向き合うと決めたから 3
広いフィールドの上で、純白と黒影が何度も激しくぶつかり合う。
バハムートセイバーに変身した龍太とハクアは、フェーズ2の特殊能力により常に相手のスペックを上回ることができる。バハムートセイバー自体の素のスペックも当然高く、鋭く重く振われる剣が詩音の小太刀を何度も押し返していた。
しかし一方で、詩音も負けてはいない。動き自体は素人同然のものではあるが、やはりドラゴンの身体能力はバカにならないものだ。おまけに、影を媒介とした神出鬼没の移動能力や、詩音の影から出現する刃なども交え、バハムートセイバーと互角の戦いを演じている。
おまけに要所要所でヘルことヘルヘイムの援護が挟まるから、単純な人数的な不利、延いては手数が倍になっている。
やはり、変身したからと言ってそう簡単に御せる相手ではない。
「殺す、殺す、殺すッ……! れいくんの、仇を!!」
なにより厄介なのが、遠慮なく撒き散らされる彼女の憎悪と殺意。
スペックでは優っていても、精神的な部分で詩音は龍太よりも上を行く。復讐という絶対不変の目的を持つ彼女は、決して止まることなく暴走し続ける。
「けど、俺たちだって! 負けるわけにはいかねえんだよ!」
『Reload Explosion』
一度距離を取ってカートリッジを装填。ガントレットの先端に杭が表出し、追ってきた詩音の小太刀を躱す。カウンターに腹へ拳を叩き込めば、ガントレットの内部で爆発が起き杭が打ち込まれる。
その場で頽れる詩音。追撃に剣を振りかぶったところで、横合いからヘルヘイムの攻撃が。剣の軌道を直前で変え、迫る杭を斬り落とす。
その隙にも詩音は復帰していて、足元の影から喉元へと刃が伸びた。無理矢理体を捻って躱すが、純白と赤の鎧を僅かに掠める。
鎧越しだからダメージはないが、今の不意打ちは中々肝が冷えた。しかも態勢を崩したことで、攻撃のターンが入れ替わる。
「やあぁぁぁぁ!!」
「くそッ……!」
『組みつかれたら厄介ね!』
龍太が詩音の乱撃をなんとか受け止めながら、ハクアが魔力を動かす。虚空に現れた魔法陣から鎖が放たれ、詩音の手足を絡め取った。一瞬で破壊され力尽くで抜け出されるものの、距離を取るにはその一瞬があれば十分だ。
「さすがはバハムートセイバー、言うだけのことはありますね。ウタネ様、このままではジリ貧です。我らも、奥の手を使うといたしましょう」
「うん……」
ドラゴン化するつもりか?
ヘルヘイムの言葉に身構えるが、しかし二人の姿は人間態のままだ。一方で、その魔力はどこまでも練り上げられていく。
なにかが来る、という確信はあっても、その正体までは悟れない。
警戒する二人をよそに、ヘルヘイムはゆっくりとした足取りで詩音の隣に並ぶ。
そして、互いに手を取り合った。
「まさか、お前らも……!」
「「誓約龍魂」」
低く、静かな声で、言霊が紡がれる。
光の球体に包まれた詩音のヘルヘイムの二人。それが弾けて消えると、所々に青いラインの入った漆黒の鎧が現れる。バハムートセイバーのフェーズ2と同じく、いやそれよりも刺々しい、凶悪とも取れるデザイン。右腕にはこちらと同じ、けれど正反対の色をしたガントレットが装着されていて、真紅の瞳はまるで彼女の激情を表しているようだ。
「なんだよ、それ……」
『どういうこと……? どうして、ドラゴン同士が誓約龍魂を……』
「ドラグーンアベンジャー……それが、私たちの名前……りゅうくんに、復讐するための、私の力……!」
刀のような片刃の剣を腰から抜いた漆黒の鎧が、真紅の瞳で強く睨んでいる。
困惑が脳内を支配するが、考えている暇はない。もしも相手の誓約龍魂も龍太たちと同じものであるなら。いや、龍太たちと違い、完璧な状態であるなら。
少々、まずいかもしれない。
◆
