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夢見る未来に福音を  作者: 相馬
第八章 《地に還る》
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第三十五話 地球と月と太陽と



「国を作るのは長い時間がかかる。より強くより豊かな国を作るには強く賢い統治者が一貫して治める必要がある。そこに短命で矮小な者はふさわしくない。小さきもの達の短き一生などワシらにとっては瞬きの間。考慮するだけ無駄だとは思わんか?」


 至近距離で押し合う二人。

 グラノリュースの言葉にウィリアムは顔をしかめる。


「……だから搾取するだけ搾取して神器造ろうってか? 道楽のために命を使うのが正しいことだと?」

「道楽ではない。ワシら英雄と肩を並べることができるのだ。名誉であろう。小さき愚物達がワシらの役に立てるのだ。燐寸がごとき命がワシら永久に生きる聖火にくべられること、実に有意義とは思わんか?」

「それを決めるのはお前じゃない!」


 ウィリアムが叫び、グラノリュースを蹴り飛ばして距離をとる。

 そして叫ぶ。


「《霹靂神(はたたがみ)》ッ!」


 灰色に覆われた空から幾筋もの雷光と轟音が響き渡り、落下する。

 あたりに空気が焼ける匂いが立ち込める。


「素晴らしい! 見事! ハッハハハッ! 天候さえも操るその力! 其の加護の力か!? 一体どのような加護か!? 貴様を材料にした時が実に楽しみである!」

「チッ」


 降り注いだ雷が直撃してなお、グラノリュースは健在だった。

 思わず舌打ちするウィリアム。しかしその間にヴェルナーたちが動いていた。


「確保したぜ!」


 ヴェルナーの声にウィリアムが振り向くと、3人が無事にウィリアムの父を保護していた。

 ウィリアムはそのことにホッとするも、グラノリュースは興覚めと言わんばかりに剣を振り下ろし、光線を放つ。


「虫が粋がるでない」


 放たれた光線をウィリアムの盾が防ぐ。


「そのまま後退しろ」

「団長は!?」

「こいつを殺す」


 ウィリアムは手にしていた槍を石突を地面に打ち付ける。甲高く済んだ音が鳴り響く。



「いい加減に終わらせる。こいつの罪も何もかも」



 十字に分かれた槍の刃は、まるで罪人の咎を罰する象徴。


 そして反対の左手で、腰に下げていた剣を引き抜く。


 鎬は青く、反りの入った美しい剣。


「お前は言ったな。ただの人間がいくら生きたところで無駄だと」


 鞘から抜かれた《月の聖女(ルナマリナ)》は白く輝く。



「彼女たちの短い一生は、決して無駄じゃない。どんなにお前が永い時を生きようと、永い時の中でどんなに小さいものと罵られようと」



 体に刻まれた傷が白い光に包まれて癒えていく。



「それがどうした。俺たちにとって、その短い一生が全てだ。そしてそれはお前にだって届く。たった数年で積み上げた彼女の全て。お前の首で証明してやろう」



 ウィリアムの体を青い光と白い光が包む。

 それは見るものを魅了する神々しさを秘めていた。


 その輝きを見て、グラノリュースは目を剥いた。


「貴様も人器を持っていたとはな! これは思わぬ副産物! それもワシのコレクっ――」


 興奮したグラノリュースの言葉は、突如飛来した剣の爆発によって妨げられる。


「ギリギリセーフねっ! あたしったらナイスタイミング?」


 やってきたのは、太陽のような陽気な少女。


「全然。おせぇよ。何してたんだよ」

「ちょっとね。エスリリが迷子になっちゃって」

「くぅーん」


 ウィリアムの横に箒に乗ったウィルベルとエスリリやってくる。


「エスリリ、早速で悪いがライナーとシャルロッテが負傷した。ヴェルナーと一緒に退避してくれ」

「そうはいうけど、戻ってもどこもボロボロで危ないわよ。さっきの爆発で城中にガタが来てるみたい」

「だから空から来たのか?」


 ウィルベルは僅かに視線を泳がせる。


