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誓約龍魂バハムートセイバー  作者: 宮下龍美
第四章 学園青春ライフ
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問題児たち 4

 目の前で繰り広げられる一方的な殺戮に、シルフィードMarkIIの操縦桿を握ったイグナシオはなるほどと内心で頷く。


 バハムートセイバー イクリプス


 大国ローグ崩壊のその場に居合せ、スタジアムを一瞬で消し去ったというその力。自分たちと戦ってそう時も経たないうちに、どんなものになっているのかと気になっていたが。


 えげつない。

 最初に思い浮かんだのはそんな言葉だった。変身者二人の意思や感情といったものが全く感じられない、かと言って獣のような野生や本能なども違う。

 ただただ無感動に、無機質に、機械的に、目に映った敵を屠る。


 まるでそうプログラムされたロボットのように、バハムートセイバーはヒュドラシャークの体をその剣で斬り刻む。

 無闇に苦しませるような真似はしない。効率的に、最短で殺すための攻撃。


『Reload Explosion』


 カートリッジが装填された。ガントレットの銃口が閉じて杭が露出し、九つある頭の中央を思い切り殴る。パイルバンカーが作動し、殴られた頭のみならず、その衝撃の余波を受けて全ての頭が消し飛ぶ。

 離れた位置に飛んでいるはずのシルフィードMarkIIも、僅かに機体が揺れた。


 そうしてまた一匹の敵を沈めたバハムートセイバーは、次の獲物を求めて視線を巡らせる。銀の光を帯びた仮面の瞳が捉えるのは、別の場所で別の生徒が戦っているヒュドラシャークだ。


 マズい、巻き添えになる。

 直感的に悟ったイグナシオは、狭いコックピット内で声を荒げた。


「ソフィアッ!!」

「わかっとる!」


 機体の操縦を担当しているソフィアが、操縦桿を思いっきり倒して足元のペダルを強く踏んだ。

 何度も改造を重ねたシルフィードMarkIIのスラスターが唸り、バハムートセイバーの視界を遮るように躍り出る。

 火器管制担当のイグナシオはすぐさま装備を選択。機体の肩に装着された長い砲身の電磁砲(レールガン)が火を吹く。


 音速を超える実体弾はしかし、バハムートセイバーが軽く剣を薙いだだけで発生した暴風に捕われ、あらぬ方向へ逸れていった。


「兄貴、次の武装!」

「出し惜しみなしだ! 魔導収束砲を使うぞ! ミサイルも全弾撃ち尽くす!」


 手元のコンソールを操作して武装を複数選択していく。バックパックに装備されている二門の魔導収束砲がその砲身を前方に展開させ、肩の電磁砲も照準を合わせたまま。両脚に装備されているミサイルラックも開く。


 兄妹の間に合図は必要なく、機体が動き出すのと同時に全砲門が火を吹く。

 決して一定以上の距離は近づかず、けれどトリガーを引く度に射線は変えて、人型魔導兵器と比べれば随分と小さな鎧に撃ち続ける。対するバハムートセイバーは、迫る砲弾にミサイル、魔力砲を全て躱しているが、聞いていたほどのスピードは出ていない。


 慣れない空中戦で動きが遅くなっている? あるいはなにか条件でもいるのか? 研究者としての好奇心が顔を覗かせるが、鋼の精神力でそれを抑えた。


「ああクソッ、いますぐ解体して全部調べ尽くしたい! データは取れてるんだろうな妹よ!」

「当たり前やろ! そのために無理矢理変身させてんやからな!」

「よし、ならいい! せっかくだから新武装を試すぞ! 取れるデータはできる限り多い方がいい!」


 などと言っている場合ではなかった。

 バハムートセイバーはこの場を離脱して、よそで戦っている生徒たちの方へ向かってしまう。あろうことか、シルフィードMarkIIに背中を向けて、だ。


「なんやあれ、舐めとんのかあいつ!」

「どうどう、落ち着け妹よ。どういうことか分からないけど、あれはこっちに興味をなくした、って感じか?」

「それが舐めとるいうとんねん!」

「無機物か有機物かで判断してるのか? いや、あるいは単純に数が多い方に? 魔力の総量を見てる可能性もあるな、さすがにこの場にいる生徒と魔物を合計すると、僕らでも魔力総量で負けるだろうし……」

