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夢見る未来に福音を  作者: 相馬
第六章 《諍い果てての三位の契り》
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幕間9:ウィルベルさんはモテる

幕間という名の日常回 ……というかおふざけ回


 獣人たちとの話し合い兼食事を終えて。

 俺は食後の散歩として、ベル、マリナと一緒に屋敷の外を歩いていた。


 アイリスはエスリリのお世話だ。

 こういうとき、副官というのは本当に便利だ。雑用を押し付けられる。


「五千人の仲間かぁ。ちょっと想像できないわね。どんな人たちが来るのかな」


 毛先をくるくると指に巻きいじりながら、ベルが言った。


「エルフと竜人が加わるからすごい師団になるね……大陸初かも」


 マリナが俺の服の裾を掴みながら微笑んだ。

 俺の服だがレイゲンにびりびりにされたから、もう着れなくなってしまい、今は軍服ではなく寝間着代わりのラフな格好をしている。


 掴みやすいからか、マリナは服の裾をずっと掴んでいる。伸びるからやめて欲しいが、注意してもいつの間にかまた掴みだすから諦めた。


 そうそう、マリナの軍服もボロボロだったから、俺の残りの普段着を貸した。サイズが合わなくて上だけだから、どことなく彼シャツっぽい。


 といっても服の裾を掴んでいるから恋人同士というより、どことなくシミラールックな親子っぽい。


「竜人か。いろいろあったから、俺達の師団に来たがるやつはあまりいないんじゃないか?」

「でもレイゲンとやりあったウィルの師団となれば来たがる人はいるかもしれない……竜人は強い人に惹かれるっていうし」

「聞いた話じゃ、動物と同じで意中の人がいたら、喧嘩で取りあうらしいわよ」


 ベルがどこで知ったのか、竜人の恋模様について教えてくれた。

 弱肉強食で、男女ともに血統主義というか、自分の子供までひたすら強くしようと結ばれる相手も実力を最優先で考えるらしい。

 だから喧嘩が弱いと好きな女も手に入れられないらしい。

 逆に強ければ、責任なんか二の次で何人でも娶れるそうだ。


「じゃあもしかしたら……ウィルを狙った女竜人が来るかもしれないっ」


 マリナが馬鹿なことを言いながら、服の裾を皺がつくほどに強く握った。

 何を心配することがあるのだろうか。

 この世界の女といちゃつく趣味はないし、たとえ好きな人ができたとしても、俺は自分が甘い言葉を女にささやく光景が全くもって想像できない。


 どちらかといえば、男と馬鹿なことを言いあう方が性に合ってるし、弱っている女に優しくするより、追い打って泣かすほうが好きだ。


「マリナ、いくらなんでもこんな性格の悪いウィルに言い寄ってくる人はいないわよ。強さだけあっても、それ以外が壊滅的なんだから」


 だがベルの言葉にはさすがにイラっと来た。


「ベルにだけは言われたくねぇ。魔法以外何の取り柄もない、付き合ってもデメリットしかない奴を好きになる男の気が知れないよ」

「あにー? 忘れたの? エルフの王様はあたしが欲しいっていったのよ? あれこれ画策して王妃にしようとしたんだから、これはもうあたしにゾッコンって言ってもいいんじゃないかしら」

「残念だったな。レゴラウスが欲しかったのは魔法だけだ。つまりベルじゃなくてもいいってことだ。女の魅力に惹かれたわけじゃないんだからカウントすんな」


 言い合いながら、ベルが俺の足を蹴ってくる。

 俺はベルの頭をはたき返す。


「レゴラウスがベルを嫁に欲しいって聞いたときは、耳を疑ったよ。エイリスなんて変人がいたり、ベルを欲しがったり。完璧なエルフといえど、女に関してはてんでダメなんだなと思ったくらいだ」

「わかってないわね。完璧なエルフがあたしを求めたってことは、あたしが完璧だってことの証拠じゃない? 逆にウィルが女に関してまともに脳が働かないポンコツってことが逆説的に証明されたと思うの」

