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誓約龍魂バハムートセイバー  作者: 宮下龍美
第二章 誰も知らない必然
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幕間 船上にて

 旅の仲間にクレナを加えた一行は、事件解決から五日後、龍太とジンが退院して三日後にセゼルの街を発った。


 目指すは南の大陸にある国、ローグ。

 龍の巫女が滞在する国家の一つで、ドラグニアとは良好な関係にある。

 担当している巫女はエリュシオン。木の龍神を宿した巫女だ。その先代、ナイン・エリュシオンはドラグニア王家に嫁ぎ、現王妃となっている。


 城都は港湾都市。ドラグニアのように広大領土を誇っているわけではないが、南の大陸の玄関口として多くの人が滞在しているらしい。セゼルと街の雰囲気は変わらない、とはハクアの談。

 あと、魚介系の料理がどれも絶品らしい。こちらは朱音からの情報だ。


「この世界って、魚を生で食べる文化がないんだよね。だから刺身とかお寿司とかはどこにもなくてさ。その代わり、焼き魚がどれも結構美味しいんだよ」


 と、かつて食べた料理に想いを馳せているのか、少し機嫌良さそうに言う朱音。


 現在地は海の上。グレイフィールド商会の用意してくれた船の、その甲板に出た龍太とハクア、朱音の三人は、穏やかな海を見下ろしながら他愛のない話に花を咲かせていた。


 天気は快晴。先日の津波が嘘のように波も穏やかで、風も強くない。絶好の航海日和と言えるだろう。


「でも魚って、どこで獲るんすか? 海の中は魔物がいるし、まさか全部養殖?」

「やだなー龍太くん。魔物を食べるんだよ?」


 はははまたまたご冗談を。いくら俺がこの世界の常識に疎いからって、まさか魔物を食べるとかそんな。


 が、しかし。朱音に冗談を言っている様子は見受けられない。

 思わずハクアの方を振り返ると、コクリと頷きがひとつ。マジで?


「え、魔物って食えんの?」

「種類によるとは思うけれど、食べれないことはないわよ? 特に魚介系は多いんじゃないかしら」


 なにを当然のことを、と言いたげなハクア。そんな異世界の食事事情は知りたくなかった……。


「私たちの世界でも、サメとかクジラとか食べるじゃん。それと同じだよ」

「同じ、なのか……?」

「それに魔物って魔力を持ってるから、普通の魚よりも美味しくなるんだよ。こう、魔力のお陰で旨みが凝縮されるって言うのかな。脂の乗り方とかも普通の魚とは違うし、その分調理にも魔導が必要みたいだけどね」


 そして、生魚を食べる文化がないのも、そこに起因する。

 普通の魚ならまだしも、魔物ともなると生はまずい。持っている魔力が人体に悪影響を及ぼすからだ。フグ毒のようにそこだけ抽出すればいいわけでもなく、そもそも魔力で体を構成しているのが魔物だ。