「なにをブツブツ言うとんねんアホ兄貴!」


 増設されたスラスター全てをフル稼働させて、赤銅色の背中を追う。ここからだと砲撃できなくなった。やつが躱すと、その奥にいる生徒たちの邪魔をしてしまう。


 魔闘大会の時よりも機動力寄りにチューニングしたこの機体なら、余裕で追いつける。腰からフォトンソードを抜く。バハムートセイバーの背中に追いついて容赦なく振り下ろすが、その寸前、鎧が加速した。


「んなっ⁉︎」

「スピードが上がった……! やっぱり空中戦に慣れてなかっただけか!」


 シルフィードMarkIIを置き去りにし、暴走するバハムートセイバーは生徒と魔物が戦っているそこへ割り込む。


「うお、なんだこいつ!」

「魔物⁉︎」

「いや、この前の魔闘大会で見たことあるぞ! ハイネスト兄妹と戦ってたやつだ!」

「てことは、噂の転校生?」


 困惑の声を機体の集音器が拾う。幸いにしてヒュドラシャークを優先的に狙っているようだが、いつその矛先が生徒の方へ向くか分からない。

 嘘でも同じ学び舎に所属する同級生や先輩たちだ。死人でも出たら目覚めが悪い。


「全員退け! バハムートセイバーから離れろ!」

「死にたなかったら学園長かアカネさん呼んできい!」

「はあ? 何様のつもりだハイネスト兄妹! 俺らがぽっと出の異世界人より劣るってか!」

「天才だからってなめんじゃねえ!」

「ドリアナ学園諸島の生徒が尻尾巻いて逃げるわけにいかねえだろ!」

「このバカどもが……!」


 良くも悪くも実力主義の成果主義。それがこの学園であり、そんな場所で五、六年も過ごした彼ら彼女らからすると、突然現れた転校生から逃げるなんて選択肢はない。

 相手の実力も見分けられないなら三流以下だとなぜ気付かないのか。


『Reload Execution』

『Eclipse Overload』


 言い合う両者の間に、無慈悲な機械音声が鳴り響いた。

 魔力が、鎧へ収束する。

 そこでようやくマズいと気づいたのか、冷や汗を垂らして後ずさる生徒たち。


「お、おい、なんかヤバそうじゃね?」

「いやいや、たしかに凄い魔力だけど、こけおどしだろ、こんなの……」

「こけおどしでもなんでもない! 早くそこから離れろバカども!」


 バハムートセイバーの必殺技は、基本的に蹴りや斬撃など、魔力に指向性を持たせて放っている。

 だが今のこの状況、やつにとっては全方位に敵がいる今だと、どうなる?


「妹、データは!」

「工房に転送済みや!」

「よし、なら機体は捨てるぞ!」

「もったいないけどしゃーないか!」

「シルフィードを自爆させるぞ! 本当に早く離れろよ!」


 自動操作と自爆機能を立ち上げて起動させ、二人はコックピットから飛び降りる。飛行魔術を使える妹に首根っこを掴まれるイグナシオ。シルフィードの自爆と聞いてようやくことの大きさに気づいたのか、生徒たちは蜘蛛の子を散らしたように離脱を始めた。


