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夢見る未来に福音を  作者: 相馬
第一部 第一章《始まりの大地》
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第十八話 開戦

 軍がマドリアドの東西南北に存在する門を塞いだタイミングで南門で偵察していた僕らのもとにフェデルとレストンがやってきた。タイミング的にも僕らはもう下がらなければならない時間だったので助かった。


「ただいま戻りました」

「急げ、もう包囲は済んでる頃だ。準備しないと攻撃がいつ始めるかわからんぞ」

「はい、そのことなんですけどすべての門につながる道に仕掛けを施しました。ハンターたちの配置も済んでます。偵察はもう十分なんで二人とも下がってください」


 言われた通り下がる。これから先はしばらく僕らは様子見だ。軍の出方次第で僕らは対応を変えなければならない。もし軍が大砲を撃ってきたなら、僕たちはそれによって崩れた戦線を支えなければならない。

 ハンターたちが仕掛けた罠やらがあるから迂闊に各門の応援には行けないのだ。フェデルとレストンと別れてオスカーと物見台に向かう。


「どうなるかな」

「ここからはもうギルドと軍の戦争だよ。できることは少ないね」


 直前とあって会話は少なくなりがちだが、それでも緊張をほぐすためにできるだけ話そうとする。

いつ始まるかと思っているとオスカーには気になることがあったらしい。


「それよりお前、いいのか?」

「なにがさ」

「アメリアちゃんのことだよ」


 あの時、彼女からこの町の成り立ちや住民たちの覚悟を聞いて以降、アメリアとは何も話していない。姿を見ることはあって、目線があってもすぐに視線を外してどこかに行ってしまう。

 話す機会もなくこのまま来てしまった。


「この町のために戦うって決めたんだろ?じゃあそれを話せばいつも通りじゃないか」

「話してどうするのさ、一緒に戦うって言ってもすぐ横で戦うわけじゃないでしょ。僕たちの戦いに彼女は足手まといだよ」


 話して和解したところでどうしようもない。戦場では彼女は非戦闘員なのだからギリギリまで戦わない。僕らが勝手に戦って守ればいいんだ。和解なんて後から勝った結果を持っていけばできる。


「戦いなんて何があるかわからないんだから、先にやっておくべきだと思うがな」

「それならオスカーだってそうじゃないか。アメリアのことは僕だけの問題じゃないんだから」

「そうだけどな、でもわかってんだろ?あの子の気持ちを」

「……それこそ後にしたほうがいいんじゃない?前にオスカーが言ってたフラグってやつだよ」


 アメリアは僕を慕ってくれている。その気持ちはとても嬉しいが、僕と彼女では住む世界が違うということをここ数日でいやというほど思い知った。だから彼女の気持ちにこたえることはできない。

戦いが終わったら、城に戻って軍がしたことを告発してやる。城では先生も動いてくれるはず。うまくいけばまた胸を張って暮らせるんだ。和解は全部終わってからでも十分だ。


「どうだかな、フラグったって様々だ。お前がとった行動がフラグかもしれないしそうじゃないかもしれないぜ」

「なら、なるようにしかならないさ」


 そういったところでそれは起きた。

指揮官がいると思われる南門のほうがざわついているのが物見台から見えた。すると次の瞬間に轟音が複数回響き渡った。


 あまりの轟音に耳を塞ぎ、伏せると続いて何かが崩れ去る音が聞こえてきた。

 大きな音が立て続けに起きて、何が起きたのかと顔を出して確認すると南門周辺の城壁が崩れ、中の建物が何軒も倒壊していた。中には倒れてけがをしている人たちもいる。

 そして壊れた南門から、ガチャガチャと金属製の軍靴を鳴らした大軍が押し寄せてきた。


「まずいまずい!オスカー!すぐに出るよ!」

「何が起こった!?」

「大砲だ!やっぱり大砲を持ってたんだ!それで城壁を崩して南門から軍が入ってきたんだ。早く止めないと町中が蹂躙される!」


 あの轟音はもう疑うまでもなく大砲だ。だがどこに隠していた?偵察していた時にはなかったし、隠せるような場所もなかった。それに数発で中の家屋が一気に倒壊するような威力の大砲なんて聞いたことがない。この町の家屋は戦争に備えて木製じゃなく石材だ。そう簡単には壊れないようにできていると聞いたのに、それをものともせず城壁ごとぶちぬくなんて異常だ。

