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誓約龍魂バハムートセイバー  作者: 宮下龍美
第四章 学園青春ライフ
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学園祭、開幕 2

 シルフ、ウンディーネ、サラマンダーと島を移動して来た龍太とハクアは、続いてノーム島にやって来た。

 ここでは生徒たちが日々の研究成果を発表している。人気どころだと、やはり龍の巫女たちが専門的に扱っている分野だ。

 魔導工学、魔導薬学、魔導人体学、魔導情報学の四つ。

 その他にも魔術の方面での研究もある。新しい術式の開発や、既存の術式の改良などなど。


 それ故か、訪れている客層や雰囲気も、他の島とは異なる様相を呈していた。

 どこぞの宮廷魔導師や貴族様たちが、品定めするような目で生徒たちを、発表内容を眺めている。ドリアナ学園には将来有望な生徒が多い。卒業後にスカウトしようとでも思っているのだろう。


 その中で最も人を集めているのは、やはりというかなんというか。

 海に面した大きな滑走路。その地下に広がる巨大な工房を持った、ハイネスト兄妹だった。


「お、来たな二人とも」

「イグナシオ、こっちにいたんだな」


 教室にいなかったからもしやと思ったが、やはりイグナシオはこちらにいたらしい。まあ、ハイネスト兄妹の研究を目当てに学園に来ている者もいるだろうし、本人としても自慢の機体を見せびらかしたいだろうから、クラスの方にばかりかまけている暇はない。


「ファフニールは他国に売る予定はないのでしょう? なのにこんな大々的に発表してしまってもいいのかしら?」

「別になんの問題もないさ。乗らせるわけでもないし、そもそも僕たち以外にこいつの中身を理解できるやつはそういないよ」


 ならなぜ発表するかというと、ただ自慢したいだけだ。自分たちはこんなものを作ったぞ、どうだ凄いだろうと。新しいおもちゃを自慢する子供のように。


「それに、ファフニールは僕らの研究のほんの上辺部分さ。二人も見ただろう?」


 地面を指し示すイグナシオは、つまり地下にあるもののことを言っている。

 ファフニールはそもそも、古代文明の兵器を現代の魔導科学で再現したものだ。そして、同じく古代文明の兵器でありながら、ファフニールの元となった機動兵器よりもさらに有名で、危険なものがある。


 それが魔導戦艦。

 ハクア曰く、百年戦争の際に人間側の切り札となった五隻の巨大な戦艦だ。超巨大な魔力炉心を搭載していて、無尽蔵に思えるエネルギーを生み出し続ける。だから燃料なんて概念がなく、炉心が動き続ける限りは戦艦も止まらない。兵器の弾切れもない。

 人間たちがドラゴンを相手に百年も戦争できた理由であり、そのオリジナルは現在、各大国の管理下にあるらしい。


 ハイネスト兄妹は、その魔導戦艦を現代の魔導科学で再現しようとしている。ファフニールは、あくまでもその副産物でしかないのだとかなんとか。


「見せるものは僕らも選んでる。ここに並んでるのもただの量産型だし、下のアレは外の連中に見せられるわけもないしね」

「ああ、そういえばたしかに。なんか見た目似たような奴らばかりだと思った」


 滑走路に並んでいる機体は、外観だけで言えばみんな同じやつらだ。搭載している兵器は少しずつ違うようだが、イグナシオの言う通り量産型の性能もそこまで高くないやつなのだろう。


 と、龍太は思ったのだが。イグナシオから言わせれば、量産型でも十分自慢らしく。


「ふっ、ただの量産型だと思うなよ? 戦況に応じて換装可能なバックパック! 現代の戦闘では必須の航空能力! 共通武装として魔導収束を使った新型のフォトンソードに、小型化に成功した魔導収束機関搭載のフォトンライフル! 更に新型の照準器とレーダーも搭載! コックピットも初の全天周囲モニター!       量産型でもこの出来だ、僕たちの専用機はもっと凄いことになってるぞ!」

