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夢見る未来に福音を  作者: 相馬
第一部 最終章《帰りぬ勇者の送り火》
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第十一話 一国の王として

 


 王侯会議が行われる部屋は、アクセルベルク王城の上部にある荘厳な雰囲気を持つ部屋だった。

 部屋の中心には大きな円卓があり、椅子が置かれている場所にはそれぞれの国の代表の名前が彫られ墨入れをされた名札が置かれている。

 代表が円卓に座り、補佐官や付き添いの者は少し下がった位置に置かれた椅子に座る。


 俺たちが部屋に着いたときには、すでに二人の代表がいた。


 一人は、俺たちと同じ黒を基調とし、西部所属を示す赤い装飾が施された軍服を着た男。


「ハードヴィー大将! 久しぶりだな! 飛行船開発の件では大変世話になった!」


 西部軍大将エデルベアグ・グス・ハードヴィー。

 厚手の軍服がはちきれんばかりに膨らんだ筋肉にむっつりとした表情を浮かべていたハードヴィー大将は、ディアークの声を聞いて途端に顔を綻ばせた。


「ディアーク大将! こちらこそ、南部のおかげでかつてないほどレオエイダンとの関係を強固なものとすることができた。こちらからも礼を言おう。それと大将への昇進、おめでとうと言わせてもらおう」


 あれ? この大将、こんなにおしゃべりだったっけな。

 ハードヴィー大将と初めて会った時は、まだるっこしくて要点を省いた話し方をするから、すごくイラついた思い出があるのに。


 まあいいや、ハードヴィー大将には東部事件のフォローだったり、飛行船関係で礼を言いたかったが、ディアークが相手をするなら、俺はもう一人と挨拶をするべきだ。


「お久しぶり。ヴェンリゲル王。ご健勝そうで何より。グラノリュース侵攻に当たりご助力のほど心よりお礼申し上げる」


 もう一人の列席者。

 レオエイダン国王ヴェンリゲル・ルイ・レオエイダン。

 背丈は俺の胸くらいまでしかないものの、その圧倒的な神気と威圧感で、まるで巨人を相手にしているかと錯覚するほどの迫力を持つドワーフの王。


 挨拶をすると、ヴェンリゲル王はひどく不機嫌そうな顔で俺を睨んだ。


「……うむ、報告は聞いておる。大儀であった。数々の武勲、最小限の犠牲で上げたこと、竜を討ったこと、どれも卓越している」


 表情とは裏腹に、意外にも出たのはねぎらいの言葉。


「全員を無事に返すことができなかったこと、申し訳ない」

「彼らとて覚悟はあった。そうして我が同胞のために心を痛めてくれる貴公の下で逝けたこと、本望であったと確信している」


 どうやら、グラノリュース戦の結果に不満があるわけじゃないようだ。


 ていうか、怒ってないならもっと機嫌良さそうな顔してくれよ。


 ヴェンリゲル王もそうだけど、その後ろにいる側近のよく似た顔のドワーフもすげえ睨んでくる。


 なんなんだよ、怖えよ。


 ああ、王妃いないかなー。レオエイダンの王族で唯一ちゃんと話ができるのあの人なんだけど。

 レオエイダンじゃほとんど交渉はあの人とだったし。


 ヴェンリゲル王と挨拶をした後は、交代するように西部のハードヴィー大将と挨拶を済ませ、自席につく。

 ちなみにアグニはずっと俺の後ろにひかえていて、実父であるヴェンリゲル王とは一言二言だけだったようだ。


「いいのか? 父親だろうに。もう少し話してきてもいいんだぞ」

「いいんですよ、どうせこの会議の後に一緒に一度国に戻りますから。先ほどはそれを伝えただけです。それなら、こっちでお2人とお話がしたいですし」


 嬉しいことを言ってくれる。

 ただ、ずっとこっちをヴェンリゲル王と側近が睨んでくるのだけ何とかしてほしい。


 円卓の席順はちょうど各国の位置と一致している。

 南部軍であるディアークとさらに南方のグラノリュース代表である俺は南側、西部軍とその西にある大国レオエイダンの代表であるハードヴィー大将とヴェンリゲル王は西側、つまり俺たちから見て左側に座っている。