 無人のまま自動操作でバハムートセイバーに組み付いた愛しい機体が、爆炎に包まれた。

 響く轟音。爆発に巻き込まれてヒュドラシャークどもは蒸発し、海に穴が開く。突風は嵐となって、僅かに逃げ遅れていたドラゴンが姿勢を崩していた。


 大型の魔力炉心を小型化に成功したシルフィードMarkIIの自爆は、まるでひとつの災害のようになっている。


「ああくそ、僕の機体が……」

「また作り直したらええやろ」


 さしものバハムートセイバーでも、この威力をまともに喰らえばひとたまりもないはず。なんなら勢い余って龍太とハクアが死んでないか心配なくらいだ。


 しかし、爆炎の中に二つの銀の光を見つけて、さしもの天才二人も絶句した。


「無傷、だと……?」

「嘘やろ……」


 無傷のバハムートセイバー。赤銅色の鎧には傷どころか汚れひとつなく、幽鬼のように佇んでいる。


 見れば、ガントレットにはホウライのカートリッジが装填されていた。あの土壇場で、また別のカートリッジを使ったのだ。


『Reload Execution』

『Eclipse Overload』


 続けて、再び絶望が。

 爆炎がやつの右手に収束する。ヒュドラシャークはさっきの爆発で全滅した。残っているのは、ハイネスト兄妹を始めとした生徒たちのみ。

 あの炎が放たれるのはどこか。天才の頭脳は理解を拒絶しようとしていた。


 いや、しかし希望を捨てるには早い。

 なんの考えもなく機体を自爆させたわけじゃないのだから。


位相接続(コネクト)、ドラゴニック・オーバーロード!」


 漆黒のロングコートを翻し、オレンジの輝きが軌跡を描く。

 今にも炎を解放しようとしていたバハムートセイバーとぶつかり、行き場を失ったエネルギーが衝撃となって周囲へ撒き散らされた。


 激突は一瞬だった。刀を抜いた新任教師は、焦ったような声に呆れの色も混ぜて、暴走している仲間へと刃を向ける。


「初日からなにやってんの、二人とも!」



 ◆



 尋常ならざる爆発に気がついた朱音が急いで駆けつけると、ある意味すでに手遅れだった。

 バハムートセイバーが起動され、その魔の手が生徒たちに向けられていたのだ。


 油断なく周囲をチラと見やれば、ハイネスト兄妹の姿が。機体がないということは、さっきの爆発は自爆でもしたのだろう。

 それ以外に被害がないことを確認し、ひとつ深呼吸して、刀を握りしめる。


 再び銀の瞳と視線をぶつければ、その仮面が、笑ったような気がした。


「全く、世話の焼ける子たちだね……」


 対してこっちは苦み走った笑みしか出ない。今のバハムートセイバーは、恐らく朱音がこれまで戦ってきた誰よりも、単純な強さで言えば一番だ。

 あの吸血鬼よりも、赤き龍よりも、さらに上。下手をしたら、自分や元の世界の仲間たちの誰よりも。

 まともに勝てるのは小鳥遊蒼などの規格外くらいだろう。そこに遠く及ばない朱音が、果たしてどこまでやれるか。

 あのスピードについていける自信があるとは言え、力比べに負けてしまえば意味はない。そこを補うのにどう工夫を凝らすか。


「どうせ変身解除されたら、また馬鹿みたいに後悔するのは目に見えてるんだから、好きなだけ暴れさせてあげる!」


 宙を蹴って駆ける。刀と剣が何度もぶつかり、その度に甲高い音と衝撃が撒き散らされる。


 こうなった時の対処法は、龍太とハクア本人達にも伝えてある通りだ。なんとかして銀炎を当てて、無理矢理十分経過させる。

 問題は、どうやって銀炎を当てるかになる。互いのスピードはすでに音速を超え、炎を展開させる僅かな隙すら惜しい。

 カートリッジを装填する隙を狙うか、あるいはここで真っ当に十分耐え凌ぐか。もしくは、もう一つギアを上げるか。


 選んだのは三つ目。一度距離を取り魔力を練る。当然のように追撃してきたバハムートセイバーは、天より落ちた雷に阻まれた。


「雷纒」


 龍具の片翼を補うように、三つの稲妻が翼となって伸びる。

 火花の弾ける音。刹那、朱音の姿が消えた。

 瞬く間にバハムートセイバーの懐へ潜り込んでおり、長い右脚が仮面の顎を捉える。錐揉みしながら空中を吹き飛ぶ敵へ、稲妻と化した朱音が追いつく。

 踵落としが脳天に炸裂して、赤銅色の鎧が勢いよく海へ落ちた。


『Reload Niraikanai』


 響く機械音声。立ち上る水柱がうねり、氷結し、氷の槍となって自在に操られる。巧みな空中機動で躱しながらも銀炎の展開に成功し、全身に纏う。


 あとはこれを当てるだけ。だが油断できない。ただ愚直に当てに行こうとしても無駄だろう。


 氷の槍が一向に当たらないことに痺れを切らしたのか、バハムートセイバーが空中へ戻る。正面から何度か斬り結び、朱音は僅かな違和感を覚えた。


 前よりも弱い?

