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お茶会でお茶しましょ!  作者: 田上総介
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第七話「謎のアルバイト候補 みるく」

北条(ほうじょう)(むぎ)…本作の主人公。昔飲んだ喫茶店『ニシキノ』の珈琲の味が忘れられず、アルバイトとして働く。

二色乃(にしきの)モモ…高校二年生でありながら、喫茶ニシキノの店長。

宇治寺(うじでら)(みどり)…喫茶ニシキノで働くアルバイト。高校三年生。

宇治寺(うじでら)穂乃香ほのか)…喫茶ニシキノのお手伝い。緑の姉妹。

朱暁(しゅづき)紅花こうか)…喫茶ニシキノのアルバイト。桜櫻おうお学園の高校一年生。

萌木(もえぎ)檸檬(れもん)…麦と同じ高校に通う高校一年生で同じクラス。


香坂(こうさか)日向(ひなた)…喫茶ニシキノのアルバイト志願者。

花深(かふか)チノ…現役アイドル「Latte(ラテ)」のメンバー。喫茶ニシキノのアルバイト志願者。

「私の名前は…白牛しらうしみるくです」

少女はみるくと名乗った。可愛らしい名前とは裏腹に雪を想像させるような白い肌に銀色の綺麗な髪が降ろしている。また、胸の膨らみは少々薄めだが、全ての視線を吸い取ってしまうような空色の瞳が驚きを隠せない喫茶店メンバーを見つめていた。


「白牛みるく…花深かふかチノは…!?」


当たり前の台詞を口にしたのは同じくアルバイト面接に来ていた香坂こうさか日向ひなただ。

驚きの色を瞳いっぱいに染めたまま、みるくを視界に収める。


「花深チノは私が変装してと頼んだ人物です。もちろん許可は得ていません。選んだ動悸どうきもスケジュールがたまたま手に入った有名人というだけ。私は全く関係ない人物の白牛みるくです。第三東西高校所属一年生です。」