「えっ、え~っと……そうよ。ちゃんと来ようとしたけど危ないから空から行こうって! ね、エスリリ!」

「え? でもさっきは道がわからないからって――」

「わーわー!」


 エスリリの言葉に慌てふためくウィルベル。

 ウィリアムはその様子をジト目で見つめる。


 先ほどまであった深刻な空気が、空を覆う灰色とともに霧散していく。


「まあいい。その話はあとで聞くとして……。ウィルベル、行けるな」

「……ええ、いつでもいいわよ。ウィリアム」


 青き黒髪の青年と赤き銀髪の少女は目の前の男を見据える。



 2人の体は三色に輝いていた。




 ◆




 心の底から力が湧いてくるのを感じる。

 どうしてだろうか。


「それであいつはなに?」

「グラノリュース。この国の王だ。身にまとう神器は最低でも3つ。両手の剣とあの鎧だ」


 横に頼りになる仲間がいるからだろうか。


「なに? こっちをじっと見て。なんか顔についている?」


 じっとベルを見ていたら彼女にそう聞かれた。


 気になることはいくつかある。


「お前も青いんだな」

「ああ、この光? なんだと思ったらあんたの加護だったのね。一体どんな加護なの?」

「……まあ、身体がとても頑丈になると思ってくれればいい」

「あらそう、それなら防御は気にしなくていいのね」


 1つは彼女の体が俺と、そして父さんと同じく瑠璃色に光っていたことだ。


 さっき爆発が起きたとき、父さんの体が青かったのを見て一瞬呆けてしまった。


 彼女もとなれば、きっと条件は1つしかない。


「これがあればマリナも無事だったのにな……」

「……そうかもね」


 加護があのとき発動していれば、マリナにもこの光があったはずだ。それさえあればきっと彼女は今も横にいてくれた。


「それであいつはどう倒すのよ。さっきから変な顔してこっち見てるけど」

「ああ、それはな……」


 ベルに戦い方を話す。

 その間もグラノリュースは俺たちに何かするでもなかった。

 ただ目を見開き、驚いた顔をしてこちらを見ていただけだった。


 いや、正確にはベルを凝視していた。


 時折口から漏れる声に今までの人を見下した感情はない。


 ただ感じたのは驚愕と、わずかな懐古の念。


「貴様……魔法使いか?」

「ええ、そうよ」

「名は、なんという」

「? 何よ、ウィルベルよ」

「下の名は」


 やたらと名前を聞いてくるグラノリュースにベルは露骨に嫌そうな顔を浮かべるが律儀に答えた。


「ファグラヴェール。ウィルベル・ウルズ・ファグラヴェール」

「ファグラヴェール……、あ、ああ、ファグラヴェールッ」


 ベルの姓を聞いてグラノリュースの様子が一変する。


 恍惚とした表情を浮かべ、剣を持った両手をベルのほうに伸ばす。そして……


「もうひとつ、ずっと欲しかったものがきたッッ!! ああ、ファグラヴェール、最初の魔法使いッ! 貴様を殺せば彼女は来るだろうか!?」


 唐突にグラノリュースから巨大な光線が放たれる。


 ベルの方に。


「うへぇっ!?」

「下がれ」


 すぐに残った盾を使い攻撃を防ぐ。

 不思議と加護は装備にも反映され、あんなにも厄介だった光線がいまや簡単に防げるようになっていた。


「いくぞ、ベル」

「わかったわ、ウィル」


 防ぎ、光線が止んだ直後にグラノリュースに向かって駆け出した。

 ベルは箒に乗って高度を上げて光の剣をいくつも発生させる。

 グラノリュースは俺たち2人に無数の光線を放つ。


「任せるわ」


 ベルは光線を避けようとしない。ただひとこと言っただけ。


「任せろ」


 盾が向けられた光線をすべて防ぐ。


 剣を二つ持つグラノリュースに対して、こちらは剣と槍。


 先に届くのは右手の槍。


 槍を突き出し、相手がそれを剣で防ぐ。

 返す刀で別の剣で斬りかかってくるのをもう一方の手の剣で受け流す。


 相手の持つ青い光を放つ白銀の剣は盾ですら両断する。まともに受ければまず防げない。


