第23話 侵入者
兵士達を尾けて行くと、高い塀で囲われた敷地の中に消
入っていった
門には【王国軍ラクリマ駐屯地】と書かれていた
ラクリマはこの町の名前だ
『透明化の指輪』を見ると魔石の光は半分になっている
(後30分弱)
そのまま中に入る事にした。
敷地内では兵士達が訓練に精を出している
敷地内にある建物は2棟
一つは4階建てで頑丈そうな作りだ。
もう一つは敷地の端に小さな煉瓦造りの小屋が一つあった。
どちらにも兵士が立番しており透明化して無ければ入ることすら出来なかっただろう
とりあえず大きな建物に入る
他の兵士が入り口を運良く開けてくれた
その隙を狙い侵入した
中に入ると正面に幅の広い階段があり、左右には食堂らしきスペースがあった。
そのまま階段を登る
2階、3階はどうやら兵士たちの自室となっているようだ
(時間も少ない)
僕は細かい探索は諦め4階に登る
4階には部屋が二つあったのでそれぞれを覗く
音が鳴らないようにゆっくり扉を開ける
大きなテーブルに無数の椅子
どうやら会議スペースのようだ
そっと扉を閉めてもう一つの部屋を静かに開ける
わずかに出来た隙間から中の様子を伺う
(誰かいるな)
他の兵士とは明らかに風格も装備品も違う
(あれは、聖騎士か?)
王国に召喚された際、王の間にいた騎士が同じ鎧をつけていた
王直属の腕利き。
それが聖騎士団だ
すると中にいた騎士はこちらを見ると声を上げた
「誰だ!そこにいるのは」
姿は見えていないはず。急いで『透明化の指輪』を確認したがまだ光を放っている
(まさか気配だけで…)
次の瞬間、騎士が持っていた羽根ペンがこちらに飛んでくる
一瞬のことで動けなかった流の横に突き刺さる
思わず声が出そうになったのを必死に手で押さえた
騎士は立ち上がると剣を抜きこちらに歩いてくる
(まずい。逃げなきゃ)
ゆっくり扉を閉めると一目散に階段を降りた
(今日はダメだ。明日、指輪が復活したらまた来よう)
先程の騎士は追いかけてくる気配は無い
そのまま建物から飛び出して敷地を後にした
ーー騎士は書面にサインをしている
先日、魔族の村を襲い連れ帰った捕虜を王国に連行するための書類だ
この書類には始末書の意味も込められている
魔族達の抵抗は激しく、先に戻った捕虜捕獲部隊が応援を要請したので即座に部隊を派遣したが、魔族の村が保有していたであろう魔法アイテムのせいか、援軍が村に入ることが出来なかった
その後、村の掃討に残った先発隊からの連絡もない
24名の兵士を失ってしまった
「魔族め。忌々しい。必ず我ら聖騎士の手で根絶やしにしてくれる」
騎士は怒りを露わにする
「捕まえた捕虜の数は12体。1体は王国に明日輸送する。後の11体は4日後には送る手筈が整う。24名の命で12体の魔族とは釣り合いが取れん」
騎士は怒りを口に出しながら書類を書き殴る
ふと扉の方に気配を感じた
「誰だ!そこにいるのは」
しかし返事はない。兵士では無いとわかった
(侵入者か?)
咄嗟に持っていた羽根ペンを投げる
勢い良く投げ出された羽根ペンは扉に突き刺さる
しかし反応がない
(訓練された暗殺者か?)
そっと立ち上がり剣を腰から抜き取る
警戒しながら扉に近づき、扉を確認すると閉まっている
(おかしい。確かに誰かの気配がしたが...)
