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夢見る未来に福音を  作者: 相馬
第一部 第一章《始まりの大地》
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第二十一話 最悪

「加護とはどんなものか、だと?」


 かつて加護について知ったとき、鍛錬の時間にアティリオ先生に聞いたことがある。


 曰く、神が意志持つ生命を称え、与えた力。

 曰く、意思が具現化したもの。

 曰く、加護はその人の願いをかなえる力。


 それを聞いて、見てみたいと思った。自分の加護は何なのか知りたいと思った。

 でもそれを知るすべはないとのことだったので、先生に加護が発現したとき、どういった現象が起こるのか聞いたんだ。


「加護とは強さも性質も人それぞれ異なる。加護の形は即ちその人間の本質である」

「つまり優れた人には優れた加護ってことですか?」

「善人には善なる性質を持ち、悪人には悪なる性質を持つということだ」


 つまり、能力には関係なくその人が何を心から望んでいるのかということだと先生は語る。神々はたとえ力がなくとも、強き意志を持つものに願いをかなえる力を与えたのだという。

 人々を助けたいと願えば、人々を救うのに必要な力。

 人々を害したいと願えば、人々を害してしまう力。

 加護はその人の本質を表す。そしてその本質は常に一定ではなく、願いが変われば加護も変わると言われている。

 加護とは、発現する条件も能力も変化し続けることから実戦で狙って使うのは難しいという。

 願いを叶えるための行動をしている時に発動すると言われているが、具体的にはわかっていないらしい。


「私とて、狙って加護を発動するのは難しい。だが加護が発動するであろう条件は知っている」

「それはどんな条件なのですか?」

「参考になどなるまい。条件は常に変化し、発現しやすい者もしにくい者もいる。一般的に強き加護を持つものは発動する条件が厳しく、弱い加護を持つものはその分、発現しやすいと言われている」

「ということは発動条件の厳しさと加護の強さは反比例するということですか?」

「傾向としてはな。だが例外はある。強き意志を持つものは緩い条件であっても強き加護を持つものもいる。結局人それぞれなのだ」


 先生はそう締めくくる。とても興味深く、夢のある力だと思った。

 力がなくとも強き意志を持っていれば願いをかなえられるかもしれない力。

 僕の願いは何なのだろうか。強くなりたいと願ってはいるがいまだ一度も発現したことはない。知らず知らずのうちに発現しているのかと思ったがそうではないらしい。

 僕の身体能力も加護ならば説明がつくと思ったが、先生には発現しているかどうかがわかるらしい。


「加護を発動しているものには特有の気配がある。神聖な気配だ。俗に神気と呼ばれている。確かに共通の加護の効果として身体能力の強化はあるが、お前は恐らく違う」


 結局、僕の身体能力も加護では説明ができなかった。先生もはっきり断言できるほどではなかったみたいだけど、僕も日常生活で身体能力に変化がないため違うと判断した。


「加護を発現したものと戦うならば、相手に攻撃させないことだ。それしかない。加護とはそれほど強力なものなのだ」


 先生がそう締めくくって加護の話は終わった。

 鍛錬に戻っていつも通り戦いながらも、その日はずっと加護について考えていた。どうすれば加護を使う人に勝てるのだろうか。

 結局、その方法はついに思いつかなかった。





 そして今、加護を発動したイサークに、オスカーと二人で向かい合っている。後ろにはアメリアがいる。

 以前、先生が話してくれたように、確かに加護を発動したイサークは普段とは違う気配を感じる。わずかに赤黒く輝いている、でもそれは思っていたより禍々しい。あれが奴の本質ということなのだろうか。


 「あんな加護全開の相手は初めてだな。お前は?」

 「加護が発現しているのを見るのも初めてだよ」

 「なら俺が攻める。お前は援護しろ。いいか?相手の攻撃を絶対に受けるなよ?」

 