『な、な、なんとぉぉぉぉ⁉︎ ヘル選手とウタネ選手まで一体化、変身してしまったぞぉぉぉぉぉ!! これはどういうことなのでしょうかクローディア様!』
『誓約龍魂だよ、見たらわかんだろ。どういう理屈かはオレにも理解できねえが、ドラゴン同士で誓約龍魂してやがる。ハッ、隠す気がなくなってきたなヘルヘイム。正体見たり、ってやつだ』
そんな実況と解説の声を聞きながら、朱音たちは観客席からフィールドを見下ろしていた。
そこで起きた光景は彼女らをしても全くの予想外であり、また、この世界の常識から考えてもあり得ないことと言える。
「ウタネって子はドラゴンなんでしょ? なんで誓約龍魂出来てるのよ」
「元人間、ということが関係しているのかもしれんが……しかし、ドラゴン同士の誓約龍魂など前代未聞だぞ」
ただただ困惑した様子のクレナとジンは、この世界出身だからこそ、余計に疑問が尽きないようだ。
そもそも誓約龍魂という技術自体、そこまで広く知られるものでもない。ハクアは出会った頃の龍太に説明していたが、これは本来、失われた古代文明の技術だ。龍太とハクアという身近な二人が普段から使っているから、他のメンバーも忘れがちになる。
魂と魂の融合。
朱音や丈瑠のような異世界人からすれば、それは文字通り常識の外にある現象。元の世界では考えられない、異世界の技術。
そうだと割り切ってしまえるからこそ、目の前で起きた現象に対する困惑も少なく済む。
まさか五色龍の一角がこんなところにいたかと思えば、随分とややこしいことをしてくれたものだ。
ややため息混じりに、朱音は頭の中にある知識を披露した。
「理屈の上だと、ドラゴン同士でも魂の融合はできるはずだよ。あくまでも、私たちの魔術式に置き換えたら、の話だけど」
「人間同士の誓約龍魂、って前例もあるんだ。まあ、あの人たちを比較対象にするのは違うと思うけどね」
丈瑠の言うあの人たちとは、小鳥遊蒼とアリス・ニライカナイのこと。
元は朱音と丈瑠同様に異世界人である彼は、アリスと誓約龍魂を結んでいる。しかし彼らの場合、様々な要因が絡まって可能としているのだ。
まず一つに、アリスが龍の巫女であるという点。龍神の魂を持つ彼女であれば、その他の人間と誓約龍魂を結べる。
そして次に、小鳥遊蒼が純粋な人間とは言えない点。詳しくは省くが、彼は元の世界で起きたあれやこれやのお陰で、魔術によって肉体が構成されている。魔力ではなく、魔術という概念そのものによって。
その他諸々の諸事情が複雑怪奇に絡まり、蒼とアリスは誓約龍魂を可能とした。
さてでは、東雲詩音と青龍ヘルヘイム。
この二人の間に横たわる、特殊で複雑な事情とはなにか。
「まず、詩音ちゃんの魂が純粋なドラゴンのものではない点」
「しかし、ドラゴンに変化している以上は魂から変質しているはずだろう」
「うん、ジンの言う通りなんだけど、肝心なのは純粋な、って言うところかな」
元は人間であった。その事実は変えられず、例え魂がドラゴンのものに変質したのであっても、やはり通常のドラゴンとはやや異なる。
なにせ外から手が加えられているのだ。
自然物と人工物では、全く同じものになり得ない。
「これはこの世界の人たちには分かりにくいかもしれないけど、私がいい例なんだよね」
「アカネが? ていうと、転生者とかいうやつの話になるわけ?」
「そう。私たち転生者は、一つの魂、一つの肉体に、二つ以上の魂の情報量を有している。つまり、任意で魂の上書きが可能なんだけどさ」
「……今、サラッととんでも無いことを言わなかったか?」
「いちいち突っ込んだら負けでしょ」
静かに戦慄するジン。一方でクレナは、早くも慣れてしまったのか、特に気にした様子もない。
「私たちの場合、魂の上書きをしたとしても、それそのものへ完全に変化するわけじゃない。桐生朱音の魂としての形は残る。多分、詩音ちゃんも同じだよ。東雲詩音としての形は残っていて、けれど決定的ななにかが書き換えられた」
