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夢見る未来に福音を  作者: 相馬
第九章 《天地焼く空の王》
222/323

プロローグ



             空を仰ぎ

            地を見渡せば

          嫌でも思い知らされる

       オレたちは、あまりに小さな存在だ


                 ―――ヴェルナー・シュトゥルム


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――




 灼熱巡る絶海の孤島、その奥地の火山が一際盛大に赤橙の液体を吹き出し、空を灰一色に染め上げる。

 火山の火口から麓までに、まるでガラスがひび割れるかの如く大量の地割れが走り、大地が砕けた。


 火山の麓に孤独に建てられた一つの祠もあっけなく砕け地面の下に飲まれていく。


 代わりに地の裂け目から吹き出すは、粉塵纏う白き炎。

 白き炎は流れてくる溶岩すらも吹き飛ばし、麓に一つの巨大な穴を穿ちぬく。


『……グラン』


 火山活動とは異なる振動が規則正しく地面を揺らす。


『我が盟友よ……』


 ズルズルと、巨大な体躯を誇るなにかが出た後には、地面を削ったかのごとく地面がえぐれていた。


 灰と灼熱色に染まる空と地で、ソレは大いなる翼を広げる。


『…………戦のときよ』


 その眼は、縦の瞳孔を持っていた。




 ◆




「絶対にあいつらに追いついてやる」


 グラノリュース天上国の中層に設営されたアクセルベルク連合軍基地。

 そこの司令部である旗艦ヘルデスビシュツァー内にある錬金術工房で、白髪で目つきの悪い青年が決意を込めた声を放つ。


 その後ろには、金髪を耳のあたりで切りそろえている口調の丁寧な青年と青みがかった銀髪を背中まで伸ばしまとめた女性がいた。


「そんなことはこの一年、ずっと目指してきたことじゃないですか。それでもいまだ足元にも及んでいませんが」

「あのときの戦いを見たらヴェルナーの気持ちもわかる。……私たちは何もできなかった」


 ライナーもシャルロッテも、肩を落とし、失意の底にいた。

 意気消沈している2人に対し、ヴェルナーは碧眼の瞳を滾らせて、右手に金属質のグローブを嵌める。


「ライナー、シャルロッテ。オレは諦めねぇ。あいつらにあってオレにねぇもの。謎に包まれたあの2人の力」


 ヴェルナーはグローブをした手で、球状の道具を強く握りしめる。

 途端に道具が弾け、炎が生まれる。

 彼の手を炎が包む。


 それでも彼の顔には一切苦痛の色はなく、その瞳はひたすら燃え盛る炎を映し出す。


「オレは手に入れてやる。団長とウィルベルの力、魔法を。どんな手を使ってでもな」


 火はやがて燃え広がり、ライナーとシャルロッテの瞳にも闘志の炎が宿っていった。




 ◆




 激しくも短かったグラノリュース天上国との戦争が終わって一週間と少し。


 ずっと気がかりだったことがいくつかある。

 今はそのうちの一つを聞いている。


「城で保護したとう……男の容体はどうだ?」

「いまだに意識がありません。食事や排せつは医療機関のものが見ておりますが至って健康です。どうして目を覚まさないのか、理由がわからないとのことです」


 特務師団師団長である俺ことウィリアム・アーサー少将の執務室で、部下の報告を聞く。


 手渡された書類に目を落としながら、いくつか質問していく。


「その男は聖人か?」

「聖人に限りなく近い、とのことです。正確には異なるそうですが身体能力や寿命はすでに大きく伸びているだろうと。もともとの年齢が高いこと、体格や筋肉量からして脅威にはならないだろうとの予想です」

「そうか、ご苦労だった。もし目を覚ましたら最優先で知らせてくれ」

「了解しました」


 敬礼をして部下は去っていく。


 今聞いたのは俺の父に関する報告だ。


 理由はわからないが、グラノリュース天上国の王グラノリュースと対峙したとき、元の世界にいるはずの父がグラノリュースに捕らえられていた。


 ありえないと思った。


 元の世界から人を連れてくるだけでも驚異的なのに、選択的に人を連れてくるなんてありえない、たまたま70億もいる地球人口の中から俺とその父が召喚されるなんてありえないと。


 だがあの男は意図して父を召喚したと匂わせていた。

 そんなことが可能なのだろうか。


 いや、可能なんだろう。

 でなければおかしい。


 そしてそれができるということは、俺と父が元の世界に帰ることができる可能性を大きくあげることにもつながる。

 心配せずとも、俺と父がいた元の世界とこの世界をつなぐ役割を持つと思われる宝玉は、既にこの手の中にある。


 あとは調べて、帰るだけだ。


「あと少し、あと少しなんだ……。でもその前にやり残したことをやっておかないとな」


 父に関する報告書はしまって、机の上にあった他の書類を手に取る。


 それはアティリオ・エクトルカの消息を追った報告書。


 そこにはこう書いてあった。


「独房近辺の部屋でアティリオ・エクトルカのものと思われる物品がいくつか発見。当人の姿は無し、装備一式は地下の牢近くの倉庫に保管、ねぇ」


 いかにも怪しい。


 アティリオ・エクトルカ。


 その名はこの世界で俺に槍や剣、盾を用いた防御術といった戦い方と、この世界をまわることを教えてくれた師匠のものだ。


 彼も聖人でこの国の現状を憂いていた。

 長年、この国を変えようとしていたことから俺に協力してくれたのだ。

 先の戦では、初日に銃火器を持つライナーやシャルロッテを剣で圧倒するなどした超人的な実力を持つ人間だ。

 また、天導隊と呼ばれる数少ない超精鋭であり、この国にとってなくてはならない人材だったはず。


 それほどの人材、しかも初日の攻防では目立った反逆行為は行っていないのに、二日目には捕らえられているという事実が嫌に気に障る。


「投獄でもされたのか。でも牢にそれらしい痕跡はない。そもそもその理由は? 不穏分子として見られていたのかもしれないが、なんで急に……」


 ぶつぶつと頭を整理するために呟く。

 アティリオが危険視されていた可能性は十分にある。というより確実といっていい。


 グラノリュース王と相対したとき、奴がこう言っていたからだ。


『アティリオは長年ワシを支えてくれた。多少見込んでいたがやはり愚物。己が子の姿をした別人に肩入れし、この国を裏切ったのだからな』


 つまり既に俺たちが来る以前から彼は目をつけられていた。


 でもそれならなぜこのタイミングなのだろうか。


 初日で損害をもたらしたとは聞いていない。それなら天上人の1人であるフリウォルの方が圧倒的に被害を出していた。

 しかし、フリウォルは後日何事もなかったかのように俺たちの前に姿を現した。


 だからアティリオも無事だと思っていたが……


「何かあった。もっと調べる必要があるな」


 父のことも師のことも、そして神器についても調べなければならない。


 戦いが終わってもやることが多いな。

 でも大事な目的は果たした。

 ゆっくりでもいい。しっかりと進んでいこう。


 左腰に下げた刀を撫でながら、今日の分の仕事に取り掛かることにした。





次回、「宝玉」

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