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夢見る未来に福音を  作者: 相馬
第一部 第一章《始まりの大地》
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第十話 成果と変化

 中層と下層が蜂起する疑惑を知ってから、休息日はほぼ必ず3人で中層と下層に赴き、調査をしている。鍛錬も引き続き厳しくなったままだったが、だんだんと慣れてきて、防御術の時間にぶたれることも最近はほとんどなくなった。身体づくりはまだまだきついがそれでも筋肉痛になることはなくなり、休日に動けなくなることはなくなった。


 それでもいまだにアティリオ先生から一本取ることはできていないから、本当に先生は凄い。

そうして初めて中層にいってから時がたち、すでに季節は冬になっていた。この国は大陸の南方に位置しているので冬でもそこまで寒くはならないが、上層は海に近いこともあって何枚か着ないと少し肌寒い。


 今日も今日とて鍛錬だ。準備をして訓練場に向かう。

 訓練場にはいつも通りアティリオ先生がいた。その隣には強秀英とその担当教官がいる。秀英とばかり合同訓練が多いのは教官同士仲がいいかららしい。もちろんそれだけでなく、僕と秀英が同じく槍をメインにしており、戦い方が正反対であることから訓練相手としては最適ということもあるだろう。


 まあ教官同士は仲良くても、その教えを受ける側は仲が良くないのだから少し困る。訓練相手として最適で刺激にはなるが、頭にも刺激が来て腹が立つことこのうえない。

 今日も今日とて準備運動をして体をほぐし、素振りで形を確認した後は模擬戦をする。模擬戦でお互いの課題を見つけてその日は一日その課題の解決に取り組むといった形だ。最近は秀英との合同の日が週に一度はある。

 頻度も上がっていて教官同士の話も聞こえないがかなり真剣な話をしているようだった。何かあるのだろうか。

 そうして模擬戦をする時間となった。

 2人が槍を持ち、構える。以前はお互い武器は槍だけだったが今は実践を想定して他にも武器を携帯している。秀英は小盾と短剣と投げナイフ、僕は盾と片手剣、短剣二本だ。僕のほうが多いがこれまでの鍛錬で問題なく動けるようになった。盾は今背中に背負っているので槍を振るのには問題ない。


「それでは、はじめ!」


 合図とともに互いに無言で一気に距離を詰める。これまでに何度も戦っているので相手の手の内は知れている。ある程度の予想はつくし、以前のように僕も、そして秀英も奇策に頼ったりはしない。ここは実力を鍛える場だから、純粋な力比べだ。奇策も実力だといえるがそれはまた別なのだ。


 秀英が槍をコンパクトな動きで勢いよく振り下ろす。それを低い姿勢でわずかに横に受け流すと相手の槍が地面に軽くめり込む。めり込んだ槍を引かれる前にすかさず踏みつけ、動かなくして相手の動きを封じる。そして相手の胸めがけて槍を横なぎにふるう。すると秀英が槍を手放し、攻撃をかがんで避けると短剣で間合いを詰めて切りかかってきた。

 素早く槍を引き戻し、槍の柄で防ぐ。弾こうとするが相手がうまく体重を乗せてくるのでお互い動けず至近距離でにらみ合う。


「腕を上げたようだな」

「お互いね」

「だがまだ甘いな」

「ほざけ」


 秀英が後ろに跳ぼうとしたので槍を突き出し、追撃するが短剣で逸らされ、返す刀でナイフを投げられる。それを防ぐ間に先ほど手放した槍を回収された。こちらも相手のナイフを手で掴み、投げ返す。槍で防がれるがその間にこちらから仕掛ける。


 何度も攻防を繰り返す。最近はだいぶ実力も近づいて長期戦になることも多い。なんどか勝ったことはあるがそれでもまだ負けることのほうが多く、勝ち越せていない。

勝敗のつき方はほぼ決まっていて、秀英が攻め切るか、僕が反撃を決めるかしかなかった。槍じゃない場合も同様だった。


 ただ傾向としては槍を使わない場合は僕のほうが勝率が高い。ただあまりその状況に持っていけないために勝率は低いままだ。


 結局この対決も惜しくも防ぎきれずに負けてしまった。悔しいがもう少しだ。

 模擬戦が終わると昼になり、休憩をはさんでその後に各自の鍛錬に入る。

教官たちがその旨を伝え、訓練場から去っていくと僕も道具を外して訓練場の隅にある置き場において出ていこうとした。しかし出口の手前で秀英が立ってこっちを見ている。僕を待っていたのだろうか。間違っても一緒にご飯を食べようなんて誘いではないだろう。今まで何度も食堂であったことはあるが一度も一緒に食べたことはない。

 だがほかに何か話すことがあるかというと心当たりもない。


「なんだそんなところで突っ立って。ごはん食べに行かないのか?」

「行くに決まっている。ただその前に話がある」


 話?彼が僕に何か話なんてあるのか?いつも話すことはあってもたいがい嫌味ぐらいなものだ。

 怪訝に思っていると聞き捨てならないことを言った。


「こそこそ動いているようだな?」

「……なに?」

「休息日、3人で何をしている?どこに行っているんだ?」

「なんでそんなこと言わなくちゃならない」

「馬鹿め、気づいていないのか。最近城の雰囲気が変わってきている。それにお前がかかわっているとなれば事だ。教官たちもお前のことを気にしている。おかしなことはしないことだ」

