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誓約龍魂バハムートセイバー  作者: 宮下龍美
第三章 英雄と偶像
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アイドルデビュー 3

 城都から西へ車で二時間。

 ギルドの魔導師に送ってもらった龍太とハクア、朱音と丈瑠の四人は、まず古代遺跡の入り口で受付を済ませることに。


「よかった、ここまではまだ私のこと流れて来てない……」

「さすがに距離があるし、テレビとかなさそうだものね」


 ここに来る途中でも、車をゆっくり走らせてもらって城都の様子を覗いてみたのだけど。やはりどこもかしこも、新たなアイドルの誕生で盛り上がっていた。あの感じだと、朱音がちょっと外を歩いただけでも大混乱だ。


 だが、さすがに古代遺跡まで話が広がっていることはないようで。

 恐らくは龍太たちと同じ予選目的であろう魔導師たちは、朱音の姿を見ても騒ぐことはない。そもそもここに街や村などと言ったものはなく、遺跡の入り口付近に詰所があって、何人かの兵士がいるくらいだ。


 その詰所に四人で入ると、中にいたのはローラと同い年くらいの茶髪の少年。手元の紙にペンを走らせる彼を見て、朱音はあっ、と声を上げた。


「アレス、久しぶり。ギルドにいないと思ったらこんなとこにいたんだ」

「げっ、アカネ……それにタケルも……」

「久しぶりだね、アレス」


 どうやら、アレスと呼ばれた少年と知り合いらしい。朱音の口振りからするに、ギルドの関係者だろうか。

 ていうか、めっちゃ嫌そうな顔されてますよ朱音さん。嫌われてんの?


