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誓約龍魂バハムートセイバー  作者: 宮下龍美
第三章 英雄と偶像
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人型魔導兵器ファフニール

 朱音たちが向かった森の方には、残念ながらなんの痕跡も残されていなかったらしい。拠点に使えるような建物もなく、魔力の残滓もうまく消されていたのだとか。

 まあ、元からあまり期待していなかったと朱音も言っていたし、今はこれ以上拘泥する必要もないだろう。


 さて、明くる日の今日は、魔闘大会三日目。二回戦が行われる日だ。

 龍太とハクアの出番は第三試合、そのため最初から控室に来ていたのだが。


『またしても圧勝ォォォォォォ!! キリュウアカネ&ヤマトタケルペア、二回戦も相手を圧倒しての勝利です! アカネ選手に至っては、この試合でも魔力を使いませんでした! その体術のみで相手ペアを文字通り一蹴! このペアを止められるものはいるのか⁉︎』

『彼女が本気を出すとすれば、準決勝あたりからでしょうね。正直、今の朱音は並みの魔導師では相手にならない。丈瑠の成長にも目を見張るものがありますが、やはり朱音の前では霞んでしまう』


 テレビの向こうでは、第一試合が終わったところだった。一回戦と同じく速攻で終わらせた朱音と丈瑠は、もはや相手を見ることもなくフィールドから退場する。


 本日の解説は、ドラグニアの先々代魔導師長であり、このエリュシオンスタジアムの設計にも携わったらしい、イブ・バレンタインという女性だ。豪華な赤いドレスを纏った貴婦人、その口振りから察するに朱音と知り合いなのだろうか。


「三回戦も同じ展開になりそうね」

「順調に勝てれば、俺たちが当たるのは四回戦の準々決勝か……」


 当然龍太とハクアもそこまで勝ち進むつもりだが、いざあの二人と戦った時、これまでの対戦相手と同じパターンになりたくない。

 一回戦、二回戦と見た限り、朱音の動きは目で追える。あとは体が反応できるかどうか、できたとして、彼女の蹴りを防げるか。


 あのスピードとパワーだ。まともに貰えば龍太も一発KOだろう。以前戦った時のことは参考にならないし、できるなら朱音が動くよりも早く、バハムートセイバーに変身、短期決戦を狙うのがベストか。

 いや、変身できたとしても、銀炎の時界制御をどうやって突破しよう。


「だめだ、勝てるビジョンが見えねぇ……」

「アカネたちの対策はまた今度、ゆっくり考えましょう。それよりも、今は目の前の試合よ」

「だな。たしか相手は……」


 一昨日の試合を見ていたから、対戦相手の顔は把握している。室内を見渡して探していると、部屋の扉が開かれた。

 全員の視線が、入室者へ向けられる。それもそのはず、入ってきたのは一回戦でとんでもない試合を見せた二人、詩音とヘルだったから。


「詩音……」


 彼女はこちらを一瞥しただけで、近づいてこようともしない。仕方ないことだと分かっているが、改めて幼馴染との断絶を実感してしまい、胸が痛くなる。


 離れた位置に座った幼馴染から視線を切り、大きく深呼吸。今から二回戦だ。動揺を残してしまえば、戦闘にも影響が出る。

 今は目の前のことだけを考えろ。

 詩音と向き合うのは、二回戦に勝って、明後日の三回戦、フィールドの上で。


「ハクア、絶対勝つぞ」

「当然よ」



 ◆



『さあさあさあ! ついに二回戦第三試合です! 会場の皆様も待ち焦がれていたのではないでしょうか! 今大会注目ペアの一組、一回戦でドラグニア神聖王国の重鎮二人を下したダークホース! アカギリュウタ&ハクアペアの登場です!!!』

『一回戦の映像は私も見ましたが、中々興味深い二人だ。誓約龍魂(エンゲージ)にカートリッジシステム、龍神の力。そしてそれらを扱うあの二人も。条件さえ揃えば、優勝も狙えるでしょう』

『対するはドリアナ学園諸島よりやって来た新進気鋭の二人組! 魔導工学の天才児、イグナシオ・ヴァン・ハイネスト&ソフィア・ヴァン・ハイネストペア!』

『各国が卒業後の進路を注目してる兄妹ですね。一回戦ではまだ実力の全てを出していたわけではないようでしたが、この二回戦はそうもいかないでしょう。彼らの開発した人型魔導兵器は、私も興味がある。是非見てみたいものだ』

