襲撃 2
ノーム島は研究施設ばかりが揃っている島だが、似た趣のあるサラマンダー島とは違い、商業区域が存在している。
これは研究に没頭するあまり島からはおろか、研究室からも出てこない生徒がたまにいるからなのだが。
今日からお世話になる予定の研究室に、お茶菓子でも包んで持っていこうと思ってい商業区域を歩いていたローラは、運がいいのか悪いのか。
「もうっ! 無駄に数が多いんだよ!」
突如として現れたスペリオルの尖兵、ダストと呼ばれる怪人を相手に槍を振るう。
この島には戦闘を得意とする魔導師が少ない。いや、ほとんどいないと言ってもいいだろう。だから周りにいた生徒たちは早々に逃したし、この区画から出られないように木のバリケードも作った。
ダストも大した強さじゃない。数こそ多いが、龍の巫女たるローラの敵ではない。
問題は、さっきからその奥で動かずにジッとしている、貴族然とした服装に眼鏡をかけた、髪型をオールバックにした男。
龍太とハクアから話に聞いていたし、実際ローグの惨劇にはこいつも居合わせていた。
スカーデッド、フェニックス。
「形代遊戯・旋風大輪!」
槍の柄を強く地面に突き立てれば、地面から何本もの樹木が生えてくる。それが絡まり合って、三メートルはある巨人になった。
柄の短い斧を振り回し、ダストを吹き飛ばす。最後の一体をローラの槍が穿つと、パチパチと拍手の音が響いた。
音の発生源は言わずもがな。
「さすがは龍の巫女。人形遊びがお好きな子供が、あの数のダストを圧倒するとは」
「いちいちムカつく言い方なんだよ。ローラのこと馬鹿にしないで」
「事実ですよ。あなたはまだ子供、本来ならこんな場所で、槍を持つべきではない」
「そうさせてるのは、あなたたちスペリオルなんだよ」
どの口でそんなことを言うのか。スペリオルのような世界の敵がいるから、龍の巫女は百年経ってもその役目を負っている。
なにより、子供だと馬鹿にされるのは、ローラにとって最大の侮辱だ。
龍の巫女も、アイドルも、全てはローラ自身が望んで進んだ道。赤の他人、ましてや敵であるフェニックスに言われれば、怒りすら湧いてくる。
「安心してください。我々の正義が果たされたその時には、巫女の役目も終わる。子供が戦う世界も、巫女に頼らざるを得ない世界も、全て」
『Reload Phoenix』
機械の腕に、カートリッジが装填される。赤い球体がやつの体を包み、それがドロドロと溶けて現れるのは、炎を纏った不死鳥。
魔力が熱風となって駆け回り、小さな主を守るために樹木の巨人が前に立つ。
「話に聞いてたよりも強そう……ていうか、ローグで見た時よりも明らかに魔力が強くなってるんだよ」
『我々スカーデッドは機械生命体ですから』
生身の人間と違い、技術力さえあればどこまでも強くなる。
今のフェニックスは、バハムートセイバーが初めて戦った時とは比べ物にならない強さだ。
『今の私なら、龍の巫女が相手であっても遅れは取らない!』
翼をはためかせ、不死鳥が空を舞う。
ローラの生成した木々が槍となって追うが、巧みな空中機動はそれら全てを躱して見せた。それどころか、自ら突っ込んでローラの武器である木を燃やしてしまう。
だが、ローラ・エリュシオンは龍の巫女だ。その中でも最年少。他の三人から戦闘技術を叩き込まれた少女は、弱冠十四歳にして戦いのプロでもある。
燃やされても懲りずに、地面から伸びる木々がフェニックスを狙う。躱すために低空を飛行すれば、その頭上から巨人が斧を振り下ろした。
『ぐぁッ……!』
「戦闘経験が足りてないんだよ。動きは速いけど、読みやすい」
機械生命体は人間よりもたしかにメリットが多いのだろうけど。デメリットだってある。それが、戦闘経験。