「相変わらず可愛げないなー。ローラはあんなに可愛く素直に育ったのに」

「ふん、男に可愛げなんて必要ないだろ。それで、なんだってこんなところに来たんだよ。まさか、魔闘大会の予選か?」

「そうそう。私たちと、あとこの二人もね」


 後ろに立っていた龍太とハクアを指し示して、少年の視線がようやくこっちに向いた。


「私の今の仲間たち。赤城龍太くんと白龍のハクア。龍太くんとは歳近いから、仲良くしてね」

「なんでアカネが俺の保護者面してるんだよ……アレス・ローレライだ。見た通りまだガキだけど、ローラのパートナーやってる。よろしくな」


 少年らしく、くしゃっとした笑みを見せてくれるアレス。どうやらアカネに対してだけ塩対応のようだ。


「パートナーってことは、もしかしてあなたがギルドマスターなの?」

「まあ、一応な」

「アレスはね、ローラが心配で一緒に田舎から出て来たんだよ」

「そ、そんなんじゃねえよ!」


 顔を真っ赤にして否定してるあたり、どう見ても()()()()だ。まあ、この歳頃の男子は色々と複雑だから、あまりそっち系で弄ってあげないでほしい。


 その辺りの心境は同じ男の丈瑠も理解できるのか、彼から助け舟が出る。


「アレスはまだ子供だけど、ギルドマスターの仕事も完璧に出来るし、魔導も優秀なんだよ」

「ま、まあな!」

「ローラのためにたくさん頑張ったもんね」

「だからローラは関係ねえよ!」


 ダメだ、助け舟が秒で沈んだ。

 ニヤニヤと意地の悪い笑顔でアレスを弄る朱音の、まあ生き生きしていること。

 これまでもなんとなく思うことがあったが、この人、他人の恋愛とか絶対大好きだろ。龍太もハクアとのことで結構揶揄われるし。


「そんなことよりっ! 予選に来たんだろ。ほらこれ、ここに名前書いてくれ」


 机の上に置いてあった紙を、それぞれのペアに渡される。名前の記入欄と、注意事項がいくつか並べられていた。名前を書くことでそれらに同意したことになるようだ。

 と言っても、書かれているのは遺跡内での怪我に責任は負わないとか、同じ参加者の邪魔はしたらダメとか、そういうもの。


 龍太はこの世界の文字を読めても書くことはできないので、ハクアにお任せした。朱音と丈瑠も同じらしく、結局ハクアが四人分の名前を書くことに。


「名前くらい書けるようになった方がいいよなぁ」

「あら、わたしがいつも一緒にいるのだから、問題ないわよ?」

「いや、そうだけどそうじゃなくて……」


 たしかにその通りなのだけど、毎回ハクアに書いてもらうのも申し訳ないし。あとなんか恥ずかしいんで、その言い方やめてもらってもいいですか。


「よし、これでオーケー。取ってきてもらうのは、この遺跡の一番奥にあるこれな」


 机の引き出しから取り出したのは、成長しきってないアレスの手にも収まる小さな鉱石だ。以前他の遺跡で見たドラグニウムとは、また違う別の鉱石。


「魔光石って言って、最初に手に取ったやつの魔力を流すと光るんだ」


 アレスが軽く魔力を流すと、石は淡く光りを帯びる。手渡された龍太も魔力を流してみるが、アレスの言った通り光ることはない。無骨な石のまま。

 これで本物かどうかの確認と、他人から奪っていないかの確認ができるというわけだ。


「でも、それだと遺跡の中でこいつに全部触っちまえば、誰にも渡せなくなるんじゃないのか? そうなったら予選どころじゃなくなるだろ」

「リュータ、注意事項にも書いてるわよ」

「ちゃんと読めよな」


 ハクアに加えて歳下のアレスからもちくっと言われてしまい、龍太は言葉に詰まった。

 見れば、たしかに書いてある。

 魔光石の独占は禁止、確認され次第失格になる、と。

 だが注意事項に書かれてるからと言って、それを律儀に守るやつばかりとは限らない。むしろ、予選をめちゃくちゃにしてやろうと企む輩だっているだろう。


「そうなったらそうなったで、また予選の方法を変えるだけだよ。実際、私が昔参加した時は途中で予選のルールが変わったみたいだし」

「それに魔闘大会は国とギルドの共同運営なんだ。ローグ以外の大国も注目してるし、そんな中で予選を荒らす程度のことしか考えられないやつなら、そもそもなにもできないよ」


 第一回大会の時に予選のルールが変わったのは、多分朱音たちが暴れ回ったせいだと思うんですけど……直接見たわけでもなく話も聞いたわけでもないが、絶対にそうだと思う。


 だが一方、丈瑠の言葉は十分納得できるものだった。

 その程度のことしかできない小悪党なら、国やギルドに喧嘩を売るようなことはしないか。


「あ、そうだ。なあアレス、詩音のこと知ってるよな? 今遺跡の中にいるか?」

「ウタネならついさっき帰ったけど」

「入れ違いかよッ……!」


 まさかまさかの、ここに来て。

 まあ、車で二時間の場所に数日前から滞在してた、となればこうもなろう。

 そこまで考えを巡らせなかった龍太の落ち度だ。


 逆に言えば、この予選にはそれだけ時間がかかるかもしれない、ということで。

 果たして今日中に帰れるかどうか、怪しくなってきた。


 アレスに見送られて詰所を出た四人は、早速遺跡の入り口に立つ。

 ここの古代遺跡はドラグニアの遺跡と違い、地上に広がるものだ。城のような外観に苔むした壁、ところどころが今にも崩れそうなのは、いかにも遺跡っぽい。


「そういえばハクア、今回はあんまりテンション上がってないな」

「ええ、この遺跡は以前来たことがあるのだけれど、古代文明の遺跡ではなかったのよ」

「……うん? いや、それなら古代遺跡とは言わなくないか?」

「正確には違うことになるわね。けれど、古代文明が滅んだ後の遺跡とは言っても、とても古いものには違いないわ。だから考古学者以外の人からしたら、たいして変わらないのよ」


 言われてみれば、この外観からはドラグニアの遺跡のような、やけにハイテクな感じは想像できない。むしろ龍太からすれば、こちらの方が遺跡と聞いてしっくり来る。


 あのSFじみた高度な技術力こそ、失われた古代の文明。そしてそれらが滅んだ後の時代、文明が衰退し切った時代の遺跡だからこそ、逆にこちらの方が時代がかって見える。


「二人とも、ボーッとしてたら置いてっちゃうよー」


 遺跡に入ろうとしている朱音から声がかかった。協力するのはありなんだろうか、と思ったものの、さっき読み直した注意事項には特に書かれてなかったし、気にしないことにしよう。



 ◆



 ローグに残ったジンとクレナの二人は、まず宿の確保に向かった。ギルドの魔導師にオススメの宿を教えてもらい、値段はそれなりに張るが繁華街に程近く、ご飯の美味しいところを三部屋確保。