「お、おう……よく分からないけど凄いんだな……」

「そして忘れてはならないのが、頭部に搭載した88mm機関砲! リュウタの世界だと、88mm(アハトアハト)は人気なんだろ!」


 いや知らんけど。これはあれだな、朱音か丈瑠かアリス辺りが余計な入れ知恵をしたな。88mmが好きなのは某漫画の少佐だよ。さすがの龍太もそのアニメは知ってる。


「楽しそうでなによりね……」

「古代の話する時のハクアもこんなもんだぞ?」

「それは……少し、自分を見つめ直すべきかしら……」

「今僕、バカにされた?」


 そんなことはない。好きなものに対して熱くなれるのは、その人の美徳だと龍太は考えている。バカにするなんてとんでもなく、それは誇るべきことだ。なんなら、ヒーローについて語る龍太もこんなもんだろうし。


「でもさイグナシオ、量産型なんか作ってどうするんだ? どこにも売るつもりはないんだろ?」

「ああ、それは──」

「どうしてここに帝国のやつがいる!」


 イグナシオの声を遮るように、怒声が聞こえてきた。揃ってそちらへ首を向ければ、護衛の魔導士を連れた老いた貴族らしき男が、女子生徒へ唾を飛ばしている。

 見れば、怒鳴られているのは龍太にとって唯一の後輩といえる女子、ルビーだ。彼女を庇うように従者のジョシュアも立っている。


「あら、わたくしがこの場にいて、なにか不都合でもあるのでしょうか? ガイゼン国軍務省所属のデッドスター伯爵様」

「世を騒がせる帝国の貴族がこの学園に在籍している、それ自体が問題なのだ! 我が国の将来有望な若者も通っているのだぞ!」

「ドリアナ学園は世界中にその門扉を開いています。そしてわたくしたちは、学園に認められたからこそここにいる。苦情でしたら是非、この学園を治める学園長と龍の巫女様まで」


 毅然とした態度で、帝国貴族の公爵令嬢、ルビリスタとして振る舞うルビー。一歩も退かない彼女に、デッドスター伯爵と呼ばれた男は更にヒートアップしてしまう。


「ぐぬぬ……そ、それだけではない! この様な兵器の展覧場にいるとは、なにを考えている! もしやハイネスト兄妹を買収して、この兵器を帝国のものにしようとしているのではないだろうな!」

「あら、おかしなことをおっしゃいますわね」


 クスリと、冷たい微笑が一つ落とされる。

 孫ほども歳下の少女のそれ一つで、伯爵は一歩後ずさった。気圧されている。


「人型魔導兵器ファフニール。その力は魔闘大会でも示されました。でしたら、この場にいる全員がそう考えているのではありませんこと? わたくしだけが非難される覚えなどありませんわ。ああところで、話は変わるのですけれど。ガイゼン国は十年前に起きた邪龍教団の一件以降、軍縮を余儀なくされたらしいですわね」

