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夢見る未来に福音を  作者: 相馬
第一部 第一章《始まりの大地》
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第十一話 動乱の兆し

 冬に入り、最近はかなり冷えてきた。

 あれから城内のことを調べると言ったがどうやって調べるか。空いた時間で調べようとしたが、なかなか難しい。

 そこで城内が駄目なら城下からということで、休みの今日、いつも買っている筆記具を売っている店の店主に話を聞いてみることにする。


「こんにちは、またいつものですか?」

「はい、いつもの筆記具一式よろしくお願いします。」


 少しばかり頭が寂しくなりだした気さくそうな店主に挨拶をして、羊皮紙の束とインクの代金を渡すと、商品を取りに奥へ下がる。この辺りはもう何度も来ているのでなれたものだ。

 ここは雑貨屋でいろんなものが売っている。高価なものではなく、日常的に使うような消耗品を主に扱っていて、安価だし、店の雰囲気がいいのでよく利用している。


「こちらご確認ください」

「いつもありがとうございます。それにしても最近は冷えてきましたね」

「そうですね。年を取ると冷えて仕方ありません。こんな日は暖炉の前でゆっくりしたいですね」

「こんなに寒いんじゃ客も少ないんじゃないですか?」

「例年なら確かに減るんですが今年はそうでもないですね。むしろ売り上げが増えているものもありますよ」

「ほう、それはどんなものですか?」


 毛布やカイロといったものはもちろん売れるがそうじゃないらしい。


「それですよ。いまウィリアムさんが持っているものです。それと追加でペンもまとまった数が売れていますね。」


 そういわれ、手元の羊皮紙とインクを見る。なんの変哲もない紙束だ。冬場に何に使うのだろうか。書き物でも流行ったのか?


「例年より売れているのですか?どうしてでしょう?」

「さあ、なんとも言えません。ただこのところよく軍人さんが通るのを見かけますね。こないだは一人騎士様もいましたよ」

「これはまた物騒ですね。何かあるんでしょうか」

「?ウィリアムさんのほうが詳しいのでは?城勤めでしたよね」

「城勤めではありますが、末端ですので大したことは知りません。なにか知っておいでですか?」

「私からは何とも。ただ噂なら聞いたことがありますよ」

「噂?」

「ええ。曰く――」


―――下層の開拓が完了したので軍を派遣する


それは明らかな宣告だった。



 上層に広がっている噂を聞いた僕は、いつも通りを装って城に戻る。ソフィアとオスカーたちと会うにはまだ時間があって、その間はやることがない。部屋にいても落ち着かないので訓練場に行き体を動かすことにした。

 素振りや型をひたすら繰り返し、緩急をつけながら武器を振る。動きは満足できるものだったが、頭の中は晴れない。先ほどの噂についてどうなっているのか、結論が出ずにぐるぐる考えている。


 下層の開拓が完了した?下層はそもそも開拓などしていなかった。貧しくもすでに町ができていたし、農場もある。そもそも貧しいのは恐らく軍部から徴税という名の略奪を受けているからだ。

軍を派遣?すでに軍は下層に何度も行き来している。今更派遣するのにわざわざうわさが流れるようなことをするだろうか。

 どれも怪しいが、ただの噂と断じることもできない。

 だから予想される中で最悪なのは、開拓完了を理由に下層を攻めようとしているということだ。これ以上下層民が虐げられれば、彼らはもう生きていくのが難しい。もしかすれば中層にも被害が及ぶかもしれない。

 いやな考えばかりが浮かぶ。その考えを払うように武器をふるうが気分は晴れない。

 気づけば日も沈みかけ、身体は汗ばみ湯気が立っていた。

 訓練場を出て部屋に戻ってシャワーを浴びて、食堂に行く。そこにはオスカーが一人いた。


「や、オスカー。今日は一人?」

「あ、ああ。今日は一人だよ。さっきまで一緒だったんだけどな」

「なにか用事でもあったのかな?待っていれば来る?」


 できるだけ早く二人には噂のことを話しておきたい。

 だからいつ来るのかと聞くとオスカーの様子がおかしい。


「どうしたの?何かあったの?」

「早く食え。大事な話がある」


 またもや不穏なことが起きている。ソフィアに何かあったか?