 ちなみに部屋割りは龍太とハクアとエル、ジンと丈瑠、クレナと朱音とアーサーだ。

 さすがのクレナも、パートナーとはいえ婚約者以外と同じ部屋に泊まることはない。野宿ならまだしも。


「さて、まずはどこから見て回る?」

「スタジアム周辺がいいんじゃないか? ライブが終わったばかりとは言え、魔闘大会関連の催しや出店もあったはずだ」


 預かっていた全員分の荷物をそれぞれの部屋に置いて、エルとアーサーに留守番を任し、二人はライブ会場でもあり魔闘大会の会場でもあるスタジアムへ向かうことに。

 目的は情報収集。大会出場者のそれも当然集めるが、それよりも重要なのは、人間のドラゴン化について。


 本来龍太たち一行は、龍太の幼馴染を探すと言う目的ともう一つ、そちらの調査も頼まれていた。

 だが龍太は幼馴染との再会が目の前に迫ったことで、頭の中から抜け落ちていたらしい。それは仕方ないことだ。誰も彼を責めようなどとは思わない。

 だからこうして、別行動中のジンとクレナが動く。


 龍太にとって大切なのは幼馴染の方だ。

 本人にそのつもりはないだろうが、言ってしまえばドラゴン化の調査なんてついでもついで。

 ならここは、友人を助けるべき。幸いにして、グレイフィールドの名前とギルド所属魔導師ということで、色々動きやすい立場にいるから。


 早速向かった先のスタジアムで、その辺の人たちに聞き込み調査を開始する。相手は選ばない。出店の店員だったり、地元の人だったり、魔闘大会の参加者っぽいやつらやスタジアムのスタッフ、警邏中の騎士やギルドの魔導師まで。


 物怖じせずに話しかけられるのはクレナの性格もあるだろうが、グレイフィールド家に長く留まったことの経験も多分に含まれる。

 百年戦争終結から何十年もあの家にいたのだ。仕事の手伝いはするし、その中で商人としてのノウハウは叩き込んでいる。それだけの長い時間があれば、体に馴染むのも当然。


 その代わりになぜか、グレイフィールド家の次男はそっち方面からっきしなのだけど。

 まあ、ジンのコミュニケーション能力は計算されたものじゃないから、それはそれで役に立つ。パートナーのクレナが上手いこと使ってやればいいだけだ。


 粗方話を聞き終えた二人は、最後に立ち寄った焼肉串の出店でそれぞれ小腹を満たしつつ、茜色に染まる空の下で聞いた話を総括していた。


「やはり、さすがにドラゴン化の話自体は誰でも知っていたな」

「ニライカナイ様が大事にはしないって言ってたけど、一応ニュースにはなってたみたいね。でも、特にこの国の人たちは危機感を持ってないように見えた」


 現在のローグは、一年を通して最も海外から人が集まっている。

 ローラのライブに魔闘大会。

 世界中を見ても、上位に食い込むレベルで大きなお祭りだ。ここに並ぶのは、ドラグニアの建国祭くらいではないだろうか。


 そのおかげで毎年ローグの夏は毎日がお祭り騒ぎ。浮かれた気分になれば、人はついうっかり口を滑らせやすくなる。クレナの鍛えられた話術も相まって、普段あまり言えないようなことも聞いたりした。


 例えば、巫女たちに対して不満を漏らす商人とか。

 あるいは、ギルドの存在自体を疎ましく思ってる傭兵とか。


 だが他方で、この国の住民は皆一様に、人間のドラゴン化という現象やそれに対応する各ギルド、龍の巫女に対して随分と信頼を寄せている。


「木龍の巫女は、あらゆる植物を操る。転じて、どんな薬でも生み出すことができる。なるほどたしかに、そんな巫女の庇護下にいるのなら、楽観視してしまうのも無理はない」


 納得したように頷くジンの言う通り。

 木龍の巫女はその力で以って、過去にも様々な病からこの国を、世界を救ってきた。先代の巫女、現ドラグニア王妃のナイン・エリュシオンなどは、救世の聖女とまで呼ばれていたほどだ。


 そして当代の巫女、ローラ・エリュシオン。

 おっとりした性格のナインとは似ても似つかないし、本当に同じ血族なのか疑うほどに正反対な二人だが、木龍の巫女としての役目はしっかりと果たしている。

 先代と同じく、力によるものだけではなく彼女自身の人柄で、国の人々を癒やし、笑顔にしているのだから。


「ローラ様が頑張ってる証拠って思えればいいんだけど、まあ、それにしたってよねぇ」

「多少は仕方ないだろう。スペリオルについても、すでに一度大規模な殲滅作戦が成功しているからな。今の世の中は比較的平和と言える。十年前の邪龍教団のことを思い出してみろ」