『両者イブ様からも高評価! 果たして勝つのはどちらか⁉︎』



 ◆



 フィールドの中心に立つ四人の少年少女。

 この大会の暗黙の了解とでも言うべきか、試合開始直前にはこうして集まり、握手を交わしている。当然一回戦でも同じことをしていた。

 龍太としても、試合という形式で戦う以上、妙な禍根を残すような試合はしたくない。スポーツマンシップというやつだ。

 だから、努めて笑顔で手を差し出したのだけど。


「よろしくな」

「アカギリュウタ、ひとつ僕と賭けをしないか?」


 金髪碧眼の眼鏡をかけた美少年、イグナシオ・ヴァン・ハイネストは握手に応じることなく、突然の提案をしてきた。


「僕が勝ったら、バハムートセイバーについて徹底的に調べさせてくれ」

「は? バハムートセイバーについて、って……何を企んでるんだよ」


 自然、警戒度を上げてしまう。

 昨日はただでさえスペリオルの件があったのだ。そんな折にこの提案。警戒するなという方が無理な話である。


 イグナシオはふっ、と口角を釣り上げ、眼鏡を人差し指で抑える。

 なんかイラッとする動作だ。顔がイケメンだから余計に。


「なにも企んじゃいないさ…….ただ、そこに未知の技術がある! 僕はそれを徹底的に究明したいだけなんだ!!」


 キラキラと、いやギラギラと瞳を燃やし輝かせ、力強く叫ぶイグナシオ。興奮しているのか、顔も少し紅潮している。

 なるほどこいつ、イケメンの皮を被った変態だな?


「なあいいだろうアカギリュウタ! もちろん礼はする! 先っちょだけ、先っちょだけだから!」

「礼を貰ったら賭けにならねえだろ……」


 頭いいのかバカなのかどっちなんだ。

 チラリとハクアを横目で見やると、どうやらイグナシオの勢いに気圧されているらしく、苦笑気味にどうしましょうかと視線で尋ねられる。

 いや本当、どうしましょうかね……。


 二人して返事を渋っていると、スパンッ! と気持ちのいい音が。

 イグナシオの隣に立っていた少女、兄と同じ金髪をハーフアップに纏めたソフィア・ヴァン・ハイネストが、兄の後頭部を叩いた音だった。


「やめんか見っともない! 二人とも困っとるやろ! いやすんませんなお二人さん、うちのアホ兄貴が」

「酷いじゃないか妹よ、僕はただ僕自身の知的好奇心に従っているだけなのに!」

「それをやめぇ言うとんや!」


 まさかの関西弁に驚いていると、兄妹喧嘩が始まってしまった。

 ていうか、異世界に関西弁とかあるんだ。位相の影響による翻訳はどういう風に働いてるんだよ。


「ていうかその賭け、俺らが勝ったらどうしてくれるんだよ」

「学園にある僕らの工房に案内するよ! その時にちょ〜〜〜っとだけ、バハムートセイバーを触らせてもらえたりすると嬉しいかな!」

「結局そっちにしか得がねえじゃねえか!」

「もうちょいマシなん思い浮かばんのかアホ!」


 賭けの意味わかってんのかこいつ! 

 龍太とソフィアの二人から突っ込まれて、さしものイグナシオも肩を縮こめる。


 しかし、今まで沈黙を保っていたハクアから、予想外の言葉が。


「うーん、それでいいんじゃないかしら?」

「えっ」

「は?」

「本当か⁉︎」


 え、いいの? バハムートセイバーを触らせるって、つまりハクア的には割とデリケートな感じじゃないの?