 とにかく気になるので食事を急いで食べて、オスカーとともに僕の部屋に行く。

 部屋に行き、いつも以上に入念にオスカーが盗聴されてないか確認する。かなり気が立っているように見える。

 確認を終えるとすぐさま本題に入る。


「軍の連中にソフィアが連れていかれた。イサーク教官もいた。通常なら現場配属かもしれないがまだ早すぎる。あれは通例なら春に行われるはずだ」


 それはまたしても不穏な知らせ。


「つまり何かあるってこと?それによってソフィアの配属が早まったと」

「可能性はある。ただ配属の通知だけならすぐに行くわけじゃないから戻ってきて報告してくれるだろう」

「じゃあソフィアの件は彼女が戻ってくるまで待つしかないね。……オスカー、心配なのはわかるけど、落ち着きなよ」


 オスカーはソフィアが軍部に呼ばれたことが心配で気が気でないようだ。ずっと落ち着きがなく足をゆすったり視線があちこち向いている。

 僕だって心配だが彼女のことだ、きっと何とかなるだろうし、何かあれば伝えに来るはずだ。信じて待つしかない。

 それより今日聞いたことを話さないといけない。


「それで城下で気になる話を聞いたんだ。」

「城下?お前おかしな行動は控えていつも通りで行くって話はしただろう。なぜ城下に行った?」

「行ったのは以前から何度も行ってる雑貨屋だよ。羊皮紙とインクを買いに行ったんだ。そこで店主と雑談してたら気になる噂を聞いたんだ」


 城下で聞いた下層に軍が派遣されるという噂を伝える。するとオスカーも気になったのだろう、慌てていた。


「軍が派遣される!?開拓が完了したと?開拓なんて今更してないし、軍はすでに下層に何度も派遣されているだろ?ただの噂じゃないのか」

「開拓が完了したってのはただの方便だと思う。軍を派遣する口実で、どうして派遣するのか、何をさせるのかはわからないけどね。もしかしたらソフィアはこの件に関係するのかもしれない」


 ソフィアがこの件に関係して呼ばれたのだとしたら、目的や理由がわかるかもしれない。ただそうなれば必然的に彼女が巻き込まれることになる。しかも軍人として。そうなれば僕たちは表立って彼女に協力はできないし、上層から出ることもできない。

 壁を超える別の手段を考えるしかない。だがいざ軍が出動すると警備は強化されるだろうから、安易な手段はとれない。

 2人でどうするか話し合っていると、ノックされる。誰だろうと思い扉を開けるとソフィアがいた。

 とにかく部屋に招き入れて話を聞こうとすると、ソフィアに気づいたオスカーが駆け寄る。


「ソフィア!よかった、無事だったんだな!」

「大げさよ、オスカー。ただ呼ばれただけなんだからなにもされないわよ。もしばれたなら私だけじゃすまないだろうしね」

「いや、でもいま城もおかしな雰囲気だし軍部だって何か動いているんだぞ?」

「確かにそのようね。実際に私も参加することになりそうよ」

「なんだと!?」


 やっぱりソフィアも関係することになった。

 オスカーを落ち着かせてから話を聞く。

 どうやらソフィアの配属は少し早まり、今回の作戦から正式に軍に配属させられるらしい。そして肝心の作戦とは――


「下層民の鎮圧、並びに協力した中層を締め上げるんだそうよ」

「鎮圧はわかるけど、締め上げる?協力した人を探し出すってこと?それは軍部じゃなくて警察の役目だと思うけど」

「ええ、そうよ。本来なら警察とかの下部組織がやる仕事。それをわざわざ軍を出してやる以上、どうするつもりかは明白じゃない?」


 警察じゃなくて軍が出る理由は、恐らくかなり強く取り締まるつもりだろう。それこそ反抗したら即罰則があったり、見せしめとして強い罰則を与えたりするかもしれない。それこそ無関係の人に対してもだ。

