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誓約龍魂バハムートセイバー  作者: 宮下龍美
第三章 英雄と偶像
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魔闘大会、開催 3

「どういう、こと……? りゅうくんが、どうして……」


 観客席の最前列。フィールドを見下ろす東雲詩音は、眼下の戦闘を呆然と見つめる。

 全身を騎士甲冑で覆った男が、純白の戦士と剣で斬り結んでいる。その純白が、どこまでも忌々しくて憎らしい。

 そのはずだったのに。どうして。なんで。


 大切な幼馴染の仇は、もう一人の幼馴染だった。


「ヘル、さん……知ってた、の?」

「ええ、存じておりました。しかしウタネ様のことを思い、決して言うまいと思っていたのですが……」

「そう、なんだ……」


 ヘルは優しいドラゴンだから、気を遣ってくれたんだろう。

 なら、龍太は? どうしてバハムートセイバーのことについて、なにも言ってくれなかった? 直接顔を合わせたのは、今朝のほんの少しの時間だけだ。それでもあの時、一言誤解だと言ってくれればよかったのに。

 そうしてくれればきっと、詩音はヘルよりも龍太を信じることができたのに。


「ウタネ様。困惑しておられるでしょうが、これが真実です。彼は紛れもなく、レイジ様の仇。()()()()()()()()()()()()()()()()()()レイジ様を、情け容赦なく殺した張本人でございます」

「うん……そう、だね……分かってるよ……」

「あなた様が殺さなければならないのは、アカギリュウタと白龍ハクア、あの二人。あなた様の知る大切な幼馴染は、もうどこにもいないのです」


 玲二は死んだ。この世界に来てすぐ、バハムートセイバーに殺された。

 龍太も、もう昔とは違う。きっとあの女に、白いドラゴンに唆されて、変わってしまった。


 だから、終わらせなくちゃ。終わらせて、あげなくちゃ。

 私が、彼の夢を。



 ◆



 バハムートセイバー フェーズ2の特殊能力は、常に相手のスペックを上回るという強力なものだ。

 相手によってバハムートセイバーの力も変動し、適応し、数値の上だけでなら負ける要素などない。


 だが、それはあくまでも数値上の話。

 こと戦闘においては、それだけで測れないものなどいくらでもある。

 例えば、火事場の馬鹿力と呼ばれるものだったり。あるいは、シンプルに経験そのものだったり。


 逆に単純な話をしてしまうと、いくら敵のスペックを上回ったところで、人数の不利はどうやっても覆らない。


「どうした、バハムートセイバー! 正義のヒーローはこの程度の実力しかないのか!」

「くそッ! さっきまでは本気じゃなかったのかよ!」

『リュータ、左!』


 無理矢理身体を捻って、正面の剣と左から迫る魔力の槍を躱す。底上げされた身体能力がなせる技だ。しかし、関節や骨にはかなりの負担がかかる。僅かに軋みを上げる全身の悲鳴も無視して、一度大きく距離を取った。


