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夢見る未来に福音を  作者: 相馬
第一部 最終章《帰りぬ勇者の送り火》
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第九話 北へ

 


 研究所の事故から2週間が経過した。

 ヴェルナーたち三人はその後目覚め、無事に魔法が使えるようになった。

 魔法の基礎に関する記憶も渡したし、錬金術師の彼らならすぐに強力な魔法が使えるようになるだろう。


 当然だが、あの三人が魔法を使えるようになったことは俺しか知らない。


 とりあえず、あの三人についてはうまくいってよかった。

 だがまだまだやるべきことは山積している。



「準備はできたか? では向かうとしよう」


 そう言ったのは、南部が発達したことでついに大将に昇格したディアークだ。


 特務師団はグラノリュース軍となるために近々南部軍から所属は外れるが、それでも発達した南部に人が集まり、軍の規模が拡張して中将から大将に昇進した。


 ちなみに俺にはもう将軍という地位はない。

 褒章のせいで既に一国の王扱いだからだ。


 グラノリュースの王となり、ミドルネームにフォルを名乗れるようになった。


 ウィリアム・フォル・アーサー。


 これからはそう名乗らなければいけないらしい。面倒なことこの上ない。


「王都までは片道一週間か。飛行船なら一日なのにな」

「はっはっは! 確かに飛行船で行ければぜひともそうしたいところだな!」


 今から向かうのは王侯会議。

 各国の重鎮たちが集って大陸の行く末を話し合う会議だ。


 今回は議題が多い。

 大陸でも重大な行事である会議に参加するディアークのそばには、側近たちが何人かいる。

 そしてグラノリュース代表として参加する俺にも補佐がいる。



「王都に行くのは久しぶりね! 今度こそカジノで一発当ててやるわ!」

「ウィルベルさん、遊びに行くんじゃないんですよ。代表として恥ずかしくないようにしてくださいね」


 ベルとアグニだ。

 アイリスを連れていこうかと思ったが、彼女以外に留守を任せられる人間がいないので、王都に行きたがったベルを連れていくことにした。


 三人と一緒に王都行きの立派な馬車に乗り込んだ。


「転移で行けば一瞬なんだけどな」

「こういうのは恰好が大事なのだ。ちゃんと南部軍は立派であり負けていないとな。他の領が立派な馬車で来ているのに南部は特に見なかったな、なんてなれば貧乏なのかと思われるぞ」

「どうでもいいじゃないか」

「為政者なのだ。我々の一挙手一投足が南部の評判に繋がる。立派に着飾り遠回りすることも時には必要なのだ」

「そんなもんかね」


 馬車に揺られながらディアークからうんちくを教わる。


 アクセルベルクの国土は広い。

 南部一つとってもとても広大な土地を持つ。

 中でもグラノリュースに向かうことを想定して建設された特務師団基地のフィンフルラッグは最南端にあるために、アクセルベルクの中心にある王都まで行くには一週間以上かかる。

 その道のりをさらにお披露目や挨拶廻りもしていくとなれば、最低でも一ヶ月だ。


「王になるなら見栄を張ることも覚えたほうがいいぞ。貴殿は質素で美徳でもあるが、これからは外面も気にしなければならないからな」

「グラノリュース王に即位してもすぐに退位するから必要ないな。城が再建される前に終わる気がするよ」


 グラノリュースに関しては見栄を張る以前に城が上半分ないのだ。

 まさしく青空教室状態だ。

 まあ、あれはあれで開放感があっていいと思う。


 天上国なんていうくらいだし天井なくていいんじゃないか。


「退位したとして、その後どうされるんですか?」

「さあ、決めてない。やることはあるけどまだ考え中だ」

「はて、この間はウィルベル少佐と旅でもすると言っていたではないか」

「え、そんなこと言ったの?」


 窓の外を見ていたベルがこちらに向き直る。

 なんとなく恥ずかしくなって仮面を被りなおす。


「まあ……言ったかな」

「ふーん。いいけど、ちゃんと生活の面倒見てね?」

「は?」

「前に言ったじゃない。生活の面倒見てくれるって。一緒に行くならまだ有効よね?」


 それはアクセルベルクにやってくるよりも前にした約束。

 三年前にした約束だが、彼女も大人になったし、佐官として十分な給料を持っているからもういいと思っていたのに……。


「まさかと思うがお前、今貰ってる給料どうしてる?」


 問うとベルはあごに人差し指をあてて思い浮かべる。一瞬可愛いと思ってしまった自分を殴りたい。


「このあたりで出回ってる宝石を買って回ってるわ。質のいい宝石はどれも高価だからいくらあっても足りないの」

「宝石? なんでまたそんなもんを」

「魔法に使えるものを探してるのよ。純度の高いものほど魔力が強くて触媒として有効だから、いくらあっても足りないのよ」


 つまり、こいつはこれからも宝石を買いあさるということか? 少佐ってかなりの高給取りだぞ? その給料をほとんど使いきるってとんだ金食い虫じゃないか。いやもう虫っていうかドラゴンだ。


 ベルの発言から何か思い当たることがあったのか、ディアークが手を叩く。


「最近町で宝石がよく見かけられるのはウィルベル殿のおかげか。どうも南部での宝石の売れ行きがいいと話題になっていたらしい」

「商人で話題になるほどって相当じゃないか? どんだけ金使ってんだ。というかお前たまに金を無心してくることがあったけどあれもまさか……」


 睨むとベルがテヘッと笑う。

 キレてもいいよな?


「これはもう王族になるしかないのではないでしょうか。グラノリュースでなくてレオエイダンでもいいですよ? 宝石の名産地ですし」

「それは困るぞ。優秀な人材が他国に行っては困るとも」

「あら、レオエイダンはアクセルベルクの同盟国ですし問題ないと思いますけど」

「しかしだな……」


 勝手に話を進めるアグニとディアークだが、もう無視だ。


「よし、ベルは置いていこう。1人で……いやエスリリを連れて旅でもするよ」

「え!? 待って! 節約するから連れてって!」

「私は連れてってくれないんですか? どうしてエスリリさんにだけ甘いんでしょうか。獣人ですか、やっぱりケモ耳ですか」

「はっはっは! やはり貴殿の周囲は面白いな。退屈せずに済みそうだ」


 毎日これだと疲れるぞ。


 まあ馬鹿なことをするのは好きだから、変に色恋の話になるよりよほどいい。


 ベルとエスリリなら、ただくだらない話をしても楽しいからな。







次回、「若き芽」

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