「そ、それがどうした!」

「こちらのファフニール、開発自体がここ一年以内のことですが。果たして軍縮条約に含まれるのでしょうか? 浅学なものでして、どうかご教授願えればありがたいですわ」

「こ、小娘が……!」


 デッドスター伯爵が、腰の剣を抜いた。

 年老いているとは言え、軍務省なるところに所属しているということは、彼も立派な軍人だ。帝国貴族の娘に剣を向けるその意味を、理解していないのか。


 振り上げられる剣。ルビーも、彼女の前に立つジョシュアも、そこから目を逸らすことはない。恐怖に尻込みすることも。

 強い瞳で見つめたままだ。


 しかし、側から見てる方は別。

 隣に立っているハクアが素早く銃を抜き、放たれた魔力弾が伯爵の剣を的確に撃ち抜き弾き落とした。


「なっ……⁉︎」

「感心しないわね。子供に、それも他国の貴族に対して剣を抜くなんて」

「場所は選べよ、おっさん」


 間に割って入ると、護衛の魔導師たちが構える。それを見て龍太も剣に手をかけるが、もちろんこちらから仕掛けるつもりはなかった。

 さっきハクアが発砲したのだって、後輩二人を守るためだ。それはこちらに注目している周りの人たちも見ているだろう。


「関係ないものたちは黙っていろ!」

「いいや、関係あるね。こいつらは俺の大事な後輩なんだ」

「貴様……! 私がガイゼン国の貴族と知っての狼藉か⁉︎」

「はっ、どこのお貴族様か知らねえけど、子供に手を出すようなやつを敬うわけねえだろうが」

「もういい! やってしまえお前たち!」


 今時こんな典型的な悪代官のようなやつを見れるとは。内心で変な感心を抱きながら、剣を抜こうとして。


 カンッ、と。甲高い、なにかで地面をついた音が、その場に響いた。

 次の瞬間には、龍太の視界が氷に覆われる。いや、違う。伯爵とその護衛が、揃って氷漬けにされているのだ。


「イグナシオ、銃を下ろさせなさい」


 見れば、展示されているファフニールの全機が、頭部の88mm機関砲を向けている。

 振り返ると舌打ちしているイグナシオの隣に、アリス・ニライカナイが立っていた。


「アリスさん!」

「どうも、先ほどぶりですね。で、これはどういう状況ですか?」


 笑顔でこちらに歩み寄って来たアリスは、手に持っていた長杖をどこかにしまう。状況がわからないのに凍らせちゃったのか、この人。


「そこの貴族が、ルビーとジョシュアに剣を向けたんすよ」

「ああ、ガイゼンの伯爵ですか。全くあの国は……邪龍教団の時もそうでしたけど、また変なこと企んでるんですかね」


 露骨に疲れたため息を漏らす様でさえ、周囲の野次馬たちは魅了される。

 龍の巫女の登場。その存在は、この場にいる人間やドラゴンにとって、まさしく神のような存在だ。教室での様子を思い返せば分かりやすい。


「お初にお目にかかります、ニライカナイの巫女、アリス・ニライカナイ様」

「あなたがルビリスタ・ローゼンハイツですか。話は栞ちゃんとエリナから聞いてますよ、色々と」


 スカートを摘んで腰を折るルビーと、微笑んで挨拶を受けるアリス。

 当然だが、この二人は初対面だったらしい。しかしルビーの事情はアリスも聞いているようで、彼女が帝国貴族の娘を受け入れたとなれば、周りも文句を言えなくなる。


「そういえば、どうしてあなたたちがここにいるのかしら?」

「他の人と同じですよ? ファフニールを見に来たんです。あと、ハイネスト先輩と少しお話もありましたし」

「イグナシオと?」

「ああ、まあな」


 視線の先にいるイグナシオは、どこかバツが悪そうに顔を逸らした。

 この友人と後輩の二人の間に交流があったのは、龍太も一応聞き及んでいた。革命軍がハイネスト国を解放した、その報告をルビー自らイグナシオとソフィアに行ったらしいから。


 どうやらその時に、それ以外の話もしたのか。それがなんなのかは分からないが、まあ仲良くしてくれているならそれに越したことはない。


「それよりも、さっきはありがとうございました。ほらジョシュアも」

「お嬢様! ドラゴンなどに頭を下げずとも!」

「ジョシュア」

「くっ……助かった、感謝する……」


 か細い感謝の声。これが演技だと知っているから、なんだか変な笑いが込み上げそうになる。


「とりあえず、この人たちはガイゼン本国に強制送還ですね」


 どこからともなく警備の人たちがやって来て、氷漬けのままの伯爵たちを連れて行ってしまった。

 学園祭中は、様々な大人が島にやってくる。よからぬことを企んでいる輩だけではなく、あのデッドスター伯爵のように、トラブルを起こすような問題のあるやつまで。


 外から人を招くというのは、そういうことだ。

 ここの生徒たちは余程のことじゃなければ動じないけれど、大人たちはその限りじゃない。様々な国から子供を預かっているのだ。国同士の問題も当然あるし、その辺の折衝とか、大変なこともあるのだろう。


