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誓約龍魂バハムートセイバー  作者: 宮下龍美
第四章 学園青春ライフ
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少女の戸惑い 3

 異世界学の講義にと充てがわれた校舎の、その一室で。桐生朱音は、手に持ったペンを指でクルクル回しながら、深く思考に没入していた。


 学生たち相手に魔術を教えるのは楽しいけど、それ以上にやるべきことがある。


 暴走したバハムートセイバーの安全な止め方。毎度毎度、一昨日のように自分の体ごと凍らせていては、流石の朱音も身が持たない。正直あれは、奥の手の一つとして取っておきたかった技だった。それを引き出さなければならないほどに、今のバハムートセイバーは手が付けられないと言うことなのだが。


 生来の自罰的な性格ゆえか、朱音はどうしても自分の力不足のせいだと考えてしまう。

 しかし、そこで腐って止まらないのが彼女だ。力が足りないなら、もっと力をつければいい。いや、今回の場合は少し違う。

 力なら、沢山もらってきた。問題はその使い方。異能に振り回されているようではダメだ。本来の所有者と全く同じ使い方をしようとしてもダメ。

 朱音には、朱音に合った使い方があるはず。それを探さなければ。


「とは言っても……思いつくことといえば、魔術と異能の融合くらいか」


 手のひらの上に小さな魔法陣を作る。簡単な魔導収束のものだ。

 桐生朱音が得意とする魔術は二つあった。ひとつはいつも使っている概念強化。そしてもうひとつが、魔導収束。どちらも両親から教わった魔術で、実際の年齢以上の時を生きた朱音が、ずっと頼りにしている魔術。


 魔術と異能の融合というのは、これがまたかなり難易度の高いものだったりする。

 元々原理の異なる二つの力だ。特に朱音の世界の魔力というものは、この龍の世界とは違って肉体に紐付けられた力。

 魂から生命力を生み出して体を動かし、生命力から魔力を汲み取って魔術を行使する。

 これが朱音たちの世界の魔術師の常識であり、根源が魂から生み出される生命力だとしても、肉の体があるからこそ魔力を自ら生み出し行使できる。

 一方で、異能はその限りではない。

 魂そのものに宿るその力は、例え肉体を失ったとしても自在に扱える。


 細かな違いを挙げていけばキリがないけど、ようは魔力を使うか使わないか、だ。

 そんな二つを融合しようとしてしまえば、異能によっては魔力が邪魔になって正常に発動できなくなるか、あるいは異能が邪魔をして術式が瓦解するか。


 そもそも、魔術同士であっても全く違う二つを重ねることはできないのだ。いわんや、根本から異なる力同士を、なんて。簡単に出来るわけもない。


 それでも、不可能ではない。

 例えば切断能力。あれは朱音が斬る対象とそのための道具を、()()だと認識してさえすればいい。どれだけ錆びついたナイフだろうと、そこらに落ちてる木の枝だろうと、斬れると思えばなんでも斬れる。だからこそ、魔術との融合も簡単だ。魔力で作った剣などに作用させることができる。


 しかし朱音が今回考えているのは、氷結能力を主軸にした新しい技。

 バハムートセイバーを止めるための作戦に変更はない。どうにか動きを止めて、銀炎により無理矢理制限時間を迎えさせる。そして動きを止めるためには、やはり氷結能力が最も有効だ。


「融合させるなら、やっぱり魔導収束がやりやすいかな」


 小鳥遊蒼とアリス・ニライカナイが生み出した魔術。魔力を吸収するそれは、驚くべき拡張性を持っている。

 最大の特徴が魔力を吸収するという強力なものではあるが、少しでも出来る魔術師であれば、吸収した魔力の使い方にこそ注目するだろう。

 直接攻撃に転換するのもよし、相手の位置を逆探知するもよし、そのまま自分の中に溜め込むのもよし。


 おまけに発動さえ出来れば、術者の腕に左右されない。吸収した魔力こそがそのまま術の威力となる。場合によっては、簡単に下克上を成せてしまう。


 朱音が今目をつけているのは、そんな魔導収束の中でも初歩的な術である、チェイン系統と呼ばれる術。

 連鎖爆発チェインエクスプロージョンという魔術が代表例となる。

 展開した魔法陣で敵の攻撃を防ぎ、受け止めると同時にその魔法陣は即座に割れてその魔力を吸収。魔力から敵の位置を割り出し、自動で敵の周囲に魔法陣を任意の数展開、爆発を起こす魔術だ。