 ただ中層の町すべてにそんなことは余裕がなくてできないだろうから、最低限の調査はして怪しい町を絞っているのだろうか。


「多少過激になるのは予想できるが、実際に襲われる町は見当をつけてるのか?いくら軍でもすべての町に同じことをする余裕はないし、やるメリットも少ない。見せしめなら精々1つ2つの町で十分のはずだ」

「普通の捜査をするなら警察でいいし、捜査のために軍を派遣するだけなら各町に分散して悲惨なことは起きないかもしれないよ」

「そうかもしれないわね。でもはっきり聞いたのよ――狙われるのはマドリアド。ハンターギルドがあり、中層でも有数の大きな町を軍は攻めるつもりよ」



 自国にある町を自国の軍が攻める。クーデターも起こっていない今は普通に考えればあり得ない。こんなことが起こるのはひとえにハンターギルドという治外法権が成り立つ組織の存在が大きい。

 ハンターギルドはかつてあった各国に認められた組織であり、中にはハンターギルドに依存した国もあり、他の国がギルドに敵対するとその国ごと敵になるなんてこともあったらしく、厄介な存在であったため、国はギルドに大きな権利を与えている。

 もちろんただではなく、国の軍以外に内部に武力を持つ以上、たくさんの制限をつけられている。


 一つ、国に敵対する行為をしないこと。

 一つ、所属するハンターの住民としての職務とハンターとしての活動が競合した場合、必ず住民の職務を優先すること。

 一つ、徴兵する場合は速やかに応じること。

 一つ、ハンターが問題を起こした時、ギルドが全面的に責任を負うこと。

 一つ、ハンターの活動をしっかり監視すること。


 以上のことがギルドに最低限求められることだ。要するに国に敵対せず、ハンターをしっかり管理して問題起きたらお前らの責任な、ということだ。そしてハンターは現地の住民であることが多い。つまり国の財産である以上、ギルドよりも国を優先するのが当たり前という感じだ。

 治外法権を認めるには緩い気もするが、ここは各国を跨ぐギルドなので制限が付きすぎるとある国では問題になるということがあるためだ。そこで国が対策のためつけたのは問題が起きたとき、ギルドが全面的に責任を負うということだ。

 これはつまり……


「今回の下層民のクーデター、ギルドのせいにして力を奪うつもりか」

「でしょうね。ハンターに怪しい依頼が出されていたこともあるし、こじつけってこともないしね。ただあのギルドがこのことを考えていなかったとも思えないのだけど」

「じゃあ、ハンターの暴走?」

「ありえなくはないけど、どうかしら。依頼は全部ギルド役員が目を通しているはずだから認知してないとは思えないわ。もし認知していたなら今回はハンターギルドそのものも絡んでいるからかなり大事になるかもしれないわ」


 確かにギルドとして今回の件に絡んでいる可能性もなくはない。思い出せば以前ギルドに登録する際、人手が足りないようなことを言っていた。だから僕らのような事情の複雑な人物も実力があるならと加えたかったのかもしれない。しかし僕たちが騎士だと知っていたはずだ。ならば僕らは国の軍として参加する、いわば敵だ。引き入れるようなことをするだろうか。

 とかくこれからどうするか考えなくてはならない。


「ソフィアはどうするつもりだ?今回軍として参加しなきゃならないなら中層のマドリアドに攻めなくちゃならないかもしれない。下層でもひどいことをさせられるかもしれない」