 まあ、異世界人の龍太と国に所属していないハクアには、あまり関係ない話ではあるけど。


「じゃあリュウタ、僕はそこの後輩と話があるから」

「おう、わかった」

「暫く店番しててくれ」

「なんでだよ⁉︎」


 龍太のツッコミは無視して、イグナシオと後輩二人は地下の工房へと引っ込んでしまった。

 店番って言われても、龍太だってファフニールのことはよく知らない。一度戦ったことがあるが、それだけでこのロボットの全てを把握できるわけじゃないのだ。


 まあ、この展覧場の様子を見ておくくらいはしてやるか。幸いにして、アリスもいてくれている。彼女ならファフニールについても詳しいだろう。


「それじゃあ、わたしも行きますね」

「えっ、アリスさんいてくんないんすか?」

「イグナシオの様子を見に来ただけですから。まだ行かないといけないところもありますし、ごめんなさい」


 頼みの綱だったアリスも立ち去り、結局龍太とハクアだけが残された。

 しかし訪れている客たちは居並ぶ機体を眺めているだけで、特になにかを聞いてくることもない。あるいは、龍太たちが店番だと認識されていないだけか。


「こうなると暇だなぁ」

「そうね、わたしたちに出来ることがあるわけでもないし……」

「しかし、イグナシオとルビーでなんの話してるんだか」

「おそらく、イグナシオたちの故郷のことについてではないかしら? さすがにすぐにハイネスト国に戻れることはないと思うけれど、ああ見えてイグナシオも王族のようだし」


 そう、イグナシオ・ヴァン・ハイネストは王族だ。全くそうは見えないけど、あんな天才変態科学者でも、一応は王族なのだ。

 両親はもう亡くなっていると言っていたし、ハイネスト国最後の直系王族ということになる。つまり、解放されたハイネスト国について、その扱いは場合によってはイグナシオに一任されてしまう。


 大変な重責を背負ってしまった友人が少し心配ではあるが、アリスやエリナ、それにルビーたち革命軍もサポートしてくれるだろう。

 それに、イグナシオはなんだかんだで意外とやる奴だ。国のことも、案外簡単になんとかしてしまうかもしれない。


 その後もハクアと適当に談笑しながら時間を潰していると、なにやら周囲の客たちの様子が慌ただしくなっていた。


「なんだ、どうかしたのか?」

「また喧嘩、というわけではなさそうね」


 途端、滑走路の各所に設置されたスピーカーから、ビービーと警戒を示す音が鳴らされた。


『近海に魔物らしき反応を捉えた! 滑走路にいるやつらは全員避難してくれ!』


 続いて、地下の工房にいるイグナシオの声。

 周りが慌ただしくなっていたのは、その魔物の反応を捉えたからだろう。


 まあ、これくらいなら日常茶飯事だ。ドリアナ学園諸島近海は、たまに魔物が湧く。それを生徒が処理することもあるし、実際龍太が入学してからも数回そのようなことがあった。