 魔力を完全に抜き取れば粒子となって消えてしまうし、かと言ってそのまま食べるわけにも行かない。

 だから、特殊な調理法が必要だとか。


「そもそも、よく魔物を食おうって気になったな……」

「日本人が言うセリフじゃないけどね」


 まあ、フグやジャガイモなんかはわざわざ毒を抜いてまで食べるし、こんにゃくとか言う意味わからんものまでわざわざ食用にするのが日本人だ。

 そう考えるとたしかに、日本人である龍太には何も言えない。


「ついでに、私たちの世界の魔物も食べられるやつ結構いるよ。昔は食糧難だったし、私もよく食べてた」

「もはや食えればなんでもいいのでは」

「ま、美味しかったらね」


 朱音の言う昔とは、厳密には未来の話。

 もはやどこにも記録されていない、今から十年後の滅びを迎えた世界。


 生態系は崩れ魔物が跋扈するような地球で、それでも日々を生きようとするのなら、たしかに魔物を食うしかなくなるか。


「なになに、なんの話?」


 船の中から出てきたのは、ローブを羽織った魔導師然とした女性。新たに旅の一行に加わったクレナだ。

 杖を後ろ手で持った彼女が、朱音の横から顔を覗かせてくる。


「この世界の魚の話。魔物食ってるって聞いて驚いてたとこだよ」

「なんだそんなこと。まあ、異世界の人間からしたらびっくりして当然なのかもね。私たちは基本その辺り気にしないし。ね、ハクア」


 クレナの言う私たち、とはドラゴンのことを言っているのだろう。ハクアに同意を求めたのもそのためだとは思うが、残念なことに彼女は人間の姿でいる時間が長い。

 だから曖昧に笑って、同意は示さなかった。


「わたしも昔は気にしていなかったのだけれど、人間の姿が長いから、魔物ならなんでもとはならなくなったわ」

「まあ、それもそっか。硬いやつとかは噛み砕けないものね、この姿だと」

「クレナはちゃんと砕いて食べるの? わたしの周りは丸呑みする子が多かったけれど」

「行儀悪いじゃない。それに、体の中で暴れられても困るし、だったらちゃんと噛み砕いて息の根止めないと。あ、それかいい感じに溶かしてフォンデュみたいにするのもありよ」

「あなたが溶かすとほとんどマグマみたいになっちゃうじゃない」


 目の前で繰り広げられるドラゴン同士の食事マナーについての会話に、龍太も朱音も口を挟めず呆然とするしかない。

 魔物を噛み砕くとか丸呑みとか、まさしく種族が違うって感じだ。


「そういや、ジンと丈瑠さんは?」

「筋肉バカが船酔いで、タケルが付き添ってくれてる。アーサーも一緒よ。その筋肉は飾りかっての」


 まったく、と呆れたようにため息を吐き、ここにいないパートナーへ悪態をつく。

 ジンが船酔いとは意外な感じがするけど、でも筋肉じゃどうにもできないと思う。


「まあ、他の乗り物は大丈夫でも船だけがダメ、って人はたまにいるしね」

「これで他の乗り物もダメなら、いよいよパートナー解消だわ。背中に乗せてる時に吐かれたりしたら目も当てられないし」

「へえ、やっぱりジンを乗せて飛ぶことってあるんだな」

「たまによ、たまに。空飛ぶやつが相手だったり、転移できない場所に行く時だったりね。滅多にないわ」


 パートナーのドラゴンの背中に乗る人間は、龍太も見たことがある。ドラグニアの騎士団がそうだった。

 城都にいた時、遠目からではあるが、空を飛ぶドラゴンとその背に乗る騎士を何度か見たものだ。


 龍の背に乗るとかちょっと羨ましいなぁ、と思っちゃうのは、男の子だから仕方ない。

 いつかハクアが、元の姿に戻れる時が来たら、その時は頼んでみるのもいいだろう。まあ、龍太はハクアの元の姿がどのようなものか、全く知らないのだけど。


「お、網にかかった」


 ふと、何かに気づいた朱音が、海の方へと振り返る。海底を覗くようにでこへ手を当てて、ふむふむと頷いた。


「どうしたんすか?」

「魔物が引っかかったよ。そのまま引き上げてもいいんだけど、ついでだし龍太くんの修行に使おうか」

「いやだから、引っかかったってなにに」

「打ち上げるから、全部処理してね」


 こちらの質問に答えることなく、バシャバシャバシャ! と音を立てて海面からなにかが宙へと打ち上げられる。

 それはヒレを翼のように鋭利な形で伸ばし、さらにその下でジェットのようなものを形成している、魚というには異形すぎる魔物。


 まるで、魚と飛行機が合体したみたいなやつだ。それが全部で十体、空中だと言うのにジェットを蒸して態勢を整え、頭をこちらに向ける。


「っ……! ハクア、半分頼む!」

「任せて!」

『Reload Vortex』

「集え、我は疾く駆けし者!」


 剣を抜き、短縮された詠唱を紡ぐ。同時、十体全てが襲いかかってきた。だがハクアの放った弾丸が斬撃の渦を巻き起こし、その一撃で半分が脱落する。

 残りの五体が前に立つ龍太へ一直線に迫り、まずは先頭の魔物を斬り伏せた。1メートル大の魚は見事に頭から尾鰭にかけて綺麗に真っ二つ。後続の四体がすぐ目の前まで迫っているが、今の龍太には遅すぎる。


