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第10話 迫りくる”死”

階段を降りると、蛇の居た階層より少し狭い空間に出た


魔物も見当たらないし階段も見当たらない


「もしかして、この階層は何もないのか? この階が最下層なのかな?」


目的のアイテムもここまで見つかっていない。


何もない空間に落胆を隠せずにいた。


一応、念の為に歩いて探索してみる


「ダメだ……何もない」


もしかして、此処のダンジョンは誰かに攻略されてしまったのか?と考えた


「そういえばこのダンジョンで『呪われた隷属の首輪』は手に入るって魔王は言ってたけどどうやって手に入れるんだ?」


ここに来て(りゅう)はアイテム入手方法を聞き忘れた事を思い出した


「まさか、こんなに苦労して収穫なしって……」


グルっと一周探索を終え、何もない事を確認し、最後に部屋の中央部に向かった


中央まで来ると地面に何か書かれているのを発見した


――― 道を求めし者 試練を乗り越えよ ”自らの血を捧げよ” ―――


文字の下に六芒星の絵柄が書いてある


ここに血を垂らせって事かな?


手袋を外し剣に指を当てる


「コレ自分で切って血を出すんだよね。……嫌だぁぁぁ。絶対痛いもんなぁ」


流は(りゅう)は覚悟を決めて剣に指を押し当てる。


そこから数ミリでも指をスライドさせれば血は出せる。


だが体が動かない。


「どうしよう。無理だ。自分で切るなんて無理だよ」


覚悟が決まらないまま、時間だけが過ぎていく


――― 1時間経過 ―――


いまだに切る事が出来ない。立っているのも疲れたので腰を下ろすことにした


――― 3時間経過 ―――


切らなきゃと頭の中で何度も唱える。爪を噛みながらブツブツと何かを言っている


――― 5時間経過 ―――


ふと指の先を見ると大きなささくれが有ることに気づく。一度気づくと気になって仕方ない。

そーっとささくれを剝きとる


「いてっ」


ささくれを剝がしている時、強く引きすぎて血が出た


「なんだよ。もう。ついてないな」


血が出た指を口に入れて舐めとる


「どうしよう。全然ダメだ。自分で切るなんて…」


出血した指を舐めながら、流は(りゅう)はあることに気が付いた


「血!!!」


指から出た血は止まっていた


「くそぉぉぉぉ。僕の馬鹿野郎!!」


もしかしたら口の中に血が残ってるかもしれないと思い、ダメもとで(りゅう)は唾液を六芒星に向かって垂らしてみた


たらぁーっとゆっくり糸を伸ばして降りる蜘蛛のように地面へ落ちていく


唾液が六芒星に触れた次の週間、文字が白く光を放つ。


あまりの眩しさに目を閉じた


光が収まりゆっくり目を開けると六芒星も文字も消えていた


辺りを見渡すと、前方の壁が大きな音を立てて崩れた


「おぉ!あれが次の階段の隠し部屋か!」


しかし、そんなに現実は甘くは無かった。


崩れた瓦礫が宙へ浮き上がり一か所に集まり、何かを形成し始める


そしてゴーレムが現れた


「まさか!ゴーレムを倒すのが試練か」


ゴーレムの目が赤く光ったかと思うとゆっくりと動き始め、僕の方へ向かってきた


僕もすぐさま剣を構え、先手必勝とゴーレムに向かって走りだした


「うぉぉぉぉ」


僕は飛び上がり、四メートル近いゴーレムの頭にめがけて剣を振り下ろした


ここに来るまで数々の魔物を容易く屠ってきた(りゅう)に迷いは無い


剣が当たるとゴーレムの頭部は激しく砕け散った


「いよっしゃー!!楽勝!!」


頭部を失ったゴーレムは動きを止めた


(りゅう)はゴーレムの後ろにある崩れた壁の先にある道に向かって歩き出した


「いやぁ。僕この世界では相当強くない!? もしかしてと思っていたけど僕、最強なんじゃない!?」


天狗になりながら倒したゴーレムを通り過ぎようとした瞬間、僕はゴーレムの手の平で握られた


「ぐぇぇぇ、やっやばい。つぶ・・れる・・・」


(りゅう)を握ったままゴーレムは大きく腕を振りかぶった


このままでは叩きつけられると思い、体中の筋肉を総動員してゴーレムの指をこじ開けた


間一発のところで隙間を作る事ができ、ゴーレムが腕を振り抜く寸前に手の中から脱出できた


「はぁはぁ。やばかった…死ぬとこだった…」


冷静になった(りゅう)はゴーレムをよく観察した


するとどういう事だろうか、破壊したであろう頭部が復活していた


「なんで元に戻ってるんだよ!!」


理不尽な光景に叫んだ


叫び声に反応するようにゴーレムは拳を振りかざした