 龍太の肉体を使っての変身とはいえ、ハクアと一体化しているのだ。自分の体を触られるのも同義。そんなもの、ハクア自身が許しても龍太が許さない。


「あっ、もちろんわたしたちが勝ったら、バハムートセイバーには指一本触れさせないわよ? でも負けたら、あなたの好きなようにすればいいわ」

「ちょ、いいのかよハクア⁉︎」

「ええ。この賭けに乗るだけの価値が、彼らの工房にはあるのよ」


 正直龍太は、この二人の凄さを微塵も理解できていない。

 ドリアナ学園開校以来、最高の天才だと言われていることは知っている。しかし、ハクアがこの賭けに乗るほどのやつらだとは。


「ホンマにええの? このアホ、ホンマに全部解明するまで、あんたらのこと一日中離さへんで?」

「バハムートセイバーは制限時間つきだから、一日中は不可能なのだけれど……」


 サラッと弱点を暴露してしまったことに、ハクアは気付いているのだろうか。

 けれど純白の少女は美しく微笑み、余裕の表情で天才二人へ告げる。


「そもそも、勝つのはわたしたちなのだから。負けた時のことなんて考えるだけ無駄だもの」


 あまりにも堂々とした布告に、ハイネスト兄妹はぽかんと口を開けた。一方の龍太は、くつくつと笑みが溢れてくる。


 ああそうだ、そうだった。そもそもこの二回戦は最初から勝つつもりしかないのだから、負けた時のことなんて考えるだけ無駄だ。


「へえ、えらい自信やんか。言うとくけど、ウチらはドラグニアのお偉いさんみたいに手加減せえへんで?」

「望むところだわ。せっかくの魔闘大会、全力をぶつけ合ってこそだもの」


 女性二人で激しく火花を散らすその横で、男二人、何故かほんの少し肩身の狭い思いをしていた。


「白龍様ってこんな方だったのか……」

「まあ、結構熱くなるタイプなんだよな、こう見えて」

「アホ兄貴! ここまで言われたら絶対負けられへんで!」

「リュータ、この天才どもにわたしたちの力を知らしめてやりましょう」


 やる気満々な女性二人が所定の位置まで下がり、龍太とイグナシオもそれぞれのパートナーに続いて下がる。


 そろそろ試合開始の時間だ。

 事前に決めておいた作戦通り、ハクアと手を繋ぐ。


「なあ、あいつらの工房ってそんなに凄いのか?」

「そうね。彼らは本物の天才よ。アリスが専攻している分野が兵器開発という話は、以前したことがあるわよね? あの二人は、アリスが魔導具を開発する時、助言を求めるレベルの天才。そう言ったらリュータにも分かりやすいかしら?」

「あのアリスさんが……」


 龍の巫女という称号は、龍太でも分かりやすい最強だ。

 その最強の中のさらに最強と言われるアリス・ニライカナイが、まだ学生の兄妹に助言を求める。


 なるほど、ハイネスト兄妹がいかに天才なのかよく分かった。


「でも、だからって負ける理由にはならねえな」


 ギュッと、互い違いに指を絡めて繋いだ手の力を、ほんの少しだけ強くする。そしたらハクアからも同じ反応が返ってきて、二人で眼前の相手へと視線を投げる。


 賭けに負けないために、三回戦で詩音と戦うために、こんなところで負けてられない。


 試合開始のゴングが、高らかに鳴り響いた。



 ◆



「「誓約龍魂(エンゲージ)!!」」


 試合開始と同時、龍太とハクアの力ある言葉が重なる。

 二人の体が光球に包まれ、即座にバハムートセイバーフェーズ2への変身を果たした。

 狙うは速攻。妙なことをされる前に倒す。


 大地を蹴って高速で駆ける純白の戦士に対し、ソフィアが前に出て迎え撃つ。


「オラァ!」

「……ッ! ええ拳もっとるやないの!」


 腕をクロスしてバハムートセイバーの拳を防いだソフィア。予想以上の威力に驚いて表情を僅かに歪めたのも束の間、反撃の回し蹴りが飛んでくる。


「アホ兄貴! あんま時間かけられへんで!」

「任せろ妹! 昨日のうちに調整は終わらせている、すぐにでも呼べるぞ!」

『なにをするつもりか知らないけれど!』

「簡単にやらせるかよ!」


 ソフィアとの接近戦を切り上げて距離を取り、離れたところで魔法陣を広げたイグナシオへガントレットの銃口を向ける。が、その一瞬の隙を突いて、今度はソフィアがこちらの懐に潜り込んでいた。

