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夢見る未来に福音を  作者: 相馬
第八章 《地に還る》
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第七話 偵察隊




 グラノリュース中層、町も何もない広い平原にこの国の人間が見たこともない巨大な楕円形の建造物が空から降り、数多くの人間の姿と物資が広がっていく。


 離れた地点にあるマドリアドの町を囲む防壁の上で、その光景を観察している男が2人。


「おいおい、ありゃいったいなんだ? もしかしてこの国の上層の連中、とんでもないもん作り出したんじゃないだろうな!?」

「落ち着け、レストン、よく見ろよ、どいつもこいつも着てる服はこの国の軍とか騎士が来てるものと違うから、上層の連中じゃないだろ」

「弓兵じゃないんだからあんな遠くまで見えねぇよ。しかし上層じゃないってんならどこのどいつだ? あんなもん作れるようなところ聞いたこともない」

「さあ、とにかくギルドに報告に行こう。もしかしたらとんでもない事態になるかもしれないからな」


 そこにいたのは屈強な体の持ち主と背中に弓と矢筒を背負った男。

 レストンと呼ばれた大柄な男は、もう一人の男のいう通りに何度も補修が行われた後のある防壁から飛び降りてギルドに向かおうと壁から降りる。


 しかし一方の男はまだ遠くをみつめたままだった。


「おい、フェデル。どうした、行くんじゃなかったのかよ」

「……数人がこちらに向かってきている。武器も持っている」

「攻めてくるってことか!?」

「わからない、とにかく急いで戻ろう!」


 フェデルと呼ばれた男も防壁から軽やかに飛び降り、レストンと共に町を走る。




 ◆




「つまり、所属不明の集団がこの町のすぐ近くに基地を設営しているということですか」

「ああ、しかも数人がこっちに向かってきている。どうすんだい、ギルド長」


 ギルド長と呼ばれた男が唸る。

 その男は赤毛に剃りこみを入れ、眉の部分に傷があり、レストン以上に鍛え上げられた大きな体を持っていた。

 その隣には線の細い神経質そうな黒髪の覇気のない男が座る。


「どう思う、ソール」


 ソールと呼ばれた線の細い男は、レストンとフェデルからの報告を紙にまとめていたが、その手を止めて顔を上げた。


「数人のみがくるということはいきなり交戦するつもりはないのでしょう。もしこの国の軍関係者であれば数人で来るなんてことはしないでしょうし。この町が危険なことは身に染みているでしょうから」

「交戦する気がないというのは同意見だ。だが味方とも思えないな。中層の町に建造物を建てるなんて連絡は来ていないし、軍がそれを許すはずがない。中層には軍の哨戒部隊が常に目を光らせているからな」

「ならば答えは1つしかないでしょうね」


 ソールが再び紙に眼を落とし、手を動かし始める。

 書き終え、レストンとフェデルに見せた書類はとある証明書。


「彼らは国の外から来た。それしかないでしょう」


 書類を受け取ったレストンとフェデルは口を開け、目を歪める。


「ギルドに招く? 本気で言ってるんで?」

「それしかないでしょう。聞いた話では、彼らは我々よりもはるかに優れた技術を持っています。軍との戦いをしているこの町に、それ以外のものと戦う余裕はありません。無条件に迎合するわけにもいきませんが、対話はしなければならないでしょう。友好を築くならばこちらから誠意を見せなければなりません」