 多少の差はあれど、チェイン系統の魔術はどれも似たような発動方法になる。魔法陣が割れることが魔術の発動条件という、既存の魔術体系では特殊な形ではあるが。

 それでも魔導収束を自在に扱おうと思えば、特殊な形だろうが簡単にこなせるだけの魔力制御と術式構築の技術が必要だ。


 これに、氷結能力をどうにかして組み合わせる。頭の中ではある程度の術式が組み上がっているが、しかし実際に発動できるかどうかはまだ分からない。

 どこかで時間を作って、丈瑠にも付き合ってもらい実験しなければ。


 今後の予定をどうしようかと自分の頬をペンでぷにぷにしていると、部屋の扉が勢いよく開かれた。


「朱音!」

「……っ! びっくりした……どうしたんですか丈瑠さん」


 肩を震わせて振り向くと、急いで走ってきたのか、丈瑠は乱れた息を整えることもせずに口を開いた。


「バハムートセイバーがまた暴走した!」

「またぁ⁉︎」



 ◆



 朱音が心からの叫びを上げた頃より、時間は少し遡る。

 ウンディーネ島でスカーデッドらしき敵と戦った龍太とハクアの二人は、助けてくれたエリナの案内に従い、ノーム島まで移動していた。

 ここは研究所が多く建てられた島だ。例に漏れず精霊とやらの影響もあり、洞窟が多く鉱石素材もよく採れる。その洞窟も地下深くまで広がっており、そこには凶暴な魔物も住んでいるのだとか。


 そして龍太たちの目的地は、そのノーム島にあるらしいハイネスト兄妹の工房だ。


「元々案内してもらう予定ではあったけれど、まさかあの二人がカートリッジの調整をしてくれているなんてね」

「意外と協力的だよな、あいつら」


 こうなると、先日シルフィードMarkIIを壊してしまったのが余計に申し訳なく思う。詫びの品でも持って行くべきだろうか。


「イグナシオは基本、私の指示に逆らえない。一言目は断るけど」


 眠たげな顔の割にはしっかり歩いているエリナは、なにか彼の弱みでも握っているのだろうか。

 そもそも、龍の巫女である彼女の指示に逆らう奴なんていないと思うが。我が道をゴーイングマイウェイなイグナシオだったら、普通に断りそうだと思えてしまう。

 まあそれでも逆らえないらしいが。一体どんな弱みを握られてるんだ。


 島の海岸沿いをしばらく歩くと、巨大な滑走路が見えてきた。シルフィードMarkIIとはまた違う、人型魔導兵器ファフニールが何機か立っていて、そのすぐ隣に小さなプレハブ小屋が。それがハイネスト兄妹の工房だろう。その割には小さく見えるけど。

 滑走路は現在使用されていないようで、エリナはそこを堂々と横切る。

 普通こういうのって、使ってなくても立ち入り禁止だと思うのだけど。


「い、いいのかしら……」

「エリナさんが普通に行ってるし、いいんじゃねえの?」


 戸惑いながら、二人もエリナの後に続く。特に誰かに咎められることもなく渡り切って、そうなると自然、そこに立っているファフニールに目がいった。


 ハイネスト兄妹の駆るシルフィードMarkIIとは違い、武装も少なくシンプルな外見だ。ごちゃごちゃとあれこれ装備をつけていたシルフィードを見た後だと、どことなく寂しくも見える。


