桐生朱音の怒り 1
詩音とヘル、桃と緋桜も当然のように二回戦を突破し、その日の夜。
日が落ち空が黒く染められても、むしろ今からの時間が本番だとばかりに騒がしい街中を、朱音と丈瑠の二人は歩く。
いわゆる飲み屋街にやって来たが、どの店も煌びやかな電飾を光らせているのは、元の世界とさして変わらない。
「この辺りだっけ?」
「だったと思いますが……あ、あそこです」
待ち合わせ場所の店を見つけて入ると、中はかなりの喧騒に包まれていた。標準的な居酒屋だ。客の年齢層は少し高めで、朱音と丈瑠のような若いカップルなんて見当たらない。仕事終わりのおじさんたちが一日の疲れを酒で癒しにきた、といった感じか。
近寄って来た店員に三人と告げて、席に案内される。四人掛けのテーブル席だ。どうやら朱音だけでなく、丈瑠もこの数日ですっかり有名人になってしまったらしく、周囲から視線を向けられていた。
中には、アイドルとしても有名な朱音を真近で見れたことで、テンションがハイになってる人もいる。
「変装してくればよかったかな?」
「どうせ無駄だと思いますが。あの人が店に来れば、嫌でも目立ってしまうので」
苦笑しながら、注文を取りに来た店員にビールを二つと適当なつまみを頼む朱音。日本のビールは苦かったのだけど、こちらの世界はエールビールが基本だから、フルーティで甘く飲みやすい。
二人がこれから会う人物は、それなりの有名人だ。その上、いつも目立つ格好をしている。だから朱音たちが変装したり認識阻害をかけたところで、結局無駄になってしまうのは分かりきっている。
ビールが運ばれて来たところで、とりあえず乾杯。ジョッキを傾け喉を潤す。ここにローラがいれば、アイドルがビールなんて飲むなと怒られてしまうだろう。
いや、私は断じてアイドルじゃないんだけど。
心の中で誰にでもなく否定して、ジョッキの中身を一気に空にする。
「ペース早いね。また悪酔いしても知らないよ?」
「その時はお願いしますね」
別に朱音は酒に強いわけではない。そもそも飲む機会自体がそう多いわけでもなく、元の世界では大体いつも酔い潰れていた。
魔力制御なり銀炎なりでアルコールを体から完全に抜くことはできるのだけど、それでは興醒めというものだ。
ビールのお代わりを頼んで空のジョッキを下げてもらうと、店内が俄に騒ついた。
店の入り口に視線をやると、大衆居酒屋に似つかわしくない豪奢な赤いドレスを着た妙齢の貴婦人が立っている。
あまりにも場違いな美しい女性に、客も店員も息を呑み、動きを止めていた。
イブ・バレンタイン。
今日の大会解説を務めていた人物だ。ドラグニアの先々代魔導師長である彼女は各方面で有名だが、この国においてはエリュシオンスタジアム建設で顔が広まっている。
おまけにあのアリス・ニライカナイの師匠でもある。
十年前、元の世界にいた頃からの知り合いでもあり、その時から外見に一切の変化がない。若々しいままで羨ましい限りだ。
周囲の視線を一身に集めても気にする素振りすら見せないイブが、ゆっくりと二人の元へ歩み寄ってくる。
「お待たせしました、二人とも」
「お久しぶりです、イブさん。すみません、忙しいのに呼び出したりして」
「構いませんよ。私も、久しぶりにあなたたちとは会っておきたかった」
丈瑠の言葉に柔らかい笑顔を返して、対面に腰を下ろしたイブが店員を呼んでワインを頼む。
こんな時でも営業スマイルを忘れず大きな声で注文を繰り返す辺り、見上げたプロ根性だ。
「それで、用件は?」
「いくつか聞きたいことはありますが、まず今回の赤き龍の件。イブさんはどこまで把握していて、どこまで介入できますか?」
枠外の存在と呼ばれる者たちがいる。
その文字通り、世界という枠に収まりきらない存在。ただそこにいるだけで、世界そのものに影響を与えてしまう体質を持った者たちのことだ。
例えば、己の意思とは無関係に世界を『破壊』してしまう者。