「ああ?」

「ええ?」


 背の低いベルを見下ろすように腰を折り、睨みつける。

 ベルもチンピラみたいな声を出して俺を見上げる。


 あ? お? みたいなヤンキーの声を出して恫喝し合う。


 すると背中に軽い衝撃が走った。


「二人はやっぱり仲良し……」


 マリナが俺の背中に飛び乗ったのだ。

 ちょうど軽く腰を折っていた俺の背中が乗りやすそうだったからだと思うが、その衝撃のせいで、危うくメンチ切って顔を寄せていたベルと顔がぶつかるところだった。


 俺は仮面をしているから、ぶつかったところで何もないからいいけれど。

 それはそうと、マリナの言葉は訂正しなければ。


「マリナ、仲がいいっていうのは喧嘩相手に関しては使われないぞ」

「そうよマリナ。そういうのはね、一緒にいて笑える人に対して使うものよ」

「でも二人ともずっと笑ってるよ」

「「どこが」よ」


 揃って否定する。

 それがなんか嫌で、またメンチを切り合う。


「……二人が一緒になってくれればいいのに」


 何かマリナが言っていた気がするが、声が小さくて聞こえなかった。


 ――と、そんなふうにある意味いつも通りの会話をしていたところで、


「おお! 本当に見つけたぞ! やはりヤクモの情報は正しいな! ユズリハも恥ずかしがらずにくればよかったものを!」


 マリナとは対照的な大声が鼓膜を揺らした。


「うるっせぇ~」

「頭揺れる~」

「耳が痛い……」


 三人そろって痛む頭に手を当てる。


「ん~、あれ? あんた、生きてたの?」


 いち早く復帰したベルが声の主を見る。どうやら知り合いのようだ。

 俺も姿勢を正して相手を見る。


 そこにいたのは、どこかで見た気がする大柄でねじくれた二本の角が額から生えた大男。


「えっと、確かジュウゾウだっけ?」


 ベルが男の名前を呼んだ。

 思い出した。この男はレイゲンの側近だった三人のうちの一人だ。

 見てみれば確かに纏う覇気が他の竜人とは違うし、身のこなしから腕が立つことも十分にわかる。


 とはいえ、身構える必要はないはずだ。もうレイゲンとの盃を交わしたのだから、側近であるこの男がそれを知らないわけがない。


「レイゲンの側近がいったい何の用だ?」

「なに! ほんの挨拶だ! それにそこの少女に伝えたいことがあってな!」

「伝えたいこと?」


 争う気はないというジュウゾウに少しばかりホッとする。

 どうやら彼は挨拶がてら、ベルに何か用があるようだ。

 俺ではなくベル、いったいなんだろうか。

 ベルも心当たりはなさそうだ。


「俺を打ち負かした女子は初めてでな! あの一撃は相当効いたぞ!」

「あらそう、むしろよく生きてたわね。竜人でも死ぬんじゃないかと思うくらい、結構気合入れた一撃だったんだけど」

「無論効いたとも。川の向こうに殺した父が手を振っているのを見たときは死んだと思ったがな!」


 笑うべきなのか、引くべきなのかわからないな。

 この男、自分の父を殺したのか?