スペックが完成された状態で製造されるがゆえに、実戦の数に乏しい。
『あまり舐めないで頂きたい……!』
「その言葉、そっくりそのまま返すんだよ」
地面に叩きつけられた不死鳥の体を、その下から生えてきた大量の木の槍が串刺しにする。
翼はズタボロ。これで空も飛べない。しかしそれでも、炎は未だに尽きることなく燃えている。
「ローラはたしかにまだ子供だけど、それでも龍の巫女の一人なんだよ。そこに誇りを持ってるし、敵に余計な同情をされる謂れはないんだよ」
『なるほど……たしかに、大言を吐くだけの力はあるようですね……しかし残念ながら、私は元よりまともな戦いをしようとは思っていません』
フェニックスの傷が、たちまちに治っていく。串刺しにされて出来たいくつもの穴は塞がり、魔力すらも回復して。いや、増幅している。
これにはローラも唖然としてしまった。
たしかに手応えはあったのに。傷が完治したどころか、より強くなっている。
どういうわけかと考える間もなく、上空へ飛び上がった不死鳥から火球が放たれた。
巨人が盾となってローラの前に立ち塞がるが、あっという間に燃え尽きてしまう。
「熱っ……!」
『感謝しましょう、ローラ・エリュシオン。あなたのおかげで、私はまた強くなる! バハムートセイバーを倒せるほどに!』
「みんなして、あの二人に執着しすぎなんだよ! しつこい男は嫌われるって、アカネお姉ちゃんが言ってたもん!」
突っ込んできたフェニックスに槍を突き出せば、ひらりと躱される。躱した先からまた火球を飛ばされて、ローラは咄嗟にその場から飛び退いた。
着弾地点で大爆発が起こり、コンクリートの地面を容易く破壊してしまう。まともに受けるのはマズい。
とはいえ、中途半端な攻撃はやつの力をさらに強化させる結果にしかならないだろう。これが他の巫女なら、オーバーロードで一気に倒してしまえるのだろうが。ローラが宿す龍神エリュシオンは、いかんせんサイズが他の龍神と桁違いで、この付近一帯を破壊し尽くしかねないのだ。
間断なく空から降り注ぐ火球を躱し続けながらも策を練る。
殺しきれないほどの再生能力を持つなら、手段は一つ。捕縛すればいい。
「形代遊戯・金剛兵陣!」
地面から生えた木々が形作るのは、手に剣を持っただけの兵隊たち。その数、僅か五体のみ。先程の巨人と比べれば小さく、頼りなく見える。
『雑兵をたった五体作ったところで、なにができると言うのです!』
フェニックスは地上に降りてくることもなく、上空から火球を放ち続ける。それを躱した木の兵隊たちは、地面を蹴って高く跳躍した。しかし、所詮は植物。炎を前にすれば無力なことに違いなく、実際に兵隊たちはフェニックスの炎に呆気なく焼かれる。
だが、ローラの口元は笑みを浮かべていた。
「チェック、なんだよ」
『な、にッ……⁉︎』
不死鳥が墜ちる。
全身を痙攣させ、身動きひとつ出来ず地面に転がる。
訳がわからないと言いたいのだろうが、喉を震わせることすらできない。ただ呼吸のみが彼に許された唯一の動作だ。
「木龍の巫女が持つ最大の武器は、槍でも自在に動かせる木々でも、ましてやオーバーロードでもない。聞いたことくらいはあるよね?」
全ての龍神、ひいては龍の巫女には、それぞれひとつ特殊な力がある。
例えば、水龍ニライカナイがあらゆる流れを操るように。
あるいは、炎龍ホウライが熱を力と変えるように。
木龍エリュシオンが持つ力は、あらゆる植物の創造。この世界に存在しないものですら、木龍の力はゼロから作ってしまえる。
つまり、あらゆる薬を、転じて毒を作れるのだ。
そして他の龍神がそうであるように、そこに制約などは存在しない。作りたい時に作りたい植物を。