剣を握りしめ、奇襲に備える
勢い良く扉を開けるが姿はない
「おかしい。気のせいだったか? ふんっ魔族の亡霊でも来たか」
扉を閉めて羽根ペンを抜き取る。
「最近、忙しくて疲れたのかもな。今日は少し休むか」
騎士はペンを机に戻すと、気分転換に町の見回りに出かけた。
駐屯地から逃げ帰った流は息を整える為深呼吸した
丁度透明化から1時間が経過し、姿が戻る
「なんだよ。透明化してても気配で分かるとか、チートかよ…これから気をつけよう。姿が見えなくても気配や音で察知する手練れがいる事分かっただけでもとりあえず良しとしよう」
とりあえず日が暮れる前に宿を探そうと思い町を歩く
「そういえばこの町に来てすぐドタバタしたからどんな町なのかまだ見てないや」
宿を探すついでに散策する事にした
洋装や花々、趣向品なども販売している
「エンロールの町よりも、なんかこう華やかな感じがする」
ラクリマはエンロールの町よりも王都に近い分裕福度が高いのかもしれないと考えた
最初に魔王討伐で歩いた領地は隣の領地だ
「領地によっても特色は違うのかもしれないなぁ。寄った町や村は、どちらかといえば農業に特化してたように感じたし」
ホーラトゥイオ王国の仕組みが少し理解できてきた
「シャルルもドラザック領にはカジノもあるって言ってたし、多分領地ごとに特色が違うんだろうな。元いた世界では競争主義で、例えばコンビニなんかも乱立していたけど、この国はそういう競争はさせないようにしている。豊かに見えて比較的、共産主義の国なのかもしれないなぁ」
そんな事をブツブツ呟きながら考察していると、宿屋の看板が目に入る
「よし、早速あそこに泊まろう」
宿屋に入ると気前の良さそうな中年女性が受付にいた
「あら、いらっしゃいお客さん!」
「すまないが部屋を数日借りたい」
「もちろんよ。お客さんは冒険者かい?」
「あぁそうだ」
「しっかり休んで気合い入れなきゃね!うちは一泊1500ホーラよ」
「わかった。ではとりあえず3日分を先払いしておく」」
4500ホーラを女将さんに渡して部屋の鍵をもらった
「あと、何か食べるものは用意できるか?」
「あぁ簡単な物で良ければ用意できるよ」
「では用意でき次第部屋に運んでくれるとありがたい」
「はいよ! すぐ用意して運ばせるから待ってておくれ」
女将さんに軽くお辞儀をして部屋に向かった
「なかなか綺麗な部屋だなぁ」
やはり王都に近づく程に文化レベルが上がるようだ
それに合わせて物価も上がる
王都に長期間滞在する時は気をつけようと思った
ベッドに腰を下ろし、明日の計画を練る
「このまま、夕食を済ました後、一度寝よう。そして日付が変わった頃に起きれば、指輪の魔力も戻り透明化を使える。夜の方が間違いなく潜入しやすいだろうし」
一通りの流れをシュミレーションしていると、部屋の扉をコンコンとノックする音が聞こえる
「はい」
「あの〜夕食をお持ちしました」
扉を開けると、食事を持った女性が立っていた
「失礼します」
20代前半位の若い女性だ。
少し膨よかな姿は女将さんの面影がある
親子で切り盛りしているようだ
「ここに置いておきますね」
「あっ、あの、ちょっと、聞きたい事が」
未だに人間の若い女性を目の前にするとしどろもどろになる。
「? はいなんでしょう」
「あの、王国軍の駐屯地にあの、あれあの、ほらいる騎士って」
「あーはいはい!クラウド様ですね」
「あーそうそう、そのクラウドって有名なの?」
「はい、そりゃもう。なんでも魔族を1人で100体以上倒したとかで、とても偉いかたですよ」
「100体も? それは凄いね」
「詳しくはわかりませんが、剣鬼とも言われていますし」
それくらい凄い奴なら気配で察知するのも頷けた
「色々ありがとう、大体聞きたい事は聞けたよ」
若女将は笑顔で一礼すると部屋を出ていった。
「剣鬼 クラウドか。また鉢合わせるのは困るな。慎重に動こう」
持ってきてくれた食事を早々に平らげ就寝した
そして日付が変わり目を覚ます
「よし。行くか」
流は準備を整えると窓から部屋を抜け出した。
『漆黒の翼』で飛び上がり、上空から駐屯地の敷地内を偵察した
「やっぱり昼より人が少ない」
『透明化の指輪』を発動させると、そのまま上空から小さい小屋の前に降り立った