 そう言ってオスカーがイサークに向かっていく。

 気づけばオスカーにも加護が発現していた。そういえば以前、オスカーは戦闘になれば時々加護が発現すると言っていた。もしかしたら彼の加護は格上と戦うことなのだろうか。戦場でもここ以外では見ていないので、可能性は高い。


 彼の神気はほのかに黄色に輝いて、彼の体を覆っている。

 とにかくオスカーの援護をしようとするが、2人の動きが速く激しい。

 援護しようにも隙がない。だがしないわけにもいかない。

 速度と手数でオスカーが上回るが、堅実なイサークの守りを崩せずにいる。技量は互角にも見えるが、長引けば確実に不利だ。

 相手が持つ武器はすべて魔法陣が刻まれているが、オスカーは数うちのものだ。打ち合うほどに武器が傷んでいる。

 今は手が出せない。なら今のうちにアメリアを逃がすべきだ。


「アメリア!今のうちに早く逃げるんだ!あいつがここの指揮官だ。それをギルドに伝えて避難するんだ!」

「でも、オスカーさんが!」

「こっちで何とかするから早く!」


 アメリアが逃げたのを確認すると僕も参戦する。

 挟み撃ちにするように攻撃を加えるが、イサークも腐っても教官だ。立ち回りの経験も僕たちよりも圧倒的に上で、剣の腕もかなりのものだ。なかなか一撃を入れさせてくれない。