(りゅう)はゴーレムの攻撃を飛び上がり交わすと、腕を足場にしてまた、頭部まで駆け上がる


今度は先程の一撃よりも力を込めて剣を振った


同じように頭部は砕け、さらには胴体の半分近くまでを消し飛ばした


しかし砕けた破片は元の位置へと集まりだし、ゴーレムの破損個所をを修復した


「まさか、物理攻撃効かないのか!?」


僕はゴーレムから距離を取り今度は魔法攻撃に切り替えた


【ニードルランス】


地面から無数の棘がゴーレムを貫く


しかし何事もなかったかのように、ゴーレムはこちらに向かってくる


魔法で空いた穴もみるみる修復されていく


(りゅう)は続けて【アースブレイド】を放った


巨大な一本の刃が地中から現れ、ゴーレムを真っ二つに引き裂いた


「これならさすがに……」


だが何事も無かったかのように修復されていく


「ふざけんな! どう倒せばいいんだよ!」


僕は最後の希望を託し願いを込めて【アースコクーン】を放った


ゴーレム周辺の土がまるで高波のように覆いかぶさり内側へ閉じ込める


土の繭が出来上がり、すぐさま魔法を上書きする


【アースインプロージョン】


かざした手を握り込むと、ゴーレムを包み込んだ土の繭は、中央へと圧縮され、ゴーレムを押し潰した。


そのまま地中へと消えていった


「はぁはぁはぁ、魔力も限界に近い。これでダメならやばいぞ……」


暫く様子を見る


「さすがに…やったか!?」


しかし願い届かず、ゴーレムがいた場所から砂塵が立ち上り渦を巻く。


砂塵が消えると、そこにゴーレムが姿を現した


「だ…だめだ。もう倒し方が分からない」


(りゅう)は一旦魔王城に戻り対策を練って出直すべく、戦略的撤退を試みた


「はぁはぁ、大丈夫。ゴーレムは遅い。逃げ切れる」


先程降りてきた階段まで戻る


急いで階段を駆け上がると無かったはずの壁がそこにはあった


「なっ、なんで!? で、、、出口が無い」


蛇の居た階層とゴーレムの階層を繋ぐ唯一の通路が塞がれた今、退路は断たれた


渾身の力を込めて壁を殴る


しかしゴーレムのように破壊箇所が瞬時に修復される。


それにかなりの厚さがある様だ


魔力を込めて壁を操作しようとするも全く効果が無い


「まさか、ゴーレムを倒すか死ぬかの二択なのか…これが試練…」


もたもたしていられない。急いで階段を下る


もしゴーレムが階段の入り口までたどり着けば上り始めれば絶望的な状況になってしまう。


「クソっ。クソクソクソクソクソぉぉぉぉぉ」


攻撃しても即座に修復され魔法も効かないゴーレムの存在


最悪な状況に”死”が脳裏をよぎる


「ふっ、ふざけるな! 童貞のまま死ねるかぁ!!」


(りゅう)の魂の叫びが部屋に木霊(こだま)する


必死に活路を見出そうと頭をフル回転させる


ゴーレムの攻撃を躱す防戦一方の状況が続いた


魔力の残量も少ない。せめてもの救いはゴーレムの動きが鈍い事。しかしこのまま逃げ続けていてもいつか体力の限界を迎える


(りゅう)の不利な状況は一向に変わらない


脈が上がり嫌な汗が噴き出す。舌は乾き、呼吸が荒くなる


迫りくる死の恐怖を感じて気が動転した


ゴーレムはその瞬間を見逃してはくれない。


ゴーレムの拳が直撃する


防御が間に合わない


鈍い音と共に30メートル以上吹き飛ばされた


ゴーレムが近づいてくる足音が聞こえる


激痛の走る体を無理やり起こす 


強烈な吐き気に見舞われ吐いた


大量の吐血が地面に飛び散る


内臓を損傷したようだ


焦点が定まらない


必死に剣を構え次の攻撃に備えようとするも、左手が動かない


「折れて…る」


認識した瞬間激痛が襲い思わず体をのけぞり叫んだ


「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! いたいよぉぉぉぉぉ」


その姿は勇者など微塵も想像させない。


不細工な顔が泣き叫ぶ事で際立った


”死”がそこまで迫っていた…





本作をご覧いただきありがとうございます


評価とブックマークをして下さる読者様も徐々に増え、嬉しくて感謝しかありません


これからも、少しでも楽しんで頂ける作品を書いていこうと思います


毎日9時と18時の更新を目標に書き進めていますのでよろしくお願いいたします

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[良い点] 「ふっ、ふざけるな!・・・ このフレーズ良いですね!! [一言] 大変! 続きを読まねば眠れない…
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