「気になる?」

「まあ、そうっすね。こういうの、俺の世界だと完全にフィクションなんで」


 それがまさか、こうして現実にこの目で見ることになるとは。

 ここに立っている機体が全て同じ外見をしているから、なんとなく察しはつくけど。エリナは簡単に説明してくれた。


「ここにいるのは試作機。外見は同じでも、中身が違う。今はシルフィードMarkIIの武装テスト用の機体になってる」

「あ、量産型とかじゃないんすね」

「完全な量産はまだ成功してないし、する気もないって」


 眠たげな無表情のまま、ぷくーと頬を膨らませるエリナ。どうやらご不満のようで。

 エリナは量産して欲しいのだろうが、イグナシオはそれを良しとしない。どちらの気持ちも分かる。


 ファフニールは強力な兵器だ。これの量産に成功すれば、対世界の脅威、つまりはスペリオルに対抗する力も増える。

 しかし一方で、ファフニールが兵器として完全に完成してしまえば、各国で需要が増えることになるだろう。市場の混乱は免れないだろうし、誰も悪用しないとは限らない。ただでさえ東の大陸では、今もまだ帝国の内紛が起こっているというのだ。人間同士の戦争にファフニールを使われるなんて、開発者のイグナシオとしても許せないだろう。


「難しいところよね。開発者のイグナシオたちしか設計図を持っていないから、他国が変に介入してくる可能性だってあるし」

「それは大丈夫。私がいるから」


 ぶい、とピースサイン。どうやらイグナシオがエリナに逆らえない理由は、その辺りにありそうだ。


 試作機の横を通り抜けて建物の中に入ると、三人を出迎えたのはエレベーターだ。どうやらここにはそれしかないらしく、工房とやらは地下にあるらしい。

 エレベーターに乗って扉が閉じると、特にボタンも押さずに下降を始める。


「後ろ、見てて」


 エリナに言われて、なにがあるのかと首を傾げながらも振り返る。やがてガラス張りのエレベーターの外に見えたのは、工房というより、巨大な工場の景色だった。

 自動化されたロボットが忙しなく動き回り、龍太ではよくわからないなにかの部品のようなものをあちこちで作っている。少し離れた場所には建造途中と思わしきファフニールが数機と、また違う場所で組み立てられているのは、船か?


「まさか、魔導戦艦まで再現しようとしてるの……?」

「そっちは行き詰まってるみたいだけど」

「普通は作ろうとすら思わないわよ……さすがは天才、と言ったところなのしら……」


 唖然としたハクアと相変わらずな無表情のエリナ。二人の会話の内容はいまいち理解できないが、察するに、その魔導戦艦とやらもファフニールと同じで古代文明に由来するものなのだろう。

 いよいよここだけロボットものの世界観になってきた。


「え、ていうかこれ、全部イグナシオとソフィアの工房なのか?」


 コクリと頷く巫女は、なにを今更、と言いたげだ。てっきりこの中の一部だと思っていたけど、もしやあいつら、龍太が思っている何十倍もすごいやつらなのか?

 やっぱりシルフィードを壊したお詫びの品を持ってきた方が良かったかもしれない。


 工場よりも更に下層へ降りて行くエレベーター。工場の景色が見えなくなってしばらくも経たない内に止まり、扉が開く。

 床も壁も天井も真っ白な、いかにも研究所っぽい廊下を歩いて、ある一室の前でエリナは足を止めた。そしてノックもせずに扉を開ける。


「よし、よしよしよし! いいぞいいぞ、その調子だ!」

「行け! そのままぶちかましたれ! ってあかんそこちゃうやろ!」


 開けた途端飛び込んできたのは、イグナシオとソフィアの怒号だ。なにかの観戦でもしてるのか? と思いエリナの後ろから部屋の中を覗き込む。

 室内にはなにに使うのか分からない実験器具が溢れており、二人が開発したのだろう魔導具らしきものが床に散乱している。しかし広さもそこそこなものなので、足の踏み場がないほど散らかっているわけではなかった。


