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夢見る未来に福音を  作者: 相馬
第一部 最終章《帰りぬ勇者の送り火》
247/323

プロローグ

          生きるってのは本当につらい

          死ぬってのは本当にこわい

          だけど願わずにはいられない

     あの人に生きてほしいと、そのために死んでもいいと

           だから戦う、己を懸けて


                    ウィリアム・フォル・アーサー

――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 今なお俺たちは戦場にいた。

 火と煙が立ち込めて肉が焼ける匂いが充満する。

 何度も何度も炎は立ち上がり、数多くの肉が焼けていく。


「その肉とってくれ」

「ダメ、これはあたしが育てた大事なお肉よ」


 赤かった肉は茶色く変色し、何本もの棒が突き刺さる。


「もう十分食っただろ、太りたくなきゃさっさと寄こせ」

「失礼ね、超スマートなあたしに太るなんて無縁よ。諦めて自分で肉を育成しなさい」

「ならこっちをもらう」


 まだ無事だった肉に棒が刺されば、悲鳴が上がる。


「あー! ウィリアムさん! それ私のお肉!」

「網の上は戦場だ。自分の獲物は自分で守れ!」

「今は休戦中です!」

「俺の箸は休まん! 食は進み続けるんだ!」


 屍を糧にして、俺たちは進まなくてはいけないのだ!


「ウィル、ダメだよ。行儀が悪いよ」

「知るか、俺が一番偉いんだ。全部の肉を献上しやがれ」

「くぅ~ん、わたしの肉も?」

「エスリリはいいぞ、好きなだけ食え」

「わぁ~い!」

「甘い、甘すぎるわ。この甘ダレのようにこの男、獣人に対して甘すぎるんだけど」


 視界の端で、時折緑が燃えていくのがわかる。

 誰にも見向きもされずに視界の隅で黒く燃えていく。

 ここにいる全員気付いている。それでも俺たちは目の前の焼けていく肉にしか目がいかない。


「野菜も食べないとバランスが悪いよ。ほら、よそってあげるからお皿を貸して」

「いや、自然をこよなく愛するエルフの血を引くアイリスが食べるべきだ。遠慮せずに食べるといい」

「食べたくないだけでしょうに」


 端に寄せられた野菜をアイリスがパクつく。

 まだ野菜は残っている。


「ウィルベルは?」

「ドラゴンは雑食で野菜も食べるのよ。ということは、その肉には野菜の栄養価も込められているということに……」

「嫌いなんだね」


 また一つ、アイリスが食べる。


「アグニータ様は?」

「目の前にある食材の価値を算出した場合、コストパフォーマンスに優れるのはどう考えても――」

「ああはいわかりました。予算についてウィルが考えさせすぎた結果だね。こんな理由で野菜を断る人たちを初めて見たよ」


 アイリスが網の端に野放しにされて黒くなった野菜を全部取って食べる。


 さすがハーフエルフのアイリス、なんだか断ったのが申し訳なくなってくる。

 耳が長くないから忘れがちだが、アイリスはちゃんとエルフの血を引いていて、金髪青目で容姿も優れていて寿命が長い。

 知り合って数年経つが、出会ったときから何も変わってないように見える。


 見た目が変わっていないと言えば、今一緒に肉を食べているアグニことアグニータもそうだ。

 エルフに匹敵するほどの長寿種族ドワーフの王女である彼女も、出会ったときから変わらず多くの男性を魅了する可憐な顔をしている。

 小柄なことも相まって、今となっては南部のアイドル的存在だ。

 大人っぽい色気を持つアイリスとは正反対だが、立ち振る舞いはとても子供っぽさを感じさせない落ち着きがある。


 肉体的な変化で言えば、俺も人のことは言えない。

 俺の体はこの世界に来たときから特に変化していない。


 筋肉がついたりはしたが、老化といった変化が起きていないのだ。


 鍛えているからかはわからないが、皺もたるみも特にない。

 成長期は既に過ぎているからわかりにくいかもしれないが、この調子ではまともに老人になるのにどれだけかかるかわかったもんじゃない。


 そんな俺たち三人とは異なり、出会ったときから大きく変わった少女が一人。


「ウィルが普段から屁理屈言ったり仕事押し付けたりするから、純粋でまっすぐだったアグニまで似ちゃったじゃない」


 そう文句を言ってくるのは、未だ幼さが残る、黒い尖がり帽子とひらひらしたローブを纏った、銀髪に瑠璃色の瞳をしたベルことウィルベルだ。


「俺のせいにするなよ。仕事は分担しただけだ。予算関係の仕事だって俺はちゃんとやってたぞ。アグニは元から狡猾だ」

「ひどいですウィリアムさん。これでも巷では純粋無垢の箱入り娘って謳われてるんですよ」

「どこが箱入りだよ。ホントに箱に詰めてやろうか。戦場に頻繁に出張ったり、凄い武器を量産するような奴を箱入りとは言わねぇ」


 アグニを見て箱入りだなんだと夢を抱いている奴は、一度彼女と手合わせして土を食べればいい。

 きっと忘れられない思い出になる。


「それは確かにそうよね。それならあたしがもっと有名になってすごい武勲詩になってもいいと思うの」


 アグニやアイリスと違って知名度のないベルが言った。


「ウィルベルはもともと出自も不明だし露出も少なかったからね。普段は軍服も着ないから、ただの町娘だと思われてたんじゃないかな」

「ぶー」


 納得いかない彼女は頬を膨らませる。


「まあいいじゃないですか、こないだの件で軍関係者ってこともウィリアムさんと近しいということも知られたじゃないですか。これからですよ」

「でもそうして広まった詩が事実となんも関係ないものばかりじゃない。あたしがただのお手伝いでウィルに一方的なんて納得いかないんだけど」


 さらにぶすむくれるウィルベル。

 そんな顔をするウィルベルは、昔に比べればとても大人になった。


 出会ったときはまだ15で、幼さが強く残っていたが、三年経った今はだいぶ大人びて背も伸びた。

 体型はそこまで変わってないが細くて白い。

 容姿もかなり整っているが、他二人と比べるとどうにもまだ幼い感じがする。童顔な感じじゃないし、一応今でもほんの少しずつ伸びているらしいから、人より成長が遅いのだろう。


 もうすぐ18で大人にだいぶ近づいてきている。

 でも仕草や性格も相まってまだ子供っぽい。

 実際に町で声をかけられるときは子供扱いされるそうだ。


 笑える。


 さて、こんな風に平和にバーベキューをしている俺たちだが、グラノリュースから南部に帰ってから今日まで、本当に大忙しだった。

 特に帰ってきた直後は。






次回、「竜の帰還」


更新までもうしばらくお待ちください……

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