あるいは、本人が望みもしない停滞という形で、世界を『束縛』してしまう者。
はたまた、世界を強制的に『変革』へ導いてしまう者。
そう言った体質を持つが故に、どの世界にも長居することのできない世界旅行者。
少しでも長く留まれば、それだけ世界に体質の影響を及ぼしてしまう。その世界が滅んでしまう。
そう言った世界から爪弾きにされた者たちを指して、枠外の存在と呼ぶ。
イブ・バレンタインはそのうちの一人だ。
この龍と魔導の世界と朱音たちの世界は、位相の影響もあり枠外の存在が長く滞在していても大丈夫らしいが、朱音も詳しいことまでは知らない。
理解しようと思ってもできないだろう。枠の外、ルールの外の話だ。その内側に収まる朱音では、きっと彼女らのことをなにも理解できない。
そんな枠外の存在と呼ばれる彼ら彼女らは、どの世界からも受け入れられないが故に、どの世界でもその根幹に関わるところまで介入出来るわけではない。
世界の敵が現れたとしても、イブは直接手助けできるわけじゃないのだ。朱音たちの時もそうだった。多少の助力はしてくれたが、最後の決着はやはり、朱音たち自身の手で付けなければならなかった。
それはこの龍と魔導の世界でも適用されるはずだが、しかし同時に、朱音たちの時とは決定的に違う点がある。
「赤き龍、あるいは魔王。あなたたちの世界に封印されていた、枠外の存在ですか……」
敵も、赤き龍もイブと同じ、枠外の存在だからだ。
赤き龍がこの世界にいる限り、奴自身の意思とは関係なく、世界は変革へ導かれる。
例えば現在なら、少数の魔物の生息分布が変わっていたりなど、小さなところで影響は出始めている。
位相の存在するこの世界でも既に体質の影響が及ぼされているのは、ここがやつの生まれ故郷だからだろう。かつて古代文明を滅ぼし現在の世界を作り上げたという創世伝説のように、いずれは今の文明も。
逆に今はその程度で済んでいるのは、イブの存在が大きい。
彼女の体質は束縛。
世界を縛り、停滞させる、ある種赤き龍とは真逆の体質。
「残念ながら、あなたたちの持っている情報と私の情報では、大差がないでしょう。私もアダムも蒼も、十年前から調査は続けていたし、それらはあなたたちと全て共有して来た。そちらに新しい情報がなければ、の話ですがね」
アダムとは、イブのパートナーでもあり、この世界に滞在しているもう一人の枠外の存在のことだ。
その体質は破壊。
物理的なものから概念的なもの、果ては世界そのものまで壊してしまう体質。
彼も十年前から知り合いではあるが、そういえば現在はどこにいるのだろうか。以前はイブ同様にドラグニアの城で働いてたと思うけど。
少し気になったがアダムのことは後回しにして、朱音はもう一度イブに問いかける。
「なら、赤き龍を相手にする場合は? 相手もイブさんと同じ枠外の存在ですので。私たちの時よりも深く介入できるはずですが」
「ええ、そこは安心していい。何度かやつの端末とぶつかりましたが、普通に戦えた。ただ、本体が相手となると読めない。赤き龍は元々この世界の住人だ。私やアダムのような余所者とは違う」
「いえ、そこまでは任せませんが。赤き龍本体との決着は、私たちがつけますので」
「僕たちの未来は、僕たちの手で取り戻さないとダメですから」
力は借りる。朱音たちだけでは出来ないことが多くて、そのためには他の誰かが、仲間が必要だから。
でも、忘れてはいけない。これは未来を取り戻すための戦いなのだ。自分の未来は、自分自身の手で。
朱音はいつだってそうして来たし、丈瑠はそんな朱音の背中をいつも見てきた。
強い決意の下に告げられた言葉を前に、イブはほんの少し目を見張って、それから柔らかな微笑みを落とした。
「大きくなりましたね、二人とも」
「む、当然ですが。あれからもう十年ですよ、十年。私、もう母さんよりも身長高いですよ」
「そういう意味ではなく……いえ、まあ、たしかにそういう意味でも大きくなった。まさかあの朱音がビールを飲むようになるなんて、想像出来ませんでしたよ」