抑揚のない声で堂々と無許可であることを告げたみるくはド肝を抜かれ、硬直したモモや緑•紅花達を不思議そうに眺める。


「ど、どうして変装なんかしたんだよぉ!」

「芸能人なら起用されやすいでしょ?私が花深チノに化けても良かったんですが、内部に協力者が必要と感じ、麦さんにお願いしました」


また、息継ぎを挟み、

「勿論、今日以降は私は花深チノに変装する予定です。こうでもしないと店長モモさんは採用してくれないと思いまして…」

と、当たり前のように言葉を並べるのだった。


「…」

黙り込む店長モモ。


彼女の瞳に映っている緑は小声しては大きな声で耳打ちした。

「モモちゃんこの子の事知ってるの?」

「え、えぇ」といつもより冷静な口調で頷く。

込み上げてくる不安を抑え込えたいのか、右手を胸に添えている。


「この子…何度もニシキノの面接に来ている子なの…!?」

震える声で明かされたが、態々超有名人に変装してまで面接に受かろとするみるくの執着心に紅花は「ひぇっ」と煽るような声を漏らした。

「喫茶ニシキノに変装してまで面接に来るかね普通。全く麦といい、檸檬といい、ここの喫茶店にそこまで執着する理由が分からないんだけど」


喫茶店の設立者である人物の孫を目の前にして、失礼すぎる発言だが、モモは怒らずこう尋ねた。

「まぁ、理由はどうだっていいのよ。それよりも私はあなたを採用する気は無いから…何度も言ったよね」


みるくの前々から面識があるようなので、彼女がニシキノに拘る理由も知っているのだろうか。

冷たい態度をとる表情には怒りや焦りの色が確かに混じっていた。


「そういえば、二人はどこで出会ったの?」

今まで存在感を全く表さなかった穂乃香がふとポツリと言葉を紡ぐ。

少々微妙な沈黙が流れていたので、それを壊すかのような話題のふりに麦は安堵に胸を撫で下ろしながら、言葉を発した。


「実は私たちこの前店長から買い出しを頼まれた時に出会ったんです」


二人の出会いは最悪。買い出しに出かけた麦はスーパーで檸檬と出会った。

彼女に財布を盗まれ追いかけていた矢先、体勢を崩した二人。麦はそこで檸檬のブロンドヘアのかつらがズレた少女…みるくと出会う。


「私に変装したのっ!?」

悲鳴に近い声で変装された被害者の一人である檸檬は追い詰めるようにみるくを睨んだ。


「私も初めはびっくりしたよ。変装だなんて現実世界で有り得るんだなって思った…

「そ、そんな能天気な場合ぃ!?どうして財布盗んだ奴と協力するのよ!」

怒りの赤に紅潮させた頬の檸檬。今度は麦に問い詰める。


「だって喫茶店がすごい好きだって言ったから…」

お前は小学生か!?好きな子に告白する子供のような口調で理由を述べた。

馬鹿らしい理由だか、麦らしいとは言える。


「て、店長…お願い!みるくちゃんはいい子なの!…だから、アルバイトさせてあげてください!」

「絶対にダメ!」


否定形を語尾に力強く放たれた言葉に「そんな…」と俯きがちにぷぅと頬を膨らませたみるく。初めて人間らしい表情を浮かべるも、モモの回答は変わることはない。


「モモちゃん…もう、いいんじゃないの?香坂こうさかさんには悪いけど、採用してあげたら?」

同じくアルバイト志望の日向に申し訳なさそうな色を含めたアイコンタクトを取りながら、緑は言葉を紡ぐ。しかし、

「ぜ~~たいにダメ!です!」


「どうして…そんなに…」

次に言葉を紡いだのは緑…ではなく似た顔を持つ穂乃香だ。彼女だけではなく、ここにいる大半がみるくの採用を応援している。

不利な状況になっても採用を認めない理由はもちろんちゃんとあった。

しかし、それを最初に口にしたのはみるくの方だ。


「…私がここのアルバイトを辞めたこと…まだ、怒っているんですか?」

「…」


沈黙するモモ。それと対称的に喫茶店のアルバイトメンバーは口々に思いを述べていた。

「アルバイトを辞めたぁ?…僕達より先にアルバイトしてた奴なんかいんのか?」

「私と穂乃香は二年前からいるけど、白宇治しろうじさんは初めてお会いするわ」


宇治寺うじでら緑さん…私の名前は白牛しらうしです!」

名前を間違えられたみるくは淡々とした声で訂正する。


「あっ!ごめんなさい…って、ど、どうして私の名前を!?」


「皆さんの名前は全部把握しています。北条ほうじょう麦・宇治寺うじでら穂乃香ほのか朱暁しゅづき紅花こうか萌木もえぎ檸檬れもん…追加して住所・所属高校・所属部活動・趣味・特技なども把握しておりますが、披露しましょうか?」


「…」「…」「…」「…」「…」「…」「はぁ…」

恐らく早く帰りたがってるだろう香坂こうさか日向ひなたを含む六人が沈黙に包まれる。


瞬き一つすらせずに機械のように口起こして姿をまじまじと見つめていた。モモの場合、知っていたようで軽いため息を喫茶店空に浮かべる。


「店長さん…私たちの前にこの方が働いてらっしゃったのですか?」

氷のように張り巡らされた沈黙を破ったのは意外にも無口な筈の穂乃香だった。


今から少なくとも二年前…現在高校一年生であるみるくは中学二年生の時からアルバイトを始めていたこととなる。中学生が喫茶店でアルバイト…あくまでお手伝いと言う形で無賃金労働している穂乃香だからこそ気になった質問であろう。