「ふんっ、魔物がなんだ! こちらにはお前たち生徒と違って、場数というものを踏んできている! 子供だけに任せるわけがないだろう!」


 一人の魔導師がそういうと、周りも同調して避難するどころか滑走路の端、海辺まで駆けていった。

 実に頼もしい限りじゃないか。実際彼らは、龍太たち学園の生徒よりも強いのだろう。スピーカーからはイグナシオのバカどもがっ、という悪態が聞こえて来たけど。


 まあ、龍太としても任せきりというわけにもいかない。

 まさか学園祭中に魔物が接近してくるとは思わなかったが、だからって指を咥えて見ていようとはカケラも思わないのだ。


「俺たちも行こう、ハクア!」

「ええ!」

『せんぱいたちは行っちゃダメです!』


 イグナシオと一緒にいたのだろう、ルビーの悲鳴じみた声が聞こえて来た。

 なぜか、とスピーカーの向こうに問うこともできない。そうするよりも前に。海の中から、細長く巨大な赤い体が現れたから。


「な、なんだこの魔物は!」

「ドラゴンでもないぞ!」

「赤い体……まさかスカーデッドか⁉︎」


 そのまさかだ。真紅の体を持ち、蛇のように長く、強靭な鱗に守られた体。

 その瞳はたしかに、龍太とハクアを捉えていた。


『リベンジに来たぞ、アカギリュウタ! いや、バハムートセイバー!!』

「レヴィアタン……!」

「やっぱりまた来たわね!」


 一度古代遺跡の中で倒したはずのスカーデッド。朱音たちが再びの出現を予見していた、レヴィアタン。


 しかし現れるのが早すぎる。ルビーの予想では、スペリオルの襲撃は明日以降という話じゃなかったのか。

 いや、戸惑っている場合じゃないか。今も果敢に挑んでいった魔導師たちが、レヴィアタンの魔術によってできた水の鞭で、水中に引き摺り込まれている。


「まずいわ、水中はほとんどの魔導師にとって戦えない場所よ!」

「くそっ! 俺たちも行くぞ!」


 水中には空気がなく、長時間の活動は見込めない。その上詠唱もできないから、魔術の威力も制限がある。


『Reload Niraikanai』

「「誓約龍魂(エンゲージ)!!」」

『Alternative BlueCrimson』


 それが分かった上で、龍太とハクアは迷いなく海へ飛び込んだ。

 光り輝く光球が二人を包み込み、弾けて割れる。現れるのはこの海と同じ色をした仮面の戦士、バハムートセイバー ブルークリムゾンだ。


 水を、あらゆる流れを操るこの姿なら、海中であろうと動きの制限は受けない。


「まずは他の魔導師たちを助けるぞ!」

『分かってるわ、魔力の操作は任せて! リュータはそれを解放するだけでいいから!』


 言われた通り、体内で練り上げられる魔力を解放していく。海水が渦を撒き、踠いている魔導師たちを全て包んで海上へと打ち上げた。

 救助はあっという間に完了。あとは自分たちも上へ出るだけかと思いきや、先端が鋭く尖った巨大な尾が、バハムートセイバーに襲いかかる。


『逃さんぞ、バハムートセイバー! ここはこのレヴィアタンのフィールド! 我が狩場! ここが貴様の死地となる!』

「なんで水の中なのに声が聞こえてくるんだよ気持ち悪いな!」


 一体化している龍太とハクアはともかくとして、なぜレヴィアタンの声まで聞こえてくるのか。魔術による通信でもなさそうなのに。


 どうでもいい疑問は頭の中から追い出して、海中に潜った巨大な蛇と相対する。

 こいつは、これまで戦ったレヴィアタンとは違う。セゼルの時のように、他人にカートリッジを撃ち込んだわけでもなく。古代遺跡の時のように、人間態のままというわけでもない。


 今回こそ、やつの本領が発揮される姿とフィールド。一方で、こちらがブルークリムゾン以外の姿になるためには海上へ出なければならない。ニライカナイの力も込められているブレイバードラゴンでも、さすがに海中では動きに制限がかかるだろう。