「私、もう大人ですから」
えへん、と胸を張る様は子供っぽいのだが、イブも丈瑠も優しいので何も言わない。
二人から温かい目を向けられていることに気づいて、背中のあたりがむず痒くなりコホン、と咳払い。居住まいを正し、ジョッキを煽ってから次の質問をイブへ投げた。
「赤き龍についてはわかりましたが。なら、白き龍については?」
「朱音たちと同行していたではありませんか」
やはり、そう答えるか。
予想通りの回答ではあるが、期待通りとは行かなかった。
「本人曰く、自分は白き龍ではない、らしいです。ただ、無関係ではないとも言っていました」
「ふむ……あなたたちはどこで白き龍のことを?」
「情報操作の異能」
「キリの『繋がり』ですか……となると、朱音が視た情報自体に誤りはなさそうだ」
情報操作の異能とは、朱音が仲間たちから受け継いだ力の一つだ。
この異能は幻想魔眼と同レベルに強力なもので、あらゆる情報の変換、抹消、構築が可能。そしてその副作用として、視界に収めたものの情報を可視化することができる。
ただし、この異能の使用には、高度な演算が必要となる。特別製の脳がなければ使うことすら叶わず、どころか異能に押し潰されて脳が焼け、使用者を死に追いやるだろう。
朱音も、概念強化により脳を強化した上で銀炎も使い、ようやく情報の可視化が可能になるだけ。異能の本分であるところまでは使えないし、戦闘では全く使い物にならない。
自分で使ってみて、この異能を戦闘中にばんばか使ってた仲間たちへの尊敬を新たにするほどだ。
間話休題。
そんな情報操作の異能を使ったのは、まだ朱音がルーサーとして龍太たちと敵対するよりもほんの少し前の話。
龍太とハクア、二人がノウム連邦への旅をしている時、隠れてこっそりと視た。
その時、ハクアが白き龍であると知ったのだけど。
「本人が否定している、というのがよくわかりませんね。それも完全に否定するわけではなく、関係自体はあると……」
「嘘をついているということはなさそうですが。なにか、言えない理由があるかもしれませんので」
龍太にすら真実を告げていない。
あの純白の少女のことを考えると、パートナーの少年に隠し事はしないはずだ。その上で、龍太にもなにも言わないということは、それなりの理由があるはず。
「なんにせよ、白き龍の存在は今回の一件に大きく影響するでしょう。赤き龍がどう対応するかも考えた方がいい」
「フィルラシオではハクアにそこまで執着していない様子でしたけど、赤き龍も彼女がそうなんだと思ってるみたいでした。それから、これを……」
丈瑠が虚空から取り出したのは、何枚かの紙を挟んだファイルだ。開いたその中から一枚の紙をイブに見せる。
そこに載せられているのは、神々しく美しいドラゴンの写真と、純白の少女の写真。
朱音も既に見せて貰っていたが、丈瑠がドラグニアの古代遺跡で回収した資料だ。
失われた古代文明の文字を使っているために内容まで読み取ることはできないけど、ここにハクアの姿が映されているのは、疑いようのない事実。
「ドラグニアの古代遺跡で回収しました。イブさん、この文字読めますか?」
「いや、これは私でも読めない。しかしこれは……ハクアのドラゴン態、と考えるのが普通ではありますが」
イブの言う通り、ハクアと一緒にドラゴンの写真が載せられているのなら、これは今は封じられているという彼女のドラゴン態と考えられるだろう。
しかし、それにしては分からない点が多すぎる。そもそもハクアは、なぜドラゴンの姿を封じられているのか。また、古代文明の研究施設だった遺跡に、なぜ彼女の写真が残されているのか。
なにより、あの古代遺跡で行われていたであろう研究内容が、一つの推測を打ち立てることになった。
「古代遺跡については、一応アリスさんにも伝えてますが。あの遺跡、ちょっと気になる点が多かったので」
「というと?」