「その決定的ななにか、っていうのは?」
「さあ? さすがの私も、そこまでは分からないかな」
あくまでも、転生者という特殊な異能を持つ者の観点から述べたのであって、魂そのものについては朱音も全てを知っているわけじゃない。
そもそも、元の世界でもこの世界でも、魂というのは生物のブラックボックスだ。判明していることの方が少ないし、まして朱音にとってここは異世界。彼女の知識が全て当てはまるとも限らない。
「それより、ちょっとまずいんじゃないかな、あれ」
丈瑠の声に会話を止めて再びフィールドへ視線を落とすと、そこでは漆黒に圧倒される純白が。
龍太とハクアの変身したバハムートセイバーが、詩音とヘルヘイムの変身したドラグーンアベンジャーに力で負けている。
これには朱音も驚いた。
バハムートセイバー フェーズ2は、常に相手のスペックの上を行く。あくまでも数値上の話でしかないが、その数値が一定でなく、相手に合わせて変化する。
にも関わらず、ここまで一方的な試合展開。
詩音が持っていた影の能力に、ヘルヘイムが持っていた物質構成らしき能力。この二つだけでもかなり厄介だ。なにせ三百六十度、どこからいつ攻撃が来るのか分からない。
おまけにあの鎧の力も合わされば、バハムートセイバーと互角以上に渡り合うと思ってはいたけど。
「リュウタとハクアの誓約龍魂が不完全だから、か?」
「不完全?」
これは朱音も初耳。今度は逆に、ジンが教えてくれた。
魂を一体化させる誓約龍魂だが、二人がそれを結んだのは、龍太がこの世界に来たその日、瀕死の重傷を負った時のこと。正確に言えば、龍太は一度死んでいる。消えいく命を繋ぎ止めたのが誓約龍魂であり、龍太とハクアは魂を融合させたのではなく、共有しているのだ。
魂を共有しているのは知っていた。十メートルという制限も勿論。
だが、一度死んだと言うのは完全に初耳だ。まさかそんなことになっているとは思ってもみなくて、朱音は思わずあんぐり口を開けてしまう。
「それ、ハクアがいなかったら……」
「朱音は復讐の手間も省けて、魔王の心臓も勝手に消えてただろうね」
「丈瑠さん? 言い方に棘がありすぎるのですが?」
恋人からの刺すような言葉に朱音はジト目になってしまう。
「でも、不完全ってことは……なるほど、色々と納得できるかも……」
「納得?」
「ああ、いや。こっちの話。今は関係ないよ。それよりほら、試合が動くみたい」
クレナの問いははぐらかして答えると、フィールド上では状況が動いていた。
観客席のここからだと、戦っている四人の声は聞こえないけど。敵として相対し、仲間として共に戦った朱音には分かる。
バハムートセイバーが、そう簡単に負けるわけない。
だって、正義のヒーローなのだから。
◆
「はぁ……はぁ……」
『つ、強い……!』
白銀の鎧は至る所に傷をつけ、肩で息をする龍太とハクアは、幽鬼のように立つ漆黒の鎧を見つめる。
ドラグーンアベンジャー。詩音とヘルヘイムが誓約龍魂によって変身したその姿。
超攻撃的な戦闘スタイルは、龍太たちに反撃の隙を与えてくれない。正面からは手に持った大きな刀が、側面と後方からは影の刃や杭が襲いかかってくる。間断のない攻めは休む暇も与えてくれず、見事にここまで削られた。
『もう終わりですかな? 存外呆気ないものですね』
「んなわけねぇだろ!」
『Reload Elucion』
カートリッジを装填した剣を、地面に突き刺す。すると大地を割って無数の木の幹が突き出し、一斉にドラグーンアベンジャーへと迫った。
俊敏な動きで躱す漆黒の鎧は、その動きから見て詩音の肉体を使っているのだろう。ということは、詩音の魂はまだ人間のものなのだろうか?