「燃やされれば毒を撒く植物。機械生命体に効くかは賭けだったけど、元は人間の死体を使ってるんだよね? だったらそれなりに勝算のある賭けだったんだよ」
『くッ、ぐぅぅぅ……!』
そしてそのような異能があれば、そもそも燃えない木だって作ってしまえる。
地面から生えた木が、瞬く間にフェニックスの燃える体を縛り上げた。痺れが解ける気配もなく、かと言ってローラの木が炎に燃えることもない。
「子供だからって舐めてるからいけないんだよ」
まだ子供でも、ローラは立派な龍の巫女だ。世界の敵たるスペリオルの連中に負けるなんて、あり得ないしあり得てはいけない。
◆
サラマンダーとノーム。それぞれの島で決着がついた一方、ウンディーネ島では未だ苛烈な戦いが繰り広げられていた。
「中々しぶといじゃあないかルーサー! そろそろ倒れてくれてもいい頃合いだろう!」
「はっ! そういうことは、一撃でもまともに入れられてから言ってよね!」
青髪の男、レヴィアタンの拳と朱音の刀が、何度も激突しては甲高い音を響かせる。
拳が刀とまともに打ち合えることもそうだが、朱音の切断能力が正常に作用されていない。恐らくは、やつらの飼い主である赤き龍の仕業だろう。
元々異世界の力である朱音の異能は、この世界の特に強力な存在には通用しないことがあった。ましてや赤き龍の適応の力を与えられたとあれば、全てを斬り裂く朱音の異能も通用しなくて当然だ。
そこは割り切ったとしても、しかし力は以前より増している。
ドラグニアの港町、セゼルで戦った時は、朱音ひとりでも簡単にあしらえた。だが今はどうか。
戦闘を始めて既に三十分近く、レヴィアタンは疲れを見せることもなく、朱音の動きについて来ている。
これは敵が強くなっていること以上に、朱音がこの戦いに集中できていないことも関係しているだろう。
「そんなにアカギリュウタが気になるか⁉︎」
近くの噴水に溜まっていた水がうねりを上げ、槍となって襲いかかる。
海の怪物であるレヴィアタンにとって、水の多いこの島は実に戦いやすいことだろう。
舌打ちを一つして、目の前まで迫っていた水槍を凍らせた。砕け散った次の瞬間には、無数の氷の礫が逆にレヴィアタンへ矛先を向ける。
「なに、向こうを気にする必要はない! 青龍様と異世界人の女が楽しんでいるだろうよ! 欲を言えば、バハムートセイバーは我自ら手を下したかったがな!」
「あの子たちが負ける前提で話をするな!」
氷を躱しながら高笑いするレヴィアタン。イラつく態度だが、頭に血が上りすぎてはいけない。
龍太とハクアと別れたのはほんの一時間ほど前だ。あの二人ならきっと大丈夫だろうと思いたくとも、やはり心配が勝ってしまう。
あの二人だって、ここまで修羅場をくぐって来た。過保護すぎやしないだろうか。いやでも、そうだとしても、龍太は朱音にとって守るべき対象だ。故郷とも言えるあの街に住んでいたひとりだ。
多少心配してしまうのも、それは致し方ないこと。
ただ、それでも今は、やはり目の前の相手に集中すべきだ。
「集え! 我は星を繋ぐ者! 万物万象悉くを斬り裂き、命を刈り取る者!」
術式を構築し詠唱する。現れるのは七つの刃。キリの人間にのみ行使を許された星の力。空の元素魔術。
「舞え、七連死剣星!」
それぞれが意志を持ったように宙を舞う刃が、レヴィアタンへ殺到する。それらを操作しながら自身も斬り込み、合計八つの凶刃が全方位からレヴィアタンを襲った。
「その様な曲芸までやってのけるとは、さすがだなルーサー!」
「曲芸じゃない!」
両手両足それぞれで、全く違う動作をしているようなものだ。誰にでも真似できるようなものではない。