「ふッ……!」


 横並びに突っ込んできた二体は、剣を水平に振ることで纏めて斬る。概念強化のおかげで鋭くなった感覚と、生身ではあり得ないスピード。これで残る二体も楽勝だと思ったのだが、なんと魚畜生どもは急ブレーキの急反転。尻尾、ならぬ尾鰭を巻いて逃げ出した。


「逃すか! 剣戟弾闘(ブレイドバレット)!」


 左右に形成された魔力の剣が、逃げる二匹へ撃ち出された。

 意外なスピードと巧みな機動で躱そうとする魚どもに、二本の剣はどこまでも追尾する。やがて二本ともが魔物の体を貫き、そのまま海の底へと沈んでいった。


「よっしゃ!」

「やったわね、リュータ」


 微笑むハクアとハイタッチ。その後概念強化が解けて、僅かに頭が痛む。詠唱を短縮したことで効果が大きくなかったからか、頭痛もそこまで酷いものじゃない。


 剣を鞘に収めると、朱音が感嘆の息を漏らしていた。


「思ってたより出来る様になってるね。対応できる数の把握と判断も早いし、概念強化も形になってる。最後のは剣戟舞闘(ブレイドダンス)の派生かな?」

「フェーズ2で出来たことをなんとか再現したんすよ」


 剣戟舞闘は元々、朱音の七連死剣星(グランシャリオ)を真似ようとして出来た魔術だ。自分の剣をコピーする形で作った魔力剣は、しかし剣と全く同じ動きをすることしかできなかった。

 それをうまく利用して、一本の剣に収斂させたのが剣戟舞闘。

 対して先程の剣戟弾闘は、バハムートセイバーフェーズ2のエクスキューションを参考にして、ハクアと二人でどうにかこうにか作った魔術だ。

 術式は剣戟舞闘を元にそこから派生させ、追尾機能付きで射出することが可能になった。


 まあ、七連死剣星のように自由自在に動かせるまでには至らなかったのだが。追尾機能だって照準を合わせた相手に対してのみだ。


「ま、理想は逃げられる前に倒すことだけどね。そこは剣術の方を磨くしかないかな」

「私からしたら十分だと思うけど、アカネは随分厳しいわね」


 船の上に落ちた魚の死体を杖で突きながら、クレナがなんとなしに口にする。

 そのままなんの支えもなしに死体を浮かせ、杖先に小さな火を灯して焼き始めた。

 え、それも食えるの?


「ん、まあ、相手が相手だしさ。ちょっと厳しめに見ないと、もっと強くなってもらわないと困るから」

「ていうか、先に基本的な対処法とか教えてあげたらいいのに。もしかして、人に教えるの苦手?」

「たしかに苦手だけど、私のやり方はあんまり参考にならないから……」


 苦笑する朱音は、どこか話しづらそうにしている。

 やはり、クレナに対してはまだ思うところがあるのだろう。だが反対に、焼いた魔物を躊躇せず口にしているクレナは、特段気にしている素振りを見せない。

 なんなら今だって、食べる? と焼き上がった魚の魔物を朱音に手渡してる始末。そんで朱音はちゃっかり頂いちゃうのな。


「はい、リュウタとハクアも。結構美味しいわよ、ジェットウィッシュ」

「そんな名前なのかこいつ……」

「本来なら、この辺りに住んでいる魔物じゃないのよね?」


 受け取ったジェットウィッシュたら言う魔物の焼き身。ほんの少し躊躇いつつ、フィッシュじゃないんだとか思いつつ。ハクアや朱音も普通に食べてるのを見て、覚悟を決めてかぶりついた。


 うまっ……。


「こいつは本当なら、海水の温度が低いところに生息してるはず。もう少し北の海なら飽きるほど見るわ。この辺りは北の方よりも海水の温度が高いし、完全に条件からは外れてる」