「な、なるほど?」

「ほら、わかったら早く使者を迎えに行ってください。機嫌を損ねないようにしてくださいね」


 ソールが書類を持たせて2人を急かすと、レストンとフェデルが慌てるように部屋を出ていく。

 ソールとギルド長の部屋には沈黙とため息が残る。。


「なあソール、ああいうのは基本俺が決めるんじゃないのか?」

「何を言ってるんですか、頭のまわらないあなたをいちいち通していたら時間がかかって仕方ありません。私なりにあなたの仕事を減らしてあげようという配慮ですよ」

「いやしかし……」

「アルバン、あなたはハンターをまとめてください。私はそれ以外のことをやりますから」

「あれぁ、おっかしいなぁ」


 ギルド長アルバンは首を傾げながらも席を立ち、仕事をするために部屋を出る。

 ソールは誰もいなくなった部屋で背もたれにもたれかかり、天井を見上げながら呟く。


「厄介ごとは間に合っているんですがね。吉報があるといいのですが」


 そのつぶやきに応えるものは誰もいない。返ってきたのはただの沈黙。

 ソールは再び机に向かい、書類と格闘する。




 ◆




 マドリアドが小さく見える程度の位置に俺たち師団の飛行船は着陸した。

 飛行船は垂直離着陸ができるため、滑走路が必要ないのは大きな利点だ。おかげで着陸する際に陣形を組むことができ、簡易的な基地に様変わりだ。


 陣形は五稜郭を再現したような多角形型の陣地にしており、尖った部分、いわゆる稜堡の部分は火力特化船と護衛艦を配置した。これで高火力高耐久力な陣地の完成だ。ちなみに辺の部分には輸送艦を並べている。


 こうすることで飛行船陣内中央にいる兵士たちは安全だし、飛行船の砲があれば迎撃もできる。

 まさに万能だ。


 そんな即席の拠点の司令部となった旗艦ヘルデスビシュツァーで、俺は数人に新たな任務を言い渡していた。


「ていさつにんむ?」

「そうだ、4人にはマドリアドに情報収集に行ってもらいたい」

「……なんでこの4人?」


 目の前にいるのはベルにマリナ、エスリリ、シャルロッテ。

 この4人にマドリアドに行けと命令したのにはちゃんとしたわけがある。


「ちゃんと理由はある。この4人を選んだのは情報収集にうってつけだと思ったからだ」

「そうですか? 正直不安しかないのですが、説明していただけますか?」


 シャルロッテが不安そうな顔と声で聞いてくると、普段は凛々しく毅然とした態度をとっている彼女が弱っているみたいで、ついついいじめたくなってしまう。


 耐えろ、俺。


「ベルは一度あの町を訪れてるから。マリナは目、エスリリは鼻と耳が良くて他の奴らよりも万全の状態だ。シャルロッテからは技官としての意見が聞きたかったからな」


 情報を集めるには男よりも女の方がいい、と思ったのは言わないでおく。


 通常の部隊にやらせてもいいのだが、どの部隊も手が足りない。基地の設営だったり、補給をしていたり、整備をしていたり。


 手を借りられないこともないが自分の部隊を使ったほうが手っ取り早いし、正確だ。

 情報は経由が少ない方がいいのだから。


 何より独立部隊の奴らには小型の通信機を配っている。コストの問題で全員につけるわけにはいかなかったが、これがあればリアルタイムで情報を受け取れる。


「というわけだ。準備ができたら行ってこい。集めて欲しい情報はまとめてあるから持っていけ」

「はあ。わかりました」

「マリナもな、気をつけろよ」

「……わかった」


 シャルロッテに知りたい情報を書いた紙を渡す。マリナにも声をかけたがどうにも最近何か考え事をしていることが多い。どこか上の空な感じだ。


 仕事はしているから、緊張でもしているのか。

 曲がりなりにも故郷に帰ってきたから何か思うことがあるのかもしれない。


 マリナに声をかけたあと、エスリリも尻尾をぶんぶん振って何か期待したような目で俺を見てくる。


 やれ、仕方ない。


「エスリリはいつも通り、みんなを守ってやってくれ」

「わかった! 頑張る」

「無事に帰ってきたら褒めてやるからな」

「わぁい! 頑張る!」


 たったこれだけで明るい茶色のふさふさした尻尾を激しく振り回す。


 ちょろい。

 敬礼して部屋を出ていく4人を見送る。





 本当は自分で生きたかった。

 その方が詳しく知れるだろうし、協力を取り付けることも簡単にできたかもしれない。


 でも今は団長としての仕事がある。ここを離れるわけにはいかなかった。









次回、「中層の町」

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