「あの場で行われていた研究内容です。恐らく、人間と魔物の配合、あるいは融合を研究してたと思います」
古代語が読めるハクア曰く、異なる魔物同士の配合を研究していた、と日誌に書かれていたらしい。
そして、龍太たちが遭遇したという、魔物と人間が混ざり合ったような化け物。
魔物同士の配合はまだいい。その程度であれば、朱音の元いた世界、厳密には十年以上前の旧世界でも、魔術師の研究の一つとして普通に行われていた。龍太はこちらにも思うところがあったようだが、朱音のような生粋の魔術師からすれば、別に騒ぎ立てるようなことではないのだ。
しかし、それが魔物と人間の配合ともなれば、話は変わってくる。
恐らくあの研究所、表向きは魔物同士の配合を研究していたのだろうけど。地下深く、陽の光が当たらない場所では、決して表に出せないような後ろめたい研究を行っていた。
魔物と人間の配合もその一つであり、そうなると、丈瑠が回収した資料に載せられた写真も、ある程度の内容が読み取れてくる。
その答えは決して口に出さない。真実がどうであれ、いずれ本人から語られるのを待つべきだから。
「それから、遺跡の奥にイブさんのお仲間がいましたが」
「ほう、私たち以外にも枠外の存在が?」
「はい。多分この世界出身だと思うのですが。ハイエルフの女でした」
「ということは、彼女ですね……」
ふむ、と顎に手を当てたイブは、心当たりがあるのだろう。
あのハイエルフ、朱音のファンだとかふざけたことを抜かしていたが、紛れもなくイブたちと同じ、枠外の存在だった。
それだけの力を持っていたし、戦った時に妙な違和感を覚えたから。
そこにいるようでいて、どこか浮いている。いや、ブレていると言うべきか。
この世界に馴染んでいないような、奇妙な感覚。他の枠外の存在と相対した時には特に感じることもないそれは、きっとあのハイエルフ特有のものだろう。
あるいは、彼女の体質に繋がるものかもしれない。
「彼女のことは放置していても問題ない。あれはあくまでもただの観測者だ、こちらを害するようなことはしないでしょう」
「ならいいのですが」
個人的には面倒なので二度と会いたくないのだけど、そういうやつに限って何度も遭遇してしまうものだ。
あのハイエルフの女性も、またどこかでこちらに接触してくることだろう。
「ともあれ、今後も慎重に動きなさい。赤き龍がいつ、直接龍太の心臓を狙ってくるかも分からない。白き龍の件についても、まだ不明な点が多い。私の方でも調べてみますが、あまり期待はしないように」
イブの言葉に二人揃って頷く。
彼女に期待できなかったら誰に期待しろ、という話ではあるが。
話がひと段落したことで店員を呼び、適当に料理を注文。それから、気になっていたことを質問した。
「そういえばイブさん、今はどこにいるんですか? この前ドラグニアのお城に挨拶しに行った時はいませんでしたが」
「今はケルディムで厄介になっています。アダムもそこにいますよ。機会があれば、ぜひ案内しましょう」
「是非是非。一度でいいから行ってみたいんですよね、天空都市ケルディム」
全部が終わった後、家族も仲間も、みんな連れて観光に行くのも一興かもしれない。そんな未来を想像して、朱音は顔を綻ばせた。
◆
久しぶりに会ったイブとは積もる話もあったが、日付が変わる前に解散となった。
この時間になれば、街もいくらか落ち着いている。閉まっている店もそれなりに多いし、道の上にはあまり人影が見当たらない。
朱音と丈瑠には明日がある。まだ三回戦とはいえ、二日酔いの状態で戦うのは相手にも失礼だろう。
程よく酔いの回った朱音は翌日に引き摺らないタイプだけど、今はあまり酔っていないように見える丈瑠は結構二日酔いするタイプだ。
「では朱音、私は明日帰りますが、大会の方頑張ってください。あまり情けない結果でしたら、あなたも丈瑠も私が鍛え直してあげます」
「そうならないように頑張ります!」