 だから普通こっちを見ることはそうないと思うんだけどな、ドワーフの王様。


 会議が始まるまであと半刻ほど。

 付き合いがある席が隣同士のディアークとハードヴィー大将は楽しそうに軽い雑談をしている。

 だけど、最も遠いヴェンリゲル王と俺は何の会話もない。


 ただただ睨まれてるだけだ。


「ねえ、あの王様、ずっとこっち睨んでない?」

「なんか恨まれるようなことしたかな?」

「うちの父がすいません。実は――」


 アグニが何かを説明しようとしたとき、四方にある扉の右側、つまり東側が開く。


 入ってきたのは、見たことがない立派な服装をした白髪の男。


 軍服ではないところから、彼は恐らく東部大将の代わりとして派遣された代官だろう。


 注目すべきは、代官の後に続いてきた一人の偉丈夫。


 流麗な金髪をなびかせ、植物でできた冠を被った、耳が長く背の高い眉目秀麗のエルフの王。


 レゴラウス・フェル・ユベール。


 レゴラウスはこちらを見ると、穏やかな笑みを浮かべてエルフ式の指を胸にあてて手を前に出す挨拶をしてきた。

 俺も立ち上がり、同様の動作を返す。

 そのままレゴラウス王はこちらへ近づいてきた。


「久しいな、ウィリアム卿。いや、もうウィリアム王と呼ぶべきかな? いくつもの唄が我らユベールまで轟いてきたよ。随分と活躍しているようだな」

「ルシウスを始めとしたエルフの助力のおかげだ。心より感謝する」


 どちらともなく手を差し出し握手をする。

 レゴラウスは背丈が190近いから、こちらが見上げる形になる。

 下から見てもイケメンだな。ここまでくると妬みなんか出てこない。いっそ人形でも作って売ってくれないかな。


 そのままレゴラウスと話そうと思っていると――


「ぺぺぺぺーん!!」


 奇天烈な奇声とともに、王の陰からひょいと何かが出てきた。


「あ! ウィリアムさんです! ご無沙汰です! 覚えてますか! エイリスです!」


 出てきたのは、エルフの奇才。


「ああ、エルフにしては忘れられないくらい喧しい奴だな」

「ひどい覚え方! でも唯一無二って感じでいいですよね! 今日はよろしくお願いします!」


 エイリス・フェル・ユベール。


 レゴラウスの娘であり、一度会ったら忘れられないエルフの変人。


 相変わらずうるさいやつだ。


 さっきまで西と南の少しの雑談しか聞こえなかったのに、今はもうエイリスの元気な声しか聞こえない。


 さすがに王侯会議とあって、彼女は今はユベールの時と違って痴女みたいな露出度の高い服ではなく、ちゃんとした礼服に身を包んでいる。


 服を着ているから少しはましになったかと思ったのに、中身はまったくもって変わってない。


 レゴラウスになぜ連れてきたのかという視線を向けると、彼は困ったように肩をすくめた。


「今回の会議にウィリアムが出席すると聞いて自らも行くと言い出したのだ。立場的には問題もないし、王族に身を連ねるもの、外の世界を知ってもらおうと連れてきたのだ。条件としてちゃんと服を着てもらうことをつけた」

「条件ゆっる。赤ちゃんかこいつは」


 蔑みの目を向けると、エイリスはいやに身をよじらせる。


「だって王侯会議なんてとても大事で神秘的で歴史的で荘厳な場所の空気を文字通り肌で感じたいじゃないですか! 今すぐ脱ぎたい気分です!」

「……頼むから連れ出してくれよ。耳が痛いよ」

「余は頭が痛いよ」


 2人して額に手を当てて溜息を吐く。

 すると話が一段落したと思ったのか、俺の後ろからアグニが近づいてきて、レゴラウスに挨拶をした。


「初めましてレゴラウス陛下。私はグラノリュース駐留軍特務師団参謀長アグニータ・ルイ・レオエイダンです。本日はウィリアム・アーサーの補佐官をしております。以後お見知りおきを」


 アグニの丁寧なあいさつに、頭を抱えていたレゴラウスは一転して顔を引き締める。


「これはレオエイダンの王女殿下であったか。道理で礼儀正しく見目麗しいはずだ。お初にお目にかかる。レゴラウス・フェル・ユベールだ。こちらは娘のエイリス・フェル・ユベール。そなたとは立場的に共通点の多い娘だ。仲良くしてやってほしい」

「ええ、それはもちろんですとも」


 背の高いエルフに背の低いドワーフ。

 しかし、身長差などみじんも感じさせない対等のやり取りだった。

 たぶんレゴラウスはエイリスと比べてかなりしっかりしているアグニに、内心感心しきりに違いない。


 アグニはレゴラウスの次にエイリスに向き直る.