 僕が加わると相手も焦れたのか、大振りの一撃を振り下ろしてきた。

 反射的に防御しようとしてしまうが、オスカーの忠告通り、加護を発現した相手の攻撃を受けるわけにはいかない。

 慌てて回避して、即座に距離を取ろうとするが、槍の間合いに入ってこようとイサークが立て続けに剣戟を振るう。


「クソッ!」

「どうした?天下の天上人様はそんなものか!?」


 イサークが侮蔑に満ちた笑みを浮かべて迫ってくる。いくらなんでも敵の剣をよけ続けるのには限界がある。

 だがそこでオスカーが間に割って入り、彼が振り下ろした剣を防ぐためにイサークの足が止まる。


「ごめん!ありがとう!」

「お前は距離を取って攻撃しろ!槍があるならできるだろ!」


 オスカーの指示通りに、僕は集めた槍をいくつか持って後衛に回る。

 悔しいが、オスカーの武器は短剣2つだけで僕より身軽だ。フットワークも僕より軽いから、イサークの相手に向いている。

 だから僕は後方でどうにか支援するしかない。


「はっ!サルどもがいくら知恵を絞ったところで無意味だ!」

「無意味かどうか!やってみなきゃわかんねぇぞ!」


 オスカーが相手に攻撃させまいと怒涛の連撃を繰り出す。

 さすがにイサークも手数で攻められると、加護が活かせないようで苛立たし気にしていた。


 ……僕は、見てるだけだ。

 2人の距離が近すぎる。それになにより速い。イサークに投擲してもオスカーに当たりかねない。

 でも手をこまねいてもいられない。

 オスカーの短剣は数うちの物だけど、イサークのは違う。

 魔法陣が刻まれた頑丈かつ切れ味が鋭いものだ。打ち合うたびにオスカーの短剣が痛んでいく。

 そのまま、長いようで短い攻防が続く。

 オスカーが肩で息をし、短剣がもうすでに一本駄目になってしまった。

 しかし、それでもイサークには余裕があった。息1つ乱していない。


「バケモンが!」


 オスカーが顎を伝う汗をぬぐいながら、苛立たし気に吠える。


「ただの鉄板を振り回すだけのサルが。この俺を敵に回して無事で済むと思っているのか?」


 あざ笑いながら、いまだ刃こぼれ一つない剣を威圧するように振り回す。

 交戦してからそれなりの時間が経つ。

 これ以上時間をかけると他が危ない。

 そのとき、どこかからか女性の声が聞こえてきた。


「司令!いつまで戻らないつもりですか!」


 その声がするとあからさまにイサークの機嫌が悪くなる。

 誰だと思っているとその姿は久しぶりに見る、会いたかった人だった。


「ソフィア!」

「オスカー!?ウィリアムまで!?」


 ソフィアに気づき、オスカーが声をかけるとソフィアも驚いたようだった。

 久しぶりに見るソフィアの顔は、以前のような利発さが薄れ、どこか顔色が悪かった。

 ソフィアに気付いたイサークは、すぐさまオスカーの前から離れ、やってきたソフィアのそばに移動した。


「なんの用だ?ソフィア副官。貴様には軍の指揮を命じたはずだ」


 ソフィアは一瞬、びくりとするも話しかけられると、状況を報告してくる。


「北門の部隊破られました。対処していますが逃げられるのは時間の問題です!」

「そんなものはどうでもよい、北ということは下層に逃げるつもりだろう。下層もいずれ攻略するのだから放っておけ」


 会話の内容からソフィアが司令代理なのだろう。この男が戻らないから連れ戻しに来たのだろうが、副官がいなくては軍の指揮はどうなっているのだろうか。普通ならあり得ないし、そもそもなぜソフィアが副官で素直にイサークに従っているのだろうか。


「ですが!」

「くどいぞ。私にはやるべきことが……ああ、そうだ。戻ってもいいがなソフィア副官」


 不機嫌そうにソフィアと話していたイサークだったが、何か思いつくと途端に機嫌がよくなり、戻ってもよいと言い出す。

 ソフィアが途端に警戒している。その様子から彼女は彼女なり動いていると予想出来て安心する。だがその安心も次の瞬間に吹き飛ぶことになる。


「ソフィア副官、貴様がこの二人を斬れ。この二人は国に仇なす逆賊だ。仕留められるであろう?そうすれば私も安心して指揮所に戻れるのだが」

「で、ですがこの二人は」

「なんだ?彼らは規則を破り、国には向かった。この意味が分からないわけではあるまい。せめて貴様の手で斬るのが情けではないか?」


 そういうイサークの顔はとても愉快そうに歪んでいた。対してソフィアの顔は真っ青だ。そもそも彼女の魔法は戦いに使えるものもあるけど、一番は回復や技術の開発だ。前の世界では脳科学者だったから、魔法を使えば多少の回復魔法を使うこともできるし、魔法陣を作って兵器を作ったり、新しい魔法を生み出したりすることで国に貢献してきた。


 そんな彼女は当然ながら人を殺すことに慣れてない。

 戦うこともできるが、僕らと戦うのは基本鍛錬だ。実戦とは違う。

 しかも今は人を殺せと言われている。人殺しに慣れていない彼女には厳しい。

 さらに相手は僕たちだ。仲が良かったということをわかって言っている。


「さあ早く来い、剣を持て。そこにいる粗末な短剣を持っているほうだ。出来損ないは私がやる」

「それでも生け捕りにするべきでは!?彼らは貴重な人員です!勝手に殺すわけには!」

「この私に剣を向けたのだ。にもかかわらず殺すなと?貴様はどちらの味方だ」


 イサークがソフィアを前に立たせて、剣を持たせる。

 ソフィアは言われるがままに剣をもつが、その手は震えていた。


 でもこれはチャンスだ。

 彼女は今まで下手にイサークに逆らえなかった。軍にいる中で表立って歯向かえば周りの兵士が全員敵に回るからだ。

 でも今は違う。今目の前には僕らがいて周りにはイサークしかいない。彼女が動くなら今しかない。


「ソフィア!そのまま斬れ!」


 僕じゃない、オスカーが叫んだ。

 でもそれは相手の思惑のうちだったのかもしれない。

 ソフィアが振り向き、慣れない剣を持って切りかかろうとした。

 イサークは笑っていた。

 切りかかろうとする前にソフィアの剣の側面に手を添えて、流しながら手首を返して剣を奪う。

 そしてそのまま、彼女の胸を突き刺した。

 こちらに背を向けたソフィアの背中から剣が生える。

 僕はそれを黙って見ていることしかできなかった。




次回、「決着」

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