しかしそれを曲芸呼ばわりするだけはある。七つのうち二つを拳で砕き、一つを蹴りで受け流して、残り四つは完璧に躱される。正面から斬りかかる朱音の刀も拳で受け止めれば、すぐにその場から飛び退いた。躱した魔力の刃が、再びそこに殺到したからだ。
「ちょこまかと……!」
「やはり強者との戦いは胸が躍るなぁ!」
攻防が入れ替わる。
朱音の足元で、チャプ、と小さく水滴の音がした。一瞬の後にはそれが巨大な渦へと様変わり。咄嗟に転移で離脱できたからよかったものの、あの水圧の渦に飲み込まれるのは、ミキサーにかけられるようなものだ。
しかし、レヴィアタンの能力は厄介だ。
ただ水を操っているだけではない。その水量、水圧を自在に変えている。今しがたの渦だって、朱音の足元には水溜りにも満たないほどの量しかなかったはず。
時たま飛ばしてくる水の槍も噴水の水を使っているが、本来の量を考えればとっくに尽きている。
セゼルの街を襲った津波も、恐らくはこの能力によるもの。水による攻撃に魔力の反応がないことから見て、異能と似た力と考えていいだろう。
万が一バハムートセイバーがまた暴走した時のため、ある程度温存しておきたかったが。どうやら、出し惜しみしない方が良さそうだ。むしろ全力を出して早々に片付けた方がいい。
虚空から右手に仮面を取り出し、装着と同時に力ある言葉を叫ぶ。
「位相接続!」
光の柱が立ち上って、そこから現れるのは黒いロングコートを着た仮面の敗北者。
目の前から放たれる圧倒的な魔力と威圧を受けて、レヴィアタンは歓喜の声を上げる。
「ようやくその力を使ってくれるか! お楽しみはまだまだこれからだなぁ!」
「いや、悪いけど速攻で終わらせる」
朱音の纏う魔力の質が、変化する。
周囲の気温が瞬く間に下がり始めて、濡れた地面には霜が。風に靡く黒いロングコートの周りには、六花の魔力が漂っている。
「氷纒」
その背中から、三対六枚の氷の翼が伸びた。その体まで半ば霜に覆われているのは、朱音が氷結能力を限界まで行使する前兆だ。
さすがにマズいと感じ取ったのか、レヴィアタンの額に冷や汗が浮かぶ。
水流操作とも呼ぶべきその異能は脅威的なものだが、しかし欠点も存在していた。あくまでも水を操る力であって、水を生み出す力ではないのだ。
とはいえ本来なら、魔術なりなんなりで水くらいなら簡単に生み出せる。レヴィアタンの力があれば、ほんの少量、水滴程度で問題ない。
だが、今はダメだ。無理だ。
だって、出したそばから凍らされるとわかっていて、そのような無駄な行為は出来ないのだから。
「化け物め……!」
「褒め言葉だよ」
だからといって、レヴィアタンの力がその異能一つというわけではない。スカーデッドとして、相当な魔力量を有している。わざわざ水に拘らずとも、その魔力をただ放つだけでもかなりの破壊力を発揮する。
その自負を以てして、大量の魔力弾を展開した。ただの魔導師であれば受けることも叶わない、触れただけで消し炭になるような高密度の魔力弾。
対する朱音は、防壁を一枚張っただけ。
「ハハッ、馬鹿めが! たった一枚の防壁に防がれるほど、このレヴィアタンの魔力は甘くないぞ!」
「御託はいいから、さっさと撃ってきなよ」
仮面越しに嘲りの笑い声が聞こえ、レヴィアタンは激昂のまま魔力弾を一斉に放った。
たしかに、いかに朱音といえどこの数、この魔力の攻撃を防壁一枚で凌ぎ切ることは不可能に近い。せめて三重の防壁を用意したいし、なんなら避ける方が簡単だ。
だがやつは勘違いしている。これは単なる防壁ではない。そして、それに気づかなかった時点で、レヴィアタンの負けは決まっていた。
甲高い、ガラスの割れたような音が響き渡る。それ以外の一切の音が消えた。
いや、音だけじゃない。レヴィアタンが放った魔力弾は、初弾が朱音の防壁を砕いただけで、その他全てが消え失せた。
