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夢見る未来に福音を  作者: 相馬
第八章 《地に還る》
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第十一話 懐かしき




 グラノリュースに入国した翌日の早朝。

 眠い頭を水を飲んで覚まさせながら出かける準備をする。


 今日の予定は事前に部下に伝えていて、俺が基地にいなくても平気なように手配してある。

 食事をとり、アグニやルシウスに出かけることを伝えて外に出る。


「精霊、ここから東に転移」

『了』


 精霊に座標を伝えると転移してくれる。

 転移した先はまだマドリアドから遠く、防壁が見える程度の位置であり、歩いていくのも面倒だったので絨毯を取り出して低空飛行で飛んでいく。


 このほうが楽だし速い。


 10分くらいでマドリアドの西門に到着する。そこには足が不自由なのだろう門番がこちらにむかってよたよたと歩いてきた。


「何者だ」

「昨日ここに4人組の女が入ってきたと思うんだが知らないか?」

「4人組? ああ、確かに見たが」

「それの仲間だ。入れてもらえるか」

「その前にその仮面をとってもらえるか?」

「いやだ」


 仮面を外せといってくる門番と数秒か数十秒かにらみ合いをする。


 すると折れた門番が舌打ちしながら道を開けた。


「通っていい。だが変なことをしたら、わかってるな?」

「はいはい」


 そうして通してもらった。ま、仮面をつけてる見るからに怪しい男を門番として通せるかといわれたらノーだわな。


 恐らくギルドから何かしら聞かされていたから通してくれたんだろう。


 それにしてもあの門番、どこかで見た気がする。気のせいだろうか。


 少しばかりの見覚えに首をひねりながら西門を潜り、まっすぐハンターギルドに向かう。

 4人と合流するか考えたが、道のり的にはギルドの方が近い。必要な話はどうせ俺がするからあとで合流することにしよう。


 昔とは少しずつ異なる迷路のような街並み。

 複雑な多角形の建物に、子どもが適当に積み木をしたかのようないびつな形の塔。

 道は曲がりくねり、角度によっては路地裏への入り口が隠れる奇襲を想定した区画。


 職業病か、いちいち足を止めて周囲を把握しそうになるも、ぐっとこらえてギルドまでの道を急ぐ。


 やがて、見慣れたギルドの前に辿り着く。

 両開きの金属製の扉、いくつかの焼け跡が付いた石壁、矢を射るための2階の小窓。

 

 ひたすら戦いを想定した構造。


 このギルドにたいした思い入れはない。それでも若干の懐かしさを覚えた。

 ギルドに入るとそこはまるで居酒屋のように大声の会話が響き合っていた。


 ソールがいるのは確か2階だったなと思いながら階段を登る。


 すると後ろから肩に手を置かれた。


 振り返ると、そこには強面の顔をした武器を持つまだ若い男が3人ほど。


 おお、なんということだ、絡まれてしまったようだ。


「おいお前、どこ行く気だ?」

「お前見ねぇツラだな。いや面だな。こっからさきは関係者以外立ち入り禁止だ」

「逆らうってんなら容赦しねぇぜ?」


 警戒心むき出しにする3人。

 まあ、見るからに怪しい仮面をつけた男が防衛の要であるギルドに入ったら警戒するわな。


「呼ばれてる。通せ」

「お前みたいな新顔で怪しい奴が呼ばれた? 一体何者だよ」

「ソールの古い知り合いさ」

「ソールさんの?」


 ソールの名前を出すと3人は顔を見合わせて困惑した。

 そのとき、上から平坦な声がした。


「皆さん、その方は私のお客様です。お気になさらずとも結構ですよ」


 そこにいたのはソール、横にはギルド長アルバンの姿もあった

 ソールが少し大きい声を出したことで、3人のみならず一階にいる大勢がソールとアルバン、そして俺を見た。


 注目されたくなくて、3人から離れて駆け足で部屋に入る。

 中に入って挨拶をしながら座って話を始めた。


「お久しぶりですね、ウィリアムさん」

「久しぶりだな。よくわかったな」

「あなたのその仮面、一度見たら忘れませんよ。しかし驚きました。しばらく見ないからてっきりどこかで死んだものと思っていましたが、ここにきてあんなものを引き連れてくるとは」


 報告から知ってはいたが、マドリアドは俺たちにすでに気づいていたようだ。見えない位置に着陸したと思ったが甘かったらしい。


 既にここの話は聞いていることを伝え、意向を話す。


「アクセルベルク南部軍特務師団はこの国を落とすことを目標にしている」

「その話は聞いている。精強なことは技術を見ればわかるがそのくらいの数を連れてきたんだ?」

「ざっと6000」

「……少ないな」


 俺たちの陣容を伝えると、アルバンが残念そうにつぶやく。大軍を期待していたのだろうが、さすがにアクセルベルクからここまで大軍を派遣するのは難しい。情勢的にも飛行船の数的にも。