いや、それを考えるのは後だ。まずはこの試合に勝つことだけを考えないと。
槍となって迫る無数の木を躱す詩音から、舌打ちがひとつ漏れる。今もまたひとつ斬り落とし、彼女はカートリッジを手に取った。
右腕のガントレットから察してはいたが、やはりあちらもカートリッジシステムを使うのか。
『Reload Corruption』
一歩横にズレて避けた木に、そっと触れる。ただそれだけで、地上の木が全て腐り落ちた。
マズい。直感的に判断し、剣を地面から引き抜く。操っていた幹は全て、この国の地下深くに埋め込まれた大樹と繋がっていた。龍太がその繋がりを断ったからよかったが、少しでも判断が遅れていればこの国を守る大樹ごと腐り果てていたかもしれない。
「なんつー力だよ……」
『だったらこっちよ!』
『Reload Niraikanai』
次のカートリッジを剣に装填。刀身を氷が覆い、果敢に斬りかかる。
激しくぶつかる剣と剣。しかし詩音はなにかに気づいたようにすぐさま距離を取った。見れば、バハムートセイバーの剣とぶつかった場所が、凍てついている。
『さすがは龍神の力、といったところでしょうか。ウタネ様、どうやら龍の巫女たちは彼らの味方をするようですが、どう思われますかな?』
「だったら……みんな倒す、だけだよ……りゅうくんが正しいって、ヒーローだって言うやつは、みんな……!」
この世界を、敵に回してでも。
あるいは、そんな世界は無くなってしまえばいいと。間違っていると。
復讐鬼と化した幼馴染は、憎悪に塗れた声で叫ぶ。
『Reload Doppel』
『そのカートリッジは、まさかっ』
「お前が犯人だったのかよ、詩音!」
聞き覚えのある機械音声。
海水浴場で襲われた際に発動されていたカートリッジ。
しかし、その効果は違う。ドラグーンアベンジャーの姿が五人に増えた。分身を出すカートリッジだったのか。
「りゅうくんの、バハムートセイバーの仲間は、みんな殺してあげるつもりだったんだよ……? 同じ場所にいけるように、って……ふふっ、私って、優しい、でしょ?」
「どこがだよ……!」
自己陶酔するように立ち尽くす本体とは裏腹に、四人の分身は容赦なく襲いかかってくる。
鎧のスペックはほぼ互角。そこに数の利を持ち出されると、どうしてもバハムートセイバーが不利だ。フェーズ2の特殊能力も、多人数相手では相性が悪い。
ギリギリで分身たちの攻撃を躱しているが、それも限界がある。純白の鎧にはまた傷が増え、龍太とハクアは早急に判断を下した。
バハムートセイバーの中ではフェーズ2が最も強力な形態だが、なにもそこにこだわる必要はない。
『Reload Hourai』
『Alternative FlameWar』
純白の鎧が巨大な火柱に包まれ、拡散。迫る炎の波になす術なく飲まれ、分身たちは一瞬で全滅する。
紅蓮の鎧を纏ったバハムートセイバーは、全身から膨大な熱を放出していた。
炎龍ホウライ。その力は、龍太とハクアがうちに秘めし心の熱を具現化する。
最初に受け取った龍神の力であり、赤城龍太という少年にとってはこの上なく相性のいい力でもあった。
「俺一人に向けられるなら、いくらでも受け止めてやるよ。でもな、俺の仲間に手を出そうとしたことは、いくら詩音でも絶対に許さねえ!」
大地を蹴る。爆発を伴う勢いの疾駆は、ドラゴンの動体視力を以ってしても捉えられなかったか。懐に潜り込んだ時に、黒い仮面の奥から驚くような声が。
右手の斧を容赦なく全力で振り抜けば、ドラグーンアベンジャーの体が吹き飛ぶ。
戦況が、変わった。
『ホウライの力っ……なんとも厄介な!』
『わたしたちの熱を、甘く見ないことね!』
『Reload Vortex』
「おらぁ!」
カートリッジを装填した斧をサイドスローから投擲すれば、炎の渦となって敵へ突き進む。渦は迫るたびに勢いを増し、しかしヘルヘイムが作り出した壁に阻まれた。
気がつけばまた、太陽が雲に隠れている。
直感だけを頼りに背後へ回し蹴りを放てば、やはりそこには影を介して移動してきた詩音が。
「そう何度も同じ手は通じねえよ!」
「くうぅ……!」
蹴りは手元に命中して、詩音が剣を取りこぼした。怯んでいるその隙に、強く、大地を踏みしめる。右の拳に熱を収束させ、青い炎が灯る。
振り抜かれた拳。錐揉みに回転しながらフィールドの壁まで吹っ飛ばされた漆黒の鎧。直撃した箇所は焼け焦げ、バハムートセイバーの拳に込められた熱量を物語っている。
『やっぱり……リュータ、ドラグーンアベンジャーの弱点を見つけたわ』
「弱点?」