「単純に南下してきた、ってわけでもないんだよな?」


 意外と脂の乗った魚に舌鼓を打ちながら問うと、クレナはこくんと頷きながら魚を咀嚼する。口の中のものを飲み込んで、そうね、と思考を巡らせながらも少しずつ言葉にした。


「ほら、私たちが最初に会った時のこと覚えてる?」

「えっと、たしかアラクネって魔物と戦ってた時か。あれも本来の生息地と違う、みたいな話だったよな?」

「そう。アラクネやジェットウィッシュに限らず、割と色んな魔物が本来の生息地と違う場所で発見されてる。今回のこいつらも津波の影響かと最初は思ってたけど、そういった過去の事例もあるし、単純な話じゃないのはたしかね」

「結構な群れでこの辺に住み着いてるみたいだし、北の方にいたやつらが南下してきたってことはまずないよ」

「群れ?」


 口を挟んだ朱音に顔を向けると、彼女はなにやら指先から伸びた糸を操作していた。

 ただの糸ではなく、魔力で作られたものだ。それは船の外、海の底へと続いていて、くいっと指を操作すると同時、海面から大きな網が引き上げられた。


 その網の中には、今食べているのと同じ魔物、大量のジェットウィッシュが。

 恐らく先程倒した十体も、あの網に引っかかっていたのだろう。その中から、龍太とハクアが対処できそうな数だけを海面から打ち上げた、ということか。


「流石に多すぎじゃないから……?」

「どうすんすかあれ!」

「こうする」


 網は姿を変え、正方形の箱になる。

 そして次の瞬間、箱が勢いよく圧縮されていき、中身は全て圧し潰される。

 空間の歪みだけを残して、箱と魔物の群れは完全に消えた。


「ね、参考にならないでしょ?」

「なにしたのかすらわかんねぇ……」


 糸が魔力で出来ていた以上、魔術の一種だろうとは予想できる。ただ、一体どんな魔術なのかがさっぱりだ。

 参考だとか真似するだとか以前に、理解できなければ意味がない。


「簡単な時空間魔術だよ。空間の圧縮。正確には違うけど、局地的に超ミニチュアのブラックホールを作ってる感じ」

「ブラックホールって、重力がどうこうってやつじゃないんすか?」

「濃密な重力は時空を歪めるんだよ」


 その辺は物理の授業になるので割愛するとして、どの道龍太には真似できそうになかった。その説明だと、ジンだったらできそうな気もするけど。


「でも、アカネは時界制御の銀炎があるわよね。どうしてわざわざ魔術を使ったのかしら?」

「あー、その辺ちょっとややこしくてさ。私の銀炎は、あくまでも時界の制御。時間と空間は密接な関係にあるし、表裏一体と言っていいとは言っても、操るのは時間の方。空間操作は直接的に出来ないんだ」


 ハクアの問い対し、指先に灯す銀の炎。その周りの空間が歪んで見える。

 それがただの炎なら、単に陽炎が揺れているだけなのだが。銀炎の場合は違う。炎それ自体、あるいはあの炎の内部は時界を操る力を秘めている。

 その副次的な効果として、銀炎の周囲は空間が歪んでしまう。

 そう、あくまでも副次的な効果だ。

 だから直接空間操作を行うには、銀炎ではなく魔術に頼らなければならない。


「じゃあ逆に、朱音さんって魔術なら他にどんなことができるんすか?」


 単なる興味本位で尋ねたところ、朱音は少し面食らったような表情をした。変なことを聞いたつもりはないのだけど、どうしたのだろう。

 怪訝な目を向けられていることに気付いたのか、少し寂しそうな笑みが。


「昔、全く同じことを聞かれたことがあってさ」


 その表情の真意は分からないが、朱音が過去を語るには、苦い思い出がついて回る。

 あるいは、今は会えない家族が。


 しかしその顔をすぐに払拭して、自信満々な笑顔が。


「魔術で出来ることならなんでも出来るよ。もちろん、あっちとこっち、両方の世界のね」

「具体的には?」

「まずはいつも使ってる概念強化に魔導収束、元素魔術と時空間魔術。それからジンみたいな重力操作。あとは呪術に錬金術、黒魔術、陰陽術、死霊魔術。他にもルーンとか降霊術とか。他にも分類分けされないようなその人固有の魔術も、再現くらいなら出来るかな」