 そんな部屋の中で、ハイネスト兄妹はパソコンらしきもののモニターを二人でジッと見つめている。ていうかキーボードもあるし、完全にパソコンだった。この世界そんなのあるのかよ。


 何を見てるのかと思えば、そこに映っているのは誰あろう、龍太とハクアの二人だ。


「いやマジでなに見てんだよ⁉︎」

「ん? おお、来たかリュウタ」

「来たかじゃねえよ! なんだそれいつの映像だ!」


 言ってる間にも映像は流れていて、モニターの中の龍太とハクアが誓約龍魂(エンゲージ)した。

 よく見ればそこは列車の上で、オレンジの瞳を持った仮面の女性と相対している。


「フィルラシオへ向かう途中の映像ね」

「アリス様が提供してくれたんやで。バハムートセイバーのこれまでの戦闘データくれ言うたら、こいつが送られてきてん」


 どうやらこれを見て、二人は盛り上がっていたらしい。

 どうしてアリスがこんな映像を持っているのか不思議だが、どうせ魔導やら魔術やらでちょちょいのちょいだったろう。


「一度軽く目は通してたんだけどな。君たちを待つまでの暇つぶしで見直してたんだ」

「まあ、別にいいけどさ……」


 現状のバハムートセイバーで直接データを取れない以上、記録された映像からデータを集めることは間違っていないし。

 とはいえ、せめて事前に一言欲しかった感じはある。


 さて、とエリナに向き直ったイグナシオは、慇懃な態度で腰を折った。


「エリナ様におかれましてはご機嫌麗しゅう、今回もとんだ無茶振りをしてくださりやがって、技術屋としては感謝感激雨あられです」

「そういうのいいから」


 必死の皮肉も欠伸とともにスルーされて、イグナシオの額に青筋が浮かぶ。

 なんだ、どんな関係なんだこの二人。


「カートリッジ、完成したんだよね」

「まだ完成とは程遠いですよ。でもまあ、取り敢えず形にはしました。あとは実験してデータを取って、その繰り返しですね」


 そのデータから問題点を洗い出し修正して、また実験しての繰り返し。そうして完成に近づけて行く。

 地道な作業になるだろうが、ハイネスト兄妹にとっては日常茶飯事だろう。是非頑張ってもらいたいなーと思っていれば、イグナシオのジトっとした目がこちらに向く。


「なに他人事みたいな顔してるんだ、龍太。君たちにも手伝ってもらうぞ、そのために呼んだんだから」

「つっても俺、お世辞にも頭がいいわけじゃないぞ? なにを手伝えるんだよ」

「君の頭が天才の僕と比べて非常に残念な作りであることはたしかだが」

「はっきりバカって言えよ!」

「安心してくれ、君たちにしか出来ないことがある」

「わたしたちにしか……」

「できないこと……」


 嫌な予感にハクアと顔を見合わせる。

 まさか、と再びイグナシオの顔を見ると、やつはとてもいい笑顔で。


「ここで暴れられても困るし、上に行こうか」

「また朱音さんに怒られるじゃねえか!」

「僕の知ったことじゃないなぁ! さあさあ、僕の知的好奇心を満たすためにご協力願うよ、バハムートセイバー! そもそも、拒否権が君にあるとでも?」

「くそッ……!」


 あくまでもイグナシオは、龍太たちのためにカートリッジの改造と調整をしてくれている。その協力をしてくれと言われれば断れない。


 諦めて五人揃って地上に戻り、だだっ広い滑走路のど真ん中に立つ。

 ハイネスト兄妹はかなり離れた位置にいるが、エリナは目の前で控えていた。


「エリナ、本当に大丈夫?」

「ん、大丈夫」

「朱音さん呼んだ方がよくないっすか?」

「呼ばなくても勝手に来る」


 それはそれでどうなのかと思わなくもないが、龍の巫女相手に心配するというのも逆に失礼か。

 腹を括ってハクアと手を繋ごうと差し伸べると、さっと避けられた。

 え、なんで?