「…え、えぇ、彼女はここで三年前から働いていたわ。ちゃんと時給の千百円も払っていたわ」


私が犯人ですとでも言うように偽りなく話していく店長。


「でも、半年足らずで彼女をクビにした…理由は聞かないで」

「…私は追い出されたのです」


回りくどく言うことなく結論を口にしたみるくは周囲からの注目を一気に集める。

しかし注目されても一切緊張することなく相変わらずの無機質な声色で言葉を伝え始めた。


「三年前私が喫茶店ここで働き始めた時、アルバイトはまだ私と店長だけでした。大人数の大人たちに囲まれながら、中学生なりに頑張っていました」

「ちょっ待って!何で中学生がお給料貰って働いてんの?…あんた家でも複雑なの!?」


気遣いという言葉は彼女こうかの辞書にはないらしい。

一瞬、場に電撃の如し気まづい沈黙が走ったが、みるくは無感情な声で言葉を紡いでいった。

「いえ、私の家は貧しくありません…どちらかと言うと裕福な方です。昔からモモさんのお祖母様に気に入られており、許可してくださったのです」


「あぁ…そう」

淡々と返答されつまらなさを感じたのか、指先で色の毛先を退屈そうにいじっている紅花。


「で、追い出された理由は何なの?」

次に口を開いたのは穂乃香だ。小さな声が顧客のいない喫茶店に広がる。


「はい……当時の私は所謂いわゆる思春期で親からの圧力・人間関係に悩んでました。ある日、アルバイトでのほんの些細ささいな失敗でモモさんのお祖母様(前店長)の逆鱗げきりんに触れてしまい…


「喧嘩別れしたわけね…」

オチを予想した檸檬は代わりに言葉を紡いだが、すぐに「違います」と否定されてしまう。


「違います…本当は」


「本当は私が喫茶ニシキノの食べログを0点にしたことが原因です」


「…」

「…」

「…」

「は、はぁ?」


喫茶店に大量のハテナマークが浮かんだ。

シャボン玉のように…しかし、割れることなく溜まっていく?(ハテナ)を消化したいと、皆の視線がみるくに集まる。


「先程、言った通り私の実家は裕福です。お手伝いさん総動員で簡単に食べログを操作できます」


成程なるほど、檸檬のように執事やお手伝いが存在するのか。

メイド・ひげたくえた老人男・サングラスにスーツとハ〇ターのような男…皆は思い思いのお手伝いを脳裏に描く。そして、その想像を終わらすかのようにモモが話題の句読点を打った。


