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夢見る未来に福音を  作者: 相馬
第八章 《地に還る》
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第十四話 仮面と可憐




 嵐のようなジュウゾウが去り、呆然としているオスカーにアメリアが駆け寄る。


「大丈夫!? オスカー!」

「ああ、大丈夫だよ……。それにしてもとんでもないものが本当にごろごろいるんだな。ここ」

「そうね。さっきの人もそうだけど、あの女の子も何者なんだろうね」


 アメリアの視線の先には銀の銃を持つ少女。その少女は2人の視線に気づくとにっこりと笑い、近づいていく。

 銀の銃を剣へと変えながら。

 まるで液体のように流動的に変化するその様にオスカーとアメリアはまたも驚く。もはや何度驚いたかわからないほどだ。


 2人に近付いた少女は優雅にスカートの裾をつまみ礼をする。


「先ほどはこちらのものが失礼しました。お怪我はありませんか?」

「ああ、大丈夫。特に失礼なこともされてない。ただの手合わせだ」

「そうでしたか。周囲にいた兵士から通報を受けてやってきたんです。実際に来てやりすぎだと思ったので仲裁しましたが、お節介でしたかね」

「い、いや、助かったよ。ありがとう」


 背の低い少女はオスカーを見上げる形で話をする。

 そのせいか、オスカーは話の内容とは全く関係ない感想を抱いていた。


(どうしよう、超可憐だ……仮面をしていてホントに良かった)


 上目遣いで見上げる形になっているために、少女の笑顔は破壊力抜群だった。

 横にいたアメリアは、ばれないようにオスカーの背中をつまむ。


「いてっ、なんだよ」

「別に」


 つままれた箇所をオスカーはさする。そっぽを向くアメリア。

 2人の様子を見て察した少女はクスクスと笑い、顔を綻ばせる。


「仲がいいんですね。うらやましいです」


 笑った顔に再び見惚れるオスカー。アメリアは今度は足を思いっきり踏む。


「アイター!」


 また繰り返される痴話喧嘩を少女は微笑ましそうに、まぶしそうに見る。

 2人が落ち着いたところで少女は胸に手を当てて、ドワーフ流の挨拶をする。


「私はアクセルベルク南部軍特務師団所属、参謀長の席を預かっているアグニータ・ルイ・レオエイダンです。お二人は今回の作戦に協力してくださるんですよね。師団を代表して心よりお礼申し上げます」


 慇懃に礼をするアグニータ。2人も礼儀を正して挨拶をする。


「俺はマドリアドでAランクハンターをしているアンドリューです。こちらこそ町の危機を救っていただき心より感謝いたします」

「アメリアです。今回は後方支援として参加させていただきます。受け入れてくださり、本当にありがとうございます」


 2人が顔を上げる。


「アンドリューさんにアメリアさんですね。よろしくお願いします。……あの、失礼を承知でお聞きしたいのですが」

「なんでしょう」

「どうして仮面をつけているのですか?」


 ああ、これかとオスカーは呟く。


「お恥ずかしい話、実は俺はこの国の軍を抜けた身で死んだものとして扱われてるんです。生きていると知られると少し面倒になるんで、こうして顔を隠しているんですよ」

「そうなんですか。ではお顔を見せていただくことはよした方が良さそうですね」


 アグニータの言葉にオスカーはあごに手を当てて少し考える。

 そしてなんでもないことのように言った。


「別にいいですよ。あなた方なら漏らすこともないでしょうし、ここまでくれば知れても問題ないでしょう」


 オスカーが仮面を外す。

 あらわれたのは顔にいくつかの小さな傷を負った精悍な顔つきをした青年だった。


 その顔を見たアグニータは手を胸の前で合わせ、顔を綻ばせる。


「ありがとうございます。仮面がない方が素敵ですね」

「っ! あ、ありがとうございます」


 アグニータに褒められ、顔を赤くするオスカーに、アメリアは軽蔑の眼差しを向ける。


(ああ、仮面外さなければアメリアに怒られなくて済んだのに。ああ、でもそれだとアグニータさんにいまの言葉を言ってもらえなかったし……ああ、どうすればいいんだ!)


 内心が喜びと困惑でぐちゃぐちゃになるオスカー。

 そんなオスカーに気づかずにアグニータは少しの愚痴をこぼす。


「私たちにも仮面をつけた人が身近にいるんですけど、頑なに素顔を見せてくれないんですよね。誰も顔を見たことがないんです。事情がおありなんでしょうけど、一度くらい見せて欲しいです」


 恋する乙女のような顔をしながら呟くアグニータを見て、オスカーは殺意を覚えた。


(誰だこんな子にこんな顔をさせるやつは! ぶっ殺してやる! 仮面をつけた男だと? 仮面を……仮面?)