「エイリス様ですね? アグニータ・ルイ・レオエイダンです。どうぞ、よろしく……」

「こちらこそよろしくどう……」


 和やかにアグニの挨拶が進んだ……と思ったら、何故かエイリスと顔を合わせたとたんに言葉が止む。


 騒がしかったエイリスも何も言わない。


 少しだけ沈黙した2人はなぜか俺に視線をよこして、再び相手を見る。


 そして……


「ウィリアムさん! この人とはどんな関係ですか!?」

「ウィリアムさん! この女性が補佐官ってどういうことですか!?」


 えーーなにこれ。


 どんな関係もどういうことも何もないんですけど。

 特別な関係なんて何もないんですけど。


「うるさい知らん黙れ王女ども。品を持って慎ましく黙れ」


 投げやりにあしらうと、アグニはおずおずと下がる。


「し、仕方ありません。今は引き下がります」

「ああ、やっぱりウィリアムさんです! このぞんざいな感じ!」


 いやだなーこの破廉恥女、もう帰りたいよ。

 レゴラウスと苦笑いをしながら席に座る。

 レゴラウスとはちょうど隣だから、その後も雑談をして時間を潰す。


 すると少しの時間が経った時にまた東側の扉が開く。


 ――開いた瞬間に、身の毛もよだつ威圧感がやってくる。


 反射的に背筋がこわばった。


 この威圧感は前にも感じたことがある。


「ほう、まだ来ていない輩いるか。この俺よりも遅く来るとは不遜な輩がいるものよ」


 入ってきたのは、大柄で竜のような角を持ち、煌びやかな着物に身を包んだ大男。


 竜人族の王レイゲン。

 長くつやのある黒髪の隙間から覗く鋭い眼光が部屋の中を一瞥する。

 それだけで、比較的和やかだった部屋の中に緊張が走る。


 半神に片足を突っ込んでいるからか、はたまたこの男特有の覇気のせいなのか。

 大陸中の王の中でもレイゲンの威圧感はなお圧倒的だった。


 豪華で立派な鎧を身にまとったレイゲンは、此方を見てフッと意味深な笑みを浮かべると、何も言わずに自らの席に座る。


 側近は2人ほど。

 一度見たことがある女の竜人と、もう1人は見たことのない眼鏡をかけた如何にも頭の切れそうな竜人だ。

 竜人にも文官っているんだな。


 レイゲンが来た事により、一気に空気が引き締まる。

 そのまま会議が始まる定刻まであと少しに迫ったときに最後の参加者たちがやってきた。


 北側の扉、俺たちの正面に当たる扉から多くの人間が入ってくる。


 まず最初が、見覚えのある悲しくなってきた頭をしっかりと整えた老齢の男性。ベアディ・カスパブラッツ宰相。

 そのあとに三人ほど見知らぬ色違いの礼装に身を包んだ壮年の男たちがやってきた。


 赤、緑、白とあることから、おそらくその三人が大陸に大きく分けて三つある宗教の代表なのだろう。


 宗教に関しては俺は興味がないので、この三人がどういう立場でどういう関係なのか知らない。


 そしてまだやってくる。

 分厚く動きづらそうな華美な服装を纏い、頭に王冠を被った男。


 アクセルベルクの国王が入ってきた。

 アクセルベルクの王政は特殊で、血筋などは関係なく、執行院と呼ばれる国中から集められてきた優秀な子供たちから実力と人格が特に優秀な者から選ばれる。


 この王も実力と人格ともに非常に優れているに違いない。


 そして最後にやってきたのは、ところどころに白の装飾が施された軍服を纏い、大勢の部下を従えた白髪交じりの初老の軍人。


 ――アクセルベルク最強と呼ばれる聖人、北部軍大将クラウス・レオ・ロフリーヴェス。


 ロフリーヴェスは薄ら笑いを浮かべながら席に着く。


 最後に入ってきた北部勢が席に座ったところでちょうど定刻を告げる鐘が鳴った。




次回、「暴食家」

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