 バハムートセイバーの右腕を蹴り上げ、ガントレットから放たれた魔力弾はあらぬ方へ飛んでいく。


「天才様らしくない戦いだなオイ!」

「ウチらかて護身術の格闘技くらいは修めとるわ!」

『絶対護身術のレベルじゃないのだけれど……!』


 拳のラッシュをなんとかいなす。ソフィアの体術はたしかに強いが、普段朱音の動きを真近で見ているのだ。これくらいなら対処可能。半歩だけ下がって大振りの攻撃を誘う。しかし相手は乗ってこない。

 カウンターを決めてやろうと思っていたのだが、どうやら随分と戦い慣れているようだ。


 拳に一層の魔力を込めて、逆にこちらから大振りの攻撃をしかける。

 相手も同じくカウンターを狙ったのだろうが、フェーズ2の力を甘く見てはいけない。


 ソフィアの予測よりも遥かに速い拳が、彼女の顔を捉えた。弾丸のように背後へ吹っ飛ばし、休む暇もなくイグナシオへ狙いを定める。


「次はお前だ!」

『Reload Particle』


 ガントレットの銃口から放たれるのは、人を簡単に飲み込むほど巨大な光。大気を焼き切る荷電粒子。


 早くも決着を確信した龍太だったが、その予想は容易く裏切られる。


「準備完了だ! 行くぞ妹よ!」

「遅いわアホ兄貴!」

「「起動(イグニッション)!」」


 イグナシオの魔法陣が完成した。

 バハムートセイバーの放った光は、魔法陣から徐々に出現する影に阻まれる。影はぐんぐんと空へ伸び、やがて完全顕現を果たしたのは巨大な人型のシルエット。

 空の色をした鋼鉄のボディに、人間に似せられた顔。全長六メートルはあるだろうか。両肩にはガトリングが装備され、足首のあたりにはミサイルポットが。背中には固定翼とスラスターも完備。おまけに固定翼から下に伸びる形で、ビーム砲まで。

 巨人の胸が開き、イグナシオとソフィアが乗り込むと、両の瞳が兄妹と同じ碧色の光を宿した。


 あまりにも想像の斜め上な光景に、龍太は思わず、力の限り叫んでしまう。


「ロボットじゃねえかッッッ!!!」


 どこからどう見てもロボットだった。しかもスーパー系ではなくリアルよりの。


「え、マジで? この世界ロボットあんの⁉︎」

『人型魔導兵器ファフニール……まさか本当に完成していたなんて……』

「こんなもん一回戦で使ってなかっただろあいつら!」

『調整がどうとか言っていたわね……一回戦には間に合わなかったんじゃないかしら』


 まさかまさかのロボット登場に唖然とする龍太と違い、ハクアはこいつの存在自体は知っていたらしい。

 ただ、完成しているとまでは思っていなかったようで、彼女の驚愕が伝わってくる。


 そんな地上のバハムートセイバーへ向けて、ロボットのスピーカー越しにイグナシオの声が響く。


『ははははは!! 驚いたか二人とも! これが僕たち兄妹、最大にして最高の研究成果、人型魔導兵器ファフニール三号機、シルフィードMarkIIだ!』

『いやぁ作るん大変やったんやでこれ! 一号機はまともに動かんかったし、二号機はパイロットが死んでまう可能性あったし! 複座式にしてどうにかこうにかやっとや!』

「そもそも人型魔導兵器ってなんだよ……! そいつだけ世界観おかしいだろ! 龍と魔導の世界にSF持ち込んでんじゃねえ!」

『これも立派な魔導科学の結晶だ! それに、ファフニールの原型は古代文明の遺産だからな! 世界観が合わなくても仕方ない!』


 そう言われると納得してしまうから腹が立つ。

 龍太も入ったことのある古代遺跡、ドラグニアにあったあの遺跡はこのロボットと同じく、思いっきりSFだった。

 あれと同じものが原型に使われていると聞かされれば、納得するしかないだろう。


『行くでバハムートセイバー! こっからが本番や!』

『君たちを倒して、その鎧の全てを余すとこなく究明してやる!』


 鋼鉄の巨人改め、シルフィードMarkIIが動き出す。

 対するバハムートセイバーは、ロボットに比べてちっぽけな剣を抜きながら、叫び返した。


「巨大ロボットがなんだこの野郎! すぐに鉄屑に変えてやるよ!」

『ヒーローの力、舐めないことね!』

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