 思い当たる人物は一人だけ。仮面をつけた男が何人もいるはずがない、きっとあの時の男と同一人物に違いないと。


「すいません、その仮面をつけた男について確認させてもらってもいいですか?」

「え? ええ、答えられることなら構いませんが」


 オスカーは畳みかけるように仮面の男について名前や年齢、経歴や戦い方、外で行ってきたこと、喋り方や性格、交友関係など様々なことを質問をし始める。


 その様子にアグニータは少し後ずさりながらも答えられるものには答えていく。


 聞いていくうちにオスカーは先ほどの浮ついた気持ちは消え去り、いたって真面目な顔になっていく。

 横にいるアメリアも同様に真剣な顔をしていた。


 不審に思ったアグニータは2人に恐る恐る尋ねる。


「あの、何か気になることでも? これくらいなら軍の公開情報に載っていますからあとで取り寄せましょうか?」

「いや、大丈夫です。……現れたのは3年前、それ以前は経歴不明。盾に槍、剣、魔法。やっぱりそうだ。あいつだ。正真正銘ウィリアムだ!」

「本当に? オスカー。本当にウィリアムなの!?」

「そうに違いない! なんで国外でも顔を隠しているのかはわからないが絶対そうだ!戦い方も経歴も完璧に合う!」


 オスカーが興奮の声を上げ、アメリアが涙ぐむ。

 2人の変化について行けないアグニータは戸惑っていた。


「あ、あのどういうことか説明していただけますか?」

「あ、ああ。あいつは、ウィリアムは俺たちの――」


 かつて失踪したウィリアムについて語ろうとしたとき、


『アグニータ。どこにいるんだ? 仕事を頼みたいんだが』


 計ったようなタイミングでアグニータの手首にはめられていたブレスレットから男の声が響く。

 驚くオスカーとアメリア、同様にアグニータは慌てて通信をする。


 はい、はい、わかりました、と呟き通信が切れる。


 驚いている2人に対してアグニータは慇懃に礼をする。


「すいません、件の方から呼ばれてしまいました。またお話ししましょう」

「あ、ああ」

「ま、また」


 アグニータが小走りでその場から去っていく。

 残された2人は呆然と突っ立ったままだった。




 ◆




 続々と集まってくるハンターの編成に追われていた俺は、効率よく動かすためにどう編成すればいいかに頭を悩ませていた。

 ソールやアルバンにも協力してもらってハンターたちの仕事を考える。

 軍人じゃないハンターに矢面に立って戦ってもらうなんてことはしないが、上層の市街地戦となればハンターの戦い方を活かす方法はある。

 むしろマドリアドにいるハンターのほとんどは市街戦を得意としている。散々戦ってきたのだから当然だ。


 というわけで、頭の中にかすかに残っている上層の街並みを引っ張り出しながら、ハンターの役割と編成を練っていた時だ。


 すっかり忘れていた、こういう時にいなければいけないやつがいない。

 アグニだ。

 真面目な彼女はいったいどこにいるのか。さぼっているとは思わないがここにいないのはなぜだろうか。


 ブレスレット型の通信機でアグニに連絡を取る。


「アグニータ、どこにいるんだ? 頼みたい仕事があるんだが」

『あ、すみません。すぐに行きます!』

「手が離せないなら考えるが大丈夫か」

『はい。大丈夫です。すぐに行きます!』


 なんかいつもより焦っているような気がしたが、まさか本当にさぼっていたんじゃないだろうな。


 まあ、今そこまで困っているわけでもないし、証拠もなしに疑うのも団長としてよろしくない。ましてやドワーフを始め、男どもに猛烈な人気のあるアグニだ。迂闊に何か言えばタコ殴りにされかねない。



 主に俺の写真に。



 こないだ飛行船の倉庫で何人かの男がたむろしているのを見つけて近寄ると、その男たちは大慌てで逃げていった。

 上官が現れて逃げるとはこれ如何に、と思いながら男たちがいたところを見ると1枚の写真があった。


 それは俺が写った写真で。


 そこには赤い絵の具で頬を染めたように落書きされていたり、周りに『姫様を幸せにしろ』やら『朴念仁』やら『たらし野郎』やら『スケコマシ』、『ロリコン』と書かれていた。



 そのとき浮かんだ感情は一つだけ。



「ぶっ殺す」



 殺意である。



 手にした写真を一瞬にして燃やし、逃げていった男たちを身体強化してすぐに捕まえた。そいつらは俺がたっぷり絞った後にジュウゾウの下に連れて行ってやった。


 ジュウゾウは嬉しそうにしていたし、男たちは泣いて喜んでいた。


 怒った後にちゃんと喜ぶことをしてあげるって俺っていい上司だよな。


 そんな過去のことを思い出していると、ちょうどアグニがやってきた。息を切らしているところを見ると走ってきたようだ。


「すみません。少し外していました」

「そうか。少し休んでからでいいぞ」

「い、いえ。大丈夫です」


 肩で息をしていて明らかに大丈夫じゃないので、ちゃんと息を整えてから参加するように言う。

 それからはまたハンターの扱いについてあれやこれやと話す。休憩しながらでも俺たちの会話を聞いたアグニは、会議の内容を把握したようで参加するとすぐに自分の意見を積極的に言っていた。


 その後もしばらく会議を続け、ようやくまとまったときには日が傾いていた。


「よし、今日はこんなところだな。今日中にこの編成を各員に連絡する。明日は1日準備に充てる」

「2日後は?」


 アルバンが2日後の予定を聞いてくる。1日準備に充てるんだ。次の日は決まっている。


「出撃だ」


 仮面の口が開くほどの笑みを浮かべて言った。







次回、「出撃前夜①」

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