 自分があのバハムートセイバーの動きに慣れているからそう感じるだけ、というのでは説明がつかない。たしかにスピードや動き自体には慣れているし、朱音の体もついていっているが。単純な出力、パワーそれ自体も落ちている。


『バハムートセイバーの特殊能力だ、アカネさん。僕らも聞いてたより大したことないと思ってたけど、フェーズ2は相手のスペックの上をいく特殊能力を持ってる、だったらローグでのあいつよりも弱いことに説明がつく!』


 突然通信をよこしてきたのは、天才兄妹の片割れ、イグナシオ。

 妹に首根っこを掴まれて離れたところを飛んでいるイグナシオは、タブレット端末を手に持っている。


『前回は黄龍ヨミのスペックに適応していた。今回はシルフィードMarkIIに他の生徒たちのスペックに適応してたけど、多分今は更にアカネさんのスペックに適応して全部乗算されてる!』

「それでもあの時に届かないとか、ヨミよりも私が弱いって言われてるみたいで癪だけど……でもまあ、それなら納得できるかな!」


 複数人の相手をする時には、どうしても後手に回りがちだったフェーズ2にはなかった仕様だ。

 適応して上書きするのではなく、乗算する。相手が多ければ多いほど、ねずみ算式にスペックが増加する。

 いや、ねずみ算は和算だったか。


 なにせ、前回はヨミだけではなく、ドラグーンアベンジャーに桃と緋桜、おまけに龍の巫女の二人までいた。あの出力も納得だ。


『いやでも、アカネさんの力も適応させとるんやろ? それでもついていけてるって、あの人どうなっとん……』

『異世界人は化け物揃いってことだろ』


 勝手に人を化け物扱いしないで欲しいが、簡単な話で幻想魔眼と概念強化をフル活用してるに過ぎない。


「ちなみに変身してから今何分くらい⁉︎」

『そろそろ七分!』

「あと三分か、だったらこのまま暴れさせ続けようかな!」


 いや、そんなに消極的な目標じゃダメだ。どうせならお灸を据えるつもりで、完全にノックアウトさせてもらおう。


『Reload Doppel』

「それはヤバい……!」


 余裕ぶっこいてたら、バハムートセイバーが四人に増えた。詩音から奪ったカートリッジだ。

 文字通り四方から襲いかかってきて、さすがの朱音も苦戦を強いられる。分身も同じだけのスペックを有している。ひとつ躱したと思えば別の方向から攻撃が来て、それも防いだと思うと残る二つが同時に来る。