 もしかしたら大砲なんて生ぬるいものじゃない、新兵器があったのかもしれない。

 とにかく、早く現場に向かって侵攻を止めなくてはいけない。幸いなのはすでに敵が侵入しているのでまた大砲を撃つことがないことだ。


「くそ!最悪だな。ウィリアム!何か手はあるか!?」

「あるわけない!精々まだ無事な道でハンターたちが粘ってくれることを祈るだけだよ!」


 まずは現場に行かなければ判断ができない。2人で必死に走るが、南のほうから非戦闘員が避難か撤退のために逃げてくるので思うように進めない。

 やっとの思いで現場近くに着くと、さほど南門から離れていないところからいくさの音がする。予想より攻め込まれていなかったことに安堵する。

 やはりここに来るまでに軍も消耗しているようで、しかも包囲をしているため数が少ない。予断は許さないが最悪は防げたようだ。


「なんとか堪えているようだな。戦線は崩壊してない」

「そうだね、下手に参加すると逆に乱しそうだ」


 市街戦を想定していたこともあってハンターたちの手際がいい。遠目から見てもいたるところに設置した弩で攻撃したり、落とし穴や頭上から物を落下させたり、カルトロップ(まきびし)で足止めし、隙をついて弓矢や切りかかることで進軍を遅らせ、数を減らしている。とはいえ軍も銃を持っているものがそれなりの数いるので、こちらの被害も少なくはない。


 ハンターが使う罠がどんなものがあるのかわからないのでうかつに近づけない。見えない糸があったりするので転んでしまって無様に打たれるなんてことになりかねない。


「俺たちはどうする?見ているだけなんてできないぞ」

「そうだね、じゃあ一気に決めてしまおうか?」

「どうするつもりだ?」

「蛇の頭を切り落とす」


 言いながら僕はまだ無事な南門よりの防壁に登って、顔だけ出しながら敵本陣を見る。オスカーが首をかしげながらついて来ると僕の見ているものを見て理解したようだ。


「なるほど、蛇の頭ね、確かに切っちまえば軍は連携できない。それこそ各個撃破のいい的だな」

「でしょ?それに敵の戦力を後方にくぎ付けにできる。問題はどれくらい守りが硬いか……!なんだあれ!?」


 敵陣地を目を凝らしてよく見ると大砲に似た兵器があった。ただ形がおかしい。普通の大砲よりかなり小ぶりだし、砲身が円柱じゃなくて四角柱だ。


 しかし恐らくあの兵器が防壁を破壊したのだろう。あの兵器がどういったものかわからないため、町への脅威は消えない。ここは無理してでもあの兵器を無力化しなければならない。


 敵陣地を確認すると大きなテントが一つあり、その周囲を大きく柵が囲っている。敵陣地には頻繁に数人が出入りしており、テントに入っては出てを繰り返している。

 恐らくあそこが指揮所だろう。周辺を百名ほどの銃を持った兵が警備している。

 隠れて近寄るのも難しそうで、陣地の入り口には二名の見張りがついている。


「さすがに攻めるのは難しいか?どうするウィリアム」


 沈黙したまま、基地周辺の地形を見渡す。

 するとあるところに、ちょうどいい窪みがある場所があった。

 おあつらえ向きの地形に、思わず顔が笑ってしまう。


「思いついたことはあるけど、準備するのに時間がかかるかな」

「何が必要なんだ?」

「槍が数十本」

「は?」


 オスカーにやることを説明して協力してもらう。とにかく戦場を回って槍を集めまわる。軍も槍を使っているようで戦場を回るといくつか回収することができた。足りない分は槍を持ってる敵を襲撃して奪った。