「その上さらに、複数の異能持ちだものね……」

「チートじゃねえか……」

「異世界転移って感じでしょ」


 まあ、たしかに。元の世界ではアニメなどでよくある、異世界転移やら転生やらと呼ばれる作品の主人公みたいだ。

 朱音はそもそも、異世界転移する前からチート持ちということになるけど。


 そんな異世界出身二人の会話を不思議に思ったのか、クレナが首を傾げていた。


「なにその、異世界転移って。異世界に行くことがフィクションの物語になってるの?」

「そもそも、俺たちの世界は魔術だなんだってのは知らないやつの方が多いんだよ、そういうのは全部フィクションの中にしかないし、異世界の存在だってそう」

「で、アニメとかゲームとか小説とか漫画とか、そう言う娯楽作品の中には、すっごく強い力を貰って異世界に転移したり転生したりする作品があるんだ。十年前は結構流行ってたよ」

「最近だともう、流行ってるって言うよりもジャンルのひとつとして普通にある、って感じでしたもんね」


 それこそ、朱音ならアニメとかにある必殺技を再現出来たりしちゃうんじゃないだろうか。


「わたしたちからしたら変な話よね。魔導は日常に寄り添うものだし、異世界の存在も公にされているのだから」

「まあ、わざわざそこだけ切り取って娯楽に昇華する、ってことはないわね」

「ていうか、異世界転移系の主人公って言ったら、私よりも龍太くんじゃない?」

「え、俺?」


 不意に話を振られて、少し困惑する。

 そもそも話題は異世界転移のチート持ち主人公、みたいなものだったのに。龍太は別に神様から凄い力をもらったわけじゃないし、よくあるチート能力で無双してる、ってのもない。むしろ自分の力が足りなくて、悩んでばかりなのだ。


 なんならこっちの世界に来たその日、思いっきり死にかけてる。

 そのおかげと言うかなんと言うか、特別な力は貰えたけど。


 隣のハクアになんとなく視線をやれば、微笑みながらコテンと小首を傾げていた。可愛い。


「異世界で美少女と出会って恋に落ち、正義のヒーローとして戦う少年! すっごく主人公って感じだよ!」

「こっ……! 違うから! 違うからなハクア!」

「ふふっ、そんなに強く否定しなくてもいいじゃない」


 あたふたと身振り手振りまで加えて否定する龍太だが、ハクアは柔らかく微笑んでそう言うだけ。その反応は一体どういう意味に捉えたらいいんだ。

 てか、なんで朱音さんはそんなに目を輝かせてるの? 


 しかし、タチが悪いのは、朱音の言葉が何も間違っていない、と言う点か。


「よくあるパターンだと、ハーレム築いたりしてるんだけどねー」

「へえ、ならどうする? お姉さんたちも手籠にしちゃう?」

「丈瑠さんとレッドさんに殺されるからやめてくれ……」


 完全に冗談だと分かってはいるけど、マジで恋人いるんだからそういうこと言わないで欲しい。大人のお姉さんのからかいは、思春期にとって猛毒なのだ。


 ほれほれー、と純情な少年を弄ぶお姉さま方。もはやため息すら漏れる龍太の服の裾が、とても控えめな力で引かれた。

 視線をそちらにやると、ムッと頬を膨れさせたハクアが。


「ダメ」


 いつもより稚い、端的な一言。

 嫉妬とか、独占欲とか、そういうのが表出して、それ意外にも色んな意味に捉えることのできる拒絶の言葉。

 ハクアと朱音はとても微笑ましいものを見たような顔をしているけど、龍太はそれどころじゃない。

 カーッと頬が熱くなって、その可愛い顔を直視できなくなる。


「これは、目移りしてる暇なんてなさそうね」


 笑み混じりのクレナの声が耳に届いて、龍太は弱々しく首を縦に振った。


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