 だからまともに受けずに流すしかない。

 防御術を教えてくれたアティリオ師には感謝しかない。


「らぁッ!」


 グラノリュースの鎧からはみ出した腹を思いっきり蹴り上げる。

 太っていて重量があっても全力の蹴りで相手の体は地面から大きく離れた。


「愚物がッ!」


 鎧のせいでダメージはない。それでも宙から浮いたことに腹を立てたグラノリュースが俺に向かって橙色の剣を向け、光線を放とうとする。


 しかしそれは横から飛来する剣に邪魔される。


「ええい、邪魔をするな!」

「邪魔はあんたよ!」


 やってくる剣をグラノリュースは光線で撃ち落とす。

 いくつもの剣と光線が交差し、空中にいくつもの爆発が起きる。


「魔法使いを相手に勝てると思わないことだ!」

「ぐぅ!」


 注意がそれたところでまた奴を宙にかちあげる。

 こうすれば相手は思うように行動できない。空中でじたばた暴れるだけ。


 一方で俺たちは箒に乗り、盾に乗り、空中を自在に飛びまわれる。


 隙だらけになったグラノリュースに向かって、いくつもの剣が上下左右から取り囲むように放たれる。


「図に乗るなァァアア!!」


 また自らの肉体を起点にグラノリュースが大爆発を起こす。鎧によりダメージを受けない相手に対して、こちらは無防備に爆発を受けるのみ。


 だが、それは加護がなかった時の話。


 爆発を無視して俺は槍を奴に突き刺す。


「俺らを愚物と侮った! だからテメェは、ここで負ける!」

「ほざけ下郎がッ! 天に昇るはワシらのみ!」


 鎧により直前で止められた槍が奴の左手に持つ青い剣で弾かれた。後方に槍が回転しながら飛んでいく。


「天に昇るのはテメェじゃねぇ!」

「ならば貴様だとでもいう気かッ!」

「んなわけねぇだろ!」


 左手の剣も橙色の剣で防がれる。がら空きになった俺の胸に、グラノリュースのもつ青い剣が突き刺さる。


「何も昇らぬ天などいらぬ! だからワシらが昇るのだ!」


 背中まで抜けた青い剣。

 途端に腹の底から濁流のようにせり上がってくる血を吐きだした。


 それでも俺は笑って、グラノリュースの腕を掴む。


「離せッ! 有象無象がワシに手を伸ばすなど!」

「ッがは、知らねぇのか。地球に生きる人間はみんな天に手を伸ばすんだよ!」


 鎧のない奴の左手首の部分を、グリーブにあるブレードで蹴り切った。


 奴の腕が胴から離れる。


「な、があ!」

「これでッ!」


 離れた腕から青く輝く剣をもぎ取り、胸から引き抜き、奴に振り下ろす。



 ――この剣なら奴の鎧も破れる!



「おのれぇぇぇッッッ!!」


 剣がグラノリュースの体に届くと同時に、閃光が俺を襲った。


 振るった青い剣が吹き飛ばされ、裂かれた鎧が二つに分かれ、落ちていく。


「ぬおおぉぉぉ!」

「あああああ!」


 一心不乱に、残った互いの剣を振るう。


 白と橙が混じり合い、いくつもの軌跡を描く。


「このワシを誰と心得るッ! 天に昇るグラノリュースであるぞ!」

「そんなに空が好きなら見上げてろ!」


 全力で剣を下から振り上げる。

 防がれるも上に飛ばされていくグラノリュース。

 徐々に高度を上げていく。


「貴様は地上で這いつくばれ!」


 上から振り下ろされた剣を受け、今度は俺が下に落ちる。

 だが代わって、大量の玉響の剣が相手を襲う。


「空はあんたのものじゃない!」

「では誰のものだと!」

「決まってらぁ!」


 ベルが作ってくれた隙を無駄にはしない。


 彼女の魔法の剣を、空いた右手でつかみ取る。



「天に昇るのは太陽と月だけだ!」



 俺の手には――


 白き輝きを放つ太陽の剣と白く澄み渡る月の剣。




 ――《烏兎星天(ルナ・イクリプス)




 2つの剣が天に昇る。



 代わりに落ちたのは、天にこがれた一人の男――






次回、「忘れない」

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