラウスは貴重だった。

 北部の大将として任命された当時は他に聖人が少なく、彼しか適任がいなかった。


 そのまま長い年月が、クラウスが北部大将のまま流れていった。

 その後は西部に模倣の英雄エデルベアグ・グス・ハードヴィー、東部は急成長を遂げ、当時最年少の聖人となった天才クローヴィス・デア・コードフリード。


 そして最後に、南部のディアーク・レン・アインハードが今の席に落ち着いた。


 西部はレオエイダンと、東部はユベールとの国交で賑わう中、北部はひたすら戦場だったため、王族が治めるアクセルベルク中央は過酷な北部を積極的に支援し、他国とかかわりのある東西に支援するように働きかけていた。


(この政策がよくなかったのか。長年大陸中が北部の支援をしているという事実に酔ったクラウスは、自分が偉大な人間であると勘違いしたようだ)


 クラウスの増長は目に余る。

 今まで開かれていた王侯会議では、事あるごとに各領各国に対して支援を引き出そうとしていた。

 北部が抜かれれば困るのは諸君らだぞ、と脅しに近い交渉の仕方で。


 そうして北部は他の地から技術や人手、予算を大量に貪った。

 それがちゃんと軍に投入されているなら問題はなかったが、北部では軍内での横領や不正が蔓延っている。

 しかし監査をしようにもロフリーヴェスはことあるごとに悪魔の仕業に見せかけて誤魔化してきた。


(完璧な統治? 聞いてあきれる。堕ちた軍人として過ごすには完璧かもしれないが)


 先ほどの言動で笑いそうになったのを、苦労して完璧に抑えた宰相はため息すら飲み込んだ。


 宰相は横目でクラウスを見る。


(焦っているな、クラウス)


 各国に対して強引に支援をよこせと要求していた北部だったが、近年は北部以外にも高位の悪魔が現れるようになったことで、この脅迫じみた交渉はできなくなった。


 北部がだらしないから抜かれずとも各地に悪魔が現れた、と。


 そうなれば国は北部への支援なんて二の次になる。

 さらにロフリーヴェスの信用を失うことになったのは各国の戦力、そしてウィリアムの存在だった。


(北部のように大量の技術や予算を割かずとも、ウィリアム殿率いる特務隊を派遣すれば、高位の悪魔どもは処理できる。そしてわかったことは……北部は弱いということ。とても悲しいことだ)


 宰相は遠い目をしながら目の前で口論しているクラウスとウィリアムを見る。

 口論といっても、クラウスが一方的にグラノリュースの利権をよこせと言っているだけ。


(ウィリアム殿が北部を頼らず東西を頼ったことが面白くなかったんだろうな。グラノリュースを統治下においたことで得られるものが北部のみ何もないのだから。他の土地から得られる支援が目に見えて減った今、クラウスも焦っているようだ)


 クラウスは余裕ぶっているが、内心は大汗だろうと宰相は結論付ける。


 高位の悪魔が各所に現れた今、明らかになったことは北部の脆弱さ――


(いや、各国が強すぎるといったほうがいいか)


 宰相は左右に座るエルフの王とドワーフの王を見る。

 エルフの国ユベールの王レゴラウスは何かに期待するような目でウィリアムを見ている。

 さらにその後ろにいるエルフの姫エイリスもまた、うずうずと笑みを浮かべてウィリアムを見ている。


(エルフの国。最近まで謎に包まれていたが、特務隊のおかげで徐々に国同士でやり取りを行えるようになってきた。彼とルチナベルタ嬢には感謝しなければならないな。でなければ、エルフたちが持つ精霊の存在に気づくこともできなかったのだから。近代的な技術がないにもかかわらず高位の悪魔と戦えているのは恐ろしいことだ)


 宰相は次にドワーフの国レオエイダンの王ヴェンリゲルを見る。

 ドワーフの王はひどく険しい顔でウィリアムを睨んでいた。


(ドワーフたちには錬金術がある。あれは非常に強力な技術。我が国に入ってきている技術などほんのわずかでしかない。現にドワーフたちは初回以外、二度目以降の高位の悪魔には有効な武器を開発して奮戦していたのだから)