「で、みるく(この子)は出禁になったわけ」

「です」


告げられた結末に何の恥を感じることなくコクリと頷くみるく。

ことの全てを告げられた喫茶店アルバイトメンバーと完全に忘れられていた香坂日向はお互い視線を交差させ、無理やり納得させるように「なるほど」と口々に発した。


「なぁ〜んだ。そんなしょーもない理由かー」

「もっと壮大なことを想像しちゃったね…」

期待外れだと話す紅花と檸檬を横目にここでモモはとあることを口にする。

「みるく…


と、自分より一回り小さい女子高生の名を呼ぶと、向かい合い、こう言葉を並べた。


「分かった…アルバイト採用をする」


「本当ですか!…わーい!」

ガッツポーズをとり、喜びを見せつけるように表現する。


チノに化けていた時から気に食わなかったのか紅花は「フンッ!」と鼻を鳴らした。


香坂こうさかさん…ごめんなさいね。色々置いてけぼりにしてしまって」

「い、いえ、私も…ま、まぁ、楽しませてもらった?…ので」


気を使った緑が置いてけぼりにされていた日向に話しかける。

疲労が化粧に隠しきれておらず、素早く手荷物をまとめ、逃げるように喫茶店から飛び出して行った。

「何か悪いことをしてしまったわね。長時間関係ない話を聞かされた挙句、面接落としてしまって申し訳ないわ」

「まぁーいーいんじゃなぁい~喫茶ニシキノ(ここ)には彼女みたいな真面目君より、変装してくる変人の方がお似合いだよ」

「うーん…そうかもしれないけど」


この時、二人は知る由もなかった。

今後、香坂こうさか日向が喫茶ニシキノの存命を揺るがす存在と化すとは…



「はぁー…今日は大変な一日でしたねー」

時刻はすでに午後九時。喫茶店から自宅への移動時間・入浴時間・食事時間などを合わせると麦の就寝時間は一時をとうに超えるだろう。


「まぁ、いいじゃない。明日から停学処分が明けるんでしょ?久しぶりに学校行ってみたら?」

「そ、そうだった…!?」

あっ!と声をあげ、驚愕きょうがくを表現する。


「忘れてたの?」

「だって、バイト楽しかったから…」

「可愛い」

「?」


「い、いや…な、何でもないわ。」

即座にすました顔で、漏れでそうになった本性を隠すモモ。歯切れの悪い言葉で元の話題に戻した。


「…やっぱり行くのが怖いの…よね?」

少々遠慮がちに繋がれる言葉。理由は知らないが停学処分が明けた次の登校がどれだけ行きづらいものかは分かっていた。


「はい。正直前より居ずらい教室になっているのは間違いないでしょうし、二週間行ってない分、勉強もついていけてないですからね」

モモは瞳を不安色におそわせながら紡ぐ麦の横顔をまじまじと見つめる。

「前より」という単語に違和感を感じたが、触れないでおいた。



場面は代わり△△通り。店長モモは△△町二丁目にある自宅を目指すべく、薄暗い通りを辿っている。

「…」

「…!」

刹那せつな、何者かに肩を叩かれてしまい、ぎょっと驚きの瞳を見せた。自分を呼ぶ誰かを確認する為、勢いよく背後を振り返る。


「モモさん!」


「みるく…」

銀色の髪が風にそよがせながら新人アルバイトが背後から顔を出す。街灯がいとうの光に照らされた美しい顔立ちが女のモモの心を掴もうとするが、今の彼女モモにそのような余裕はなかった。


「安心しました。店長が私をアルバイトに入れてくださって…」

「分かってるわよ。〝上手く誤魔化してくれた〟んだから、採用ぐらいしてあげるわよ」


街灯が点滅する音

オバサンが乗りこなす自転車の音

信号機が告げる赤信号とまれの音

部活動帰りの女子中学生が談笑だんしょうする音


全ての雑音は二人の間に流れておらず、少年漫画のの最終決戦のような緊張感が流れている。

「…」

「…」

流れた沈黙を打ち消したのはモモだった。


「でも、


「でも、本当のことを言うと承知しないからね」


脅迫状きょうはくじょうのような言葉にみるくは一切慄おののく素振りを見せることなく口角を上昇させるのだった。


翌日


「大丈夫!?北条ほうじょうさんっ!?停学処分食ったんだってね!?」

「本当は何もしてないのに停学なんてひどいよ!」

「最悪だよね理事長は…それに萌木もえぎさんも自意識高すぎない!?」


突如、教室の入口から感じたのは冷たい視線…ではなく暖かな心配する声。

短過ぎるスカートを揺らしながら、三人組の女子高生がこちらに近づいてきた。

高校生活…いや中学時代でもここまで多くのクラスメイトに話しかけられたことはないだろう。


「えっ…ど、どういうこと!?」


当たり前のように口にされる停学処分と言う四文字熟語に動揺を隠しきれない。

それだけではない。もう一つ気になるワードがあった。


「聞いたよ!萌木さんのせいで停学処分下されてたんだって?やばくない?麦ちゃんはこんなに良い子なのにー」


と、言い切ると名前も知らない生徒が突然抱きついてきた。

「わっ!ちょっ!」

「怖かったでしょー…もう大丈夫だから、安心してっ!」

最近の女子高生は挨拶代わりにハグが主流なのか?

二言目の次に繰り出されたハグに一瞬にして頭が真っ白になる。


彼女達の心配≪愚痴は止まらない。

「家がたまたま近所で帰り道がたまたま似てた溶けてストーカー呼ばわりは酷過ぎじゃね?」

「ねぇーストーカーなんてするわけないじゃんねー」

「ねー」

いかにも女子高生らしい会話を重ねると、彼女達は

「まぁ、北条さんは安心して学生生活を送ってよ。温度は私たちが守ってあげるからさ」

と、主人公の言葉を言い残し自分たちの席に帰って行った。


「…」

突然の展開に身動きが取れなくなったが、嫌な予感に導かれるまま麦は檸檬の机に向かう。


停学処分される前は顔もうる覚えだった為、どこの席なのか把握できていなかったが、簡単に分かってしまった。


「…こ、これは」

遠くからでも分かる

荒らされた机の中の教科書

異様な匂いを放つ雑巾

ひっくり返された椅子


…檸檬はいじめられていた。


机上には「七光り」「裏口入学のゴミクズ」「クソ被害者女」などなど思いつく限りの罵詈雑言が油性マーカで書かれている。

真っ赤な血を連想させる油性の色が目に焼き付き、麦は言葉を失った。


「…」

「…」

「…ぅ…そ」

読んでくれてありがとうございます。

ブクマよろしくお願いします。

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