「雰囲気がおかしい?どういうことだ?」


 城の雰囲気がおかしいことには正直気づかなかった。日ごろは鍛錬かもしくは中層以下のことで忙しく、気が回らなかったということもある。あとは単純に交友関係が狭いからだ。


「詳しくはわからん。だが軍部が動いているのは確かだ。怪しい真似はやめておくんだな」


 そう言って彼は訓練場を出ていく。彼の言っていることが事実かはわからないが嘘をつくとも思えない。嫌味な奴だが、卑怯ではない。

 中層と下層に注目していたがそろそろ上層のほうも調べたほうがいいのかもしれない。ただ先ほどの話が本当ならすでに目をつけられてる可能性がある。うかつには動けない。

 とにかく二人に相談しよう。そう思ってひとまず食堂に向かう。


 ふと、視線を感じた気がした。気になって訓練場を見回しても誰もいない。気のせいだったのか、先ほどの話が思ったよりも気になっているのかもしれない。こんな繊細だったかな?



 食堂で昼食をとる。ソフィアとオスカーがいたが先ほどの話はまだしない。ここでは人が多いので、聞かれたらまずいからだ。後ろめたいことをしているから最近は気を張ることが多い。

 正しいと思うことをしているからやめることはないが、それでも決まりを破っているのだから仕方ない。あまり悪いことはできない性分かもしれない。


 雑談をして後で部屋に行くという意味で、机を中指で二回たたく合図をする。これはあらかじめ決めていたものだ。ほかにもいくつか決めているものもある。

 その後はいつも通り、鍛錬を終えて準備をしてから待ち合わせの部屋に向かう。


 部屋に入るとオスカーがすでにいたので、2人で雑談をしながらここの会話が聞かれてないか調べる。調べ方は周辺を軽く叩いて反響を調べたり、盗聴できそうな機材がないか調べたりだ。最初はオスカーと悪いことしてるからと悪乗りでやっていたが、今は恒例となっている。

 2人で確認をしているとソフィアがやってきたので、今日あったことを伝える。


「城の雰囲気が変わってきているのは最近感じているな。ただ変わらない連中もいるから、部分的か、もしくは動き出したばかりなのか」

「最近は不穏ね。結局一番知りたいことはわからないままだし」

「そうだね、ひとまず中断して周りに変更しましょう。いつも通りにね」


 今後の方針はひとまず中層以下の調査一度中断して、城の動きを調べる。ただ問題なのは城は人の目が多い。普段とは違う動きをしていると目を付けられる可能性がある。大っぴらには動けないので、気長にやる必要がある。ただそれで間に合うかどうかはわからない。いっそ先生に聞いてみるか。いや、怪しいと思われて監視されるわけにもいかない。ん?待てよ?


「ねえ、いっそ直接先生に聞いてみるってのは?」

「何言ってんだ、怪しまれておしまいだろう。素直に答えてくれると思うか?」

「もし、城の騒ぎが僕たちに関係ないなら多少の話はしてくれるかもしれないよ?返答によっては何が起きているか知る手掛かりになるかもしれないし」

「ウィリアム、あなたはすでにマークされてるのかもしれないのよ?私たちだってそうかもしれない。そんなあからさまなことをしたら私たちも怪しまれて行動を制限されるかも」

「ならなおさらやるべきだ。やるのは僕一人だ」


 2人が何言ってるのかという顔をする。確かに今言おうとしていることは分の悪い賭けかもしれないが、一考ぐらいはしてもいいはずだ。


「僕だけが先生たちに直接聞いてみる。2人はいつも通りでいて、もし僕が何か言われたり、制限したりすれば距離をとれば、怪しいことをしているのは僕一人だ。注意は僕に向いて二人は自由に動けるようになるかもしれない」

「話にならないわ。それこそ3人とも怪しまれて終わりじゃない?ウィリアム一人が危険なのもそう」

「でもこのままじゃ、ほぼ手詰まりだよ。中層と下層がどうやってやり取りしているのかいまだにわからない以上、クーデターをとめる術はないし。もし上層がクーデターに気づいて何かしようとしているのなら僕らに隠す理由はないと思うし」


 2人が考え込む。そう、今は手詰まりなのだ。城勤めとはいえ、僕らにできることは多くない。コネがあるわけではない。そもそも僕らの交友関係は狭い。精々食堂の料理人や使用人くらいだ。まだ僕らは軍人見習のようなもので本職には戦闘以外では及ばない。正規配属になってから現場を学び、つながりを作るのだそう。

 長年いるソフィアでも、引きこもっていることが多いので人脈は多くない。

 オスカーは鍛錬馬鹿だ。

 だから情報を集めるにもその情報を知ってそうな人に心当たりはない。だからと言って知らない人に声をかけても怪しまれる。

 クーデターまでどれくらい猶予があるかわからない以上、ゆっくりもできない。


「わかったわ。でもまだ駄目。まずはこちらで調べるわ。それでだめならウィリアムの案で行きましょう」

「ああ」

「わかった」


 方針はきまった。まずは怪しまれない程度に城内を調べよう。




次回、「動乱の兆し」

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