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夢見る未来に福音を  作者: 相馬
第八章 《地に還る》
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第三十九話 鷲と宝玉




 戦いから一週間がたった。


 事後処理や報告、捜索や復興にいろいろと大忙しではあったが、なかでもずっと気がかりなことは一切何も進展していない。


「まだ見つからないのか?」

「はい、総出で城内を捜索しているのですが、それらしいものは見つからず……。王の間にあったと思われる神器はおおよそ回収できておりますが、少将閣下のいうようなものは見つかりません」

「アティリオ・エクトルカは?」

「それもまだ……」


 報告した部下を下がらせたのち、大きな舌打ちをかます。


 グラノリュースを落としてから、ずっと城を捜索して神器を一通り回収させている。


 神器はどれも使い手を選ぶものばかりだ。逆に選ばないものもたまにあるが、その場合は選ぶものに比べると性能が劣ることが多い。

 とはいえ、多くの人に使えるという利点があるために一概に悪いとは言えないが。


 回収した神器はひとまずカーティスに預けていろいろ調べてもらっている。当然持ち出されたりしないように、厳重に管理して触れられる者は厳選している。


 ただそんなことはどうでもいい。


 問題はそもそもこの国を落とした目的となるものだ。



「世界を渡る神器、それに類するものがなぜないんだ」



 それは俺たち天上人をこの世界に召喚することのできる宝具。


 この世界で唯一世界を渡ることができるもの。


 謎が多く、神器かどうかも定かではない。そもそも人からできる神器に世界を渡るなんてことができるとも思えない。だが実際にこうして俺がいるのだからないわけがない。


 執務室で1人、天井を仰ぎながら息を吐く。


「世界を渡れる加護なんてあるのか? それなら俺にあってもおかしくはないんじゃないか」


 言っておきながら、そんな加護が発現するはずがないということもわかっている。


 俺は世界を渡りたいのではなく、帰りたいのだ。そしてそれはあくまで過程であって目的じゃない。


 元の世界に帰って家族に会う、元の生活を送りたい。

 だから世界を渡るではなく、家族と在り続けるという効果の加護が宿ったんだ。



 でも、それとは別にやっぱりおかしいと思う。


 