「魔力連鎖、座標固定」
「な、なんだこれは⁉︎」
レヴィアタンの右手首に、魔力の枷が嵌められる。
破壊された防壁は、魔導収束のトリガーとなっていたのだ。防壁を破壊した魔力を逆探知してカウンターする、魔導収束の中でも初歩的な攻撃魔術。
ただしこの魔術には、氷結能力も上乗せしてある。
「氷輪絶華」
「ぬおぉぉぉぉぉぉ⁉︎」
光り輝く枷から、レヴィアタンの体が凍結していく。真っ先に指先が凍りつき、右腕全体が呑み込まれる。
そこから更に全身まで広がるというところで、氷の侵食は止まることとなった。
レヴィアタンが自身の右腕を、まだ無事な肩の辺りから手刀で斬り落としたからだ。
これには朱音も驚いた。右腕を狙ったのは、スカーデッドのカートリッジ挿入口が共通してそこにあるから。右腕を切り捨てることはないと、そう確信していた。
それが実際はどうか。レヴィアタンはスカーデッドにとっての生命線、あるいは存在意義とも言えるカートリッジシステムを切り捨て、偽物の命を優先したではないか。
地面に落ちた腕は完全に氷に呑み込まれ、レヴィアタンの肩からは配線のようななにかが覗いている。
斬り落とし方も完璧だ。ほんの少しでも氷の侵食が進んだ部分を残せば、朱音の魔術は効力を失わなかったのに。
「……驚いた。まさか右腕を犠牲にするとはね」
「命あっての物種と言うだろう。ここで死んでしまえば、バハムートセイバーとの再戦も果たせん! だがこの体は今や半分以上が機械、いくらでも換えは効く!」
「死体と機械で出来たリサイクル品が、よくも命なんて言葉を吐けるね」
まさしく命に対する冒涜のような存在のくせに、よくもまあいけしゃあしゃあと。
「それに、我が目的は十分果たされた。ここまで貴様を釘付けにできれば、右腕一本、いやカートリッジシステムなど安いものよ」
「どう言う意味?」
「なんだ、気づいていないのか?」
浮かぶのは嘲笑。圧倒的不利な状況にも関わらず、レヴィアタンはイラつく笑みを顔に貼り付けている。
やつの言葉から察するに、朱音はここで時間稼ぎ、足止めをされていたと考えていい。恐らくだが、四つの島それぞれにスカーデッドが現れた理由も時間稼ぎとこちらの戦力の分散が目的だろう。
ならなんのための時間稼ぎだ? このドリアナ学園諸島にはなにがある?
いくつか考えられるが、まず真っ先に思い浮かぶのは龍太のことだ。スペリオルは未だに龍太の心臓を狙っていたとしたら。
いや、これは可能性が低いか。魔王の心臓も目的の一つだろうが、今回の本命とは考えられない。恐らく、詩音の希望がスペリオル内でも強く影響していると考えられるからだ。
次に、この島の精霊と呼ばれる存在。実態は島の地下深くの遺跡に眠るデータの集合体であり、それぞれの島の生態系などを管理している、古代文明の置き土産。
これもないだろう。なにせスペリオルの頭は赤き龍。古代文明の生き証人だ。狙う理由がない。
後は龍の巫女が狙いか。いや、それにしては戦力が足りなすぎるし、仮に赤き龍の端末が来ていたとしても、エリナやローラなら退けられる。だからこれも除外していいが、だったらなんだ? なにが目的だ?
あと他に、ここにはなにがある?
「気づいていないというより、どうやら貴様は知らないらしいな、ルーサー! 古代文明の技術を再現できてしまえる、その重要性を!」
「まさか……!」
古代文明の技術の再現。
たしかに凄いことなのだろうが、やはり異世界人である朱音は、その重要性を正確に理解できていなかった。そして、それを成してしまえるあの二人が、敵からどう見られているのかも。
そう、スペリオルの目的は龍太でも精霊でも、ましてや巫女でもなく。
この学園の生徒、ハイネスト兄妹だった。