 竜人の文化なんて知らないが、俺は父を殺すなんて死んでも嫌だ。相容れそうにないな。


「ウィル……竜人のいう父を殺すっていうのは、父より強くなったってことの隠語だよ。彼らは最初に父親を強さの目標にするから」


 俺が複雑な気分に陥ってるのを察したのか、背中におぶったままのマリナが耳元でささやいた。


 なるほど、強さがすべての竜人だから、弱くなったら死んだと同じということか。

 もうちょっと言葉を選べよと思わなくもないが、まあどうでもいい。


 というか、いつまでマリナは俺の背中にしがみついてんだ。


「ま、生きてたんならよかったじゃない。それじゃあね」

「いや待ってくれ! 話があるのだ!」


 ベルがほどほどに話を切ろうとすると、慌てたジュウゾウが遮った。


「なに? 散歩の途中なんだけど」

「あー、……ならその散歩、俺も付き合ってもよいか?」

「え、やだけど」


 頬を掻きながらのジュウゾウの申し出を、ベルはにべもなく断る。


 ……ここまで来たら俺でもわかったぞ。


「(なあ、マリナ。もしかしてあれか?)」


 マリナが頷く。


「(たぶん……ベルにほの字なんだと思う)」

「(うそだろ?)」


 察した通りとはいえ、まさかの事態に息を飲む。

 ジュウゾウに興味がないのか、ベルは気づいてないようだ。


 信じられないが、ここはひとつ、気を利かせるとしよう。


 ジュウゾウとベルに背を向けて立ち去ろうとすると、


「んじゃ、あとは二人でごゆっくり――ング!?」


 背中のマリナが首に手を回し、絞めてくる。


「(なんだよ! こういうのは若い二人に任せるべきだろ!)」

「(ウィルだって若い! ……それにベルの相手があの人なのはやだ!)」


 耳元で小声だが、マリナの声には確かに怒気があった。

 俺たちの中では一番穏やかな彼女が声を荒げるとは。


 もしやジュウゾウは実は危険な奴なのか?


 立ち去ろうとしていたが、再び振り返り二人を見る。


「その、なんだ。ウィルベル、さんは、好きなタイプは?」

「好きなタイプ? そうね。やっぱり爆発タイプがいいわね。こうズバーンと派手な感じで登場して、スパッと解決して人を助けるの」

「へ、へ~? そ、そうなのかー?」


 ……駄目だ、見た目はよくても頭んなかが女としてぶっ飛んでるベルは、学ラン着てそうな正統派思春期男子ジュウゾウ君には高レベルすぎる。


 でも特にマリナのいうような嫌な感じは感じられないな。むしろこう、甘酸っぱいというか、むず痒いという感じだ。


「(何か問題あるか?)」

「(ウィルはベルがあの人と付き合ってもいいの?)」

「(別に?)」


 耳元に深いため息が当たる。

 うぅぅ、耳元で息を吐くのはやめて欲しい。エスリリのせいか、どうにも耳が弱いんだ。


 マリナのいうことは気になるが、そろそろ屋敷に戻りたい。


「おい、そろそろ戻るぞ」


 ベルがこっちを見て、ジュウゾウに挨拶もなしにさっと駆け寄ってきた。


 あ、ジュウゾウが中途半端に手を伸ばしてる。その手が宙をさまよっている。


 出会いがしらの声から、すごく豪快で堂々としている奴だと思ったのに、なんだか悲しいよ。

 レイゲンの側近になるくらい戦闘の経験は積んでいるのに、恋愛の経験は積んでいなかったのか。


 強く生きろ、ジュウゾウ。


 安い青春ミニドラマを見たような気分になりながら、屋敷に戻ろうと踵を返す。

 直前に。


「ジュウゾウ! ……強さを見せれば、ベルももしかしたら惹かれるかもしれないよ!」


 背中からマリナが叫んだ。

 ジュウゾウに向けて、竜人の男心をくすぐるような言葉を投げかけた。


「何言ってんだ、マリナ」


 どうして彼女がこんなことを言うのか理解できずに足を止める。

 俺もベルも、おかしなことをしだしたマリナを訝しむ。

 だがそこで、


「そうか、そうだった! 俺は竜人! 相手が人族だろうと変わらない!」


 ジュウゾウが叫んだ。

 ベルの前まで肩を鳴らしてやってきて、唐突に跪き、袖から小さな箱を取り出した。


 頭を下げながら、その箱を開き、ベルに見せるように差し出した。


 その行為は即ち――


「ウィルベル! 君に惚れた! 俺と結婚してほしい!」

 