 ドワーフの持つ優れた技術である錬金術。

 これは道具に込められた不思議な力を使って、高位の悪魔が使う魔法と呼ばれるものに近しい効果を発揮する技術。


 何よりも錬金術で作られた道具であれば、人を選ばずに使用できる。

 エルフの持つ精霊魔法に比べれば咄嗟の応用性に乏しいが、汎用性はずば抜けている。

 軍全体に持たせることができれば非常に強力であり、それをもってして高位の悪魔に対応できる。


(アクセルベルクは名目上、各国の技術や文化が集まる国。しかし実情はとても程遠い。どの国も我が国に対して最低限のものしか与えてくれていないのだから)


 宰相は横で怒鳴っているクラウスを見る。


 ――原因はこの男にあると。


(この男がもっとまじめにやっていれば、もう幾分かは各国から協力が得られたものを。王たちも馬鹿ではない。北部について独自に調べているだろう)


 なによりも――と横目でちらりと、竜人の王を見る。


(未知数だった竜人、その王……想像以上の傑物だ。情報戦においても抜かりはないか)


 ただ座っているだけで、心臓が掴まれたかと錯覚するほどの威圧感。

 宰相は溜息を吐きたくなるのを会議中だからという理由で抑える。



 それになにも悪い知らせだけではない。



 宰相と向かい合う位置にいる竜の仮面をつけたウィリアムを見て。


(ウィリアム殿。本来であれば北部がやるべきことを彼はたった数年でやってのけてくれた。ドワーフの錬金術を学び、エルフの持つ知識を身に着けた。それらを組み合わせることで非常に画期的で強力な飛行船を作り上げた。ディアークもさぞかし鼻が高いだろうな)


 西部はレオエイダン、東部はユベール、北部は中央と結びついている中で、南部だけが孤立していた。


 しかしその南部にウィリアムが現れた。


 ディアークは自分のほかにもう1人、頼れる仲間ができたことで水を得た魚のように南部を発展させ、あっという間にグラノリュースを落として見せた。

 ウィリアムが侵攻に必要な核心的な技術や力を、ディアークは戦争に必要な物資や人員を手配して、南部を瞬く間に発展させた。


 まるで足りないものを補い合う2人は、他の領に決して劣らなかったのだ。


(ロフリーヴェスを前にしてもまるで臆する様子もない。一応名目的に最強の将軍ではあるが、彼にとってはたいしたことではないのだろうか。とても興味深い。エルフ王が笑っているのもこんな気持ちなのだろうか)


 宰相の意識は再びクラウスを煽るウィリアムへ。


「俺の率いる師団はドワーフもエルフも竜人も獣人も集っている。他のどの軍にも見られない俺だけの師団。意味はご理解いただけたかな?」

「何が言いたい。率直に言いたまえ」

「あなたじゃ実力不足だ。俺の師団を率いるに値しない。故にグラノリュースの王にふさわしくない」


 ウィリアムの仮面がぱっくりと割れ、口元を露出する。

 宰相からはその口元が心底愉快そうに歪んでいるのが見えた。


(確かに各国種族の信用を失っているクラウスでは特務師団を率いることは難しい。師団がいないのであればグラノリュースを統治することも難しいだろう。報告によればグラノリュース軍も強力な使い手がいるようだからな)


 天上人と天導隊。

 この2つは聖人で構成され、一般の将兵とは隔絶し、高位の悪魔すら上回る実力を持つ。

 そしてその二つはウィリアムを認め、従うそぶりを見せている。


 逆に言えば、認められなければいつ反旗を翻すかわかったものではない。あくまでグラノリュース軍は侵略された側なのだから。

 宰相がそこまで考えたところで、激高したクラウスが怒鳴り声をあげる。


「貴様! この吾輩を誰と心得る! このアクセルベルクを悪魔から数百年も守り支え続けたクラウス・レオ・ロフリーヴェスであるぞ! 貴様のような若輩が偉そうなことを言えるような人間ではない! 時代遅れのグラノリュースを落とした程度で粋がるな! 竜とて所詮犠牲もなしで討ち取れる程度の羽虫だろう! そんなものを誇ったところで吾輩の武功の足元にも及ばん! 身の程をわきまえろ!」



 その言葉に会議室は静まり返る――




次回、「南と北」

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