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夢見る未来に福音を  作者: 相馬
第七章《国を落としに結ばれる》
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第十六話 師団結成



 ドワーフたちがやってきてから数週間。

 ついに最後の、新たな人員がやってきた。

 内訳はユベールからエルフの兵千五百、竜人と獣人の兵が千ほど。


 エルフの兵を率いてきたのは、意外な人物だった。


「久しぶりだ。ウィリアム卿」

「ルシウス! お前が来るとは思わなかった。いいのか? 大臣なんだろ」


 上のエルフの証たる金髪に、背が高く、少し細めの眉目秀麗イケメンエルフ。

 数百年生きてるはずなのに、肌にはハリがあり、まるで年齢を感じさせない偉丈夫。


「今回ばかりは王が行かせてくれたとも。それに私の代わりはいる。そろそろ代替わりを考えていたから丁度よかったのさ」


 エルフの一団を率いていたのは、ルシウス・セル・コールディン。

 ユベールで王との会議に参加していたくらい、かなり偉い人物だ。

 具体的になんの大臣かは知らないが、こうして軍人として派遣されるくらいだから、軍事関係か、それとも単に腕が立つからかはわからない。


 まあ、彼がここに来た理由はだいたいわかる。


「息子の無事を知らせてくれたこと、その礼をこうして返しに来た」


 ルシウスが手を差し出してくる。

 その手を固く握り、上下に揺らす。


 重鎮である彼がここにいる理由。

 グラノリュースに捕らわれた、息子であるフェリオスを救うこと。


 フェリオスとオルフェウス、サーシェスの三人には、グラノリュースでハンターをしていたときに世話になった。


 グラノリュースだけでなく、国を出てハンターをやめても、彼の父から協力を得られるとは、フェリオスには感謝しないといけない。


 さて、今は新たにやってきた兵のまとめ役と顔合わせをしているところだから、やってきたのはルシウスだけではない。

 竜人と獣人の兵もいる。獣人の代表は知らない狐のような耳をした種族だったが、竜人の方は見たことがあるやつだった。


「お前は、確か一度戦ったな」

「おうとも! あのときは同僚二人ともども世話になったな! 御館様からの命に従い、俺個人としても決着をつけに来たぞ!」


 びりびりと部屋のものを震わすほどの大声に、額からねじくれた角が二本生えた、筋骨隆々の大柄な竜人。

 竜人の長レイゲンと戦ったときにいた、三人の側近の一人。大剣を持っていた男。


 ジュウゾウだ。


 腰に手を当て、呆れ声で挨拶をする。


「俺とお前の決着なら、もうとうについただろう。わけわかんない理由で突っかかってきやがって」

「そうだったか? がっはっは! もう忘れてしまったぞ!」

「おいおい……」


 ジュウゾウは以前にもひと悶着あって、奸計をめぐらすような男ではないことは知っている。いや、単に記憶力が退化しているだけかもしれないが。

 技術を狙うレイゲンの部下ということもあって警戒していたが、ほっと胸をなでおろす。


 まあ、別の意味で不安ではあるけれど。


 とにかく、これで全師団員が揃ったから、早速今後の話をしよう。

 と思ったら、


「ウィリアム卿に渡すものがあったんだった」


 ルシウスが一通の封を渡してきた。


「これは?」

「ウィルベル殿から預かったものだ。ウィリアム卿に渡すようにと」


 そういえば、いない一人を忘れてた。

 封を受け取ると、それは意外にも分厚く、重くはないが硬い何かが入っていた。


「中には手紙と贈り物があるぞ」

「贈り物?」


 首をかしげながら、封を開ける。

 中には、装飾が施された釣り鐘型の鈴と手紙があった。


「ルシウスとやら、ウィルベルから俺への手紙はなかったか?」

「は? あるわけないだろう」

「なんだと!?」


 騒いでる二人を尻目に手紙を読むと、こう書いてあった。





『拝啓 性格最悪で陰気なウィルへ


 陽春の候、春もうららに、ようやく草木も映ずる季節となりました。じめじめとカビが生えてそうな仮面をつけるウィルには、過ごしにくいことと思います。


 春の花が最も映える誰もが振り向く天才美女であるウィルベルさんは、ミネルヴァ大図書館にある一通りの魔導書を読み終え、完璧にものにしました。すでにあなたとの魔法使いとしての力量は天と地、月とスッポン、ザリガニとロブスターです。


 そんなあたしを師団に迎えたくば、お迎えに来てください。

 お迎えに来るときは同封した鈴を事前に鳴らしてください。それはあたしが作り上げたとても素晴らしいもので、『親愛の鈴(ファミリアコール)』です。壊したら、いえ、傷一つ付けようものなら怒ります。