 求婚だった。


「………………………はい?」


 ベルが固まる。身じろぎ一つしない。

 ジュウゾウは頭を下げ、腕をピンと伸ばしたまま、じっと返事を待ち続ける。


 俺はというと、


「……っ……ぇ」


 仮面の口が開くほどの大口を開けて固まっていた。

 開いた口からかすれた声にもならない音が漏れる。


 誰もが固まる中でただ一人、


「……ふふっ」


 マリナだけは笑っていた。俺の背中で笑っている。

 四人の間に長い長い沈黙が走る。

 ようやく再起動したベルが、顔を仄かに赤くして顔と手をぶんぶん振ってジュウゾウのプロポーズを断った。


「ムリムリムリ! あたしあんたのことなんてろくに知らないし!」


 ジュウゾウはがばっと顔を上げ、


「これから知っていけばいいのだ! ウィルベルには好きな人はいないのだろう!? どうだろう、ここはひとつ、俺と結婚を前提に結婚してくれないか!?」

「結婚しかないんですけど!?」


 とち狂ったことをいう。

 どうやらベルだけでなく、ジュウゾウもかなりテンパっているようだ。それもそうか、正統派思春期男子にいきなりプロポーズなんて荷が重い。

 というかなんでジュウゾウは指輪なんて持ってるんだ?


「ちょっとウィル! なんとかしてよ!」


 ベルが俺に助けを求めてくるが、知らんがな。


「なんとかしてっておい。俺関係ないし――ウグッ!?」


 またしてもマリナに首を絞められる。

 彼女もまた今回の戦いで聖人に近付いているせいで力が強い。さすがに首を決められては敵わないので、ギブアップの意を込めて彼女の腕を叩く。


「ゲホッゲホッ!」

「(……ウィル、ベルのために頑張って)」


 耳元でささやかれる。

 ベルのために頑張れって、なにがどうなればベルのためになるんだ?

 マリナはジュウゾウを焚きつけたってことは、二人をくっつけたいのか?

 いや、でも最初にジュウゾウがベルとくっつくのは嫌だっていっていたな。つまりどういうことだ?