にっこり笑顔で言われ、一気に酔いが覚めた。アリスの師匠であるイブがかなりスパルタなことは、朱音もよく知っている。なにせ目の前で両親がしごかれていたから。
毎秒何万発のガトリングに身を晒されひたすら銃弾を捌く母親の姿を、朱音は未だに忘れられない。
「イブさん、白き龍のこと、よろしくお願いします」
「ええ。先程も言いましたが、あまり期待しすぎないように。とはいえ、私も最善を尽くす。なんとかいい報告ができるようにはしましょう」
それでは、と別れの言葉を残し、イブはどこかへ姿を消す。
店の前に残された二人は、酔い覚ましついでに歩いてホテルまで帰ることにした。
足元がふらつくような感覚はなく、けれど頭がどこかふわふわとした心地。顔も少し赤いか。自分の状況は客観的に見れているから、そこまで酔っているわけではなさそう。
丈瑠も似たようなものだろう。
この調子だと、自分も彼も翌日に引きずることはなさそうだ。
そして、完全に人の気配がしなくなった頃、丈瑠が徐に口を開いた。
「ところで朱音、明日はどうする?」
「たしか、相手はあれでしたね」
昨日の二回戦を思い返す。
明日朱音たちがぶつかる予定の対戦相手は、結構手段を選ばないやつらだ。一回戦では試合前から対戦相手に毒を盛り、二回戦では確実に弱い相手が当たるよう、一回戦の時点から闇討ちを用いて対戦相手を選んだ。
そして、明日の三回戦。
ため息を吐き出して、自分の息がお酒くさいことにちょっと憂鬱になりつつ、周囲に視線を巡らせる。
「いっそのこと、本人たちに直接聞いてみます?」
どこまでも冷たい、地獄の底から聞こえてきたような殺気のこもった声が、夜道に響く。途端、周囲で気配が蠢いた。数は五人。どうやら本人たちはいないようだ。
姿を隠したままであっという間にこちらを取り囲み、影が声を発する。
「キリュウアカネにヤマトタケルだな。特に恨みはないが、これも仕事なんでね。せめて、明日の大会には出られない体になってもらう」
「雇われか……どうせ後ろ暗い仕事しかしてないようなやつらだし、ここで殺しておくかな」
「せっかく気持ちよくお酒を飲めてたのに、台無しだね」
五つの影が、同時に動いた。
五人という数の優位と、既に包囲している事実。敵は絶対に勝てると思っただろう。
だがその様なこと、桐生朱音を相手にすれば優位のうちに入らない。
丈瑠が体を屈ませた直後、全方位に不可視の斬撃が放たれて、五つの影が全て倒れた。
「な、一体、なにが……!」
苦しそうな声を挙げるのは、先程と違う影。街灯に照らされて露になった姿は、夜の闇に溶け込ませるためか、全身黒い衣服に身を包んでいた。顔も布で覆っているが、まあこいつがどこの誰かなんてのはどうでもいい。
朱音の斬撃から辛うじて直撃を免れたのか、右腕一本斬り落とされるだけで済んでいる。
状況が理解できていないのか他の仲間へ視線をやるが、残念なことに残りの四人は胴体から真っ二つだ。
「へえ、避けたんだ。なかなかやるじゃん」
「貴様、よくも──」
「一応、聞いておくけど」
虚空から取り出したシュトゥルムの銃口が、倒れたままの刺客の頭へ向けられる。
ただそれだけで言動の自由全てを封じられた影は、短く小さな悲鳴を上げた。
襲ってきた割には情けない。殺しに来たなら、殺される覚悟くらいはしておかなくては。
「誰が依頼人か、教えてくれるかな?」
「はっ、教えるわけないだろ。こっちだってプロだ、あまり舐めるなよ」
「あっそ、ならいいや」
乾いた銃声が夜の暗闇に響く。
もはや単なる肉塊となってしまった影には一瞥もくれず、死体は全て銀炎に焼かれて跡形もなく消え去った。
「聞かなくても分かってるし」
「問題は明日だね。どう出てくるか、ちょっと注意しておかないと」
「ですね。あまりにも度が過ぎるようでしたら、軽く再起不能にはしておきましょう」
どうやら、面倒な相手に当たってしまったらしい。
大きくため息を吐いて、二人は再びホテルまでの道を歩いた。