 とはいえ、敵が簡単に上へ逃がしてくれるわけもなく。


 四方八方から無形の衝撃が襲って来て、それから逃げることしかできない。


『水圧を部分的に変えて衝撃を繰り出しているのね!』

「くそッ、さすがに動きづらい……!」


 いくらブルークリムゾンが海中でも活動可能といえど、それを操る龍太はこのような場所での戦闘になれていない。

 重力が存在しない、全てを飲み込む水底での戦闘。すぐに慣れろと言われても無理な話だ。


『どうしたバハムートセイバー! 貴様の力はそんなものじゃないだろう!』

「言ってくれるじゃねえか!」


 杖を振り魔力を解放。反撃に魔力弾を放つが、ブルークリムゾンの膨大な魔力で以ってしても、レヴィアタンの強固な鱗は傷つかない。


 いっそのこと、朱音のようにここら一体を氷漬けにでもできればいいのだけど。

 それをするには、エクスキューションのカートリッジを使わなければいけない。その後も戦闘が続くことを考えると、それはあまりに消耗が大きすぎる。


『Reload Explosion』

「こいつはどうだ!」


 放つのは海水を凍らせた幾本もの氷柱。そのうちのいくつかがレヴィアタンの巨体に命中して、途端爆発を引き起こした。即席の魚雷だ。


『ふはははは! 痒い痒い! このレヴィアタンの鱗、その程度で貫けるものか!』

『さすがの防御力だけれど……これならどうかしら!』


 氷柱が命中した箇所から、魔法陣が広がる。そこから鎖が伸びて、あっという間にレヴィアタンの巨大な全身を絡め取った。


『なにっ⁉︎』

『今よリュータ!』

「ああ!」

『Reload Execution』

『Dragonic Overload』


 杖にカートリッジを装填。赤いオーラがそこへ収束して、膨大なレヴィアタンの眼下に広げる魔法陣へ。


「いい加減、上に行こうぜ! レヴィアタン!」


 魔法陣から放たれるのは、巨大な氷塊だ。そのままレヴィアタンの体を海上へ打ち上げて、その後を追いバハムートセイバーも空中に出る。


『Reload Shangrila』

『Alternative BraverDragon』


 すぐさまシャングリラのカートリッジを装填。ブレイバードラゴンの姿へオルタナティブを果たし、滞空しながら両手の二丁拳銃を構える。


 バハムートセイバーだけじゃない。

 レヴィアタンを囲うように展開しているのは、滑走路に立っていた量産型ファフニールだ。


『よし、ようやく来たなリュウタ!』

「ナイスだイグナシオ!」


 無人のまま遠隔で操作されているファフニールの、魔導収束を使っているというフォトンライフル。そしてバハムートセイバーの二丁の銃口が、一斉に火を吹いた。


『ぐおぉぉぉぉぉぉ!!!』


 無数の光弾がレヴィアタンに突き刺さり、悲鳴と共に黒煙が上がる。

 だがそれを以てしても、レヴィアタンの鱗は貫けていない。いくらかのダメージは入ったようだが、海の上に着水したその巨体は未だ健在だ。


『イグナシオ! 他の状況はどうなっているの⁉︎』

『各地にスカーデッドが出ているらしい! ただ、フェニックスとドラグーンアヴェンジャーは確認できてない! 巫女たちはそっちの対処で精一杯みたいだ!』

「一日目は大丈夫じゃなかったのかよ!」


 言いながら宙を駆けて、レヴィアタンの凶悪な顔を銃で思いっきり殴った。すぐさま立て直して牙を突き立ててくるが、身を翻して躱しかうんたーの蹴りを見舞う。

 砕けた牙が海中に没して、その目が忌々しげにこちらを睨んでいた。


「せっかくの学園祭なのに!」

『みんな楽しみにしていたのだから、絶対に許さないわ!』

『はっ! その程度のもののために戦うとは、愚かだな!』

「うるせぇ!」


 炎の宿った右の拳と、レヴィアタンの鋭い尾がぶつかった。生じた衝撃波に乗って距離を取り、共に戦ってくれるファフニールを従えて、ヒーローは吠える。


『みんなの笑顔を、日常を守るために戦う!』

「それが正義のヒーローってやつだ! 学園祭は台無しになんてさせない! させてたまるもんかよ!」


 感情に呼応して、バハムートセイバーの出力も上がる。魔力が全身に漲る。

 正義の心を燃やして、二人で一人のヒーローは真紅の怪物へと突っ込んだ。

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