 油断することなく、カートリッジをガントレットに装填。機械音声が鳴り響く。


『Reload Particle』

「これでも喰らえ!」


 銃口を露出させたガントレットから、極光が迸る。加速された荷電粒子が一直線にルシフ、いやルシアへと突き進むが、王を庇ってシルヴィアが割って入った。


闇を砕く光輝の顎(グリッターファング)!」


 展開した魔法陣から解放されるのは、光り輝くドラゴンの頭。大きく開かれた凶悪な顎が、バハムートセイバーの放った光を噛み砕いた。

 予想外の光景にギョッとして、その隙にもルシアは懐まで潜り込んでいる。


「この程度で驚いていてどうする!」

「ぐァッ……!」

『きゃあっ!』


 逆袈裟の一撃が直撃して、後方へ飛ばされる。追い討ちをかけるように、シルヴィアの召喚した光の龍が顎を開いて迫っていた。

 すぐさま体勢を立て直し、剣に魔力を集中。極限まで斬れ味を増した刀身が、光の龍を両断する。


『リュータ、ここはフェーズ2のままよりもオルタナティブで戦った方がいいわ!』

「だったらこいつだ!」

『Reload Niraikanai』

『Alternative BlueCrimson』


 バハムートセイバーの鎧が変化する。深い海の色をした鎧と、氷のような銀の瞳。魔導師のローブを模したマントと杖。


 バハムートセイバー ブルークリムゾン


 龍神の一体、ニライカナイの力を宿した戦士が、距離を保ったまま杖を振るう。


「げっ、アリス様の力……!」

「怯むなよシルヴィア」

「無茶言わないでください陛下!」


 地面の至る所から氷山が隆起して、ルシアとシルヴィアは上空へ飛び上がることで躱していた。そこに無数の氷柱を撃ち込むと、シルヴィアの防壁が二人を守る。

 だが命中した氷柱は、みるみる内に防壁を凍らせていった。


 驚愕に目を見開くシルヴィア。やがて完全に凍てつき、防壁は音を立てて砕ける。


「うそぉ⁉︎」

「どうした、手は抜かなくていいぞ?」

「抜いてませんよ! ちゃんと全力で防ぎました!」

「お喋りしてる暇はねえぞ!」

『畳みかけるわよ、リュータ!』


 撃ち続ける氷柱の勢いが増し、ついにシルヴィアの前に出たルシアがひたすらに斬り落とす。

 休む暇を与えず、必殺のカートリッジを杖に装填した。


『Reload Execution』

『Dragonic Overload』


 バハムートセイバーの全身を紅いオーラが覆い、それが杖の先端へ収束する。

 広がるのは巨大で複雑な魔法陣。そこへ惜しみなく魔力を注ぎ、全てを凍らせる氷の息吹が迸る。

 なすすべなく飲み込まれるルシアとシルヴィア。だがこれで終わりなわけがない。以前、その名前が出た時に聞いている。


 ドラグニアの宮廷魔導師長、シルヴィア・シュトゥルムは、龍神の娘だ。

 いくらバハムートセイバーが龍神を模した力を行使しているとは言っても、本物の龍神の血を引くドラゴンには届かないだろう。


 その予想は覆ることなく、ローブの節々に霜が降ったシルヴィアは、魔術的な防壁ともまた違う光の壁でルシアを守っていた。

 元より今の一撃で終わるとは思っていない。だから、畳みかける。


「まだまだぁ!」

『Reload Hourai』

『Alternative FlameWar』

『Reload Execution』

『Dragonic Overload』


 立て続けに鳴る機械音声。バハムートセイバーの鎧が炎の紅蓮へと変化し、杖は斧に変形する。

 膨大な熱が鎧から吐き出され、ブルークリムゾンの一撃により下がっていた気温が急激に上がり始めた。


「任せるぞ、シルヴィア」

「陛下も手伝ってください!」

「俺にあれは防げないだろう」


 再び纏った真紅のオーラが斧へ収束。炎を纏い、宙を飛ぶシルヴィア目掛け跳躍。全力の一撃を振り下ろした。


「オラァァァァァァ!!!」

『はあぁぁぁぁぁ!!!』

「くっ、うぅ……!」


 ついに光の壁が砕け、斧を振り抜きシルヴィアの華奢な体が地面に突き刺さった。ルシアに手助けしようとする気配はなく、ならば容赦なく追撃させてもらう。


 オルタナティブを解除、フェーズ2に戻ったバハムートセイバーが、三度カートリッジを装填。右腕のガントレットが分解、右足へと装着される。


『Reload Execution』

『Dragonic Overload』

「これでっ!」

『終わりよ!』


 真紅のオーラが右脚へ収束されて、純白の流星が落とされた。


 衝撃で砂塵が舞い、抉れた大地の中心。仰向けに倒れたシルヴィアと、その顔の真横に蹴りを突き刺したバハムートセイバー。


「なぜ当てなかった?」


 ゆっくりと地面に降り立ったルシアが剣を鞘に収め、シルヴィアを起こしながら問うてきた。

 龍神の娘は顔を青くしていて、彼女もトドメを刺されるものだと思っていたらしい。


「これは、誰かを守るための力だ。例え試合だったとしても、軽々しく人に向けて使うものじゃない」

『いくら結界の中では死なないとは言っても、痛みは生じるもの。知り合いを痛めつけるような趣味はないわ』


 龍太が使う力は、元をただせば赤き龍に帰結する。この心臓に宿った力は、敵の親玉と同じものだ。

 だからこそ、使い方を誤りたくない。やつらのように、人々を苦しめるような使い方はしたくない。正義のヒーローとして、誰かを守るために力を使う。


 この戦いがただの試合に過ぎないのだとしても、それを例外にしたらダメだ。

 いついかなる時も、その信念は曲げず貫き通す。


「合格だな」


 微笑み、ルシアが兜を脱いだ。一国の王と言うには若く見える精悍な顔立ち、ドラグニア人特有の白い髪と、射竦めるような眼光。

 兜を取れば王としての威厳が増したように思えてしまい、途端、これまでの言葉遣いを後悔する龍太。

 世界最大最強の国を治める王様に、あろうことかタメ口で話していたなど。場合によっては不敬罪で斬り捨てられてもおかしくない。


「我々の降参だ!」


 しかしルシアがそれを咎めるようなこともなく、彼は会場全体に向けて降参を宣言した。

 激しく派手な戦いとその結末に、観客が湧く。ドラグニアの重鎮二人をその目で見れたことに加え、誰も予想していなかった龍太とハクアの力。

 観客のボルテージが上がるのも、当然のことだ。


「すまなかったな、リュウタ。君の力は、ドラグニアの王として確かめなければならなかった。バハムートセイバーを使うことも、君は望んでいなかっただろう。幼馴染の存在を使って脅迫したことも、謝罪させてくれ」