 ぐるぐると思考を回しながら、ジュウゾウとベルの間に割って入る。


 とりあえず、最初に確認しなければいけないことは――


「ジュウゾウ、正気か?」

「正気かって何!?」


 ジュウゾウの気が確かか確認することだ。

 ベルに性的魅力を感じるなんて普通じゃない。明らかにどこか悪くしたに違いない。


 ベルがなんだか抗議してくるが無視だ。

 さすがに契りを交わした竜人が目の前で狂ってしまったら、レイゲンは怒るかもしれない。だからジュウゾウの体調に関してはしっかりと向き合わなければ。


 頭を下げ続けるジュウゾウの広い肩に手を置いて、顔を上げさせる。

 ジュウゾウは顔を上げ、俺とベルを見ると大きな口を横一文字にキュッと引き締める。


「二人はどういう関係だ? はっ!? ま、まさか!?」」


 大きな体を震わせる。

 俺とベル、そしてマリナに目をやって、とんでもない爆弾を投下した。


「既に二人はデキていて、子供がいるのか!?」

「んなわけぇだろ!!」「そんなわけないでしょ!!」


 ガチでキレる。

 俺とベルがこぶしを握りながら、ジュウゾウに詰め寄り、


「どこをどうみたらこんなちんちくりんと俺がそんな関係に見えるよ! ふざけんじゃねぇぞ!」

「あたしがそんな人妻に見えるの!? まだうら若き乙女なんだけど!!」


 アホッ面をぶっつぶした。

 二人の拳がジュウゾウの顔に挟み込むように吸い込まれ、


「がっはぁ!?」


 潰れたスイカのようにひしゃげ、勢いそのまま吹き飛んだ。


「おおぉ……見事な連携。新技にいいかも」


 背中にいるマリナが飛んでいくジュウゾウを見て感嘆の声を漏らした。

 ジュウゾウもそうだが、マリナにも一言言わなければいけない。


 俺が背中にいるマリナに声をかけようとしたとき、口の端から血を撒き散らしたジュウゾウがフラフラと立ち上がる。


「み、見事……。だが! 俺は強き竜人だ! この程度で諦めるものか!」


 彼は普段使っている大剣ではなく、護身用の腰に差していた刀を抜く。

 頭痛をこらえるように額に手を当てる。


「もう勝手にしてくれ。俺は帰る」

「ダメ、ウィル……ちょっと待ってて」


 マリナが俺の背中から降り、とてとてとジュウゾウの元に駆けて行き、


「私は二人の子じゃないよ」

「では、どういう関係なのだ? 恰好といい、二人の髪色が混ざったような白髪と黒髪といい。ただの仲間とは言わせんぞ」

「私たちは血のつながりのない、家族だよ? ……意味は分かるよね?」


 何かをささやいた。

 途端にジュウゾウは目の色を変える。


「ウィルベルだけでなく、ユズリハを退けたこんなめんこい乙女まで好き放題しているだと!? 断じて許せん!」

「なんでだぁ!?」


 目を血走らせ、振り下ろされる刀を両手で挟み込んで止める。


「マリナ、何言った!?」


 ぎちぎちと震える手と刀。

 歯を食いしばりながら耐え、マリナに目を向けると彼女は今度はベルのもとに言っていた。


「ごにょごにょ」

「ふむふむ……。へぇ、悪くないかも」


 ベルまで何かささやかれたのか、顔が怪しく笑う。

 棒読みで、


「やめてー、いくらつよい人が好きだからって、あたしのためにあらそわないでー」


 煽った。


「ぬおおおお!!」

「ちょっ、こら!!」


 ジュウゾウが鼻息荒く俺を睨みつけてくる。こいつの太い腕がさらに膨れ上がり、太い血管が浮き出した。

 態勢が不利ということもあり、徐々に徐々に刃が俺の顔に迫る。


「いけ! ……そのまま仮面だけ割ってほしいっ!」

「マリナ! 今回だけは許さないからな!」


 叫び、ジュウゾウに向けて紫電を散らす。


 ただの散歩がどうしてこんなことになるのかな!



 *



 黒焦げになったジュウゾウが地に伏している。ピクピクと、まるで首を切られた昆虫のように。


「お前ら、思春期男子を弄ぶとは酷なことしやがる」


 傍にいるベルとマリナを睨みつける。

 睨んでも、二人は口に手を当て、にやにやと笑ってるだけだ。


「ウィルがベルを懸けて戦った」

「そういうことになっちゃうわよねぇ? 感情はともかく、あたしを求めるジュウゾウと決闘したのは事実だし?」


 全身にサブいぼが立った。

 俺が? ベルを? 取りあった?


 確かに、『ベルを欲しがるジュウゾウ』と争った。

 だが断じて俺はベルが欲しくてやったわけじゃない。


 でも腹立つが客観的に見れば、二人の言う通りかもしれない。


 冗談じゃねぇ!

 こいつら! 嵌めやがった!


 女としてのベルを求めて戦ったなんて事実は消したい……、黒歴史だ……!


 かくなる上は――


「ちょ、ちょっとウィル。いくらあたしが大好きだからって、手をワキワキさせるなんてやらしいことはダメよ? 別に勝ったからって何かしてあげるわけじゃないからっ」

「そ、そうだよ……大事な記憶の魔法を、こんなことに使うのは良くないと思うの!」


 一転して、小さな体を寄せ合い震わす二人。

 途端に気分が良くなる。


「いや、これは大事なことだ。全部消す。俺にそんな気持ちは一切ないとはいえ、ベルを懸けて戦ったなんて事実は今ここで消し去る!」

「そんなにぃ!?」


 やっぱり俺は女に甘い言葉をささやくよりも泣かすほうが性に合ってるようだ。

 今、すごく楽しい。


「に……逃げろー!!」

「やーーーー!!」


 あっという間にほうきに乗り、逃げ出す二人を、


「待てゴラァ!!」


 強化した体で追いかけた。




 このあと、探しに来たエスリリに見つかって、遊んでいると思われたのか俺がひどく追いかけられた。


 ……結局、二人の記憶を消すことはできなかったが、まあ、たまにはいいか。



 そういえば、ジュウゾウを焦がしたまま忘れていたな。







次章、《国を落としに結ばれる》



ジュウゾウ君が置いてけぼりだったもので急ぎ書いた幕間でした。

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