 具体的にはあなたが作った飛行船を一つ残らず燃やし尽くすくらい怒ります。

 美人で偉大な大魔法使いのウィルベルさんのために働けることを光栄に思い、涙を流しながら迎えに来てください。


 追伸


 この手紙を読んだら、三日以内に百人に同じ内容の手紙を送らないと不幸になります。ただしマリナに送った場合は必ずウィルが不幸になります。


                                   敬具』


 手紙を読み終え一言呟いた。


「子供でちんちくりんな大魔法使い(笑)が」

「?」


 ルシウスが怪訝な顔をしたが、説明するのもあほらしい内容だったので、手紙は折り畳み、再び封に入れ懐にしまう。

 『親愛の鈴(ファミリアコール)』という名の鈴は、鳴らないようにフードの中にしまった。


「さて、今後について話をしようか」


 仕切り直して、ルシウスとジュウゾウに座るように言って話をする。

 聞けば、二人は連隊規模の指揮の経験があるらしい。これは朗報だ。

 指揮官不在の連隊二つを任せることにしよう。


「二人に担当してもらうのは砲兵連隊と輜重兵連隊だ。どっちがどっちをやる?」


 あ、しまった。

 言った後すぐに、自分の発言がまずいことに気づく。

 そういえばエルフと竜人はずっと争っていたのだった。しかもお互いにそれなりに立場のある人間だから、いがみ合いも当然起こる。


 現に今、二人は険しい顔で睨み合った。


「軟弱なエルフに連隊長が務まると? 両部隊とも俺たち竜人に任せるといい!」

「野蛮な竜人では命令無視や勝手な行動をとるのは目に見えている。ここはエルフからもう一人指揮官を出そう」


 張り合う二人を見て、溜息を吐く。

 こんな光景、どっかで見たな。あれはたしか、灼島でレイゲンとレゴラウスが向かい合ったときだ。


 二人とも各王の腹心といってもいい立場だから、こうなるのも必然か。


「戦いしか能のない引きこもりの竜人では、兵站の大事さなど理解できまい。他種族への支援をするかどうかも怪しいものだ。同族殺しを平然と行う竜人に砲なんてものを与えれば、味方にまで被害を出すこと間違いなしだ」

「引きこもりはエルフの方だろう! 臆病なエルフに砲など与えれば、必要な時に援護が行き届かず、勝てる戦も勝てずに終わる! 食料にしても、エルフの軟弱な草だけの食事では勝てる戦も勝てはしまい!」


 止まらない二人。眉間を揉む。

 これはこれで、二人は息が合っているのではないだろうか。口に出すとどうなるか火を見るよりも明らかなので言わないが。


 互いの言うように、種族によって考え方は大きく違う。問題が出るようなら、同種族からもう一人指揮官を出してもいい。


 ただそうなると問題が一つ起こる。


「この師団は多国籍軍だから、あまり一つの国から多くの指揮官を出すと不平不満が出かねないんだ。何分、初だからな。実力が同じくらいなら異種族で組みたいが能力は……聞くだけ無駄か」

「当然俺たち竜人だ!」

「いいや、我らエルフに決まっている!」

「ですよねー」


 どっちが上? なんて聞いたらまたさっきと同じことの繰り返しだ。

 仕方ないので、あくまで暫定的な配置をすることにした。


 竜人たちは戦が上手ということで、ジュウゾウには砲兵連隊を任せることにした。戦上手なら、攻め時や援護もできるだろう。


 一方、精霊を操り、万能なエルフには輜重兵連隊を任せることにした。彼らならとっさに兵站を狙う敵襲にあっても、精霊のおかげで事前に察知できるし対処もできる。というか獣人もいる竜人たちの部隊に食料を任せるのは少し不安だ。つまみ食いされそうだ。