 オスカーがソフィアにそう尋ねる。結局ソフィアがどうするかにかかっている。

 彼女次第で僕たちのやることは変わってくる。

 普段の凛々しく理知的なソフィアが、珍しく俯いて拳を握っている。

 顔を上げた彼女の顔はどこか、ぎこちなく、しかし真剣だった。


「……だから二人にお願いがあるの」

「お願い?」

「私たちが作戦を開始する前に中層に知らせてみんなを避難させてほしいの。下層民もできれば助けてあげたい」


 泣きそうなソフィアの声。


「気持ちはわかるが軍はどうする。中層に知らせて避難させていたら軍が裏切者を疑うだろう。そしたら疑われるのはソフィアかもしれない」

「それに下層民が避難する場所なんでどこにあるのかわからないよ。彼らは中層に入れないし、下層に軍から逃げられる場所なんてないと思うよ」

「それでも、お世話になってきたマドリアドの人たちを助けたいの。軍は私がなんとかして見せるから!具体的な考えなんてないけど……何もしないなんてできないの」


 悲痛な思いでソフィアが心中を吐露する。僕はそんな彼女に少し驚いた。いつも彼女は落ち着いて僕らにいろいろ教えてくれるし、いつだって助けてくれたから。

 そんな彼女が僕たちに助けを求めている。しかも明晰な彼女らしからぬ具体的な方法はない。かなり追い詰められているのかもしれない。

 僕たちはこうならないように調べて未然に食い止めようとしていたが、間に合わなかった。

 ソフィアの願いに僕は少しだけ返答を迷ってしまった。僕らは見習いとはいえ軍人で騎士だ。国に仕える者だ。理由なく逆らうことは許されない。

 なにより具体的に事を治める方法がない。本来なら見て見ぬふりをして、しかるべきところに任せるのが正しい判断なのではないかと思う。その結果、悲惨な結果になるのかもしれないが自分には解決する力がないのだから仕方がないと。

 そもそも僕たち天上人はこの国によって支えられている。上層にいる人たち、城にいる人たちのおかげで他の世界からやってきた僕たちはこの世界で生きていけるのだ。

 そんな彼らを裏切って、知り合ったばかりの中層の人たちに加勢してもいいのだろうか。

 先生たちを裏切ることになっていいのだろうか。

 でも僕のそんな迷いなど知らぬとばかりにオスカーが即答した。


「任せろよ!ソフィア、そんなこと今更頼まれるまでもないぜ!もしソフィアが何も言わなくても勝手に行っただろうしな!」

「オスカー!?」


 今回はどう考えても僕らの手に負えない。どうあろうと引き受ければ僕らは責を問われることになる。

 無断で鍛錬を休む、層を超える、軍の情報を流す、敵を助け、軍の邪魔をする。こんなことをすれば極刑は免れない。


「なんだウィリアム、世話になった町の人が危ないんだぞ。それにソフィアがこうまでして悩んで助けを求めてきたんだ。応えなくてどうするよ!」

「だけど危険すぎるよ!たとえ町の人を助けても僕らがしていることは軍規違反だ。最悪極刑だってあり得るんだよ!?それをなんの考えもなくやるなんて!」

「それがどうしたよ!?俺たちは極刑を免れたとしても中層の人たちは?何の関係も罪もない人が逃げることもできず殺されるかもしれないんだぞ?見て見ぬふりなんてできるのか?」

「……もしかしたらそんなことが起きないかもしれないじゃないか!軍だってまともな人はいるだろうし、そもそもが彼らは軍に目を付けられるようなことをしたんじゃないのか!?」


 直後、唐突に視界がぶれた。

 体が宙に浮く感覚に陥り、すぐさま家財にぶつかり派手な音が鳴る。

一瞬、何が起きたのかわからなかった。呆けた顔でオスカーを見て、またも息をのむ。

 本気で怒るオスカーに圧され、声が出なかった。本気のオスカーに殴られた左頬は熱く、鈍い痛みを持っていた。口の中に血の味が広がる。

 オスカーの怒りが言葉となって全身を殴る。


「てめぇは下層で奴らが何をしていたのか見てなかったのかよ!?下層民が日々生きるのにも苦労してる!必死で育て、手にした食べ物を容赦なく奪い虐げる!そんな奴らが何もしないと本気で思ってるのか!」

「……っ!」

「後のことなんか後で考えりゃいいんだよ!具体的な方法なんてなくても結果が出なかったとしても、それでも何もしないよりマシだ。それにもし軍の連中が何もしないのならそれを見届けるだけでいい。それだけで安心できるだろ!」


 事前に計画を立てて勝算があればやるべきだという僕の考えに対して、オスカーの考えは真逆だった。やるべきだからやって、考えなきゃいけないことは後で考えるなんて僕にはできない。