『ええ。バハムートセイバーとの決定的な違い。わたしたちと違って誓約龍魂が完全だからこその欠点』
二つの魂で一つの肉体を扱うのが、本来の誓約龍魂だ。しかし龍太とハクアの不完全な誓約龍魂は、一つの魂で一つの肉体を扱う。たからこそ可能としていることがある。
『あの二人、肉体の主導権を入れ替えられないみたいね』
人間の体は、魂二つ分以上の情報量に耐えられる作りではない。バハムートセイバーやドラグーンアベンジャーの鎧には、それに耐えるための意味もある。
ここまでの戦闘を見ても明らかだろう。動き自体は全て詩音のもの。ヘルヘイムが身体の主導権を握れるなら、そうした方が勝率は上がる。
厄介な能力による妨害はあるけど、言ってしまえばそれだけだ。
『面倒なところに気づいたようですな、白龍様。しかしそれが可能だとしても、私が手を出すのは興醒めというものでしょう。白龍様はその辺りの感性が鈍いと見える』
『負け惜しみにしか聞こえないわね、ヘルヘイム。その無駄な拘りは捨てた方が身のためだと思うのだけれど』
ハハハウフフと表面上は柔かに言い合う二人。ただ、ハクアの方は明らかにキレているのがよく分かった。
バハムートセイバーに変身しているから、パートナーの感情はダイレクトに伝わってくる。
立ち上がった詩音が、ぶつぶつとなにごとか呟いている。距離があってよく聞こえないはずが、ハクアと一体化していることにより鋭敏になった聴覚はその声を拾ってしまう。
「憎い……憎い……憎い……その熱が、その光が……! りゅうくんはいつも、そうやって……私の前で、輝いていて……!」
「詩音……?」
『様子がおかしいわね』
ゆらゆらと、今にも倒れそうになりながらもゆっくり、一歩ずつ足を進める。
先程までとはまた違った異質さ。玲二の仇を取るのだと燃やしていた仄暗さは、嫉妬の炎へと変わっている。
『ウタネ様。光が強いほど、影もまたその濃さを増すのです。しかしその影は誰も見向きもしない。光の主である者であっても。ですが今こそ、見せつけてやる時ではないのですかな?』
「うん……そうだね、ヘルさん……」
『Reload Execution』
『Dragonic Overload』
緩慢な動作で装填されたカートリッジ。その機械音声に、龍太もハクアも、今日何度目か分からない驚愕を露わにする。
エクスキューションのカートリッジを使った。あれは少し特別なカートリッジだったはずだ。つい先日、そんな話を聞いたばかりなのに。
なぜ、と考えるよりも先に、体は動く。ほとんど防衛本能に従う形で。
『Reload Execution』
『Dragonic Overload』
斧に装填したカートリッジは、ドラグーンアベンジャーと全く同じもの。
全身を赤いオーラが包み、炎を纏った斧へ収束していく。対してドラグーンアベンジャーの鎧は、青いオーラに全身を包んでいた。
しかし、その先が違う。どこか一点に収束することはなく、全身に纏ったままだ。そして右腕のカートリッジは一度分解され、右足へと再装着される。
やはりそれも、バハムートセイバーと同じ。
『白龍様。あなた様は我々の欠点は、誓約龍魂が完全ゆえのものとおっしゃいましたな』
『だったらどうしたのかしら……』
『ならばあなた様方の欠点は、言うに及ばず。不完全であることそのものであります』
殊更慇懃に、笑みも隠し切れず。
ヘルヘイムは、ある種当然であり、それでいて痛いところを突いてくる。
「ハッ! だったらなんだって言うんだよ! 不完全だろうがなんだろうが、俺とハクアは二人で一人。絆の強さならお前らに負けねぇ!」
「だったら……その絆ごと、私が全部壊す! りゅうくんの持ってるものは、全部!!」
高く跳躍するドラグーンアベンジャー。対するバハムートセイバーは、大地の上で腰を落とし斧を構える。
「やあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「おらあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
互いに必殺の一撃。これで勝負は決するだろうと、観客も、当人たちも確信していたけど。しかし。
激突が果たされることはなかった。
「ねえおじいちゃん、いつまで遊んでるつもり?」
黄色い髪、メイド服を着た年端のいかない少女が、その中心で両者の攻撃を受け止めていたから。
龍太とハクア、詩音は当然、ヘルヘイムさえも驚きと困惑がないまぜになったような声を漏らす。
『ヨミ……どうしてここにいる?』