 朱音の扱う独特な体術は、どのような状態からでもあらゆる動作に派生可能だ。その体術がなければ、いや、あったとしても防戦に回るのが精一杯。気を抜けばやられる。


 かと言って、援軍を呼ぶわけにもいかない。頼りになる人たちは多くいるけど、ここに呼んだらまたバハムートセイバーがパワーアップするだけだ。


 状況の打開策を練りながらもなんとか攻撃を凌いでいると、四人のバハムートセイバーが一度距離を取った。

 有利な状況を捨ててなにをするのかと思ったが、次の行動にギョッとする。


『Reload Execution』


 同じ機械音声が四つ。いっそ乾いた笑いが出てしまい、しかし諦めることはない。


 あちらが遠慮なしの全力で来るなら、こっちだって容赦する必要はないだろう。雷纒を一度解き、また別の元素を纏う。


「氷纒!」


 元素魔術と強化魔術の多重詠唱という、本来なら不可能とするはずの魔術。

 三つある纏いの中で、朱音が最もうまく扱えるのが氷纒だ。更にそこへ、氷結能力の異能までかけ合わせて。


『Eclipse Overload』

絶対氷結領域グラキエススクートゥム!!」


 ついこの前、龍太たちには説明したばかりだ。朱音が預かっている異能の中には、十全に扱えないものもあると。

 氷結能力はそのひとつだが、暴走したバハムートセイバーを止めるためにその制限を無理矢理解除する。


 四方から同時に迫るのは、必殺の威力を秘めたバハムートセイバーの蹴り。対して朱音は両手を大きく広げただけ。

 だが、本体も含めた四人全員が、朱音から半径五メートル以内に入ったところで、突然氷漬けになった。

 見れば、朱音本人の体もところどころが凍っている。右の手足なんかは真っ白に染まり、ボロボロと崩れ始めている。


 絶対氷結領域グラキエススクートゥム

 これこそ氷結能力の真価。使用者本人を中心とした半径数メートルのものを、強制的に凍らせる技。それは使用者すら例外ではなく、朱音がこれまでおいそれと使えなかった理由でもある。


 時間や空間といった概念まで凍らせてしまうため、氷漬けになって四人のバハムートセイバーは空中で静止している。このままでは銀炎も使えないため、技を解除。

 本体がどれかは分からないから、とりあえず海に落ちていく全員を銀炎で包んだ。同時に自分の体にも炎を纏って時間を戻す。しかしすぐに手足が生えてくることはない。これは、しばらく時間がかかりそうだ。


「急げ妹! 変身解除直後のデータも取るぞ!」

「ちょっ、三人はさすがに重いって! アカネさん、見とらんではよ手伝ってえな!」


 やがて浮かび上がってきた龍太とハクアの二人をイグナシオ兄妹と共に回収し、学園に戻ることにした。


 いやはやしかし、暴走するたびに手足が欠損してるようではやってられない。

 やはり、朱音自身の強化も必要だ。



 ◆



 翌日。

 目覚ませば日付が変わっていて、朱音に何度も謝ったあとに登校した龍太とハクアは、教室に来るまでも来てからも、周囲からの視線を感じずにはいられなかった。


「……なんでこんなに見られてるんだ?」

「そりゃリュウタが暴走したからな」

「それはイグナシオのせいだろ! てか昨日の今日でなんでこんなに広まってんだよ!」

「学生は噂話が好きやからなぁ。あ、安心してな、回収したデータはちゃんと役立てたるから」

「そういう問題ではないのだけれど……」


 どうやらイグナシオの言う通り、昨日の騒動が既に学園中に広まっているらしかった。

 自分たちの意思で変身したわけでもなく、またしても朱音に多大な迷惑をかけてしまった龍太は、朝から憂鬱で仕方ない。


 ほら今も、こそこそと話し声が聞こえて来るのだ。


「おい、聞いたか?」

「転校生のことだろ? 暴走した挙句にあの異世界人の先生の手足捥いだって」

「ハイネスト兄妹のファフニールもぶっ壊したらしいわよ」

「なにそれ怖っ……新しい問題児の誕生かよ」


 問題児って、いま問題児って聞こえたんだけど。噂話が聞こえてきた方を指差しながら無言でハクアに訴える龍太だが、ハクアは苦笑して首を横に振るのみ。


「嫌だ……なんで俺までこいつらと同じ扱いなんだ……せっかくのハクアとの学校生活なのに……」

「はっはっは! 諦めてその不名誉な称号を受け止めるんだなリュウタ!」

「うるせえ! 元はと言えばお前らのせいだろうがこのマッドサイエンティスト!」

「お陰で暴走時のデータが揃っただろうが! 感謝されるべきであって非難される謂れはないね!」

「お、なんだイグにリュウタ、喧嘩か? 戦うか? だったら俺も混ぜろ!」


 たった今登校してきたクロも混ざって、教室内はちょっとした騒ぎになった。まあ、最終的に全員ソフィアのゲンコツで沈められたのだが。


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