「……でも、まだ動くには早いよ。僕たちは不確定なことだけを頼りに動いてる。この城にだっていい人はたくさんいる。先生だっている。ここで動けば、僕たちは先生を裏切ることになる!何も知らない僕をこの国は必要としてくれた。国を裏切るなんてできないよ!」

「お前が信じる国は何も持たない人たちからすべてを奪い去るもんか!?そんな国、捨てちまえ!俺たち天上人は騎士だ!騎士は人々を護るためのもんだ!その俺たちがここで何もしなかったら、騎士になんてなれるわけねぇ!ただの臆病もんだ!!お前の尊敬する先生は、こんなときに見て見ぬふりするような情けない先生か!?」

「っ!」


 オスカーの言葉は、さきほど殴られたとき以上に、僕の心を殴った。

 僕は騎士だ。騎士は国のために戦うものだと思っていた。

 でもオスカーは違った。

 人々のために戦う、それが騎士だと。

 僕の中の騎士は、アティリオ先生だ、泣きたくなるほどに厳しいけれど、尊敬できる先生だ。

 いつだって教えは正しくて僕にまっすぐに向き合ってくれた。

 だからあの人はきっと人が困っていたら、迷わず手を差し伸べるだろう。

 それが本物の騎士の姿。

 僕が思っていた騎士の姿とオスカーの騎士の姿は違う。でもオスカーの騎士像の方がかっこよくて、目指したいと思った。

 だからこそ、オスカーの言葉を信じたくなってしまった。

 本心では答えは出てる。

 世話になった中層の人たちを助けたい。宿屋のアメリアさんも鍛冶屋のバーリンさんもみんなよくしてくれた。彼らを見殺しになんてしたくなかったから。

 ただ一歩が出なかっただけなのだ。


「ウィリアム。来たくないならいい、俺だけでも行く。ソフィア、俺は手伝うぜ」

「……いや、僕も行くよ。オスカーだけじゃ人手も頭も足りないだろうし。なにより世話になった人たちを助けたいのは僕だって一緒だよ」

「……考えてばかりで動けないウィリアムよりはマシさ。でもいいのかよ、さっきあんなに反対してたじゃないかよ」

「オスカーが言ったじゃないか、後のことは後で考えりゃいいってさ。たまにはいいでしょ?」


 僕は臆病だ。2人がいないとやっていける自信がない。

 でも逆に言えば、2人がいれば何とかなる。たとえ今の地位を無くしても、2人がいればなんとかなる。

 覚悟を決める。僕は戦う。

 この国に逆らうことになるけど、この行動がこの国のため、人のためになると信じる。

何よりも僕は二人の役に立ちたい。記憶も何もない僕と一緒にいてくれる、助けてともに戦ってくれる彼らに恩返しがしたい。

 ずっと見守ってくれたソフィアが口を開く。その様子はとても申し訳なさそうだった。


「本当にいいの?ウィリアムが言うように何の算段も勝算もない、極刑が確実な上に危険なのよ?それでも本当に手伝ってくれるの?」

「当たり前だろ、人の命がかかってんだ。何もしないなんてできるわけないだろ」

「そうだよ、今までソフィアにはいろいろしてもらったんだ。今度は僕らがソフィアの役に立つ番だよ」


 そういうとソフィアは嬉しそうに笑い、そして静かに涙を流した。彼女も僕らを巻き込むことにひどく葛藤があったんだろう。それでも僕らを信じて、人を助けたいと思って明かしてくれた。

 なるほど、オスカーの言う通りこれに応えないのは男じゃないな。

 涙を流すソフィアをオスカーが抱きしめる。ソフィアもオスカーの体に手をまわし、静かに嗚咽を漏らす。僕はそれを静かに見守る。

 2人に今、声をかけるのは野暮ってものだろう。ひとまず落ち着くまで待つことにした。



 2人を見ていると僕もいい人が欲しいなぁと場違いに思う。

 2人がこうしているのを見たかったきもするけど、そばでずっと見てなきゃいけないのは少し苦痛だな……。







次回、「支えてくれるもの」

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