「あ……ごめんなさい……」

「いや、いいけど。大丈夫かハクア?」


 そういえば、ウンディーネ島では結局、ハクアから話を聞けず終いだったことを思い出す。本人はなんでもないとしか言わなかったが、やはり様子がおかしい。


「ほら、先にカートリッジを装填しないとダメじゃない? だから、少し待ってね」


 早口気味に言って、事前に渡されていたカートリッジを取り出すハクア。風龍シャングリラの力が込められたそれは、風の意匠が金色で描かれていた。

 ライフルの回転式弾倉にカートリッジを込めて、ボルトを操作する。


『Reload Shangrila』


 機械音声が鳴ったのを確認して、おずおずとこちらに手を差し出してくるハクア。白い頬には赤みが刺して、視線は合わず。けれどちらちらと目だけでこちらを見たり、また泳いだり。

 いじらしく可愛らしい少女を前に、龍太は心臓を鷲掴みにされた気分だった。


「リュータ……?」


 中々手を握り返さないからか、眉尻を下げた不安そうな顔が。可愛い。

 なんだかこっちまで照れ臭くなってしまうが、とにかく今はあれだ。あれ、なんだっけ。ハクアが可愛すぎて頭の中吹っ飛んじゃった。


 そう、実験だ。準備は全て完了したのだから、あとはバハムートセイバーに変身するだけ。

 控えめに差し出されている手を取り、改めて眼前のエリナに向かい合う。


「よし、いつでもいけるぜ、エリナさん」

「ん、なら早速始めよう。念のため、私も取り敢えず本気で行く」


 そうは言うが、しかしエリナは得物であるはずの二丁拳銃を取り出さない。龍の巫女が本気を出すと言えば、さてどのような手段を用いてくるのか。

 その答えを、龍太はよく知っていた。これまでの旅の中で得た知識にあったはずだ。


 けれど失念してしまっていたから、これから目の前で起こる光景に心底驚くことになる。


「ドラゴニック・オーバーロード」


 静かに唱えられた言霊と共に、エリナの体から光が溢れ、突然風が吹き荒れる。眩しさに目を閉じて風の強さに顔を腕で覆い、次に視界に飛び込んできたのは。


「ドラ、ゴン……?」


 日の光を浴びて煌めく金色の肉体からはしなやかな四肢が伸び、背には巨体を覆うほどに大きな翼が六枚。

 佇む姿は美しく、まるでひとつの彫像めいている。


「風龍シャングリラ。エリナの中に宿った龍神よ」

「あれが、本物の龍神なのか……」


 美しさに目を奪われる。

 威容と力に心の底が恐怖する。


 鋭い眼光がこちらを射抜くだけで、足がすくみそうになるのに。それでもこの美しい龍から、視線を外せない。


 複雑な心境は言葉にすることができず、知らずハクアの手を握る力が強くなっていた。


「大丈夫」


 少女の白く小さな手が、応えるようにギュッと握り返してくれる。

 先程までの照れた可愛らしい表情はどこへやら。龍太にとってはなによりも美しく響く可憐な声が、耳朶を震わせた。


「敵と戦うわけじゃない。イグナシオたちの実験……つまりは特訓みたいなものよ。それを龍の巫女が、オーバーロードまで使って相手をしてくれると言うのだから。胸を借りるつもりで思いっきり暴走しちゃいましょう」

「いや、暴走しちゃいましょうって……もうちょい言い方あるだろ」


 思わず吹き出してしまい、ハクアも顔を綻ばせる。緊張が解けて見上げた先には、美しくも恐ろしい龍の神が。

 この世界における絶対の力を前にして、けれどもう足が竦むことはなかった。言い方は悪いけれど、ハクアのいう通りだ。

 どうせ暴走してしまうのだから、だったら思いっきり暴走してやろう。


「「誓約龍魂(エンゲージ)!!」」


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