「え、いや、ちょっ、頭上げてください! 王様に謝られると逆に怖いですって!」


 こんな大勢の前で、一国の王が一人の異世界人に頭を下げるなど、本来ならあってはならないことだろう。

 逆に居心地が悪くなる龍太だが、女性二人はそう思っていないようで。


「謝らせておけばいいのよ、リュウタ。今日の陛下はおいたがすぎたわ」

「シルヴィアの言う通りね。リュータを馬鹿にしただけでなく、脅迫までしたもの。偉くなったものね、ルシア」


 いや、実際に偉い人じゃん。

 長寿なドラゴン特有の感覚は、やっぱり龍太にはわからない。


「シルヴィア、あなたもよ? もう魔導師長になったのだから、友達ができたなんて嘘をつくくらいなら、ルシアの暴走くらい止めなさい」

「う、嘘じゃありませんよ! わたしにも友達のひとりやふたり、できましたから! ……異世界人ですけど」

「城の中にはいないのね……」


 ボソッ、と最後に付け足された弱々しい言葉は、どこか哀愁の漂うものだった。

 龍神の娘で宮廷魔導師長なのにボッチなのか、この人。


「さて、そろそろ帰るぞシルヴィア。遅くなるとアリスがうるさいからな」

「早く帰っても一緒だと思いますが……」

「アオイに止めてもらうよう頼むとするか。では、先に失礼する。リュウタ、アリスからも言われたとは思うが、なにかあれば我が国を頼ってくれ。我々は君の力になろう」

「あ、ありがとうございます!」


 頭を下げると、ルシアとシルヴィアは転移魔術で姿を消した。

 彼のせいで詩音にバハムートセイバーとしての正体を晒してしまったとはいえ、ルシアの方にも立場による事情があった。


 世界最大最強の国を治める国王だ。

 異世界人一人の個人的な事情よりも、当然そちらの方が優先される。


 それに、ルシアの言葉は図星だった。

 いつまでも隠し通せるのか、と。

 そんなわけがないのだ。幼い頃からずっと一緒にいた詩音にバレてしまうのは、時間の問題だった。

 だからこれは、ルシアが悪いわけじゃない。問題を先送りにしようとした龍太が悪い。


「リュータ、これからどうするの?」

「話し合う、って言っても、それで解決できるとは思えないもんな……だからここで、詩音と向き合うよ」


 そのためにも。あともう一つ、二人は勝利を重ねなければ。



 ◆



『一回戦第五試合! 怒涛の展開の末に決着となりました! ドラグニア神聖王国の国王陛下と宮廷魔導師長の登場に、リュウタ選手、ハクア選手の変身! ローラ様は全てご存知だったのでしょうか⁉︎』

『もちろんだよ! ルシア陛下とシルヴィアお姉ちゃんが正体を明かすとは思ってなかったけど、リュウタお兄ちゃんとハクアお姉ちゃんの変身は予想通りかも。バハムートセイバーを使わないとこの先勝ち残れないし、遅かれ早かれだったんだよ』

『そのバハムートセイバーというのは、リュウタ選手とハクア選手が変身した姿のことですね! 人とドラゴンの一体化というと、やはりあれしか思い浮かばないのですが……』

『その通りなんだよ。ふたりは誓約龍魂(エンゲージ)を結んでるから、ハクアお姉ちゃんの龍具を媒介にして変身、一体化してるんだよ。しかもアリスお姉ちゃんとクローディアさんの力も、カートリッジシステムで擬似的に再現してるから、これからぶつかる相手はかなり苦戦するかも』

『なんとなんと! 龍の巫女に認められた戦士ということですか! これはいよいよ、今後の展開が読めなくなって参りました! 第一回大会ベスト8と準優勝ペアだけでなく、そのようなペアまで参加していたとは! ですがまだまだ、一回戦は残っています! 果たしてこの先も、我々を驚かせてくれるような選手が現れるのでしょうか⁉︎』

『ローラの見立てだと、少なくともあと一組はいるんだよ』

『それは益々楽しみです! 会場の皆さんも、先程の試合でボルテージは最高潮! さあ続いて第六試合に参りましょう!』

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