 ヒットアンドアウェイをすれば狭い路地での集団の相手など僕らには難しいことではない。近い距離で少数の相手をするのに銃は向いてない。集団であれば誤射の危険性があるので相手も撃ってこない。接近戦なら僕らの独壇場だ。


 体感十数分ほどで槍を30本ほど集めることができた。

 そうしてオスカーは敵陣が見える防壁の上で攻撃に気を付けながら待機。僕は防壁の外に降りて、先に見つけた窪みで槍を抱えながら準備する。


「ウィリアム、聞こえるか?」

「聞こえるよ、オスカー。状況に変わりはない?」

「変わりはないぜ、ざっとお前の位置から敵の指揮所まではおよそ300mほどだ。敵は南門の侵攻に夢中でお前のほうは見てない。やるなら今のうちだ」

「了解……さてやり投げは久しぶりだなっと」


 そう、やろうとしていることはいたってシンプル。相手の指揮所をやり投げによって串刺しにする。今いるところは緩やかな窪みで、平野に拠点を構えている敵指令所から見えない位置だ。当然僕からも見えない。そこで防壁の上から兵士から奪った望遠鏡を持ったオスカーに見てもらっている。


 つまりオスカーを観測手としたやり投げによる砲撃だ。爆発しないので量が必要なのだがそこはもう投げまくるしかない。これのいいところは音が全くしないことだ。当たる確率は低いけど。


 僕はなぜかよくわからないが、やり投げが異常なほど得意だった。初めて槍を投げる訓練のときには、態勢や持ち方を教わらずとも自然にできた。投げてみると先生も驚くほどだったので、以降やり投げの訓練は必要ないとされてやってこなかった。

 久しぶりのやり投げで場違いにも少し興奮している。

 オスカー曰く、前の世界でのやり投げなら100mも飛ばないらしいが、僕は数倍飛ばせる。やはり僕の身体は異常だ。

 身体についてはわからないが、使えるから今回は存分に活用しようと思う。


「こっから300、高低差も考えると……このくらいかな、さあ、一投目いくよ……っはぁ!」


 助走をつけて思いっきり投げる。命中率が上がるようにできるだけ低い弾道で投げたがそれでも命中率は低いようで指揮所のテントから微妙に外れてしまった。


「次は3歩右、距離は今のまま、お前から見て1時の方角に修正だ。幸い刺さったのは誰もいないテントの裏側だ。まだ誰も気づいてないから早いとこ当ててくれ」

「あいよ……フンっ」


 2頭目を投げると今度は満足のいく出来だ。うまいこと指揮所のテントを突き破った。

 着弾する前に今の感じですぐに投げる。投げた瞬間に行けると思ったからだ。

 3投目も着弾したあたりでもう一本投げようとしたが、崩れたテントから人が出てきたので一度中止する。


「オスカー、どうなってる?」

「どうやら一人は即死らしい。もう一人は足に当たっていま運ばれているよ。槍の角度からどうやらこっち側に敵がいると気づいたようだ。すぐに引き上げるぞ」


 即興のお粗末な攻撃にしてはまあまあの戦果だ。さすがに死んだ人間がどれくらいの立場かわからない。とにかく槍を回収して防壁内に戻る。

 指揮所もかく乱したし、そろそろ今いる防壁の位置も町に侵入した軍の連中がやってくる頃だ。軍は今、街の中に入って城壁に沿うように囲って徐々に狭めるような形で侵攻している。

 中心部まで攻められるにはまだ時間があるが、このままではハンターたちと合流できない。早めに戻ることにした。




次回、「圧倒」

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