「数だけで言えば、この国の軍に劣るが問題ない」

「何が問題ないんだ、戦いは数だ。基本を忘れてちゃ勝てないぞ」

「たった十数倍程度だ。相手はただ地上で喚くだけ、こっちは空から撃ち放題。何か問題が?」

「敵には空を飛ぶ天上人がいます。そう簡単には――」

「それなら既に一度撃退した。リーダー格の赤毛の男は重傷を負わせたよ。もしかしたら死んだかもな」

「何!?」


 アルバンは椅子から立ち上がり声を上げる。ソールも目を見開いて驚く。

 どうやらあの男には散々苦しめられてきたらしい。


「あの男は速すぎる。空を飛んでいるからエルフの弓も当たらないし放つ炎は超高温でかすっただけでも燃え死ぬほどだ。たくさんの町があの男によって燃やされたのだ」

「この町は無事なようで」

「あいつが来る直前に高位の悪魔が現れたんだ。なんでも変わり者の悪魔で魔法と聞けば飛んでくるような悪魔だった。天上人の使う不思議な力、魔法を見ようとことごとく現れるんだ。まあそのおかげで俺たちは助かっているんだが」


 魔法に眼がない悪魔。心当たりがあるがもう復活したのだろうか。

 だとすれば、王級の悪魔が降臨するまで、もう猶予はほとんどないかもしれない。


 ともかく、天上人の行く先々でその魔法に興味のある悪魔が現れるから、天上人はそっちの対処に回ると。そのおかげでこの町は今日まで残ってきたのだそう。


 この辺りは昨日4人から聞いた通りだ。


 それなら――


「というわけで、あんたたちには俺たちに協力してもらいたい」

「というと?」


 昨日アグニとルシウスと一緒に書き上げた書類を魔法でふわりと2人の下へ飛ばす。

 受け取った2人は読み進め、そして驚きの声を上げる。


「本気で言ってるのか?」

「一か月以内に国を落とす? 正気ですか。私たちは互いに3年も争っているのに」


 手紙には一か月以内に国を落とす計画が書いてある。普通に考えれば無茶口かもしれないが、この国相手ならいける。

 

 この国と俺たちじゃ技術レベルが違う。

 一部の者が突出しているだけで、本来この国はとっくに滅んでもおかしくない。


 そうならなかったのは、やはり天上人という存在と歪んだ在り方のせいだろう。


 だから一か月で落とすのは難しくない。


「信じられないなら、俺たちの基地に視察に来るといい。レベルの違いを教えてやるぞ」

「しばらく見ない間に随分と不遜になりましたね。アクセルベルクは嫌でしたか?」

「この国を見て、改めてアクセルベルクはいい国だと痛感しているよ。ここにいることに嫌気がさしてくるほどに」


 ソールが目頭をもみながら悩む。だがアルバンは即決したようだ。


「よし、ハンターギルドは全面的にアクセルベルク軍の指揮下に入る」

「アルバン、そんな安易に決断しては――」

「安易なものか、これしかこの町が生き残る方法はない。なら賭けるしかなかろうよ」

「ですがギルドとして一国に肩入れするわけにはいきません」

「だが協力してはいけないということもないだろう」

「それはそうですが……」


 アルバンとソールが言い争いを始める。いつもはソールが主導権を握るが今回はアルバンが優勢だ。


「やっと思い出したが、彼はこの町を救ってくれた英雄の1人なんだ。なら信じるのは当然だ」

「……わかりました。今回はアルバンに譲りましょう」


 ソールも納得したようで話はまとまった。


 ハンターはこの3年間で随分と数が減って、反抗の中心であるこの町に今では数千ほどしかいないらしい。中層や下層からかき集めてこの数だから、相当追い詰められていたようだ。


 ただこれだけでも一師団組めそうだ。俺たちの師団に匹敵するくらいの数だから侮れない。


 その後は基地にソールとアルバンが視察に来ることになり、その日程も詰める。

 また共同で戦う際の指揮系統やハンターにできること、ハンター個人の情報や今までの戦いの記録をもらった。


 帰ったら精査しなければならない。


 ハンター個人の情報なんて膨大過ぎて見る気が失せる。ランクごとにクリップされているから、見るべきものは少ないが、それでも紙の厚さを見ただけでげんなりする。


 だから口頭で教えてもらうことにした。


「めぼしいハンターはいるか?」

「そうだな、『明けの紫星』に『森の鉄槌』なんかはかなり腕が立つぞ。きっと気に入る」


 アルバンの言葉を聞きながらもらった紙をめくって今のパーティの情報を探す。


 『明けの紫星』に『森の鉄槌』ね。


 あった、『明けの紫星』は……あれ、これさっき絡まれた男3人じゃないか。


「『明けの紫星』は先ほどあなたを止めようとした方たちです。正義感が強くて油断がありません。前衛3人のパーティで若いですがいいハンターたちですよ」

「へぇー」


 まあ、基地に来たときに挨拶でもしておこう。

 次の『森の鉄槌』はーっと。


 めくっていき、『森の鉄槌』と書かれた紙のところで手が止まる。

 その情報を見た瞬間にはっと息をのんだ。


 そこに書かれていたのは――


「『森の鉄槌』はエルフ3人のパーティだな。長寿なエルフらしく経験豊富で罠も弓の扱いも超一流だ。天上人ほどじゃないか不思議な力も使えるしイチ押しだ」


 書かれた名前は、見覚えのある名前。


 アルバンが何か言っているが耳に入らなかった。


 世話になった、そしてルシウスが会いたがっていた息子たち。




「フェリオス……」




 ――まだ、生きていた。






次回、「再開①」

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