 どう考えても世界を超えるなんて加護は普通じゃない。

 聖人であり、滅多に発現しない俺の加護でも完璧じゃないのだ。それなのに、それをはるかに超える加護があるということがいかにおかしいことか。


「一体どんな奴が元になったんだろうな……いや、そもそも神器なのか?」


 いくら悩んでもわかるわけがない。

 見つかればおのずとわかるし、帰れるのならわからなくてもいい。


 気になる程度だ。


 気を取り直して仕事をしようと思っていると、窓からコンコンと硬いものが当たる音がした。


 振り返るとそこにはしばらくぶりに見る鷲がいた。俺の使い魔の鷲だ。


 窓を開け、机横にある止まり木にとまる。


「開戦前に上層の偵察に行かせたまま帰ってこないと思ったら……何してたんだ?」


 餌を投げ与えながら聞く。

 こいつはただの鷲ではなく使い魔、そして謎なことに大量の神気を纏う聖獣とでもいうべき存在だ。


 なんとなく言いたいことが伝わってくるし伝わる。


「なに? 一番知りたいことを探してた? ……見つかったのか?」


 傍から見たら動物相手に話している痛い奴だ。

 犬に話しかける人もいるだろうからそこまで変な目で見られることはないと思うが、鷲に話しかける人はそういないだろう。


「鷲は誰? ワシじゃ? ……馬鹿にしてんのか」


 なんだこいつは、駄洒落を言い出したぞ。


 そんな知能があったのか、というか俺の考えが伝わるというより人間の言語がわかるのか。

 凄い頭いいんだな。


「あのとき俺は上層の様子を探って来いって言ったんだ。この鳥頭め」

「カァー」

「なに? 光るものを見つけた? お前はいつからカラスになった」

「ピァー!」

「誰の頭が光ってるだ!? 剥げてねぇぞこのハゲワシが!」


 前言撤回だ。一切すごくない。

 くだらない駄洒落と悪口しか言わないこのくちばしはここで絞めてしまおうか。


「話に嘴を差し入れなくていいから、ちゃんと教えてくれ」

「ピィー!」


 部屋に笛のような高い鳴き声が響く。

 気難しく、くだらないことをいう鷲の話に口を挟むことはしない。めんどくさいから。


 たいした期待もせずに聞いていたら、予想外の報告がされた。


「変な部屋がある? おかしな気配だと」


 確認のために復唱すると、そうだといわんばかりに一鳴きした。


「……あたりかもしれないな。案内してくれ」


 転がるように部屋から出ると、鷲は追従するように後ろを飛ぶ。


「ウィリアムさん!?」

「悪いが少し出てくる!」


 出たところでアグニが書類の束をもっていたが外出すると一言断っておく。


 若干その顔が引きつっていた気がするがきっと気のせいだ。


 アグニは気立てのいい子だから。



 うん、でも一応帰ってくるときはなんか買って来よう。




 ◆




 グラノリュース王城の階段をいくつも昇り、焼失した階段を飛んで超える。

 その辺りの階層をあっちへこっちへと何度も通路を曲がり、時には細い通路や部屋に入りを繰り返す。


 部屋のような扉があると思ったら、普通に通路に続いていたりと引っ掛けのような構造をしていた。


「なんだこの階は」


 方向もよくわからなくなってきた。それでも前を飛ぶ鷲は迷うことなく道案内をしている。きっとこの先にあるのだろう。


 そして一見すると見過ごしてしまいそうな細道の先に随分と無骨ながら立派な扉があった。


「なるほど、道理で見つからないわけだ」


 さすがにこんな場所は一週間程度の捜索で見つけるのは難しいかもしれない。


 どうだと言わんばかりに鷲が顎を上げる。


「悪かったよ。鳥頭って言ったのは謝るよ。……ハゲワシも訂正しろって? それはまずお前が俺を禿げって言ったことを訂正してからだ」

「ピッ」


 喋りながら分厚く重い金属の扉を開く。


 開けたとたんに冷たい空気が体を撫でた。

 そしてその空気に触れた瞬間、本能的に体が部屋に入ることを拒む。


「なんだこれは……力が抜ける?」


 拒む本能を無視して中に進むと、体から力が抜けていく感覚に陥る。


 身に着けた装備がとても重く感じる。


 何故か、鷲に聞いてみようと思った。

 しかし鷲は部屋には入らずに扉の前でホバリングしているだけだ。


 鷲もホバリングできるんだなと、場違いな感想を抱く。


「入ってこないのか」

「ピ、ピィー……」

「あぁそ」


 動物は本能が強いんだろう。入りたくないの一点張りだった。


 俺も後ろ向きな気持ちを抑えて進む。


 まずは部屋の内装からだ。


「質素だな。豪華なのは絨毯だけか」


 最初に目に入るのは足元の石畳、そして部屋の中央にある大きな赤い立派な絨毯だ。ところどころに金の刺繍があしらわれている。

 明かりは扉の隙間からわずかに入ってくる程度で薄暗い。

 壁の上部に明かりをつける台がいくつも並んでいたので、魔法を使って火をつける。


 明るくなったことで部屋全体が見渡せるようになった。


「これでちゃんと探せるな。ん、なんだこれは」


 部屋の中央にはいくつもの金属が落ちていた。

 それらはまるで罪人を拘束するための手錠と足枷のようで、部屋の奥にある1メートルほどの高さで一抱えもある太さの柱に繋がれている。


「ここに罪人を入れていたなんて聞いたことないぞ。俺が入れられたのは地下だし」


 手錠を1つ手に取る。


 途端に、


「ぐっ!? 立てな、い!?」


 体の力が奪われる。まるで体が鉛のように、海の中に沈んだかのように動かなくなった。


 手にも力が入らなくなり、握っていた手錠が床に落ちた。


 その瞬間に体が元に戻る。


「はぁ、こいつがこの部屋の虚脱感の原因か? 迂闊に調べられないな」


 改めてちゃんと見ると、枷の周囲のマナがおかしいことに気づく。


 そこだけまるでマナが止まっているようだった。

 触れないように枷の内側を覗き込むと、そこにはびっしりと魔法陣が刻まれていた。複雑すぎて解読ができない。


「なんでこんなものを……そもそもこんなものが作れる技術があったのか?」


 不可解なことが多い。

 罪人を捉えるだけならこんなものはいらないはずだ。


 聖人に近かった俺ですらここではなく地下の牢に入れられたのだ。それならここにいるのはいったいどんな人間だろうか。


「ここが処刑場ってことはないよな……絨毯の色は血の赤とかやめてくれよ?」


 おそるおそる絨毯を触ったり匂いを嗅ぐが、特段血の匂いはしない。若干かび臭いだけだ。


 周囲を見るがこの他に部屋も何もない。ただ石を積み上げられてできた壁があるだけだ。


「となるとあとはあの大きな柱か……ここにきて外れなんてないよな」


 罪人を縛るためにしては随分とごつく立派な柱に近付く。

 また力を吸われないかとびくびくしながら触るが、柱には特に異常なかった。

 柱の周りをぐるっと一周して見て回る。するとちょうど入口と反対側、枷の落ちていた場所を見るような位置に蓋を固定するような金具があった。



 来た。



 きっと、いや間違いなくこれだ。


 震える手で柱の上部を開ける。


「ッ!!」


 開けた瞬間吹き飛ぶかと思った。


 そこにあったのは眩く光り輝く透明な水晶。

 虹色に輝くその水晶には、どこかもわからない景色が映し出されていた。


 何よりその水晶からは大量の神気だけでなく、驚くほどのマナの奔流がある。それが開けた瞬間に全て俺にぶつかってきたのだ。


 心臓が止まるかと思った。


 でも。



「これだ……ははっ、これだ! なるほどなるほど! こんなもんがあるから、こんな部屋があるわけだ!」



 やっと見つけた元の世界に帰るための手がかり、その手段。


 この部屋はこの圧倒的な力を持つ宝玉を隠すためにあったのだ。力を失ったのはこの宝玉の力を封じる魔法陣の余波だろう。


 とにかくこれを持って帰ろう。

 宝玉が載っている柱は動かせないから宝玉だけ持っていく。手に持って落とすと困るので空間魔法で収納する。


 にやける顔を抑えようともせずに部屋を出る。

 外で待っていた鷲も気になるのか、やたら近くを飛んでくる。

 普段なら羽音がうるさいとか風で目が乾くとか文句を言っているが、今の俺は機嫌がいいのでまったく気にならなかった。




 ……そういえば、あそこに落ちていた枷は何だったのだろうか。






次回、「お腹すいた」



Topic

 ウィリアムの加護

  …別名『大地』の加護。効果は『存在力の強化』。

   人や物がそれとして存在するためには、機能と形状を維持する必要があり、

   『大地』の加護はこの機能と形状の維持力を強化する。

   加護発動中は頑丈になり、たとえ心臓を貫かれても生命維持活動を停止する

   ことはない。

   


たま~に補足を入れていきます。


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