 それにエルフなら兵たちに食料を提供する際にも上手に料理してくれるだろう。実際にはエルフが料理するとは限らないが、まあ気持ち程度の期待だ。


 といってもまあ、連隊長を各種族から出すのはいいものの、別に各連隊は種族ごとというわけじゃない。多少、種族に適した傾向というものはあるが、部隊単位で種族混合だ。

 同じ小隊に獣人、ドワーフ、竜人、エルフ、人間が混在することは十分にあり得る。


 だからこそ、あまり連隊長間で諍いを起こしてほしくはないが、これも今後の課題かな。


 そんな感じで二人の役職を決め、今後の訓練や他の幹部達と顔合わせをする。


 意外にも、ドワーフとエルフは仲が悪いと思い込んでいたが、ルシウスはアグニと出会っても淡々と挨拶をしていた。


「ルシウス様ですか。大事な兵站ですが、あなたのような優れた御仁がおられるのであれば安心ですね」

「こちらこそ、アグニータ様のような清廉潔白で英邁なお人がいるだけで、安心して職務に全うできるというもの。これからよろしくお願いします」


 むしろお互い礼儀正しい分、仲良くなっていた。


 まあ、この世界でエルフの天敵は竜人だからそんなものか。大陸の端と端だから関わることもなかったのだろう。

 ただ、山に穴倉を掘って住み、金属を扱うドワーフと自然のままの森に住み、精霊と生きるエルフ。文化が違いすぎるから、もし一緒に住むとなれば問題も起きそうだ。


 兵舎だったりと日常生活の面でも気を付けなければいけないな。


 何はともあれ、無事に最後の兵士たちが合流し、その対応に追われた一日が終わった。


 自らの執務室に戻ったときには、既に日は落ち、夜になっていた。


「編成決めんのめんどくさいな……。どう決めようかな」


 ソファにドカリと座り、天井見上げてほっと息を吐く。

 部屋の中、自分で作った菓子を口に放り込み、紅茶を飲んでくつろいでいると、


「あ、そうだ。ベルのことを忘れてた」


 手紙の事を思い出した。

 迎えに来いとか言っていたな。まあ、こんな時間だし今日はいいだろう。

 場所は図書館だし、精霊に頼めばベルのすぐ近くに転送してくれる。

 いい加減自分で転送できるようになりたいがまだ難しそうだ。

 ひとまず、いつごろ迎えに行くかを手紙にしたためて、送ることにした。


 こんな具合に。



『拝復 ちんちくりんな美少女魔法使い(笑)へ


 風薫る新緑も眩しい季節となりました。

 花を咲かせるにはまだ早い、青々と芽を出し始める草花のように青臭いウィルベルさんにおかれましては、憎らしいほどにお元気なようでとても残念です。


 あなたがのんびり絵本を読んでいる間に、こちらは魔法以外にたくさんの出会いと学びがありました。

 すでに人としての能力や器は雪と墨、天地雲泥の差、カエルとオタマジャクシです。


 あなたのために働いたところ、各国の人が集まって既に交友を深めているので、早く帰ってこないとボッチになること請け合いです。

 まあ、孤高の魔女(爆笑)ですから気にしませんよね。

 すでに準備はできているので、構ってほしくなったら鈴を鳴らしてください。


 追伸

 手紙はエスリリが食べました。百人に送らなかったせいで、エスリリに腹を下すという不幸が訪れました。

 彼女が文句を言いたいそうなのでお早めに。



                                敬具』


 悪ふざけでこんな手紙を書いてしまった。書き直すのも面倒なのでこのまま出すことにした。

 フードから鈴を取り出して魔力を込めて鳴らす。

 静かな空間を涼やかな鈴の音が染め上げた。心に染み入るいい音だ。


 この鈴、『親愛の鈴(ファミリアコール)』は二つで一組らしく、片方が鳴ると、もう片方も鳴るというものらしい。


 マナを特定の波長で振動させて、それを受け取ったもう一つの鈴が鳴る仕組みだ。

 原理が理解できたし、マナを辿ってなんとなく彼女の居場所がわかった。精霊に頼んでベルのすぐ近くに小さな転移門を出現させる。


 黒く光を吸い込むような転移門に、先ほど書いた手紙を放り込む。

 このまま門の向こうに行ってもいいが、もう夜だし、急に迎えに行くのもはばかられた。

 だから向こうの都合がいいときに鈴を鳴らしてもらおう。


 転移門を閉じ、俺は伸びをしながら独りごつ。


「ううんっ、さて、これで師団は全員そろったことになるな。本格的に忙しくなるな」


 ようやくだ。ようやく師団が全員そろう。

 これからはひたすら練兵と飛行船開発だ。練度を上げて、飛行船の性能を向上させて量産しなければならない。そのための資金は既に受け取っている。


 そして俺自身ももっと強くならなければならない。


 猶予は一年。

 このたった一年で、たかが一個師団で一つの国を落とすのだ。


 単純な武装でいえば不可能ではない。そもそもあの国は一枚岩ではない。

 それでも不安をぬぐえないのは、偏にグラノリュース天上国の不気味さ故だろう。


 頭を切り替えて、仕事から夕食のことに切り替える。

 食堂に行こうと席を立つと、机の上にあった鈴が鳴った。


 何も動かしていないのに鳴ったということは、ベルが鳴らしたのだろう。

 ベルがベルを鳴らすというと頭がこんがらがりそうだ。


 さっき手紙を出したばかりだが、もう準備ができたのか。

 彼女が手紙を出したのは一か月以上前だろうが、その時からすでに準備はできていたのかもしれない。


 そう思って人が一人通れるくらいの転移門を開けると、門の大きさに反して出てきたのは、小さな四角い紙だった。


 手にしてみると、それは手紙だった。






次回、「集結」

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