「たしかに。最近の方がよほどマシだわ」


 ともあれ、ローグ国民の意識としては。

 今の世の中は平和そのものであり、何が起こっても龍の巫女様がどうにかしてくれる、というようなものだ。

 事実この国では未だに人間のドラゴン化が起こっておらず、スペリオルが現れた形跡もない。


 スペリオル関連については、今後も地道な調査と警戒を続けるしかないだろう。


 もう一つの調べごと、魔闘大会の参加者についてだが……。


「どうする? これ、あの子たちに伝える?」

「伝えるしかないだろう。どの道予選の期限が過ぎれば、トーナメント表が張り出されて知ることになるんだ」


 一組、厄介なペアがいた。厄介というか、確実に優勝候補の一人だ。

 ジンもクレナも、その二人を知っている。ジンは直接会ったことがあるし、クレナは過去にも何度かこの大会を見に来たことがあるから。

 今日言われてから思い出したが、クレナはたしかに九年前、観客席から戦うアカネを見ていた。なぜ今まで忘れていたのか不思議だ。


 第一回大会にて準優勝。龍の巫女のアリスが優勝してしまったため、実質優勝と言ってもいいそのペアを。


「まさか毎年参加してるなんてね……ローラ様も教えてくれたらいいのに」

「アカネに随分懐いていたようだしな。これもあの方なりに戯れているつもりじゃないか?」

「だったら相当タチが悪いわよ」


 ジンとクレナの二人が集めた情報によると。

 曰く、第一回大会で準優勝した二人は、翌年からかなり力を制限して参加していたらしい。参加理由は修行の一環。

 そしてその二人が、今年は久しぶりに力の制限を解除する。


 第一回から魔闘大会を見に来ているという熱心な大会ファンは、九年前の感動にまた出会えると期待を大きくしていた。

 同じく第一回を見ていたクレナからすると、あれは相手も相応の実力者だったからこその見応えであって、今年もいい試合が見れるとは限らないが。


 いや、一戦だけなら確実に見れるか。

 朱音であれば、あのペアに勝てる可能性はある。


「そういえば、アカネは第一回にも参加していたんだろう? その時はどこまで勝ち進んだんだ?」

「たしかベスト8まではいってたわね。準々決勝くらいで負けたんじゃなかったかしら。その時はタケルがペアじゃなくて、灰色の翼を生やした同い年くらいの女の子がペアだったわよ」

「九年前だから、15、6歳か。恐ろしいものだな、異世界の魔導師は」

「アリス様以外はベスト8が全員異世界勢だってんだから、こっちのやつらも頑張ってほしいわよ」


 肩を竦めてため息を吐くクレナに、ジンは苦笑する。

 正直、時界制御と幻想魔眼なんてとんでも能力を持つ朱音でも準々決勝で負ける、というのが全く想像できない。


「アカネでベスト8ということは、相手はそれ以上の化け物だったのだろうな」

「まあそうね。あれは私も見た瞬間に勝てないって思ったわ。時界制御使ってるアカネと正面から斬り合うし、問答無用の切断能力も効いてる様子なかったし、今のアカネと同じ、空の元素だったかしら? あれと全く同じ魔術をより練度の高い術式構成で使うし。あとなにより、殺気がヤバかったわ」

「そんなにか……」

「そんなによ。観客席全員が思ったんじゃない? 殺される、って」


 説明している中で徐々に、そして鮮明に当時の光景を思い出してきた。


 直接対峙しているわけではなく、ましてや観客席という絶対的に安全な位置から傍観しているだけでも。

 その殺気は。殺意は。

 見ている全員に生命の危機を感じさせた。


「で、それ以上に強いやつが、今年は参加する。本人たちは優勝する気でいるけど、どうなるかしらね」

「リュウタとハクアのことも忘れてやるなよ。ハクアも言っていたが、バハムートセイバーを使えばもしかするかもしれないぞ。なにより、最近のリュウタの成長には目を見張るものがあるからな。筋肉のつき方が違う」

「あんたはそればっかね、筋肉バカ」


 とはいえ、まずは予選だ。

 毎年多くいる参加希望者を篩いにかける予選は、当然それなりの難易度を誇る。ローラもそう言っていた。


 予選を突破すると信じて、今日の夕食は少し豪華にしてもらう予定なのだ。

 四人とも無事に本戦に出てくれないと困る。

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